ウォッチャーのつもりだったのですが遺憾ながら見逃していました。遅ればせながら取り上げさせて頂きます。
一審判決時点の記事を投資同盟様が保存されておられましたので参考にさせて頂きます。事件は2004年1月に奈良県立三室病院に勤務中の26歳の研修医がインフルエンザA型に罹患し、自宅にて心房細動で亡くなられた事に始まります。誠に傷ましい出来事です。これに対し地方公務員災害補償基金は2007年2月に公務災害の認定が行われています。ちょっと脇道ですが、認定が下りるまで3年もかかっている事がわかります。そんなものなんでしょうか?平成23年1月付地方公務員災害補償「補償実施の手引」には、
基金は地方公務員災害補償法に基づき、地方公共団体等に代わって一元的に迅速かつ公正な補償を実施しなければならないこととされております
もっともこれに続いて
被災職員等は、任命権者における災害補償担当者の助力がなければ補償の請求を適正かつ円滑に進めることが困難な場合が多いと思われます。
なかなか「迅速」とはいかないので、わざわざ「迅速」を謳う必要があるぐらいなのかもしれません。脇道はこの程度にして3年かかった認定により、
- 遺族一時補償金が417万円
- 葬儀代が56万円
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未払いの時間手当も平均給与額に参入すべし
一審判決は2010年8月26日にあり、時間外労働は存在し、これを含めた算定を基金奈良支部は行うべしであるという判決が下されています。奈良県はこれを不服として控訴を行っていますが二審でも同様の判決が下り(日時は遺憾ながら不明)、さらに不服として上告を行っています。これに対する最高裁判断が下されています。4/19付北国新聞より、
残業「不算入は違法」確定−研修医の過労死で最高裁 (4/19 17:47更新)
過労死した研修医の遺族が、時間外労働(残業)分を計算に入れないまま補償金額を決めたのは違法だとして、地方公務員災害補償基金の算定やり直しを求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(小貫芳信裁判長)は19日までに、基金側の上告を退ける決定をした。不算入を違法とした一、二審判決が確定した。17日付。
二審判決によると、奈良県立三室病院(同県三郷町)で臨床研修医をしていた男性=当時(26)=が2004年に死亡。両親が請求した公務災害が認定されたが、病院は時間外手当を支払っておらず、基金は遺族補償一時金を決める際、「残業時間を特定できない」と算定基礎額に加えなかった。
上告却下なのか上告不受理なのかはっきりしないのですが、とにかく被告である基金奈良県支部側の主張は認められなかったと解釈して良さそうです。
簡単な年表を作ってみます。
年月 | 奈良産科医時間外訴訟 | もう一つの奈良時間外訴訟 | 奈良県知事 (被告人) |
2004年1月 | * | 研修医死亡 | 柿本善也 |
2006年12月 | 産科医が訴訟を起す | * | |
2007年2月 | * | 基金が公務災害認定 | |
2007年6月 | 宿日直勤務のうち通常勤務分については超過勤務手当を支給 | * | 荒井正吾 (2007年5月より) |
2008年4月 | 超過勤務手当に加え、分娩にかかわる業務や勤務時間外に呼び出しを受けて救急業務を行った場合には、特殊勤務手当を支給 | * | |
2009年4月 | 奈良地裁判決 | * | |
2008年12月 | * | 基金が遺族の再審査請求棄却 | |
2010年7月 | 36協定締結 | * | |
2010年8月 | * | 奈良地裁判決 | |
2010年11月 | 大阪高裁判決 | * | |
2013年2月 | 最高裁判断・上告不受理 | * | |
2013年4月 | * | 最高裁判断・二審判決が確定 |
2つの訴訟は確実に連動しているのが判るかと思います。研修医側の判決内容が不明なのが遺憾なのですが、一審判決を伝える読売記事には、
原告側は「急病患者らに対応するため、ポケットベルを所持する在院中は時間外労働にあたる」と主張
どうも就業時刻後に在院中の時間帯も時間外勤務に当たると主張していたと推測されます。これに対し基金奈良県支部は、
一時金の算定で「勤務時間以外に院内で業務の復習などに充てた時間は時間外労働ではない」
主張としては「勝手にいた」ないし「研修医の勉強時間であり労働にはあたらない」ぐらいと解釈しても良さそうです。奈良地裁の一谷好文裁判長の判断は、
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「院内にいた時間から一定の時間外労働が存在したのは明らか」
まず奈良県側の主張を推測すると、研修医とは学生的側面があり、病院内にいても労働している時間と勉強している時間があるぐらいはした可能性はあります。ただなんですが、医療で言う研修医であろうが、他の業種で言う見習い期間であろうが雇ったからには労働者であり、働いた分だけの給与の支払が発生するのが労働法の根幹であると解釈しています。
この働くについても、使用者が目に見えて働いている時間を指すわけではありません。働いているかどうかは、使用者が労働者を拘束しているかどうかで判断されるとして良いと考えています。たとえば待機時間で使用者の目からは働いていないように見えても、使用者が労働者を拘束している限り賃金支払義務が発生します。
拘束の定義も大雑把に言えば、就業場所に労働者が存在し、これを呼び出していつでも働けるような状況にあれば拘束になります。もっと単純に労働者が就業場所に存在するだけでも賃金は発生するとの解釈もあったはずです。平成19年第1回経済財政諮問会議議事要旨に丹羽宇一郎伊藤忠商事株式会社取締役会長の発言があります。
ホワイトカラーエグゼンプションについては、どうも風潮として経営者が悪人でいつもいじめているようにとられがちだが、そういうことではない。
ホワイトカラーエグゼンプションの本当の趣旨は、大手企業の大部分がそうだが、若い人でも、残業代は要らないから仕事をもっと早くスキルを身につけてやりたい、土日でも残業代は要らないから出社したいという人がたくさんいる。しかし、経営者がしてもらっては困ると言っている。なぜなら出社されると残業代を全部払わなければいけない。家で仕事をするよりも、会社に来て色々な資料もあるし、これで自分が人よりも早く仕事を覚えて仕事をしたいんだと。それを今は仕事をするなと言っている。ホワイトカラーエグゼンプションの制度がないからだ。だから、少なくとも土日だけはホワイトカラーエグゼンプションで、残業代は要らないから仕事をさせてくださいという人に、仕事をするなという経済の仕組みというのは実におかしい。これを何とかしてあげたい。
丹羽氏の発言で注目してもらいたいのは、たとえ社員が自分で仕事を覚えたいがために出社しても、
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出社されると残業代を全部払わなければいけない
頑張って、頑張って最高裁まで頑張って裁判例をキッチリお残しになられています。研修医に適用されると言う事は、当然ですが勤務医全般にも適用されます。いやされるとは思うのですが、奈良県知事なら「勤務医は適用外だ」とまた最高裁まで頑張られるかもしれません。なんちゅうか算数ではマイナスを掛け合わせるとプラスになりますが、なにかそんな感じがしています。