米と和食は世界を救う

元ソースはどらねこ日誌様の米飯至上主義の食育アドバイザーを信頼する新市長に心配することからで、孫引きになるのですが、

    子どもたちをよみがえらせる 「長野県上田市・前教育委員長の実践 」
    対談:大塚貢 (上田市前教育委員長)櫻井よしこ 致知 2008年5月号
ここからです。完全に二番煎じなので先にどらねこ日誌様の論評を読まれる事をお勧めします。どうやっても被るのですが、少しだけ視点をずらして私は読んでみます。なお引用文中で大塚とは大塚貢氏、櫻井とは櫻井よしこ氏になります。


起の部分

大塚 先ほど櫻井先生がおっしやったように、朝礼で子どもたちが貧血でバタバタ倒れたり、遅刻したり、登校しても保健室にいるので、これはもしかしたら食と関係があるのではないかと思いました。平成4年の頃で、まだ「食育」などという言葉もなかった時代です。
櫻井 私が先生のお話で感動したのは、子どもたちの食の実態を把握するために、朝早くからコンビニエンスストアで“張り込み”をされたと。
大塚 はい。陸上競技大会などの朝は、5時から会場の近くのコンビニエンスストアに車を止めて様子を見てみました。すると母親が車に子どもを乗せてきて、お金を渡して好きなものを買わせているのです。

そういう子どもの日常生活を調べてみると、やはり非行・犯罪を繰り返す、キレる、無気力など、指導に手を焼いたんですね。

たとえ親を呼んで「お宅のお子さんはこういう状況だから指導してもらいたい」と言ったところで、そういう子どもは親の言うことなんて聞きませんよね。大会の日ですらお弁当をつくってくれないのですから、親と子の心の絆は完全に切れてしまって、親はお金をくれる人としか思っていません。


問題提起としている部分は、
    朝礼で子どもたちが貧血でバタバタ倒れたり、遅刻したり、登校しても保健室にいる
ここと考えて間違いないでしょう。さらにこの部分は3つに分かれます。
  1. 貧血問題
  2. 遅刻問題
  3. 保健室問題
こういう問題に対し大塚氏は食との関連性を考えたようです。そこで大塚氏はコンビニに目を付けたとなっています。ただ食と言いながら説明無しの断定をされています。コンビニで弁当なりを買うのは論外であるです。これはチト雑な気がします。たとえば貧血問題であればコンビニ弁当であっても食べないより食べた方が良いわけです。貧血問題で食との関連を示すのなら、最低限コンビニ弁当では貧血を助長するの論拠が必要かと考えます。

ただ大塚氏の主張はコンビニ弁当の内容ではなく、弁当を親が作らない点に傾いているように見えます。私も素直に陸上競技大会の日ぐらいは弁当を作ってあげても良い気はしないでもありませんが、それぞれの家庭には、それぞれの事情があります。現在の家庭では言うまでもなく、共働きが当たり前です。大会前夜であるからと言って仕事とは何の関係もありません。コンビニで「張り込み」と言っても、その日に限って弁当が作れない事情が家庭に発生する事だってあるわけです。個々の家庭事情があると思うのですが、大塚氏の主張はいきなり括ってしまわれます。

    そういう子どもの日常生活を調べてみると、やはり非行・犯罪を繰り返す、キレる、無気力など、指導に手を焼いたんですね
どうにも引っかかるのは、コンビニ弁当派の子供のどれほどがこうであるかです。ここまで書かれているのですから、おそらくコンビニ弁当派にこういう子供の率が高かったのかもしれませんが、次の引用部分もあわせると、
    大会の日ですらお弁当をつくってくれないのですから、親と子の心の絆は完全に切れてしまって
印象としてコンビニ弁当派は例外なく問題児みたいな印象が出てきます。ちょっと飛躍と思わないでもありませんが、この程度にさせて頂きます。


承の部分

櫻井 母親の愛情弁当を持たせるという概念がないわけですね。
大塚 ないですねえ。また、並行して全校生徒の食の調査もやりましたが、朝食を食べてこない子どもが38%。その子たちもやはり非行や犯罪まがいのことをしたり、いじめなどに加担していたりする。あるいは無気力な生徒が多かったです。
櫻井 朝食を食べてこないということは、前日の夕食以降、給食までのおそらく16〜18時間はまともな食事を摂れないわけですね。それでは授業に集中できないばかりか、精神的にも不安定になるでしょう。
大塚 ただ、朝食を食べていると答えた生徒にしても、実態はほとんどがパンとハムやウインナ、それと合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュースです。

そして夜はカレーや焼肉が多かったですね。こういう食事ばかりではカルシウムやミネラル、亜鉛マグネシウムといった血管を柔らかくしたり、血をきれいにする栄養素はまったく摂取できません。

だから子どもたちの血液がドロドロで、自己コントロールができない体になって、普段は無気力でありながら、突如自分の感情が抑えきれなくなってしまう。いくら「非行を起こすな、いじめるな、勉強を本気でやれ」と言ったところで、体がついていかないのです。


話は朝食問題に広がっています。朝食といえば前に朝食不要論の方を取り上げたのを思い出して苦笑してしまいましたが、これも個人的には食べた方が良いだろうぐらいは思っています。さて「起」の部分では食事の内容ではなく、弁当を家庭で作らない方に力点が置かれていました。大塚氏の主張の中ににコンビニ弁当の内容についての記載はありません。それが朝食問題になると内容に話が広がっています。ついでに話は夕食問題にも広がっていますが、ここも食事内容に話が広がっています。

どうも大塚氏は洋風の食事を非常に嫌いであるらしく、

    朝食を食べていると答えた生徒にしても、実態はほとんどがパンとハムやウインナ、それと合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュースです。
「合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュース」が好ましいかと言われると、そりゃあんまり好ましいとは言えないかと思いますが、これではまるで洋風の朝食を食べている家庭がすべて「合成保存料や着色料、合成甘味料の入ったジュース」を使われているかのような印象を抱きます。それと大塚氏は天皇家の朝食の基本がコンチネンタル・スタイルである事を御存知の上で批判されているのか気になるところです。

夕食問題の切って捨て方も簡潔で、

    そして夜はカレーや焼肉が多かったですね
笑ってしまいそうになりましたが、カレーも焼肉も、そうそう夕食のメニューに上るものなのでしょうか。大塚氏の担当した校区はかなりリッチで、なおかつかなり偏食が強いというぐらいの理解で宜しいでしょうか、人間は同じメニューの食事に耐えるのは難しいものです。これまたあくまでも個人的なものですが、いくらカレーや焼肉が好きであっても毎週続くとチト辛い気がしています。とにかく「多かった」とはどの程度の頻度か不明と言うところです。

栄養素云々の話はもう良いでしょう。ここは「インド人もビックリ」ぐらいにさせて頂きます。


転の部分

大塚 はい。なるべくお腹にたまる米飯に切り替え、野菜や魚を中心にしたバランスのよい献立の給食にしようと考えました。しかし、先生方からも親からも反対の嵐でしたね。
櫻井 先生たちはなぜ反対なのでしょうか。
大塚 結局、先生たちも揚げパンとかレーズンパンのような菓子パン、あるいはソフト麺とか中華麺が好きなんですね。そういうものは一つひとつが袋に入っていて、配膳も楽なのです。米飯は一人ひとりのお弁当箱によそわなければいけないから、手間がかかるんですよ。「国際化社会の時代に米飯に偏るのはおかしい。国際食にすべきだ」とか、いろいろな理由をつけて反対されました。
大塚 はい。鰯の甘露煮とか秋刀魚の蒲焼きとか、非常においしくつくってくれましてね。根気強く試食会を重ねながら、「青魚には血液をきれいにするEPAやDHAが含まれています」と、いかに栄養的に優れているかを教え、まずは先生方を説得し、保護者を説得し、特別授業を設けて生徒たちにも教えていきました。

そうして、赴任した翌年の平成5年からは、週6日のうち5日間を米飯給食に切り替えました。米飯もただの白米ではなく、血液をきれいにし、血管を柔らかくしてくれるGABAが含まれる発芽玄米を10%以上加えたのです。
櫻井 生徒に変化が表れたのは、切り替えてどのくらいたってからでしたか。
大塚 7か月後あたりから学校全体が落ち着いてきましたね。

いまでもよく覚えているのが、4月のPTA総会の前に私が1時間ばかり校舎のタバコの吸殻を拾って歩いたところ、スーパーの大きなビニール袋かいっぱいになったのです。それを総会で見せたところ、保護者たちから、「大塚校長が来てから風紀が乱れたんじゃないのか」と言われましたがね。米飯給食を始めてから7か月後には、吸殻が1本もなくなりました。
櫻井 それはすごいことですね。


私も和食の方がトータルなバランスとして洋食より優越している部分はあるの主張は否定していません。ただですが洋食を全面否定するほどの差かと言われるとかなり疑問です。私はこの部分をごく素直に読んで、単に大塚氏が和食の方が好きで洋食が嫌いであるぐらいにしか読めませんでした。それは個人の嗜好ですから構わないのですが、これを学校給食に押し付けたのは・・・まあ、この手の独善者はどこにでもいるものです。

一番珍妙なのは大塚氏の食事嗜好を押し付けた結果の考え方です。まずなんですが、大塚氏が改変したのは学校給食のみです。それまで論じられていたコンビニ弁当問題も、朝食問題も、夕食問題もなんら手がつけられていません。そりゃそうで、そこまでは校長権限であろうとも手が及ぶところではありません。つまりはそこは変わっていないわけです。それとも学校給食を変えたら他の問題も連動して和食派に転じたのでしょうか。そんな事はどこにも記載されていません。

何より笑ったのは、給食が和食になると学校の風紀が改善したとの結論です。私は大塚氏が例に挙げられた学校の風紀を改善した成果を否定しようとは思いません。そのために教職員が一丸になって取り組まれたであろう事は十分に想像出来ます。ところが大塚氏は給食を変えたことがすべての原因であると結論されています。私の子供の頃は米飯給食など殆んど無くパン給食でした。さぞあの頃は荒れまくっていたと思いますが、実感としてありませんねぇ。


結の部分

櫻井 やはり青少年の犯罪と食生活というのは関係があるのでしょうか。
大塚 と思います。私は少年犯罪でも、特に凶悪な犯罪を起こした子どもの学校や町に行って話を聞いているのですが、例えば平成9年の酒鬼薔薇聖斗事件がありましたね。近所の皆さんの話では、お父さんは一流企業に勤めている穏やかな方で、お母さんは非常に教育熱心だったと。肉を食べさせれば元気が出て頑張って勉強するということで、肉を多く与えていたようです、とおっしやっていました。

それから一昨年の6月に奈良の名門・東大寺学園の男の子が母親と弟妹を焼き殺しましたね。成績が下がって、翌日の懇談会に母親に来てほしくないという単純な発想からの凶行でした。両親とも医師で、お母さんは継母だったのです。近所の方の話では、お母さんは子どもとの関係もあり、子どもの好きな肉も多かったようです。それからもう一つ、昨年の5月に会津若松で母親の首を切って、ショルダーバッグに入れてインターネットカフェで遊んでいた高校生がいましたね。彼の地元はコンビニが1軒もない人口2800人の町で、出身中学は全校生徒で25人です。

それで近所の人たちは、「お父さんは穏やかな方で、お母さんは教育熱心だ」と、これは誰もが言いました。私は父方のお祖父さんに会いましたが、「確かに肉が好きで、母親は多く与えていましたね」と言いました。
櫻井 少年犯罪と食生活の関係を考えさせられますね。


食生活と少年犯罪の関連が皆無だと言う気はありません。ただ考え方の道筋が少々違う気がします。少年犯罪が起こる因子は様々にありますが、その中に家庭環境はかなり大きいものであろうの指摘は少なくなく、私も否定する気はありません。何が言いたいかですが、あくまでも家庭環境の乱れが結果として食事に反映されると考えるのが筋ではなかろうかです。

食事の乱れを家庭環境の乱れのサインと取るのは悪いとは思いませんが、そういう状況で食生活を正せば家庭環境も改善すると言う主張はどこかに違和感を感じます。根本は家庭環境であり、そこの改善が食生活として反映されると考える方が妥当じゃなかろうかです。もちろん家庭環境の乱れを正す手法論の一つとして食生活の改善から手をつけるはあるとは思いますが、それはあくまでも一つの手法であり、手段であっても目的ではないと考えます。

何よりの違和感は、大塚氏が校長として学校風紀を粛清させたのは事実してあるにせよ、それをすべて給食を和食の米飯切り替えた功績にしている点です。


感想

米飯のメリット、和食のメリットは認めます。しかし今回の食事に限らず、部分的にはメリットを肯定は出来ても無闇に拡大する論者は好みません。それこそ「なんとかもんた」風の

    これさえすれば問題はすべて解決♪
この手の論法です。こういう論者の特徴は何でも断定的に言い切ります。曖昧な点ほど論拠を飛ばして断言します。主張としては簡潔でわかりやすく、聞く方は考える必要がないので同調しやすいがあります。しかし粗さはあります。今回取り上げた話で言うと、成果を強調するあまり非改善例についての言及がありません。さらっと聞くと「和食は世界を救う」にしか聞こえないです。そんな事があるとは到底思えないです。

食生活に視点を据えて、そこから生活習慣を見直す契機しようとする考え方は悪いとは思いませんが、この手の論者の方はしばしばそれがすべてになります。手段が完全に目的化するので、手法に反する者に非常に攻撃的にもなります。大塚氏なら洋食と言うか肉類への異常な攻撃性です。せめてジャンクフードに対するものであれば「まだしも」と思うのですが、肉を食う事をトコトン敵視する事で自分の魚や野菜食の優位性を語るです。

それと何か適切な表現法があると思うのですが、成果を悉く自分の主張の根拠にします。風紀粛清も結果としてあるのでしょうが、これがすべて米飯給食と和食切り替えのためとするのはどう考えても無理があります。まったく関連性がないとまで言いませんが、それがすべてとするのはチト言い過ぎだろうです。

もう一つこういう論者がしばしば用いる手法は、失敗は存在しない言い訳を作ってあります。引用文中に愛情弁当の話が出ていましたが、愛情弁当で改善が見られなかったら「愛情が足りなかったからだ」の説明がいくらでも出来ると言う事です。愛情なんて定量化出来るものではありませんから、成功例は愛情が足りているとし、一方で失敗例は愛情不足と結論付けられるわけです。便利な手法です。

でもって大塚氏が取り組まれるのは香川県だそうです。筋金入りのうどん県であるのは周知の事ですが、うどんをどう扱われるかチョット興味はあります。それでも大塚氏の主張は現首相が大好きな親学と親和性は高そうです。そういう意味で「時の人」としてこれからクローズアップされるかもしれません。ただ老婆心で思うのはカレーを敵に回したのは良くなかったかも知れません。現首相とカツカレーの結びつきは有名ですからねぇ。