厄介そうだった書類作成が思いのほかに順調に進み2日ほどで完成してくれたので、ブログ再開します。4/11付読売新聞(Yahoo !版)より、
亡くなられた女子高生の御冥福を謹んでお祈りします。睡眠剤の大量服用ぐらいで死亡するとはお気の毒としか言い様がありません。これは孫引きなのでオリジナルのサイトが見つけられなかったのですがLD50(半数致死量)のデータとして、睡眠導入剤 | LD50 | 実験動物 | 人間換算 |
ハルシオン0.25mg錠 | 7500mg/kg | ラット | 150万錠 |
エバミール1.0mg錠 | ばらつき多数のため資料作成不能 | ||
ロヒプノール2.0mg錠 | 1550mg/kg | マウス(雄) | 3万8750錠 |
ユーロジン2.0mg錠 | 740mg/kg | マウス(雄) | 1万8500錠 |
3200mg/kg | ラット(雄) | 8万錠 | |
レンドルミン0.25mg錠 | ばらつき多数のため資料作成不能 | ||
アモバン10mg錠 | 2940mg/kg | マウス(雄) | 1万4700錠 |
もちろん動物実験のデータと人体がダイレクトではありませんし、LD50ですから体質的に非常に敏感であった可能性や不幸にもその他の要因が重なったのかもしれませんが本当にお気の毒です。実はこの事件と直接関係ないのですが、舞台となった産業医大の救急部がチョット話題になっていたので調べてみました。
まず産業医科大学雑誌 17(1), 72, 1995-03-01に掲載されている32. 産業医大救急外来受診患者に関する実態調査 (第12回産業医科大学学会総会学術講演会記録)です。内容は興味のある方はリンク先を読まれたら良いかと思いますが、掲載されているのは1995年度ですが発表の元になった調査は平成6年(1994年)です。でもって発表者の肩書きに
産業医科大学病院救急部長
こうなっていますから、1994年時点で救急部は間違い無く存在していたのはわかります。大学病院ですからあっても不思議ないのですが、参考までにこの発表に書かれている救急受診の様子をダイジェストしておきます。
分類 | 人数 | 入院 | 調査期間 |
産業医大かかりつけ | 197 | 10% | 1994年7月4日から7月31日 |
産業医大医師の指示 | 98 | 20% | |
産業医大医師に悪化時受診を指示された | 87 | ||
他院からの紹介 | 28 | 60% |
まとめも御参考までに、
当院救急外来受診患者は年々増加し、半数以上がかかりつけの患者である。そのほとんどの患者は帰宅しているため、緊急性は低いといえる。しかし、在宅医療継続という面からこれらの患者の受診は拒めるものではない。今後も救急外来では、全科の様々な疾患症状の患者を受け入れていかなければならない。
ただなんですがこの1990年代は産業医大は救急告示病院でなかったようで、救急告示病院となったのは2004年4月からとなっています。
その後の救急部はどうなったかは部外者には良くわかりませんが、いつの時代からか救急・集中治療部になっていたようです。救命から集中治療まで一貫として行う体制ぐらいの理解で宜しいのでしょうか。この救急・集中医療部としての体制なんですが、時代の要請のためか救急部と集中医療部に分離する事になります。ただスンナリ言った訳ではないようで、産業医大の第2内科の教室便りに内情が書かれています。
私どもが所属する救急・集中治療部は平成23年4月の病院規程変更案において救急部と集中治療部を平成23年の6月から分離すると明記されました。救急部部長には脳神経外科の教授が兼任ということまで決まっていました。このことは4月半ばの診療科長会議で通達されるまで、当事者であるはずの救急・集中治療部スタッフには、部長を含め私ども誰一人として知らされていませんでした。
寝耳に水の分離通達であったようです。かなりの混乱であったようで、
しかも、何人が救急部で、何人が集中治療部なのか、どのような救急体制をとるのか、残り1月もない状況で全く何も決まっていませんでした。今後の救急体制が不明瞭すぎて、現在の救急・集中治療部分離に際して、整形外科から派遣されている先生方を含め、全員が集中治療部の所属を希望しました。
そういう状況では
このままでは、現状の救急体制すら維持できず、産業医科大学病院の救急医療は完全崩壊の危機を迎えました。
急な分離通告に浮き足立っている感じが良くわかります。結局のところ分離は翌年度に持ち越しになったようですが、
病院首脳の間では、来年4月に救急医学講座を設置し、再来年には救命救急センターを設置するといった構想もあるらしく、来年救急・集中治療部が存在するのか否かわかりません。
調べるとこの分離は2012年4月にはどうやら行われたようです。救急医療として分離したほうが良いのか悪いのかはメリット・デメリットの両方があるように思いますが、2011年4月号九州医事新報に2011年4月から新院長となった方のインタビューがあります。救急医療関係だけ引用しておけば、
二つ目は救急医療です。我が大学病院の救急集中治療部は人手不足、医師不足の状態です。救急医療をやってみたいと考える医者は多いのですが、残念ながら長く続きません。それはひとりひとりの医師への負担が大きくなる傾向にあるからです。これは根本から作り直す必要があります。現在、残念ながら大学の医学部に救急医療の講座がありませんし、病院でも救急救命医療センターと呼ばれる様な立派な組織にはまだなっておりません。ですからまずはこの2点に力を入れたいと思います。
これを読むと新病院長の方針と言うより、分離方針を推進する大学首脳の意向を受けて行ったと見れそうです。そうでなきゃ、4月に院長になっていきなり病院規定を変更し、6月から分離させるなんて荒技は行わないかと思います。2011年4月段階では関係者の反対で先延ばしになったようですが、2012年には分離が行われています。これは2012年度の産業医科大学病院のパンフレットですが、院長あいさつに、
さらに、高次救急に対しては、救急・集中治療部を分離し、救急部では患者受入れを積極的に行なっています。
さらに救急部の紹介には、
これまで救急・集中治療部として活動していた組織が、平成24年4月から救急部と集中治療部に分離、独立しました。
分離後の救急部と集中治療部の陣容は、
救急部 | 集中医療部 |
学内講師3名、専門修練医が2名配置され、救急疾患患者様の受け入れを行っています。9月からはさらに助教1名が新たに救急部に加わる予定です。 | 6名の専任医師(集中治療専門医2名含)と専門修練医(卒後3年目から6年目)、研修医とで診療にあたっています。 |
現時点でどうなっているかはサッパリわかりません。
産業医大の第2内科の教室便りの救急部の内情がかなり赤裸々なので紹介しておきます。
末端の自分にはよくわかりませんが、もしかすると、私達が救急車をよく断っているからかもしれません。
NHK流に言えば「たらい回し」カウント「1」です。もちろん理由があり、
救急車受入れ要請を断る理由の一つは、産業医科大学病院の高い病床稼働率があります。「私立医科大学病院でNo 1の稼働率」とです。これまで病床稼働率92%以上を目標としておりましたが、本年度から93% 以上と、さらに高い目標を掲げています。
病床利用率が高い病院に勤務した事もありますが、私の知っている範囲で最後まで病床利用率の足を引っ張ったのは我が小児科と産科でした。大学病院は少し違うかもしれませんが、二次救急クラスの産科や小児科では常に満床なんて不可能です。そりゃいつ入院が舞い込むかなんて水物ですから、どうしたって空床が生じます。多い時には小児科で20人ぐらいましたが、少ない時には1人でした。ちなみに私の異動後しばらくして、その病院から小児科も産科も消滅しています。経営上の邪魔だったのかもしれません。
産業医大も高い病床稼働率があると言う事は、緊急入院に対応するのが難しい状況であるぐらいにして良いかと思います。病床利用率は高いほど経営に寄与しますが、救急医療に関しては緊急入院の余地が乏しくなり運用が難しくなるです。とくに入院させる余地が乏しい時に入院の可能性が高い患者の救急応需は難しくなるです。この辺について、
ベッドがなくても一旦診療を行って他に転院させればいいじゃないかと言われる方がいらっしゃるかもしれませんが、そこまでおっしゃるのであれば、ご自分でされてみてください。
この教室便りは外向けでなく内向きに書かれていると考えて良いと思いますから、
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ベッドがなくても一旦診療を行って他に転院させればいいじゃないかと言われる方
「目の悪い患者は眼科が診る、耳の悪い患者は耳鼻科が診る、それと同じで全ての救急患者は救急科が診るべきだ。なんで救急の患者を俺たちが見なきゃいけないのだ」と考えられている方
はっきり言って、救急部が不規則に入院患者を放り込んでくるのは迷惑であると言われている医師が病院内におられる事がわかります。
救急医学講座がないと救急が出来ないという考え方は、救急医学講座に全ての責任を押し付ければいいと考えているように思えてなりません。私は今の産業医科大学の姿勢は、救急医療をやる資格もないし、体制もないと考えております。
この教室便りを書かれた医師が現在も救急部におられるかどうかは確かめようもありませんでした。
救急部の役割は教室便りに
私どもは救急患者の初療を行い、呼吸循環の安定の後、専門の診療科に振り分けることまでしかできません。
基本的に救急部とは入口を担当しているだけで、受診したら最後まで治療を行う診療科とは言えません。とりあえず救命に成功したら「後はよろしく」と専門診療科に渡す診療科です。これが外来ならまだしも入院となると、どことももめるタネになる事が多いとされます。とくに病床利用率が高い病院ほどもめるタネになりやすいとも聞きます。
各診療科も病床利用率向上の重い課題を背負わされています。病床の有効利用に血眼な訳です。病床利用は利用率だけではなく、在院日数の短縮も両輪で課せられています。病床利用率の向上と、平均在院日数の短縮を両輪で実現させた病院こそが勝ち組病院であり、経営優秀病院となれるのが現在の医療政策です。どれぐらい医療政策で推進されているかと言えば、
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金曜入院、月曜退院の比率が高い病院は入院期間が長くなるのでペナルティ
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救急やるのは構わないが、自分のところで完結してくれ!
- 診るだけみて他の病院への再転送をスムーズにする
- 救急患者は可能な限り救急で完結させる
- さらなる病床稼働率の向上
- さらなる平均在院日数の短縮
- 救急の充実
病床稼働率 平均在院日数 |
救急の充実 | 評価 |
○ | ○ | 言う事なし |
○ | × | まずまず |
× | ○ | 経営者として失格 |
× | × | 論外 |
課せられている命題からすると、救急部については「何か取り組んでいる」姿勢をみせているだけの気がします。そりゃそうで、矛盾する命題を両立させるのは至極困難です。絶対課題としての経営は手は抜けませんから、両立しない救急課題は目を瞑るです。ここで何も手をつけなければ、それはそれで非難を浴びますから、救急医療講座を取り合えず立ち上げたんじゃないかです。
これは外から見れば前向きの取り組みですし、さらに今まで無かったものが出来たわけですから「成果をあげるまで時間を・・・」の説明がしばらく使えます。そうこうしているうちに定年がくれば次の人にバトンタッチです。ひょっとしたら、招聘した救急医学講座教授がスーパーマンのようになんとかしてくれるかもしれないの期待ぐらいはあるかもしれません。
それぐらいしか現実的に対応しようがないようにも見えるからです。