沖縄は1972年に本土復帰を果たしています。そいでもって1979年に現在のところ一番新しい医学部が設置されています。当時の沖縄は非常な医師不足状態でしたが、そこから目覚しい医師増加を行っています。まず表を示します。
年度 | 全国人口 | 沖縄人口 | 全国医師実数 | 沖縄医師実数 |
1975 | 111940 | 1043 | 125933 | 562 |
1980 | 117060 | 1107 | 148783 | 861 |
1986 | 121049 | 1179 | 182179 | 1304 |
1990 | 123611 | 1222 | 203835 | 1749 |
1994 | 125570 | 1273 | 221757 | 1995 |
1996 | 125864 | 1283 | 230297 | 2103 |
1998 | 126486 | 1301 | 236933 | 2195 |
2000 | 126926 | 1318 | 243201 | 2336 |
2002 | 127435 | 1339 | 249574 | 2403 |
2004 | 127687 | 1359 | 256668 | 2668 |
2006 | 127770 | 1368 | 263540 | 2849 |
2008 | 127692 | 1376 | 271897 | 3007 |
2010 | 128057 | 1393 | 280431 | 3171 |
1975年当時から人口も3割ほど増えていますが、医師数は6倍にもなっているのがわかるかと思います。人口10万人対医師数の推移を示すと、
1975年当時は全国平均の半分にも満たなかったのが、30年後にはついに全国平均を上回っています。伸び方をグラフで見るとおおよそ3期に分けられ、
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第1期:1975-1990
第2期:1980-2002
第3期:2002-2010
簡単には第1期・第3期が躍進期であり、第2期が停滞期です。なぜにそうなったのか知る由もありませんが、注目したいのは第3期であり現研修医制度時代になってからの数少ない勝ち組であるところでしょうか。現研修医時代は月曜、火曜に検証したように東京に医師が非常に多く集まり、多くの都道府県で医師数の増加ペースの減少に見舞われています。そんな中で東京とタメを張っている評価です。もう一つ後のためにですが、2002年からの再躍進期の医師数の変化を表にしておきます。
期間 | 人口10万人対医師数 | 医師実数 | ||
全国増加分 | 沖縄増加分 | 全国増加分 | 沖縄増加分 | |
2002→2010 | 23.2 | 48.2 | 30857 | 768 |
人口10万人対の増え方も凄いもので、9年間で48.2人、全国増加分を相殺しても25人分も増えています。ただしこれだけ増やすのに必要だった医師数は768人です。
東京は同じ時期に人口10万人対医師数を31.7人増やし、全国平均分を相殺すると8.5人の増加です。そういう意味で沖縄は人口比で言うと東京以上の医師を集めていると言えます。ただしそんなに問題視されません。むしろ「頑張っている」とか「やっぱり沖縄は人気がある」程度のお話になります。理由はすべからく人口比に帰結すると言っても良さそうです。
東京と沖縄の人口はおよそ10:1です。沖縄が医師を集めるインパクトは東京の1/10しかならないと言うことです。逆に東京が動けば沖縄の10倍であり、さらに日本の1割ですから、影響は実に多大と言う事です。数字で表せば
2002→2010 | 東京 | 沖縄 |
人口10万人対医師数増加分 | 31.7 | 48.2 |
実数増加分 | 3557 | 768 |
10万人対で「1人医師」を増やす医師数 | 112.2 | 15.9 |
当たり前といえばそれまでですが、沖縄の医師増加はローカルニュースであり、東京の医師増加は全国ニュースどころか、日本中の自治体が「医師確保」対策に狂奔させるぐらいの差があると言うところです。もう少し言えば、沖縄の医師増加は視察団を送り込んで参考にするものであり、東京の医師増加は陳情団を送り込んで対策を迫るぐらいの差と言えば良いでしょうか。
他にも差があります。東京の医師増加モデルは東京以外では真似する事の出来ないものです。東京モデルは東京が存在することが不可欠な条件であり、たとえ大阪や横浜であっても代用にならないと言うものです。単なる大都会では代わりは利かず、東京そのものでないと実現不可能なモデルです。
ほいでは沖縄モデルはどうでしょうか。これが、まあ、沖縄も勤務は愚か、通過した事もない都道府県の一つですから、私にはその吸引力の秘密はよく判りません。無理やり考えれば、
- さすがに東京から遠く、東京の吸引力の影響が低い
- 優秀で有名な研修病院があるらしい
- 漠然とした南国沖縄への憧れ
仮にこの3つが条件としたら、研修病院はなんとかなる可能性は有ります。しかし地理的条件は、「準じる」ところぐらいはあると思うのですが、比較的近そうな宮崎や、鹿児島や、高知でも現研修医時代になって苦戦に転じていますから案外ハードルが高いのかもしれません。憧憬条件は・・・置いときます。行った事がないので良くわからないです。
大した比較検討とは言えないのですが、東京モデルも沖縄モデルも医師増加の参考にするには「そう簡単ではない」ぐらいの平凡な結論でしょうか。どちらかと言うと沖縄の方がまだ実現の可能性が幾分かはあるかもしれません。東京モデルを導入するには、東京が飽和し、次の大都会にやむなく流れるぐらいの条件が出てこないと難しそうな気がします。
ちょっとした試算です。しばしば医師不足の象徴のように言われるたとえば埼玉県です。現場は大変だと聞いています。ここの医師数をせめて全国平均に持っていこうとして、仮に沖縄なり東京モデル並の成功を現研修医時代に収めていたらどうなったかを計算してみます。
沖縄の人口10万人対の全国平均増加数は48.2人です。2002-2010年度の試算ですが、これを埼玉にあてはめると2010年度の現実は142.6人ですから190.8人になります。2010年度の人口が719.5万人ですから13728人になります。現実の2010年度医師数は10259人ですから3469人の増加になります。この辺の計算結果を東京モデルも合わせて表にして見ると、
項目 | 2002年度 | 2010年度 | ||
現実 | 沖縄モデル試算 | 東京モデル試算 | ||
人口 | 700.1万人 | 719.5万人 | ||
人口10万人対医師数 | 121.6人 | 142.6人 | 190.8人 | 174.3人 |
医師実数 | 8526人 | 10253人 | 13728人 | 12541人 |
医師実数増加数 | * | 1727人 | 5202人 | 4015人 |
人口比配分医師数 | * | 1734人 | ||
偏在分 | * | 7人 | 3468人 | 2281人 |
ちなみに全国平均は219.0人で、沖縄モデルを適用しても追いつきませんが、それでも人口10万人対で74.0人あった差が28.2人まで縮まります。ただなんですが、偏在分は現実の東京以上を吸い寄せる事になります。もし東京と埼玉の二つで7000人近くも吸い寄せられたら残りの道府県がたまった物ではありません。埼玉が沖縄モデルで増えるためにはせめて東京の偏在分がゼロぐらいにならないと困ります。東京モデルでも5500人ぐらいになりますから沖縄モデルよりマシですが、やはり他の道府県の状況は厳しくなります。
それでもまあ、完全に机上の計算と思わざるを得ません。現実の埼玉の「これまで」はともかく、これからの10年ほどの間に急に東京さえ凌ぐ医師を吸い寄せそうかと言われると、少々埼玉贔屓の人間でも「そうなる」とは言い難そうな気がします。せめて今からではなく10年後ぐらいに仮定しないと、現実味が乏しくなります。10年でどうかとなって初めて可能性の是非を論じられるかどうかぐらいが妥当かと思います。
埼玉が大変なのは、人口増加の要因である東京に近いが医師集めでは逆にネックになる点でしょう。埼玉に医師が向かうには、
- 東京が飽和状態になる
- 神奈川の京浜地区が満杯になる
この次ぐらいに東京指向の医師がやむなく東京に近いところの選択で、千葉の北西部と受け皿を競うぐらいでしょうか。しかし東京の飽和状態がいつ来るかは・・・誰か予想が立てられるかなぁ、予測によってはまだまだ不足のものもあります。しかし10年以内に東京の飽和状態が来てくれないと埼玉だけでなく他の道府県も苦戦が続きます。う〜ん、困ったなその他の道府県でもある関西や我がのぢきく県も困ります。
難問と逃げたいところですが、自分にも関る問題なので何とか対策を考えたいのですが、医師数だけなら景気頼みはあるかもしれません。医師数は勤務医と開業医の合計になりますが、開業医の東京開業は景気が良くなり、それこそバブルぐらいなれば抑制は期待できます。理由は単純で地価が上り開業のペイが難しくなるからです。
しかし開業医が増えての医師数増では効果が限定的になります。また開業医だって後方病院がプアなところでの開業は二の足を踏みます。開業医の充実も後方病院の充実に比例する部分は少なからずあるからです。そうなれば話がグルっと回って既存病院の充実がカギになります。優秀な中堅層が集まる病院は、おおよそ研修医も集まる病院になると思っています。そうならなくとも先立つものは予算になるのですが、これがまたどの道府県も財布は苦しいわけです。
あかん、あかん、この路線で考えても現状の実の結んでない対策か、10年先からスタートみたいな話にしかなりません。ちょっと見方を変えてみます。埼玉と東京は自治体の境界はあっても実質的にシームレスとも聞きます。とくに埼玉南部の人口が多い地帯はそうだとも聞きます。たしか「埼玉都民」なんて言葉もあったはずです。埼玉都民と言うぐらいですから、昼間は東京勤務でいないのですから、夜間人口(実人口)でなく昼間人口で考えればどうだはあるとは思います。
それならばと思いはしましたが、人口は昼間と夜間で違っても患者層・患者数として考えると余り差が無いような気がしないでもありません。東京まで通勤するような昼間不在の東京都民にそれほどの医療需要があるとは思えないからです。小児科の対象患者は昼間も埼玉にいるでしょうし、内科対象患者がそうは東京に通勤しているとも思えません。この辺は診療科によって差が大きいので一概には言えませんが、確か埼玉都民は2割程度と聞いた事がありますが、その2割分だけ医療負担が減るとは思いにくいところです。
とくに夜間休日となれば埼玉都民も埼玉県民としておられるわけで、そこから発生する時間外受診の需要は実人口と考えるのが妥当です。仮に昼間の負担が埼玉都民のために軽減される部分があっても夜間休日への影響は少なかろうです。そいでもって医療戦力逼迫地域で一番問題になるのは夜間休日の需要への対応になります。埼玉も「たぶん」他の都道府県の病院と同様の勤務体制を取っているかと推測されます。日勤はフル勤務の上で、夜間休日は
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労基法上は働いていないはずの宿日直医
これが主力となり、これにオンコール呼び出し、さらには時間外勤務で対応しているです。そうなるのは、宿日直勤務は通常勤務でなく格安で働かす事が出来るのが一つ、宿日直勤務は通常勤務でないので、いくら働いても通常勤務にカウントされず、フルで通常勤務を働かないと給料に反映されないからです。そういう勤務体制の是非は今日はあえて置いておきますが、そういう勤務体制での夜間休日対応の戦力はどこに比例するかです。考えるまでもなく昼間の戦力が厚いところほど夜間は厚くなります。
仮に埼玉都民の影響で昼間の診療需要が少なくなっているとしても、
- 病院の収益源である昼間の診療は減少する
- 病院の持ち出しになる事が多い夜間休日の診療需要は変わらない
昼間人口に合わせての医療戦力なら夜間休日対応は貧弱となり、夜間人口に合わせての戦力整備をすれば昼間では過剰になり病院経営を逼迫させる事が予想されます。この問題に対応しようとするなら、たとえば完全交代勤務制を行い昼間より夜間戦力を厚くするように配分すると言うのはありますが、交代勤務制のためには現在より遥かに多くの医師が必要になり、それが集められないのが現在の埼玉県です。当分はどうしようもない試算は上に示した通りです。
風の噂では昼間の対応、とくに重症では厳しいことが現実に起こっているとは聞きます。昼間の診療体制も厳しいのなら夜間は推して知るべしなのが、日本の医療勤務体制です。私如きでは埼玉県と言う枠内で考える限り10年ぐらいでは打つ手が見つかりません。719万人と言う巨大な県の極端な医師不足のツケは、これを払おうとするだけで日本中を震撼させると言う事がわかるぐらいです。
だって埼玉が沖縄モデルで急速に医師を増やし、その影響がもし東京でも直撃しよう物ならモロ政治問題となって抑制される事は目に見えているからです。そこが東京や沖縄が増えるのと、埼玉が増えるのとの最大の差と思っています。起こりようがないから問題にならないだけです。