医療系マンガ雑感

まずssd様のMedpoorを読んでから、medtoolz様のツイート

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「メスよ輝け!!」なんかは、リアルを売りにして、実際に医師が原作を書いて、だからこそ個人的には全然楽しめなかった。リアルなんだけれど、主人公補正の「一割増し」は、あれは頑張ったって無理だから
リアル系の医療漫画はこう、冒険格闘漫画を書きたかった作家が仕方なく病院を舞台にしている空気があって、ドクターKは主人公の立ち居振る舞いこそ北斗の拳だけれど、考えかたはむしろ、明日から一緒に仕事ができるレベルで普通の医師という
ブラック・ジャックは超人的な能力を持った主人公が、それでも挫折する話だから同業者に支持される。よろしくは逆に、能力に見合わないモチベーションを抱えた主人公が現場と患者さんとを大混乱させて、あまつさえ成功したりするものだから、あれ読んでもにょる同業者は多いんだと思う



これを読んでの感想みたいなものです。



私の世代ではおそらく圧倒的にBJでしょう。元祖かどうかは自信がありませんが、医療系マンガと言うジャンルを切り開いた名作ぐらいに思っています。以後の医療系マンガは多かれ少なかれBJをどこかで意識していると思っています。医療設定も今となっては陳腐な部分もあるかもしれませんが、当時としてはそれでも本職が書いただけあってリアリティは十分あったとしても良いと思っています。

BJの作品としての魅力は様々に語られていますが、私の今となっての感想は医療系マンガじゃなかったんじゃないかです。たしかに医療シーンは多いですし、BJは奇蹟の腕を揮い続けます。そこが山場ではあるのですが、作品の魅力と言うか真価は、BJの超人的な技量ではなく、超人的な技量を背景として、そこで巻き起こる人間模様・人間ドラマであったと思っています。だから医療シーンが古くなっても作品としての評価は損なわれないです。

それだけにBJの影響から新味を出すのは大変で、おおよそ次の2つのパターンがあると見ています。

  1. BJの超人部分の拡大
  2. BJのアンチテーゼとして等身大路線
一般的な評価とは別に、医師が好むと言う観点からすれば、等身大路線はあまり喜ばれないのはmedtoolz様と同意見です。BJなり超人系は存在が抜けてしまっているので、逆にどこかで近づけると言うか、共感できる部分があれば親近感を持てると言えます。あの超人でも無理なものは無理とするところで共鳴できるとすれば良いでしょうか。

等身大路線は演出上の関係もあるとは思いますが、妙にドジと言うか、変に突っ走ります。それでもって混乱が起こったりするのがリアリティのある等身大路線だとは思うのですが、実はそこにリアリティを感じないのが現場感覚とすれば宜しいでしょうか。あんな奴では実際の現場で生き残れない感覚です。

生き残れない感覚と言うのは、実際の現場でもマンガの様な医師がいないとは言いませんが、常にやらかされては困るです。1回やらかせば次は起さないのを学習するのが現場とでも言えば良いでしょうか。それとこれはお約束ですが、なんだかんだと切り抜けてしまうのもリアリティに欠けると感じる部分です。そりゃ完全に地雷を踏み抜けば連載は終ってしまうからです。超人と等身大路線の中間の路線もありますが、これまた好まれません。medtoolz様の

    主人公補正の「一割増し」は、あれは頑張ったって無理だから
ほぼ近い位置にいながら、部分的に少しだけ飛びぬけているはリアリティに欠けるです。いかにもいそうな設定そうでも、「そんな事はありえない」が現実である事を嫌と言うほど知っているからとすれば良いでしょうか。「一割増し」が出る瞬間はそのマンガの山場になりますが、出るたびに引いてしまい、空々しいお話にしか感じなくなるです。



人間不思議なもので、本職ほど細部が気になります。等身大のリアリティ路線となると少しでも違和感があると嘘っぽく感じてしまい、作品から引いてしまう部分があると思っています。ほいじゃBJの技量の荒唐無稽さはどうなんだの質問は当然出てくると思います。これがまた不思議なところで、あり得ないほど飛べば返って受け入れてしまうぐらいの感覚はあるように思っています。

小説の技法の一つとして、ありえない破格の主人公を日常ピースにはめ込むの言うのがあります。当然ですが主人公自体のリアリティは極限までゼロに近いのですが、それを周囲の日常ピースとの接点を違和感無く(つうかそう感じなさせないように)描く事によって、逆に破格の主人公のリアリティを印象づけるとすれば良いでしょうか。

読む方も最初から嘘と分かってはいても、それでも作中に主人公のリアリティを感じてしまう感じです。もちろん基本的に無理はありますから、時に強引にねじ伏せるストーリー展開も出てきますが、そこは作者の力量が優れていれば作品の味付けに転じてしまうです。無理さえ逆手にとって面白味に変えてしまうとして良いかもしれません。

一方で等身大+α路線は、日常ピースに最初から嵌っていますから、読む方は存在するだけでリアリティ(特定人物の想定レベルまで)を感じられます。ところがリアリティがありすぎて、日常現場を知る者ほど、日常からの+αの飛躍に大きな違和感を感じてしまうぐらいと思っています。

そうですねぇ、超人系は日常から飛べるのが設定として納得していますから、どれだけ飛ぼうが「それぐらいは当然」と見なしてしまいます。一方で等身大+αの主人公は、何故に飛べるかの理由のリアリティを欲し、これが少しでも無理があれば御都合主義と引いてしまうのかもしれません。


最後に「そもそも論」ですが、BJは飛びぬけた名作です。天才の名を欲しいままにした手塚治虫の代表作の一つです。手塚をあまり神格化するのは良くないかもしれませんが、手塚の後追いしていては手塚を超えるのは非常に難しいぐらいは言えるかと思っています。二番煎じが一番煎じを越える事は容易で無いからです。相当高い位置にいるパイオニア的作品だと思うからです。

等身大もしくは等身大+α路線が医師の評価が高くないのは、手塚に匹敵する、いやBJに匹敵するレベルに達していないとする見方も出来るかもしれません。そうなると今後にこの分野でBJに匹敵する名作が誕生する余地は十分にあるです。私は読む方ですから、それを楽しみにしておきます。そう言えばまだ「JIN-仁-」は読んでないなぁ。結構評価は高かったと思いますから、正月休みにでも読んでみようかな。