ガッチャマンのスナックジュン

当時の子供向けSFアニメの細かい設定に目くじら立てるのは野暮なんですが、それを含んでのお遊びと言う事を御了承下さい。とにかく時間の余裕がなくて、医療ネタをジックリ繰る間が無いので私も息抜きしたいです。


正義の味方はパートタイマー

科学忍者隊は国際科学技術庁所属の特殊戦隊ですし、三日月珊瑚礁という立派な基地もあります。が、科学忍者隊は基地には常駐しておりません。彼らには「普段」があります。ちょっとまとめておくと、

科学忍者隊 年齢 普段
G-1号 大鷲の健 18歳 テストパイロット
G-2号 コンドルのジョー 18歳 レーサー
G-3号 白鳥のジュン 16歳 スナックジュンの経営者
G-4号 燕の甚平 11歳 スナックジュンのウェイター兼料理人
G-5号 みみずくの竜 17歳 ヨットハーバーの管理人


これは科学忍者隊のメンバーの身許を隠すの意味もあるでしょうが、隠すのなら三日月珊瑚礁の基地に常駐でも構わないはずです。にも関らず普段の本業があるわけです。まあこれは脇道も良いところですが、年齢からして科学忍者隊の皆様(大鷲の健コンドルのジョーは卒業後の可能性あり)は高校には進学されていなかったようです。とくに甚平は小学校をどうしていたのかと思わないでもありませんが、そこは軽く済ませておきます。

それはともかくこういう勤務体制であると言う事は、対ギャラクター戦の出動も余ほど少なかったと考えるのが妥当です。放映時は毎週(当たり前か!)の様にギャラクターと死闘を繰り返していましたが、あんなに出動回数が多いと「普段」は成立しません。そうなると月に1回以下の出動と考えるのが妥当です。個人的には3ヶ月に1回ぐらいの気が今ならします。

でもって科学忍者隊のお手当は高かったと考えるのが良いかもしれません。それこそ「♪命を賭けて飛び立てば」ですから、時給1000円(現在の貨幣価値で)程度では割に合わないからです。つうかお手当が高い割りに出動回数が少ないので常勤ではなく非常勤にしていたとも考えられます。下手すると随時契約みたいな感じです。

出動時にはそれなりのお手当をもらえますが、それだけでは生活が苦しいので「普段」があるです。出動1回につき100万円(現在の貨幣価値で)もらっても年4回じゃチト苦しいです。う〜ん、地球の命運をかけて戦っている割りには国際科学技術庁はかなりシブチンと見ました。まあ、三日月珊瑚礁基地を含めたハコモノに予算を費やしすぎて、科学忍者隊の人件費まで余裕がなかったのかもしれません。

ただガッチャマンにはもう一つの正義の戦隊がいます。レッドインパルスです。これは南部博士直属部隊の設定になっていますが、こっちは常勤だったのでしょうか。年齢層も未成年の科学忍者隊に較べて大人の部隊です。非常勤じゃ、ちと生活が苦しくなる気がします。なんちゅうても、科学忍者隊よりさらに出動回数は少なそうですし。それともレッドインパルスもパートタイマーだったのでしょうか。

ガッチャマンに限らず、当時の正義の味方はパートタイマーが多かった気がします。それだけ平和だったのかもしれません。


スナックジュンの謎

「謎」と言うほど大層なものではありませんが、リアルタイムで見ていたはずの私でも当時の風俗理解がかなり怪しくなっています。これは某所で出た質問ですが、私と「さほど」変わらないはずの某有識者

    ゴーゴー喫茶ってなんだ?
つうかその前に「ゴーゴーってなんだ?」が出てきました。私だってかなり怪しいのですが、当時に「ゴーゴー」なるダンスがあったのは知識として知っています。ただ悲しいかな田舎育ちだもので、ダンスと言えばフォークダンスか盆踊りぐらいしか踊った事がありません。あくまでも知識として「ゴーゴー」なるダンスが存在したぐらいです。お手軽にwikipediaで確認してみると、

1960年代にカリフォルニア州エストハリウッドのナイトクラブ「ウィスキー・ア・ゴーゴー」で、ミニスカートにゴーゴーブーツといういでたちの女性たちが始めた軽快かつセクシーな形態のダンスがその起源とされる。

この元祖ゴーゴーガールズは、同年代に放映されていた人気バラエティー番組『Rowan & Martin's Laugh-In』のレギュラー出演者だったゴールディ・ホーンがたびたび模写したキャラクターによって一躍全米で有名になった。また1967年には俳優ティム・エベレットが男性版を披露、ゴーゴーボーイズの元祖となった。

ゴーゴーダンスはその後のディスコ時代やクラブ時代にも引き継がれ、ダンサーの肌の露出度が多くはなったものの、お立ち台の上やケージの中でセクシーなダンスを披露して入場者の目を楽しませるというその伝統は、今日のクラブシーンにも引き継がれている。

これを読むとアメリカの「ゴーゴー」と言うナイトクラブでゴーゴーブーツ(ってなんじゃ?)を履いて踊っていたのが起源のようです。平たく読めばディスコの元祖とか前身みたいなものと見ても良さそうです。では現在では「ゴーゴー」が死語になっているかとそうでもないようです。wikipediaにはゴーゴーバーなるものが紹介されており、

客は舞台の上で踊っている女性を見ながら、飲食を楽しむ。基本的には飲食代を払うだけで楽しむことができるが、女性を席につかせて会話をする時は女性のドリンク代を支払うのが一般的である。女性は水着や下着姿であることが多いが、稀に全裸の場合もある(大抵は1階にいる女性たちは水着や下着姿だが、2階以上にいる女性たちは(上半身)裸である)。

気に入った女性がいれば、別料金を支払うことで店外に連れ出すこともできる。連れ出す際の料金は店側に払う分(タイではペイバーPayBar、フィリピンではバーファインBarFineと呼ばれる)と女性に払う分があり、ペイバーは基本的には店で固定の料金だが、女性に払う分は女性との交渉で決まる。 女性はウェイトレスとダンサーが分かれている店や、ダンサーがウェイトレスを兼ねている店もある。基本的には店外へ連れ出しができるのはダンサーの方だが、ウェイトレスを連れ出せる店もある。一般的にはウェイトレスの方が連れ出す料金が高い。

読む限り起源となった「ゴーゴー」の正統後継者と言うか、発展系みたいな感じで、怪しいセクシイ・ダンスを見せて、さらにその後は夜のお楽しみをセッテイングしたものぐらいの理解で宜しいように思えます。


日本にもゴーゴーは入っているのですが、あくまでも「どうも」ですが正統派(かどうかも自信がないですが・・・)のショー的な部分ではなく、新しいダンスとして広がったと考えても良さそうな気がします。かなり健全なイメージです。この辺はアメリカの流行が誰でも踊れるゴーゴーダンスとしてやがて発展し、その部分が日本に持ち込まれたためではないかと見ています。

スナックジュンはゴーゴー喫茶でもあるという設定なんですが、起源がナイトクラブのショーだったものが日本では喫茶店で踊るぐらいに健全な物になっていた傍証になるかもしれません。このゴーゴー喫茶は大辞泉にも収載されており、

昭和40年(1965)ごろにあった、ゴーゴーを踊れるようにした喫茶店

う〜ん、1965年か・・・つうのもガッチャマンの放映が始まったのは1972年なんです。もっとも企画段階はその前であり、さらに大辞泉の「昭和40年(1965)ごろにあった」も必ずしも1965年に消滅した事を意味しないとも言えます。企画スタッフで熱心に通っていたものがいたか、東京あたりでは1970年時点でもかなりポピュラーな存在であったのかもしれません。


もう一つ謎があります。なぜにスナックジュンがゴーゴー喫茶でもあったかです。私の無茶苦茶怪しい記憶では「ゴーゴー」はあまり好ましい風俗として受け入れられていなかった気がするからです。どちらかと言うと「不良のたまり場」「不純異性交遊の温床」みたいな扱いで、健全な青少年なら近づくのは宜しくない感じです。

ですから子供向けの番組としては、無理に「ゴーゴー喫茶」にしなくとも「普通の喫茶店」で必要にして十分じゃないかです。それでもガッチャマンでは隊員にゴーゴー喫茶を経営させ、大鷲の健がゴーゴーを踊るシーンまでは入っています。どうしてなんだろうと言うところです。


ここも理由は幾つか考えられますが、個人的には科学忍者隊員はアウトローの空気を醸したかったからではないだろうかと思っています。当時のヒーロー物はたしかに子供だましと見なされている側面は強かったですが、そのぶん製作者は「それだけではない」の信念が強かったと言われています。一つの典型がウルトラセブンで異様に凝ったストーリーや設定を盛り込んでいます。この考えの源流は手塚マンガにも求める事は可能で、「おこちゃま向け」の評価をどこかで覆したいの考えがあったと見ても良いと思っています。

科学忍者隊のキャラ設定も慎重に行われたと考えますが、単純な清く正しい正義の味方にしたくないがあったとしても不思議ないと思います。どこかにアウトロー的な匂いが欲しいです。コンドルのジョーはキャラ自体がアウトロー的な設定ですが、一番大人しそうな白鳥のジュンにもゴーゴー喫茶を経営させる事で「ワイルドだぜ!」の設定を持ち込んだです。

そうなると大鷲の健がゴーゴーを踊るのも分かりやすくなり、熱血単純正義感の設定の健にもゴーゴーを踊るようなアウトロー的なワイルドさがあるぐらいでしょうか。


なんとか説明をつけましたが、アウトローの空気の設定の工夫はあったとしても、それが効果的であったかどうかは別問題です。都会の子供はともかく、田舎の子供では噂に聞く(これも聞いているものがどれだけいたかはチト疑問)「ゴーゴー喫茶」なるものが「あんなものなんだ」ぐらいの理解しか出来なかった気がします。かくいう私も他人の事を言えません。

アウトローとかワイルドさより、もっと単純に「ガッチャマンはゴーゴー(つうよりダンス)が踊れるんだ」ぐらいの印象です。もっと言えばなんであんなシーンが必要なのかが自体が意味不明であったとしても良さそうな気がします。それより「早くギャラクター退治に行って」の感じです。まあ、現金と言うか単純なものです。

ワイルドとかアウトローさがあんまりでなかったのは、ほぼ同時期に放映されたルパン三世と較べるとわかりやすいかもしれません。ルパン三世の第1シリーズは、今こそ名作とされていますが、当時はイマイチの人気でした。理由は大人向けの製作姿勢が子供に受けなかったです。酒は飲むわ、タバコは吸うわ、人を騙すわ、女にだらしがないわ、女性の性的魅力の強調するわです。

アウトロー的な演出なら、ゴーゴー喫茶で酒を飲み、タバコを吸うぐらいの演出が本来必要であったです。しっかし、科学忍者隊は未成年者であり、さらに子供向け路線が濃厚です。おそらく「ゴーゴー喫茶」でゴーゴーを踊る設定も、企画段階ではもっと本格的なワイルドさの演出案もあったと思っていますが、毒を抜きすぎた結果、目黒のサンマのように味も素っ気もなくなったんじゃないかです。

それでもゴーゴー喫茶の設定だけが辛うじて生き残り、妙に健全そうなシーンとして放映されたぐらいに思っています。


オマケ・スナックの話

これも時代が過ぎると変わるもので、現在はスナックと言うとカラオケスナックに代表される酒場です。ママさんがいて、水割りを飲んで騒ぐところみたいな感じでしょうか。これも70年当時は少しニュアンスが異なり、現在のスナック酒場みたいなところもあったとは思いますが、それより喫茶・軽食の軽食をスナックとして店名にした喫茶店は珍しくも無くあったはずです。

ちなみに軽食を(たぶん)出さない喫茶店として「純喫茶」なるものがスナックに対して存在していたと記憶しています。当時も昼は喫茶店、夜は酒場的な営業形態はあったと思っていますが、なんとなく昼の部分が衰退して夜の酒場部分のみがスナックとしてなっていった気もしないでもありません。この辺はさして調べていませんから、あくまでも「そんな気がする」レベルのお話です。


SFアニメであっても生活部分は当時の風景を取り入れますが、その一方で近未来設定(そうしないと未来メカが駆使できない)なので、後から見るとそのチグハグ感が面白いところは良くあります。前にガッチャマンの話を出した時にも指摘がありましたが、コンピュターがパンチカード(それもロール状)で、それを手に取るだけで読むなんてシーンもそうです。

本部基地やメカに登載されたディスプレイもそうで、微妙な丸みを帯びたブラウン管なんてのもあります。電話の受話器なんかもそうです。街中で連絡のために公衆電話を探すなんてシーンも今となっては既に珍妙レベルになっているかもしれません。

もっと細かい生活風俗になるとファッションもそうですし、化粧なんかも少し時代が変わると違和感が出てしまいます。ゴーゴーやスナックの話もそうで、当時としては常識的な風俗を取り入れたと思っていますが、40年も経つと「あれはなんだ?」に変わってしまいます。これも断っておきますが、それが悪いなんて言う気はサラサラありません。そんなもの完璧に予想できたら神に近いレベルと思うからです。

そう思うと現在のアニメも40年もしたら「ありゃ、なんだい?」なんてものもきっと指摘する人が出てくるんだろうと思っています。ただし40年も先となると、残念ながら私はいそうにないのがチト残念なところです。せいぜいガッチャマン時代で楽しませて頂く事にします。