安房10万人計画

 広い意味で一昨日の話の続きです。モトネタは小松秀樹氏の

 ここから10万人計画の部分を引用します。

●安房10万人計画

実は、無料低額診療を推進すべきもう一つの理由がある。安房10万人計画である。首都圏の高齢者を招いて安房の人口を増やそうというものである。亀田グループでは、2012年3月以後、安房10万人計画について議論を重ねている。

首都圏では、団塊の世代の高齢化によって、今後20年間で介護需要が約3倍に増加する。団塊ジュニア世代の高齢化がこれに続くため、高齢者の絶対数は長期間にわたって大きく減少することはない。介護需要の増加の規模が余りに大きいため、首都圏だけの対応では、介護需要に応じることが難しいと考えられている。  
一方で、安房3市1町(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)では、高齢化率が首都圏よりはるかに高くなり、人口が急速に減少する。2030年には館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の高齢化率はそれぞれ41.1%、43.7%、51.2%、49.3%になると予想されている。高齢化率が50%を超える自治体は、限界自治体と呼ばれる。日本社会保障人口問題研究所の2008年の市町村別将来推計人口によれば、限界自治体数は、2010年10、2020年39、 2030年105に達すると予想されている。限界自治体は、有効な対策がなければ自治体としての存続が難しくなる。

安房には利点がある。温暖であり、亀田総合病院という日本を代表する病院の一つがある。医療と介護施設、介護施設同士の連携が極めて良好である。
この利点を生かそうとするのが、安房10万人計画である。ミッションは以下の3点。

  1. 首都圏の高齢者、要介護者に、安房で、楽しく穏やかに人生の終末期を過ごし、死を迎えてもらう。
  2. 高齢者を介護する若者に、安房で、結婚し、子供を産み育ててもらう。
  3. 安房を活性化することで、住民に職を提供する。

 さらっと読めば安房地域の人口を10万人に増やそうとする計画に読めてしまいますが、安房3市1町(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)の人口は、千葉県年齢別・町丁字別人口平成24年度第1表男女別、年齢(3区分)別人口-県・市区町村・11地域によりますと平成24年4月1日時点で、

    13万7868人
 現在でも10万人を楽に越えています。ただ高齢化率、人口減少率が進んでいるのは小松氏の指摘通りです。小松氏の文章が想定している人口10万人計画を目指す時期は、
  • 亀田グループでは、2012年3月以後、安房10万人計画について議論を重ねている
  • 今後20年間で介護需要が約3倍に増加する
  • 2030年には館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の高齢化率はそれぞれ41.1%、43.7%、51.2%、49.3%になると予想されている。
 ここから考えると2030年頃に目標を置いている様に見えます。つまりその頃には安房地域の人口は何もしなければ10万人を割り込むために、これを防いで10万人ラインを死守しようの計画ではないかです。小松氏は日本社会保障人口問題研究所のデータを使っているとしていますから、私も『日本の市区町村別将来推計人口』(平成20年12月推計)についてで検証してみます。各種の推計データがあるのですが、小松氏はどれを用いられたかです。ヒントは、

2030年には館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町の高齢化率はそれぞれ41.1%、43.7%、51.2%、49.3%になると予想されている。

 これに該当するデータがあるのは2.推計結果のデータみたいです。そこの結果表?-3 将来の市区町村別老年(65歳以上)人口割合を見てみると、小松氏の指摘されたデータが出てきます。しっかし、そうなるとデータ集計がえらい煩雑になります。仕方が無いのでやってみると、

 なるほど! 2035年には安房地域の人口は10万人を切ります。表も出しておけば、

2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035
0〜14歳 16390 14433 12474 10505 9154 8241 7529
15〜64歳 81674 74735 65592 58725 53835 49545 44983
65歳以上 43560 46214 50388 51589 50211 47792 45343
比率 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035
0〜14歳 11.6 10.7 9.7 8.7 8.1 7.8 7.7
15〜64歳 57.7 55.2 51.1 48.6 47.6 46.9 46.0
65歳以上 30.8 34.1 39.3 42.7 44.4 45.3 46.4

 よっしゃ、これで小松氏が根拠にしているデータに追いつけたようです。こうして見ると、2035年には自然推移では10万人を割り込んでしまう安房地域の人口を持ち支える計画であろうと理解出来ます。とはいえ、少子高齢化による人口減少は安房地域だけに起こっているのではなく、全国レベルの現象です。一番理想的なのは子供を増やし、若年層からのボトムアップですが、そこまではさすがの亀田でも無理だとしているようで、
    首都圏の高齢者を招いて安房の人口を増やそうというものである

 ココロは

    安房には利点がある。温暖であり、亀田総合病院という日本を代表する病院の一つがある。医療と介護施設、介護施設同士の連携が極めて良好である。

 たしかに亀田の力は認めますが、そうなるとさらに高齢者が安房地域に流入してくる事になります。2030年の推計で考えるとすると、何もしなくても高齢化率45.3%です。2035年には9万8000人程度に減少する推測ですから、これを防ぐためには5000人、出来れば1万人程度の高齢者が必要と考えます。そうなると、


2030 10万人計画 2030
0〜14歳 8241 8241
15〜64歳 49545 49545
65歳以上 47792 57000
人口 105578 114786
比率 2030 2030
0〜14歳 7.8 7.2
15〜64歳 46.9 43.2
65歳以上 45.3 49.7

 ただこれは余りにも粗い試算と我ながら思います。小松氏も高齢者だけの純増加を考えているわけでなく、
    高齢者を介護する若者に、安房で、結婚し、子供を産み育ててもらう

 つまり高齢者医療なり介護産業が伸びるので、そこを目指して勤労層が就職し、地域が活性化するぐらいと私は解釈します。一応別推計も出しておきます。これは6.市区町村別参考推計(封鎖人口)データから安房地域の2035年までの推計人口データをグラフにして見ます。

 こちらは小松氏が用いたデータより人口減少率も高齢化率も幾分穏やかそうです。推測として用いるのに厳しい方のデータを用いるのは悪い事ではありませんから、あくまでも参考です。

亀田があるのが羨ましい

 こうやって小松氏や亀田グループが安房地域の将来を真剣に考えるのは悪い事だと思いません。それぐらい少子高齢化による将来像は厳しいです。別に亀田の計画への難癖と言うわけではありませんが、亀田のプランの最大の期待は首都圏から高齢者だけではなく、それを介護する勤労層が一緒に移住してくるだと見ています。それがないと地域の介護負担ばかりが増えてパンクします。

 勤労介護層の流入の期待は言うまでもなく亀田ブランドです。亀田と言うバックが地域医療の大きな後ろ盾として存在しているので、安心して介護労働者も流入してくるはずだの期待です。ただなんですが、期待がある程度実を結んだとして、産業として介護産業だけが栄える状況で地域経済が維持できるかどうかは素直に疑問は出ます。

 地域自治は大雑把に言うと、勤労者層の税収で高齢者の医療や生活を支えている面があります。これ自体は世代毎の相互扶助ですから、当然といえば当然です。そういう状況で少子高齢化が進むとどうなるかですが、支える高齢者ばかりが増え、原資である勤労者からの税収が減ります。これは今だって、高齢化が進んだ自治体が共通して抱えている解決しない難題です。

 ぶっちゃけた話、医療も、介護も産業には間違いありませんが、自治体会計的には持ち出しになります。栄えれば栄えるほど自治体自体の会計は窮迫するのが現状です。現実に高齢化が進んだ自治体で「これで財政が豊かになった」は聞いた事がありません。安房地域で喩えれば亀田は栄えるかもしれませんが、自治体はさらに苦しくなるです。

 また2030年には安房地域だけでなく全国的にも高齢化が進んでいます。そうなれば嫌でも介護戦力の需要は増大します。つまりは介護職の争奪戦が行われるわけです。亀田は強大ですが、一方で近接する東京は束で強力です。亀田ブランドをもってしても、東京ブランドに勝てるだろうかの不安です。

 東京の高齢者介護戦力も限界があり、そこから溢れた高齢者が安房地域に流入してくる期待は残されても、東京の高齢者介護のために費やされた介護戦力がどれほど安房に流れるかです。東京の医療機関だってサバイバルのために亀田同様の戦略を立ててくるでしょうし、東京自体に介護戦力の余裕は残されていないと観測もまた可能です。地の利だって東京ブランドはダントツで強力です。

 それでもこの程度の話は懸念と言うより安房10万人計画のための課題に過ぎません。そういう課題が当然のようにあるので、その対策を今から行い20年後に備えるだと考えています。20年も先になると社会情勢もさらに変化しますから、今の課題がこれからどう変わっていくかの予想は困難です。戦術面は臨機応変の対応が必要ですが、根幹の戦略さえ堅持していればきっと成果を収めると予測しておきます。

 これを読みながら故郷の事を思い浮かべていました。故郷も似たり寄ったりの状況にあります。だから悪戦苦闘しているのですが、安房と故郷の最大の違いは。

    故郷には亀田がいない

 これは決定的な差とフトフト感じています。長期に腰を据えて戦略を立てる優秀なシンクタンク及び実行機関が存在しないです。今だって亀田の有無で大きな差がありますが、20年後には後姿さえ見えないほどの差が出来ているとしか思えないのです。これはうちの故郷だけの話ではなく、亀田がいない地域の方が圧倒的に多いですから、枕を並べて討ち死にする未来図しか思い浮かべられないです。

 まあ、亀田がいない事はボヤいてもどうしようもありませんから、亀田抜きで将来戦略を立てざるを得ない事になりますが、厳しいとしか言い様がありません。