EMと北朝鮮

EM側のソース

EMの成功事例で広く喧伝されているのが北朝鮮です。まずEM研究機構の海外展開の冒頭例に紹介されており、

 特に1996年に導入が始まった朝鮮民主主義人民共和国では、全国128ヶ所にEM工場が建設され、約90万ヘクタールの農地でEM技術が活用されています。また、2000年10月には、首都平壌で「EM技術と自然農法に関する国際会議」が開催され、世界20カ国からEM関係者が集い、EM技術の国家的普及モデルとなっています。

2009.10.20に窪田光治氏が書かれた七つの封印に引用されている『「蘇る未来」2000年初版 サンマーク出版 比嘉照夫 琉球大学教授 著 副題−−EM技術が21世紀を変える』の「プロローグ−微生物が地球環境を大きくかえている」を孫引きしておきます。

  1. EMが導き出すシントロピーの世界とはどんなものか。たとえば農業は近い将来、種をまくだけで、あとは何もしないで収穫するという単純作業に変わるでしょう。この有用微生物群、つまりEMを使えば、世界人口が必要とする量の食糧を確保することが十分可能になります。

  2. そのよい例が朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)です。北朝鮮は一九九〇年代はじめから、長年の化学肥料や農薬の使用過多で土壌が劣悪化して農業が不振となり、九五年以後は極度の食糧不足に陥り、国民が塗炭の苦しみを味わっている国として国際社会では認識されています。たしかにそうなのですが、しかし、それも九八年までの話。九九年の秋には大幅な食糧増産を達成し、この国の食糧不足は一気に解決してしまったのです。

  3. 北朝鮮の農業問題は構造的なもので、いままではそう簡単には解決できないと考えられていました。この北朝鮮の奇跡的な農業の再生に活躍したのがEMです。エネルギー不足のうえ、農薬も化学肥料も農業機械も足りない。ほとんど壊減的だったこの国の農業は、EMを使うようになって三年で完全に回復を果たしたのです。これもくわしくは第2章で述べますが、このことからもEMが食糧問題の解決にいかに大きな力を発揮しているかがおわかりかと思います。

そいでもって現在のEM研究機構の北朝鮮事例のページです。美しい写真はリンク先をご覧下さい。キャプションを引用しておきます。

  • 1964年より、試験的にEMが導入された。朝鮮政府科学院のプロジェクトとしてEMの研究・普及が開始された。その後、国内120ヶ所以上の工場でEM活性液が製造され、栽培面積は100万ヘクタール、末端での活性液総使用量は9〜12万トンに達すると思われる。
  • 2002年秋の稲の収穫田の状況。近年では、土地生産性向上のため、比較的温暖な内部で稲作とジャガイモもしくは麦類との二毛作が普及していた。EMの継続導入により、北部の平壌近郊でも導入されるようになった。
  • EMを使用して育成された大豆。上部までしっかりと実が入り、さやも充実している。
  • EM製造工場。この他、EM活性液製造工場が国内全土に広がる。

ごく簡単に年表にまとめておきます。

事柄
1996 北朝鮮にEMが導入される
1999 食糧大増産に成功
2000 ・EM技術と自然農法に関する国際会議
・比嘉教授、成果を本にして出版
2002 この時点の「成功状況」をEM研究機構は紹介


否定的ソース

2007.11.9付Daily NKより、

全文引用するには長すぎるのでリンク先をお読み下さい。まずこの記事は韓国紙のようです。また書いた記者は

文星輝記者(慈江道出身, 2006年入国)

2006年に脱北し2007年に記事を書いたで良さそうです。また記事は2007年のもので、昨今のEMへの疑問が強くなってからのものではありません。ここから情報を拾っておくと、

  • 1996〜1997年にかけて咸境道キョンソン郡に建設された複合微生物肥料工場
  • 複合微生物というのは、有用微生物の発見者である琉球大学の比嘉照夫教授が名付けた一種の自然農法だ
  • 朝鮮総連を通じて複合微生物肥料の生産のための工場の建設を推進して、1997年6月に完工した‘愛国複合微生物センター’を含めて、1年間で全国に100以上の複合微生物肥料工場を建設した。

1996年に北朝鮮朝鮮総連経由でEMを導入したのは事実のようです。さらにEM製造工場を100ヶ所以上設けたのもまた事実のようです。別の情報筋として「110ヶ所以上」ともあり、EM側のソースをほぼ裏付けるものと見なします。でもってどうなったかですが、

  • 1996年から急に複合微生物肥料といって騷いだが、実際の効果がないため、1999年から無くなった
  • 全国的に状況は同じだ。複合微生物工場の大部分が、建設されてからいくらも生産ができなかった。金正日の支持だから仕方なく生産していたが、1年経ってうやむやになった。今は工場の状態は廃墟のようだ
  • 平壌の愛国複合微生物センター、ラソンの微生物工場などの大規模な施設以外には、多くが建物だけが残っている状態”

EM計画が挫折した理由も具体的にあげられており、

複合微生物を作り上げるためには、飴粉が投入されなければならないが、原料が高くて大部分で一般の穀類(トウモロコシと米)を投入した

EM培養にもエサが必要です。微生物と言っても生物には間違いありませんから、エサが無ければ増えませんし、いずれ餓死します。EMのエサは飴粉だそうです。北朝鮮ではこれが高価すぎて購入できなかったとなっていますが、通販で見ると10kgで6000円ぐらいするようです。そこで飴粉の代わりに主にトウモロコシをEMのエサにしたようですが、

  • 1トンの醗酵原液を作るのに350kgのトウモロコシを消費しなければならなかった
  • 1997年から2年間工場を動かし、38t以上のとうもろこしを使った

EMを1トン作るのに350kgのトウモロコシが必要であったようです。2年間で38トンとなっていますから、計画通りにEMを製造していれば108トンばかりのEMが出来上がったはずです。EM研究機構のキャプションにある「末端での活性液総使用量は9〜12万トンに達すると思われる」を遥かに凌駕するEM液です。しかしなんですが、EM製造メーカーのサン興産業によれば

まずEM1号で全て出来るとの根拠です。「EM1号はEM2号と3号と4号を混合し一液タイプにした。全ての菌が入っているから個別に使う必要は無い。」との事です。この事が正しい為には2号・3号・4号の菌が同等量又は適正なバランスで混合している事が前提です。しかし2号・3号・4号を混合培養するとそのバランスは崩れます。その理由は菌のエサの違い、好む環境の違い(温度・PH・その他)菌の増殖速度の違い等です。同じ様に同じ速度で同じ量では増えません。

要はEM培養技術は結構難しくて、現在でも種菌はサン興産業が他の製造メーカーに供給している状態です。それを「飴粉 → トウモロコシ」みたいな代用でOKなのかは疑問が出るところです。その辺は比嘉教授の技術指導でクリアできるかもしれませんが、もっと現実的な問題で頓座した様子です。

  • 食べ物がなくて人が飢え死にする状況で、3年後に効果が出る複合微生物の生産のために穀類を投入する余裕はなかった。
  • とうもろこし350kgあれば、1人が充分に1年間暮らすことができるではないか
  • 従業員たちには特別に食糧の供給をしたが、トウモロコシ粉から醗酵液まで、こっそりと盗んだ
  • 微生物を生産しても、これを運ぶ車と油がなかった

どうも北朝鮮のEMの効果は3年かかるとされたようです。誰がそう言ったのか不明ですが、餓死者が出るような状況で食糧であるトウモロコシを使って肥料を作る事に理解は得られなかったようです。それこそEMのエサにするのなら「オレが食う」です。そうこうしているうちに、

キム氏は当時、農場員たちが3年後になれば、土の中で窒素を生産する菌が育つようになると説明しても、住民たちは信じなかったと言う。とうもろこしの供給も続かず、生産された微生物を農場に振り撤くことにも関心がなく、結局、工場の稼動を中断したと明かした。

色んな読み様がありますが、食う事に逼迫している北朝鮮ではトウモロコシをEMのエサにするより自分で食べる事にしたようです。そういう横流しが蔓延するに連れ、EMのエサのトウモロコシが工場まで届く事もなくなり計画は自然消滅したと言うところでしょうか。


続否定的ソース

北朝鮮のEM計画が1999年には頓座したにも関らず、2000年に首都平壌で「EM技術と自然農法に関する国際会議」が開催された理由も非常に分かりやすく書かれています。

    金正日総書記は“全国的範囲で複合微生物肥料を大量に生産して、穀類の生産を増やしなさい”という方針を下した
つまりは偉大なる首領様の御命令と言うわけです。北朝鮮における偉大なる首領様の御命令の重さの解説は不要でしょう。責任者は失敗を絶対に許されません。しかし現実には失敗しているのですが、極度に失敗に対する責任が重い国では失敗は隠蔽されます。つまり「大成功」の報告を偉大なる首領様に送り続けらると言う事です。偉大なる首領様は報告に満足し、

北朝鮮のメデイアは最近も、北朝鮮は`複合微生物技術の先進国'と伝え、複合微生物技術と自然農法に対して'食糧危機を解決するだけでなく、生態環境を保護することに大きな意義を持つ'と評価した。

成功に気を良くした偉大なる首領様は成果を世界にアピールするためにEMの国際会議を開き、当然ですが開発者の比嘉教授も招かれた、もしくは恩人として厚く待遇されたのは当然の流れになります。自分のところで国際会議をやるぐらいですから、EMの成果は偉大でなければならず、偉大であることの作文が偉大なる首領様の指示の下に公式報告として発表されたです。


どっちが真相か?

さて2007年のDaily NKとEM研究機構のどちらが真相に近いかです。否定的ソースは2006年の脱北者であり、北朝鮮の内部事情を良く知るものです。一方で脱北者の立場として必要以上に北朝鮮を貶める事を求められるのも考慮しないといけません。なんと言っても世界でも内情が非常にわかりにくい国の一つですから、判断は慎重なものが必要です。

確認できる事実として北朝鮮は国際社会から多量の食糧援助を受けています。援助国には中国だけでなく、アメリカや韓国も含まれています。これはアングラ情報ではなく公然たる事実です。これについて七つの封印ではおそらく比嘉教授の主張を踏まえて、

 比嘉照夫教授は北朝鮮の政府機関と契約し、土壌改良に力を入れたようです。そして、大きな成功を収めました。しかし、EMが北朝鮮の食糧増産に大いなる貢献をしたという話は、全くと言っていいほどメディアは報じていません。これほど大きな人道援助はないのですが、どうしたことでしょうか。

 海外援助の多くは利権がらみであり、このような真の博愛・人道的な支援を快く思わない政治家や関係者が多くいるのです。米を何十万トン、肥料を何十万トン支援するという話は何度も聞いています。その度に、巨額の税金が動き、業者と政治家にリターンが入るからです。

まず比嘉教授御自身も北朝鮮が大量の食糧援助(含む肥料援助)を受けている事を認めているようです。食糧増産が劇的に増えても援助利権のために続けられているとしています。食糧援助が利権となっている可能性はありますが、北朝鮮と言う国を考えると疑問は残ります。あの国は非常にプライドが高い国です。それも少々の高さではなく尊大と言っても良いぐらいのものです。

そういう国が援助利権のためだけにアメリカや韓国から援助を公然と受けるかどうかです。もし食糧大増産に成功していたら、大威張りでその成果をアピールし、さらに外貨獲得のために可能な限りの輸出を行うであろうと推測されるからです。北朝鮮に不足しているのは食料だけではなく、石油などのエネルギーを購入する外貨も不足しているからです。


そういう点を考慮するとEMによる北朝鮮での食糧大増産計画は挫折したと考えるのが妥当です。北朝鮮がEMを導入した理由として一番考えられるのは、国際援助に頼らざるを得ない肥料の自給自足であったと見ています。EMが謳い文句通りに効果を発揮すれば、肥料の自給だけでなく、食糧の大増産も可能になる点に大きな魅力を感じたのではないかです。

ところがEMの生産さえ北朝鮮の食糧事情では難しく、残ったのは偉大なる首領様のお言葉の体面を守る事のみであったです。偉大なる首領様もバカではありませんから、ある時点でEM計画の挫折は知っていたと見ます。偉大なる首領様のお言葉は命令としても部下は死守ですが、もう一方で偉大なる首領様自身も縛ります。偉大なる首領様も失敗は許されないです。

私は比嘉教授がそういう北朝鮮の面子を守る工作を素直に信じ込んだだけの可能性が高いと考えます。


オマケ・EM理論のさらなる飛躍

たまたま目に付いたので比嘉照夫氏の緊急提言「甦れ!食と健康と地球環境」より、

まずなんですが、

EMによる波動効果(その1)

 EMの効果は、1、抗酸化作用 2、非イオン化作用 3、三次元(3D)の波動の作用の相互作用である。1の抗酸化作用と2の非イオン化作用については、これまでの理論でも十分に説明でき、すでに一般の理解を得ているが、3の三次元(3D)の波動の作用についての科学的論議はこれからである。

「抗酸化作用」と「非イオン化作用」(つうか非イオン化作用ってそもそもなんだろう?)は「すでに一般の理解を得ている」そうです。ここはもう置いておきます。今回の新知見は

    三次元(3D)の波動の作用
これは何を説明したいのかです。おそらく船井幸雄.com比嘉教授連載のEMによる地域全体の放射能汚染対策〜放射能対策に関するEM(有用微生物群)の可能性にある

放射性物質は、EMの活用次第では、エネルギー肥料になることを意味するものである。

のようです。では新知見を読みます。

 これまで、三次元(3D)波動については、「有害なエネルギーを三次元(3D)のヘリカル構造によって使えるエネルギーに変換し、触媒的に有用なエネルギーを賦与する作用」として説明を試みてきた。その三次元(3D)のヘリカル構造の代表格が図1に示されるように、光合成細菌のらせん状の光(エネルギー)伝達系である。

図はリンク先でお願いします。光合成菌が「らせん状の光(エネルギー)伝達系」かどうかは知見が無いのでそのままにします。

 微細なマイクロコイルは電磁波や静電気や放射線等を転換し、無害化したり、有用なエネルギーに転換する機能性を有することが明らかとなっている。すなわち、カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブフラーレン等々であるが、その機能は図1の右側のように三次元(3D)構造がマグネット的役割をはたすために生じるものである。

物理畑の人に確認したいのですが、「カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブフラーレン」は

そんな効果が「明らか」なんでしょうか。比嘉教授は「明らか」とされております。つうか「明らか」でないと次の説明が困るのですが、

 光合成細菌は、カーボンマイクロコイルよりも更に微細なマイクロコイル状となっており、紫外線を照射すると急激に増殖する性質を持っている。また、粘土に十分に混和し1200℃でセラミックス化しても、そのセラミックスから光合成細菌を取り出す事が可能である。EMが放射能汚染対策に効果が認められるのは、EMの中心的役割を果たしている光合成細菌のこのような性質によるものである。

光合成菌はカーボンマイクロコイルよりもさらにマイクロコイルの構造が細かいので効果は抜群とされております。ちょっと理論をまとめると、

  1. マイクロコイルは放射能を転換し有用なエネルギーにする
  2. カーボンマイクロコイルは放射能を転換する
  3. 光合成菌はカーボンマイクロよりもさらに微細な構造なので効果抜群
でもって定番の
    粘土に十分に混和し1200℃でセラミックス化しても、そのセラミックスから光合成細菌を取り出す事が可能である
これはもう良いでしょう。そういう「新知見」だそうです。次のところがまた驚かされるのですが、

 EMによる波動作用は、その当初より様々な現象を引き起こし、研究機関によるEMの否定的見解の原因となってきた。すなわち、室内で化学物質の分解や水質浄化の実験を行なうと、当初はEM投入区の方に明確な効果が認められるが、時間の経過とともにEMを投入しない区の化学物質も分解されたり、無処理区の汚水も浄化されるようになる。

 この現象は、フラスコや試験管を接触した状態にするほど早く現れ、数メートル離しても時間とともに同様な結果が認められるようになる。当初は、そのことに気がつかず、現場の成果と実験室のギャップに悩まされたが、最終的には、実験のミスではなく、EMの波動によるものと考えられた為、対照区を隣室に移した結果、対照区には何の変化も起こらなかったのである。

これはEMの効果の不思議に付いてですが、EM効果がEM投入区だけではなく対照区にも現れてしまう説明です。

    フラスコや試験管を接触した状態にするほど早く現れ、数メートル離しても時間とともに同様な結果が認められるようになる。
数メートル離れたフラスコにも波動の効果が及ぶのだそうです。ある種の共鳴現象でしょうか? なんつうても波動ですし。でもって離れていても広範囲に波動効果が及ぶので、

類似の現象は、栽培の現場でも現れてくる。EM処理区と対照区は最低でも5m以上離す必要があるがEMの試験を行なったという事例を見ると、1m以上も離している例は皆無である。そのため、無処理区もEM区と同じように良好に生育し、統計処理を行なうと差がない、すなわちEMは効果がないということになる。

後半の方の「新知見」をまとめると、

  1. EMの波動効果は投入地点だけではなく広範囲の周囲にも及ぶ
  2. これまでの比較対照試験で差が出なかったのは、EMの波動波及効果で対照物も同じになってしまったから
でもってどれぐらい波動波及効果があるについてですが、

この野田スポーツ公園の結果を見ると、EMの波動効果は25〜30M以上に及ぶものと考えてよく

だそうです。実は「EMによる波動効果(その2)」もあるのですが、興味のある方はリンク先をお読み下さい。私は少々疲れました。最後に私の感想です。

そして 私は蝶になり
夢の中へ 飛んでゆくわ

とんで とんで とんで とんで とんで
とんで とんで とんで とんで
まわって まわって まわって まわる

いい歌でしたねぇ。越冬つばめも好きです。