報道と森口氏

日本報道検証機関と言うところが探し出してくれた森口氏関連の記事のうち、

これを名乗って発言された該当記事一覧が掲載されています。ちょっとまとめてみます。

No. 読売 タブ 日経
1. PASS 2009年7月9日付朝刊22面 iPS細胞:肝がん細胞から作成 ハーバード大の研究チーム成功 2009年7月9日付朝刊34面 『がん幹細胞』からiPS細胞 米大など成功 新治療法の開発も
2. 2009年9月2日付朝刊2面 肝臓のがん細胞9割が正常に戻る マウス実験で成功/ハーバード大 2009年9月2日付朝刊3面 肝がん細胞:大半を正常化 ハーバード大チーム、マウスで成功 2009年9月7日付朝刊13面 肝がん細胞、正常に 米ハーバード大 遺伝子など用い
3. 2009年11月8日付朝刊17面 [iPSどこへ行く](下)研究体制の差 戦略無く周回遅れに PASS PASS
4. 2009年11月29日付大阪版朝刊2面 米の手法より「がん化」少なく 山中iPS「安全」で軍配 ハーバード大研究 PASS PASS
5. 2010年2月24日付朝刊2面 肝臓がん細胞からiPS作製 米大の日本人研究員 2010年2月24日付朝刊29面 iPS細胞:薬品投与で作成成功 遺伝子やウイルス使わず−米ハーバード大チーム 2010年2月24日付朝刊42面 「iPS細胞 化学物質だけで作製 米大、発がんリスク減も
6. 2010年5月1日付東京版朝刊2面 iPS細胞を使って C型肝炎治療法発見」、同日付大阪版朝刊2面「iPS活用 初の創薬 C型肝炎 副作用少なく 東京医科歯科大など成功 PASS PASS
7. PASS 2012年2月22日付大阪版朝刊6面 肝臓がん:治療薬に「+糖尿病薬」で効果向上 ハーバード大チームが確認 PASS
8. 2012年7月28日付朝刊 卵巣の一部 凍結保存→4年後妊娠 米大学など成功 2012年8月4日付朝刊27面 卵巣凍結:がん治療後妊娠 2年後目標に「実用化」 東大・ハーバード大が開発 PASS
9. 2012年10月付朝刊1面 iPS心筋移植初の臨床医適用 ハーバード大日本人研究者 PASS PASS


ここでもう一度確認しておきますが、森口氏は1999年11月から2001年1月初旬までは「ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院客員研究員」であったとはハーバードも確認していますが、以後はまったく無関係と公式に表明しています。この記事でもっと古い2009.7.9時点ではハーバードとは研究員どころか無縁の存在です。

この2009年以前の森口氏とメディアの関係は不明ですが、2009年7月からでも計9本のネタに登場しています。一昨日はNo.9とNo.3は掘り起こせましたが、他はどうであろうです。なにぶん古いのも多いので探せるだけ探してみます。


No.1のエピソード関連

同じ記事をなかなか探せ出せなかったのですが、まず関連記事が見つかりました。2009.12.19付タブで、

科学誌「サイエンス」が19日号で発表する今年の「科学的進歩ベスト10」で、山中伸弥・京都大教授が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)に基づく「細胞の再プログラミング(初期化)」が1位に選ばれた。

 具体的には米ハーバード大が成功した「難病患者細胞からのiPS細胞作成」。同大のチームは、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)、1型糖尿病などの患者の細胞をiPS細胞にした。

日付からして1年の総集編的な内容ですが、7月時点でハーバード大が難病患者からのiPS細胞の作成に成功した事実です。ここで問題は肝がん細胞からの実験を行っていたかです。2008.9.1付再生医療が描く未来にはハーバードの実験を詳しく解説されています。正直なところ読んでも頭痛がする専門レベルなのですが、この時には10種類の難病に実験を行ったとなっています。

Daleyらは、アデノシンデアミナーゼ欠損による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)、Shwachman-Bodian-Diamond症候群(SBDS)、3型ゴーシェ病(GD)、Duchenne型筋ジストロフィーDMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、若年性1型糖尿病(JDM)、ダウン症/21番染色体トリソミー(DS)、レッシュ・ナイハン症候群(キャリアの状態)(LNSc)の10種類の難病患者からのiPS細胞樹立を試みました。

2009年12月の時点でサイエンスが評価した「難病患者細胞からのiPS細胞作成」の難病の中には肝がんは入っていないと見れます。では肝がん細胞からiPS細胞は実際に作れるかです。これは私の知見では不明ですが、やっとこさ元記事を見つけました。

タブ 日経
iPS細胞:肝がん細胞から作成 ハーバード大の研究チーム成功 『がん幹細胞』からiPS細胞 米大など成功 新治療法の開発も
人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、肝臓がんの細胞から作ることに森口尚史・米ハーバード大研究員らが世界で初めて成功した。

できたiPS細胞から正常な肝臓の細胞も初めて作成した。

iPS細胞はさまざまな細胞になるが、その過程でがん化するのが課題になっている。

研究チームは得られた細胞の分析から、がん化を防ぐ遺伝子の働きを解明したといい、再生医療の実現に向けた一歩になると注目される。
ハーバード大の森口尚史研究員と東京医科歯科大などは、がん細胞を作り続ける「がん幹細胞」を使って新型万能細胞(iPS細胞)を作り、これを正常な細胞に変化させることに成功した。新療法につながる成果で8日からスペインで始まった国際幹細胞研究学会で9日発表する。

がん幹細胞はがん細胞のうち、自己複製しながらがん細胞を作り続ける少数の細胞。抗がん剤が効きにくくがんの再発原因とみられている。


例の心臓移植記事で何故に肝癌治療のために取り出した肝臓癌を含む肝細胞から「わざわざ」iPS細胞を作成したのか疑問でしたが、森口氏のiPS細胞作成手法は肝癌細胞から作ることが必要であった事がわかります。


No.2のエピソード関連

当時の読売記事がなんとか見つかりました。

これも額面通りなら凄い研究です。推測を入れますが、7月時点で肝臓癌細胞からiPS細胞を作成する技術をさらに応用しているものと考えられます。肝臓癌に対して行った治療として、

  1. がん細胞の7割近くを正常な細胞に変えられる2種類の化学物質を発見
  2. がん細胞の一部を正常な細胞に変える能力を持つ遺伝子とともに
これらを肝臓癌由来のiPS細胞に組み込んで注入したら著効を示した「らしい」事を伝えています。しっかし「がん細胞の7割近くを正常な細胞に変えられる2種類の化学物質」の発見だけでも偉大な成果と思うのですが、詳細については確認できていません。これについてはタブも日経も掲載しています。


No.3のエピソード関連

これは昨日もやったので簡単にしておきますが、上記2つのエピソードを踏まえた上で、「オレは山中並、いやそれ以上のレベルで研究をやっている」ぐらいの有識者コメントと解釈できます。


No.4のエピソード関連

記事が見つかりました

山中iPS「安全」で軍配、米の手法よりがん化少なく…ハーバード大研究

 山中伸弥・京都大教授らによるヒトiPS細胞(新型万能細胞)の作製技術は、米国で開発された方法よりもiPS細胞ががん化しにくいことが米ハーバード大の研究でわかった。近く米国肝臓学会誌で発表する。山中教授の技術は今月、国内特許が成立し、実用化に向けて弾みがつきそうだ。

 従来は、3月に米ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らが発表した、染色体に入り込まない方法で、7種類の遺伝子を細胞に入れる方法がより安全とみられていた。山中教授の方法は染色体に3種類の遺伝子を挿入するため、染色体を傷つけたり、遺伝子が残ったりして、がんになりやすいと指摘されていた。

 iPS細胞は、そのまま移植すると、様々な細胞に変わる能力を持つ証拠として、細胞が混ざった奇形腫(しゅ)を形成する。

 ハーバード大の森口尚史研究員はヒトiPS細胞をマウスに移植。奇形腫の悪性度を示す血管密度を測定した。

 山中教授の方法によるiPS細胞13個からできた奇形腫はすべて良性だったが、トムソン教授の方法による4個のiPS細胞のうち2個からできた奇形腫は、血管密度が約2倍高かった。

(2009年11月29日 読売新聞)

ここでの森口氏の活躍は

     ハーバード大の森口尚史研究員はヒトiPS細胞をマウスに移植。奇形腫の悪性度を示す血管密度を測定した。

     山中教授の方法によるiPS細胞13個からできた奇形腫はすべて良性だったが、トムソン教授の方法による4個のiPS細胞のうち2個からできた奇形腫は、血管密度が約2倍高かった。
ここでは森口氏がハーバードで山中教授の手法の検証の主体的研究者のような扱いになっています。記事の構成からすると、前半部は山中教授の業績を伝えていますが、後半部はその功績について読売記者が「ハーバード研究員」であり、同じiPS細胞の権威である森口氏に問い合わせたんじゃないかの形跡も考えられます。


No.5のエピソード関連

3社の記事を表にしておきます。

読売 タブ 日経
肝臓がん細胞からiPS作製 米大の日本人研究員ら iPS細胞:薬品投与で作成成功 遺伝子やウイルス使わず−−米ハーバード大チーム iPS細胞、化学物質だけで作製 米大、発がんリスク減も
  肝臓がんの細胞に低分子化合物を加えるだけで、人間のiPS細胞(新型万能細胞)を作り出すことに成功したと、米ハーバード大の森口尚史研究員らが23日、東京で開かれた国際会議で発表した。遺伝子操作を伴わない安全なiPS細胞の作製につながる方法で、再生医療の実現に向けた一歩として注目されそうだ。

 山中伸弥・京都大教授が開発したiPS細胞の作製方法は、皮膚細胞などに3〜4種類の遺伝子を導入する。この方法では細胞の染色体が傷ついたり、発がん性のある導入遺伝子が細胞内に残留したりし、がん化しやすいのが課題だった。

森口さんらは、肝臓がんの細胞では元々、必要な遺伝子が過剰に働いていることに着目。化合物や抗がん剤で遺伝子の働きを10分の1〜3分の1に抑えて正常な肝臓細胞に近い状態にした後、遺伝子の働きを少し元に戻すとiPS細胞ができた。がん細胞は染色体の数などに異常があるが、作られたiPS細胞は正常で、肝臓や腸管、筋肉などの細胞に変化させることができた。
 遺伝子やウイルスを使わずに医薬品を投与して、がん細胞のもとからヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ることに、米ハーバード大の森口尚史研究員らが成功した。医薬品の投与のみで作成したのは初めて。ウイルスが細胞内にある遺伝子を傷つけるなどの弊害を回避できる可能性がある。23日、東京都で開催中の国際会議で発表した。また、大学は特許出願の手続きを始めた。

 iPS細胞はさまざまな細胞になるが、がん化が課題になっている。チームはその仕組みを探る一環で、肝がん細胞の元である「肝がん幹細胞」に、2種類の抗がん剤の新薬候補物質を加えたところ、2日後にはほぼ正常な肝細胞に変化することに気付いた。

 また、この肝細胞に、山中伸弥・京都大教授が発見した遺伝子の働きを活性化させる別の抗がん剤4種類を4日間投与すると、2週間後にiPS細胞ができることを発見した。

 元の肝がん幹細胞は多くの染色体に異常があったが、iPS細胞になるとすべて正常化し、iPS細胞と同じように分化することも確かめた。肝がん幹細胞を肝細胞に戻した方法を応用すると、新しいがん治療薬の開発につながる可能性があるという。

 遺伝子などを使わないヒトiPS細胞作成法としては、米国の別チームが、山中教授が発見した遺伝子が作るたんぱく質を体外で作り、細胞内に入れる方法で報告している。
 米ハーバード大学の森口尚史研究員らはヒトの細胞に化学物質だけを入れることで新型万能細胞(iPS細胞)を作ることに成功した。京都大学山中伸弥教授らのiPS細胞は特定の遺伝子を必要とするので、がん化する場合があった。化学物質だけなら発がんリスクが小さくなる可能性があり、iPS細胞の安全性向上につながりそうだ。



これは読まれれば判るように2009年7月の2009年9月のエピソードの延長線上であるものが確認できます。ここまでの森口氏の業績を少しまとめておくと、

  1. 山中教授とは別の手法で肝臓癌細胞から安全性の高いiPS細胞の作成に成功した
  2. 臨床応用としてマウスの肝臓癌に対する画期的な治療法を開発した
日本に山中教授がいれば、ハーバードには森口氏ありと言う感じでしょうか。


No.6のエピソード関連

これも記事が見つかりました。

読売東京朝刊 読売大阪朝刊
iPSでC型肝炎治療法発見、副作用検査に活用 iPS活用 初の創薬C型肝炎 副作用少なく 東京医科歯科大など成功
 ヒトのiPS細胞(新型万能細胞)などを使って、C型肝炎を治療する効果的で副作用も少ない薬の組み合わせを見つけ出すことに、森口尚史・米ハーバード大学研究員らと東京医科歯科大学のグループが成功した。

 ヒトiPS細胞を創薬研究に活用した初のケースとして注目される。成果は米国肝臓病学会誌で発表した。

 難治性C型肝炎の治療ではインターフェロンリバビリンの同時投与が一般的だが、インターフェロンには発熱やうつ症状、リバビリンには重い貧血などの副作用があった。

 森口研究員らは既存の治療薬など10種類から2〜3種類を選択。C型肝炎ウイルスに感染した肝臓の培養細胞に同時投与して薬の効果を調べる一方、ヒトiPS細胞から作った心筋や肝臓の細胞にも同様に加えて薬の副作用を調べた。

 その結果、量を4分の1に減らしたインターフェロンと、高脂血症治療薬、臨床試験中の肝がんの新薬の計3種類を組み合わせて使うと、ウイルスは10%以下まで急減。iPS細胞由来の心筋の拍動や肝臓細胞へのダメージも少なかった。C型肝炎ウイルスが感染するのはヒトとチンパンジーだけなので、動物実験による研究が難しかった。
ヒトのiPS細胞(新型万能細胞)などを使って、C型肝炎を治療する効果的で副作用も少ない薬の組み合わせを見つけ出すことに、森口尚史・米ハーバード大学研究員らと東京医科歯科大のグループが成功した。ヒトiPS細胞を創薬研究に活用した初のケースとして注目される。米国肝臓病学会誌で発表された。



難治性C型肝炎の治療はインターフェロンと抗ウイルス薬リバビリンの同時投与が一般的だが、インターフェロンには発熱やうつ症状、リバビリンには重い貧血などの副作用があった。

森口研究員らは既存の治療薬など10種類から2〜3種類を選択。C型肝炎ウイルスに感染した肝臓の培養細胞に同時投与して薬の効果を調べる一方、ヒトiPS細胞から作った心筋や肝臓の細胞にも同様に加えて薬の副作用を調べた。

その結果、量を4分の1に減らしたインターフェロンと、高脂血症治療薬、臨床試験中の肝がんの新薬の計3種類を組み合わせて使うと、ウイルスは10%以下まで急減。iPS細胞由来の心筋の拍動や肝臓細胞へのダメージも少なかった。C型肝炎ウイルスが感染するのはヒトとチンパンジーだけなので、動物実験による研究が難しかった。


2010年5月の記事ですが、この記事の特徴はハーバードではなく日本が舞台になっている事です。ハーバードの研究員と言っても謂わば”one of them"で「あのハーバードならそれぐらいやっているかもしれない」があります。しかし舞台が日本となると、かなり狭くて近いネットワークになります。この件については、2012.10.12付産経が簡潔に伝えています。

 人工多能性幹細胞(iPS細胞)の臨床応用問題で、東京医科歯科大学は12日記者会見し、森口尚史氏と同大がiPS細胞を使ってC型肝炎の治療法を見つけたとする読売新聞の平成22年の記事について、「このような実験及び研究が行われた事実はない」と発表した。

 この記事は、同年5月1日付朝刊(大阪版)の「iPS活用 初の創薬」という記事。ヒトのiPS細胞などを使って、C型肝炎を治療する効果的で副作用も少ない薬の組み合わせを見つけ出すことに、森口氏と同大が成功したと伝えた。

つまりは公式に事実無根と確認されたたです。


No.7のエピソード関連

これもありました。

肝臓がん治療薬に「+糖尿病薬」で効果向上 ハーバード大チームが確認

 効かないケースが多い肝臓がんの治療薬に糖尿病の治療薬を加えたところ、がん細胞を死滅させる効果が向上することを、森口尚史・米ハーバード大客員講師(幹細胞医学)らのチームが突き止めた。併用によって異常細胞が死滅するアポトーシス機能が復活した。肝臓がんは切除しても再発しやすく、手術後の効果的な治療薬になる可能性が期待されている。21日付の英科学誌ネイチャーの姉妹誌サイエンス・リポーツ(電子版)で発表した。

 肝臓がん再発予防薬「非環式レチノイド」(ACR)は効き目が表れない患者が多く、国内では未承認。チームは、米国人患者10人のがん細胞を調べたところ、ACRが効きにくい6人の細胞で、共通の酵素が大量に発生するのを確認した。

 この酵素がACRの効き目に影響しているとみて、酵素の生産を抑える薬剤を検討。糖尿病の合併症治療薬「ゾポルレスタット」をACRと合わせて6人のがん細胞にかけたところ、3日目までに正常な細胞に近い状態になってアポトーシス機能を取り戻し、6日目までに全て死滅した。ACRはがん細胞から排出されやすく、排出を促進する酵素を糖尿病治療薬が抑制したと結論づけた。

 チームは今後、米国内で臨床研究を実施する。森口客員講師は「正常な細胞に影響を与えず、がん細胞のみを死滅することができる。大腸など他のがんでも調べたい」と話している。

これが有効であるかどうか御存知の方は情報下さい。


No.8のエピソード関連

記事を出します。

読売 タブ
卵巣の一部 凍結保存→4年後妊娠 米大学など成功 卵巣凍結:がん治療後妊娠 2年後目標に「実用化」 東大・ハーバード大が開発
女性がん患者の卵巣の一部を凍結保存して、がん治療の約4年後に解凍し、体外受精によって女性が妊娠することに、米ハーバード大学などが成功した。

不妊になるおそれがある治療を受ける女性患者への応用が、期待される成果。科学誌ネイチャー・プロトコルズなどに28日発表した。

がん治療では、抗がん剤投与などの副作用で女性患者が不妊になることがある。卵巣全体を凍結保存し治療後に移植する手法は、 がん細胞が混ざっている危険性がある。卵巣の一部や卵子の従来の凍結保存は、妊娠しにくいなどの問題がある。

同大の森口尚史客員講師らは、子宮頸 ( けい ) がんの 女性患者から卵巣の一部の「皮質 ( ひしつ)」を採取。 新開発した冷却装置を用いて、氷点下5度になっても水が氷に変わらない「過冷却」という状態で20分間おいた。その後、同140度まで冷やした状態にして保存した。

抗がん剤で女性が治ったことが確認された約4年後、卵巣皮質から卵子のもとを取り出し、女性の卵管へ移植。卵子に成長した後に取り出し、夫の精子との体外受精を経て女性は妊娠した。

今回と従来の凍結方法で、卵子のもとの遺伝子の働き具合を比べた。従来法は特定の九つの遺伝子の働きが低下したが、新手法は活発に働いており保存前とほぼ同じだった。
 卵巣の一部を凍結保存し、不妊治療に生かす新しい手法を、東京大と米ハーバード大のチームが開発した。

食品の冷凍保存などに普及している「過冷却」を応用し、細胞を安全に凍結できるのが特徴で、がん患者が薬や放射線治療による不妊のリスクを回避し、治療後の生殖補助医療を受けやすくなるという。

チームは2年後を目標に日本の大学病院などで、この方法が利用できるよう体制を整える計画だ。

 ハーバード大の森口尚史客員講師(幹細胞医学)らは08年、子宮頸(けい)がんと診断された20代後半の米国人で治療前に腹腔(ふくくう)鏡手術を実施し、卵巣の表面を1センチ角の大きさで40枚分切り取った。がんの治療後、凍結保存しておいた一部を解凍し、卵母細胞(卵子のもと)70個を採取。このうち5個を女性の卵管内で24週間育てたところ、成熟した卵子5個を得た。女性はこの卵子体外受精に成功し、現在妊娠中だという。

 がん患者が治療後の妊娠・出産を希望する場合、既婚女性なら夫婦の受精卵を凍結保存しておけるが、未婚の場合は卵子か卵巣組織を凍結するしかない。だがこれらは凍結に弱いうえ、卵子は採卵の負担が大きく、卵巣組織の場合はまぎれ込んだがん細胞が移植後に再発する可能性を否定できなかった。


 過冷却は野菜などを凍結するのに広く使われ、卵巣組織を健全に冷凍できる。

 健全な卵母細胞を選んで体内に戻すので、がん再発の心配もないという。


これもこういう実験が実際に行われていたかどうかについては情報下さい。ただし森口氏がハーバード側のリーダーとして活躍していた事はありえないとさせて頂いてもう宜しいかと存じます。


2009年以前

一つだけ見つけました。2006.02.28読売東京夕刊(22頁)より、

抗がん剤イレッサ 延命効果、遺伝子が決定 東大助教授「無駄な投与回避も」

 副作用が問題となっている肺がん治療薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)が効くかどうかを決める遺伝子の変異を森口尚史・東大先端科学技術研究センター助教授らがほぼ特定した。延命効果を期待できる患者は、この遺伝子変異がある人か、非喫煙者に絞られるという。無駄な投薬の回避につながる可能性がある。英医学誌「ランセット」に発表した。

 同センターとソウル大医学部、東京医科歯科大の共同研究で、対象患者は、韓国人、中国人、台湾人計135人。腺がんなどの非小細胞肺がんの進行期にあって、他の薬物療法で効果が得られずにイレッサを使った患者を抽出し、個々のデータを詳しく分析した。

 注目したのは、細胞の増殖などを制御するL858Rと呼ばれるたんぱく質の遺伝子の変異。この変異がある患者の平均生存期間は22か月で、変異がない患者の9・3か月と比べて1年以上の延命効果が確認された。非喫煙者の場合は平均生存期間は24・3か月で、喫煙者の7・4か月より3倍以上長かった。

 森口助教授によると、L858Rの変異は、喫煙者にはほとんどみられない。喫煙歴のある非小細胞肺がんの患者に過剰に現れるAKR1B10という分子が遺伝子変異を抑え、イレッサの効果を激減させている可能性もあるという。

この記事自体はランセットに投稿採用されているようですし、ある程度東京大学先端科学技術研究センターの「本業」としても矛盾はないと考えています。つうか元はこれが本業ではないかと思わせる内容です。


幻のハーバード森口研究室

研究者と言うのは地味なものです。ほんの一握りの日の当たる者以外は非常に地味です。地味とは活躍以前に身分が不安定であり、給与が安いです。真に才能があり時運に恵まれた者は、これを逆手にとって、それこそ世界の檜舞台に飛び出しますが、その次のクラスになると科研費の配分に一喜一憂し、さらのその下になると配分された科研費で自分が来年も雇われるだろうかを真剣に心配する世界になります。

森口氏もそういう日の当たらない研究者であっただろうとは十分に推測されます。そこに何かの拍子でマスコミとコネが出来たです。これが2006年の読売記事であるかどうかは不明ですが、とにかく何かの取材のついででもコネが出来たです。こういう有識者へのコネはマスコミ側も大事にしており、拾えるものは可能な限り拾っておく方針はあるそうです。そういう点で森口氏は東大の金看板を背負っており、マスコミ側にしても使いやすいタイプです。

でもって憶測なんですが、マスコミに自分の経歴を説明したとは思います。マスコミも有識者を紹介する時の基礎データとして必要なものです。森口氏がハーバードの附属病院の一つに短期ですが客員研究員として見学に行っていたのは事実です。言い様によっては短期留学と出来ない事もありませんが、それだけでは自分の肩書きの売り物にするのにチト寂しいと思ったような気がします。そこで出そうなのが、

    元は短期の予定だったんだが、向こうに是非にと頼まれて・・・
ちょっと話を膨らませたです。この辺は話術もあり、記者はすっかり信じ込んでしまったです。一般記者程度なら捻るぐらいの専門知識もあるでしょうし、ハーバードも2ヵ月足らずですが実際に行っていた訳ですから、リアリティのありそうなお話を紡ぐ事は可能と思います。森口氏にしても、ある程度はその場限りの話にするつもりだったかもしれませんが、これがしっかりマスコミにインプットされてしまったです。

マスコミ価値的には東大の研究員とか特任助教授よりも「ハーバード研究員」の方が高いぐらいでしょうか。そのため有識者のコメンテーターとしてハーバード研究員の肩書きを重視されていったです。ハーバードに確認すれば良いようなものですが、ある時点まではとにかくハーバードの有識者が手頃にいるで満足しきってしまったです。


この自称ハーバード研究員が次のステップに進んでしまったのは、記者からの、

    ハーバードで何を研究しているか
これも最初は「今は○○博士の下で・・・」ぐらいでお茶を濁していたんじゃないかと思いますが、お茶を濁しきれなくなってヒョイと選んだのがiPS細胞です。当初はES細胞(iPSとESの違いについては省略します)とも呼ばれていましたが、今に至るホットな研究テーマです。たぶん選んだのは記者でも「最先端だ!」と思わせる効果があり、当時のES細胞研究は倫理の問題もあり日本でそんなに進むとは思わなかったのもあるかもしれません。

ところが山中教授が猛烈な勢いで伸びてきます。山中教授の研究がメジャーになるにつれて、ハーバード研究員の森口氏への取材が増えるになったと思われます。そうなればiPS細胞関連の知識を本気で導入する必要があります。自分の嘘がばれないようにするには、そうするしかなくなります。結局のところ今さら、実は嘘でしたは言えない状況に追い込まれたです。

まあ、記者に最先端のiPS細胞研究を行っているハーバード研究員と信じられている立場が心地よく、捨てがたかったんじゃないかとも推測します。バレれば今度はなんとかしがみついている東大研究員の地位も危なくなるです。


これが飛躍と言うか突き抜けてしまったのが2009年ではなかろうかは記事内容から推測できます。森口氏は自らを山中教授のライバルに仕立て、ハーバードに幻の森口研究室を作り上げてしまったと考えます。ある種の妄想ですが、妄想は確固たるものになると本人の自覚として間違いなく存在するものになります。またその妄想は巧みに現実世界とマッチさせるようになります。

2009年からの一連の記事を読んで判るのは、一般記者レベルが信じるに足りるほど整然としている事です。もう一度追いかけておくと、

  1. 山中教授とは別の手法で、肝癌細胞からより安全性の高いiPS細胞を作る手法を確立した
  2. その肝癌細胞から作り出したiPS細胞を使った実験でマウスの肝癌に驚異的な治療効果をあげた
  3. さらにC型肝炎治療に効果をあげた
  4. iPS細胞に糖尿病薬を組み合わせるとさらに肝癌治療の効果があがった
  5. 心臓への人体移植が成功した
研究の発展として無理なく連続して広がっています(そうはうまく進めものかの批判はともかく)。iPS細胞の応用範囲がなぜに肝臓関連ばかりなのかとも言われそうですが、それこそ「今の研究テーマだ」とされれば、発端は肝癌細胞からのiPS細胞作成ですから、なんとなく納得してしまうです。

実は心臓移植の前に新ネタを導入しています。卵細胞の凍結復活技術です。これはiPS細胞と一見関係がなさそうですが、前にも紹介しましたがモトネタは2011年の、

この技術に関しましては既存のものであるそうで、この論文自体はそれなりに真っ当だとされています。ただまとめにかえてに

 今後は特にヒトの細胞・組織・臓器ごとに最適な冷却条件および解凍条件の解明を更に進め、磁場下過冷却凍結装置の臨床応用を実現すべく、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し的研究)を実施する予定である。

この橋渡し的研究を担ったのが幻のハーバード森口研究室です。人間の卵細胞の話になったのは、これもまとめにかえてにありますが、

ラットの卵巣やラットの各種組織あるいはヒトiPS細胞の磁場下過冷却凍結実験から、変動磁場の過冷却に対する有効性が示唆された。

ラットの卵巣を実験で取り扱ったための見ます。幻のハーバード森口研究室は人体での成功を2012年に発表している事になります。かくして森口氏にはiPS細胞と過冷却の2つの技術を獲得した事になり、これが心臓移植に結実します。問題の記事構成を読み直してみると、

事柄 解説
肝癌患者である 森口法のiPS細胞作成に肝癌細胞が必要
肝移植患者である
肝移植後に心臓病変 移植手術からiPS細胞心臓移植までの時間が発生
特殊な冷却装置 肝癌細胞を保存する森口法の冷凍保存技術


これまでの幻のハーバード森口研究室の成果が綺麗に網羅されています。専門家が読めばそれなりに矛盾点はあるでしょうが、一般記者なら山中教授に匹敵するような大研究者であると錯覚してもおかしくありません。キチンと年数をあけて並べていますから、話の展開に違和感をあんまり感じなかったんじゃないかです。


一部情報では幻のハーバード森口研究室による研究成果・臨床成果は森口氏自身がマスコミに売り込んでいたとされます。今回の心臓移植も幻のハーバード森口研究室による臨床成果です。これもわざわざ山中教授がノーベル賞を取った直後にやる杜撰さを私も指摘しましたが、森口氏の幻想の中では山中教授如きにノーベル賞は無理であり、相応しいのはオレ以外にないであった気もしています。

心臓移植の話もノーベル賞の前に売り込みがあったとされます。森口氏が計算外であったのは山中教授が本当に受賞してしまった点でしょう。山中氏の受賞さえなければ、私だって「アメリカはやるなぁ」ぐらいの感想を持っていたであろうと白状しておきます。山中教授が受賞してしまったが故に一面記事を飾る羽目になり、一面を飾ったが故に「ちょっと待った」になったわけです。

山中教授の受賞さえなければ掲載されても科学記事の小さな特集ぐらいの扱いであった可能性はあり、その程度なら従来通り「誰もが見逃していた」可能性は高いと思っています。森口氏も誤報に長年気が付かなかったマスコミを積極的に擁護する気はサラサラありませんが、身許確認と言う基本の重要さを改めて感じました。

よくある詐欺話の常套手段は、自分の身許を確認させずに相手を信用させてしまうのがあります。そのために舞台設定とか、もっともらしい書類をデッチあげて、後は巧みな話術で相手を騙してしまうです。考え様によっては2009年から5年ぐらいマスコミも、医療関係者も、世間も騙していたのですから、かなりの手腕があったのだけは間違いありません。

ただし本当の詐欺師ではないと考えています。本当の詐欺師であれば、詐欺芝居は商売のための手段であり、目的は金品を騙し取る事です。騙し取れば後はドロンです。森口氏の場合は手段が目的化した状態のように思えてなりません。そこまでやったのは・・・メディアのスポットライトを浴びる魔力でしょうか。電波芸者の特殊な類型なのかもしれません。