10/1付朝日記事は有料部分が読めないので、10/2付杉本忠嗣(朝陽薬局)のジオログより、
こちらに全文が掲載されていますので参考にしてください。一部引用しますが、東京都心の歓楽街にある大衆酒場。名物の豚レバ刺しを目当てに連日、大勢の客が訪れる。店主によると、7月1日に牛レバ刺しが禁止された前後から注文が増えたという。豚レバ刺しを出すのは「モツ焼き」「焼きとん」と呼ばれるホルモン焼きの店が多い。一部の店は、牛レバ刺し禁止を機に豚に切り替えた。
東京や大阪には、豚肉の刺し身を食べられる店もある。豚肉料理がメーンの大阪市内の居酒屋は、豚ユッケが看板メニューだ。
記者が店に足を運んだり、店のホームページなどで調べたりしたところ、豚の生食料理を出す店は少なくとも都内で70軒、全国で計100軒を超えると見られる。「刺し身で食べられる豚肉」を通信販売する業者もある。
牛肉のユッケ・レバ刺し規制の反動でしょうか。しかし牛がダメなら豚とはつくづく発想が空恐ろしいと思います。
朝日記事にも、
08年には東京都内のもつ鍋店で、表面を軽くあぶった豚レバーを食べた客4人が、下痢や発熱などの症状を起こした。カンピロバクターによる食中毒と断定された。
こうなっていますが、厚労省の食中毒事件一覧速報に2000年から2011年まで及び2012年8月31日までの速報がまとめられています。このうち「豚」が原因食品に関与しているものを抜き出せば(2012年分にはありませんでした)、
年 | 発生場所 | 原因食品 | 原因物質 | 摂食場所 | 患者数 | 死者数 |
2011 | 大阪府 | 煮豚 | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 5 | 0 |
京都府 | 蒸し豚 | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 11 | 0 | |
滋賀県 | 焼豚(推定) | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 15 | 0 | |
2010 | 岐阜県 | 豚生レバー(2月8日に提供) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 2 | 0 |
大阪府 | 蒸し豚 | 細菌-サルモネラ属菌 | 販売店 | 10 | 0 | |
兵庫県 | 焼き豚 | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 15 | 0 | |
2009 | 東京都 | 親子丼(鶏肉)及び他人丼(豚肉) | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 42 | 0 |
2008 | 神奈川県 | 豚レバ刺し(推定) | その他 | 飲食店 | 15 | 0 |
福岡県 | 焼き豚、餃子 | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 15 | 0 | |
愛知県 | 豚肉の柳川風(9月1日提供)、うの花炒り煮(9月5日提供) | 細菌-サルモネラ属菌 | 学校-給食施設-単独調理場-その他 | 15 | 0 | |
神奈川県 | 豚肉とあさりのトマト煮 | 細菌-ウェルシュ菌 | 事業場-給食施設-事業所等 | 48 | 0 | |
2007 | 東京都 | 味噌ラーメンの具の「豚挽肉炒め」 | 細菌-ぶどう球菌 | 事業場-給食施設-事業所等 | 5 | 0 |
神奈川県 | 総菜(ローストチキン、焼豚スライス) | 細菌-ぶどう球菌 | 製造所 | 8 | 0 | |
愛知県 | 砂肝刺身、どて煮、豚塩カルビ | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 14 | 0 | |
群馬県 | 豚レバ刺し(推定) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 5 | 0 | |
神奈川県 | 豚肉と白菜炒め煮 | 細菌-ウェルシュ菌 | 仕出屋 | 92 | 0 | |
大阪府 | 焼豚(らーめんセット) | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 2 | 0 | |
神奈川県 | 野菜・豆腐・鶏肉・豚肉・卵炒め | ウイルス-ノロウイルス | 学校-給食施設-単独調理場-小学校 | 205 | 0 | |
岐阜県 | 豚しゃぶサラダ | ウイルス-ノロウイルス | 飲食店 | 9 | 0 | |
2006 | なし | |||||
2005 | 神奈川県 | 3月29日夕食の豚肉のオイスター炒め | 細菌-ウェルシュ菌 | 飲食店 | 76 | 0 |
愛知県 | 豚肝臓刺し | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 9 | 0 | |
東京都 | 豚丼 | 細菌-ぶどう球菌 | 学校-その他 | 15 | 0 | |
神奈川県 | 豚肉のいんげん炒め(従業員給食) | 不明 | 事業場-給食施設-事業所等 | 15 | 0 | |
神奈川県 | 豚ひき肉炒め及びきざみねぎ(坦々麺) | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 6 | 0 | |
2004 | 東京都 | 豚キムチ鍋 | 自然毒-植物性自然毒 | 家庭 | 3 | 0 |
国内不明 | 鶏肉、豚肉 | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | その他 | 1 | 0 | |
茨城県 | 焼豚 | 細菌-ウェルシュ菌 | 事業場-給食施設-老人ホーム | 87 | 0 | |
福島県 | キノコ汁及び豚肉とキノコの炒め物 | 自然毒-植物性自然毒 | 家庭 | 4 | 0 | |
静岡県 | 不明(豚ショウガ焼き定食) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 35 | 0 | |
埼玉県 | 豚野菜炒め | 細菌-ウェルシュ菌 | 事業場-寄宿舎 | 25 | 0 | |
2003 | 東京都 | 生卵添え豚焼肉丼 | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 3 | 0 |
宮城県 | 豚レバ刺 | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 1 | 0 | |
福島県 | きのこの和え物、きのこの炒め物、きのこ入り豚汁 | 自然毒-植物性自然毒 | 家庭 | 11 | 0 | |
2002 | 神奈川県 | 飲食店 | 蒸鶏、焼豚 | ウイルス-小型球形ウイルス | 294 | 0 |
和歌山県 | 飲食店 | 豚しょうが焼き弁当 | 細菌-ぶどう球菌 | 14 | 0 | |
2001 | 青森県 | 豚生レバー | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) | 家庭 | 1 | 0 |
2000 | 静岡県 | 焼き豚 | 細菌-ぶどう球菌 | 家庭 | 4 | 0 |
東京都 | 焼豚 | 細菌-ぶどう球菌 | 飲食店 | 3 | 0 | |
高知県 | 病院給食(焼豚等) | 細菌-ぶどう球菌 | 病院-給食施設 | 19 | 0 |
原因食品としてみれば必ずしも豚肉と限らないものも含まれていますし、これ以外の「焼肉」にも含まれているかもしれませんが、とりあえずこれだけあります。朝日の記事に該当しそうなのは患者数15人の神奈川県の事例かもしれませんが、なんとも言えません。微妙に事実関係が違うのですが、違うのならどこのソースなんだろうと思わないこともありません。 それと豚の食中毒の頻度を見て、「牛より格段に少ないから安全」と勘違いはして欲しくないところです。牛は規制されるまでごく普通のメニューとして市販され、広く提供されていましたが、豚は常識として「生では食べない」があり、提供される母数の桁が違う事を老婆心までに添えておきます。
年 | 発生場所 | 原因食品 | 原因物質 | 摂食場所 | 患者数 | 死者数 |
2010 | 岐阜県 | 豚生レバー(2月8日に提供) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 2 | 0 |
2008 | 神奈川県 | 豚レバ刺し(推定) | その他 | 飲食店 | 15 | 0 |
2007 | 群馬県 | 豚レバ刺し(推定) | 細菌-カンピロバクター・ジェジュニ/コリ | 飲食店 | 5 | 0 |
2005 | 愛知県 | 豚肝臓刺し | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 9 | 0 |
2003 | 宮城県 | 豚レバ刺 | 細菌-サルモネラ属菌 | 飲食店 | 1 | 0 |
2001 | 青森県 | 豚生レバー | 細菌-腸管出血性大腸菌(VT産生) | 家庭 | 1 | 0 |
個人的に注目したいのは6件中5件が飲食店提供であることです。つまりは「プロの店です」と言いたいところで朝日記事です。
厚労省基準審査課は「豚は生食しないのが常識。現時点で規制は考えていない」とする。
あんまり詳しくない分野なのですが、飲食店を経営するには資格が必要です。食品衛生責任者と言うのですが社団法人 食品衛生管理協会発行の公的資格となっています。ここで取得し保健所に届け出るぐらいの理解で良さそうです。基本的に誰でも取得できる資格で、6時間ほどの講義とテスト(1日仕事程度)を受ければ資格がもらえるようです。防火管理士みたいな感じでしょうか。
調理師とか医師なら申請だけでも取得できるそうですが、そんなにハードルの高そうな資格ではなさそうです。まあ、あんまり高くすれば飲食店を経営するのが難しくなるのでそれなりのレベルになっているのかもしれませんが、それでも一通りの講義とテストを行った公的資格です。そういう資格者が、生の牛肉が規制されて使いにくくなったら、
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牛がダメなら豚があるさ♪
牛の生肉の時には業界も抵抗をそれなりに示しましたが、まさか豚の生肉は抵抗しないでしょう。やったらチョット怖い気がします。
これは豚肉ランドのSPF豚と無菌豚の違いからの受け売り知識です。
無菌豚はSPF豚とはまったく異なった豚です。一般的に食肉用としてしいくされている豚は、無菌の飼育環境で育てられているといっても無菌の豚というわけではありません。SPF豚が無菌の飼育環境と殺菌された餌で育つために「無菌豚」として呼ばれたり、SPF豚は無菌豚だから生でも食べられる、などの誤解されていることもあります。無菌豚は「Grrm ftee pig」と呼ばれる豚のことで、「Specific Pathogen Free pig」の略で呼ばれているSPF豚とは違う豚です。食肉用の豚肉で「無菌豚」の記載や表示は混乱や誤解を招くため使用しないほうがいいのではないかとも言われていますが、SPF豚の飼育方法が利用されるようになった当初に「Specific Pathogen Free pig」の意味が適切に消費者に伝わらなかったことで、無菌豚としての認識が広まってしまったのではないかとも考えられます。SPF豚のE型肝炎などが起こる可能性は十分にあると考えたほうが良いと思います。そのため、「Grrm ftee pig」と呼ばれる無菌豚は食肉用の豚ではまず存在しないといえるのではないでしょうか。
SPF豚の「SPF」のフルスペルは「Specific Pathogen Free pig」この「Pathogen」とは病原体のことで、その上に「Specific」がついていますので日本語に訳すと「特定病原菌」ぐらいになります。特定病原菌とは豚がかかりやすい特定の病原菌から隔離されて飼育された豚を指します。そのために豚はより健康体になり、品質も良くなるそうですが、決して無菌ではありません。E型肝炎の感染の可能性も否定できないとしてあります。
このSPF豚とは別に本当の意味の無菌豚も存在しますが、これが食用として流通する事はまずありえないとなっています。ゼロでは無いかもしれませんが、余程のツテがないと食卓に上る事はないぐらいで良いかと思われます。確かに普通の豚よりSPF豚の方が生で食べても相対的に安全性は高いかもしれませんが、手放しで安全と言うわけではありません。
ここで問題はSPF豚を無菌豚と称して販売されている実態があるそうです。もし飲食店などで無菌豚と書かれていれば「ほぼ」そうであると考えたら良いかと考えられます。無邪気に無菌豚と安心していればトンデモナイ目にあう危険性はあると言う事です。
私はたとえ牛でも生獣肉は好みませんからアレですが、世の中にはどうしても獣肉を生を食べたい人がいるのに驚かされます。豚がダメになったら今度は羊になるのかなぁ?その前に鶏が普及しているか・・・美食は時にリスクさえ冒す事はあるのは知っています。ですから食べる人がリスクを十分に承知した上で、一時の美味を自己責任で味わうところまで規制するのは、個人的にはあまり好ましいとは思えません。
自己責任といいながらも、最後まで責任を負う人は滅多にいなくて、医療が尻拭いする点は嬉しくありませんが、個人がやる分はどんなに規制をかけても無駄ですから防ぎようがありません。せめて飲食店だけでもと思うのですが、自主規制どころか看板メニューにするぐらいですから大変な話と思っています。