甲状腺の「しこり」問題

昨日一昨日の広い意味の続きです。まず元もと保健所長様の

ところで、

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http://sankei.jp.msn.com/life/news/120827/trd12082711260006-n1.htm
政府は27日までに、福島県以外の全国3カ所で、18歳以下の4500人を対象に甲状腺超音波検査の実施を決めた。東京電力福島第1原発事故を受け、福島県内の18歳以下の子供を対象に行っている検査では約36%の子供の甲状腺にしこりなどが見つかり、これらが事故による影響かどうかを見極めるためデータを集める。

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ここも先に断っておきます。私はお世辞にも甲状腺疾患については詳しいとは言えませんので、能力不足のところは「優しく」フォローお願いします。この記事は同じような内容のものを他社でも読みましたから事実関係は信憑性が置けるとまず考えます。そいでもって派生していく問題です。


福島調査と全国調査

まず福島で約36%に甲状腺の「しこり」が見つかった訳です。「全国3ヶ所」がどこになるかまでは手を抜いて調べていませんが、結果として2通りの予想が出来ます。

  1. 福島より全国が少ない
  2. 福島と全国の差が無い
ここで福島より多いもありますがあえて省略します。まず福島より全国が少ない場合には、例の福島から全住民を避難させよ派に油を注ぐ事になります。また福島農産物忌避運動にも同様の効果が出ます。やっと見つかった放射能被害の明確な根拠ですから、沈滞気味の運動にパワーが注入される懸念は十分にあります。

ほいじゃ差が無ければ無問題になるかと言えば、少ない時よりはマシかもしれませんが、今度は全国汚染だと騒ぎ出すぐらいの可能性はあります。でもってどっちになりそうな可能性が高いかと言えば、これはBugsy様から、

オイラの後輩に脊椎外科医がいます。ルーチンで頸椎のMRIを撮ると当然甲状腺も写るわけですが、昨年来甲状腺はどうなんだという患者からの問い合わせが明らかに増えたようです。やはり東日本だけかもしれません。

それで昨年から1年 それと一昨年まで数年間を比較すると 偶発的に2−3%甲状腺に触手不可能ですが小さな腺腫が見つかるそうです。サイズも発生率も以前と有意差が無く、この発生率の数字は諸外国と変わりないそうです。症例数は100例余りずつの比較なので信用できる統計データかと思います。
数か月まえに論文を直してやったので 記憶に新しいのです。

これぐらいしか根拠が無いのですが、全国と差が無いが可能性として高そうだの予想は立てられそうです。


見つけた後はどうする?

全国と差が無い事がわかって沈静化すれば良いのですが、沈静しないシチュエーションもあります。トドの詰りの質問は

    『絶対』大丈夫か?
この問への答えが求められるわけです。私如きでは到底責任を持っての回答は出来ません。現状では福島は検診フォローを公費でやっているようですが、福島以外で見つかった子供の場合はどうするです。おそらくですが現時点で福島の「しこり」とその他の地域の「しこり」に差をつけられるような所見はないと考えます。そうなれば福島以外の4500人の36%、1600人ほども比較対照のために発見したからには追跡調査が必要になるとするのが妥当でしょう。

ここまではまだ良いのですが、それだけ甲状腺の「しこり」が見つかれば、国が調査対象にしなかった残りの子供はどうだの問題が出てきます。とくに東日本、首都圏辺りでは懸念する親がそれなりに出てきても不思議ありません。調べれば確率ですからやはり36%で見つかる事は予想されます。こういう物は「見つかった」のニュースを大喜びで拡散するメディアには事欠きませんから全国的に、

    うちの子は大丈夫か?
こう展開する可能性はそれなりにあります。ここで20歳未満の人口は2800万人ぐらいいます。予想は難しいのですが、このうち1%が心配になれば28万人が検査を受け、約8万人ぐらいに甲状腺の「しこり」を発見される事になります。1%が大げさな予想ならその半分でも約4万人です。さてどうするかです。これが政府調査対象者以外は放置で済むかです。

厄介なのは甲状腺の「しこり」がいつ出るか不明な事です。今の時点の検査で無くとも、放射能恐怖は当分続きますから、

    いつ出るかわからない
妙な話ですが、「しこり」が見つかるまで延々と不安から定期検査を行いたい親も出てくると言う事です。そうなればいつまでも五月雨式に「新たな発見者」が続く事態も予想されます。さらに厄介なのは見つかっても絶対大丈夫の結論はすぐには出ないです。でもって問題は同じ所に戻り、
    見つかった「しこり」のフォローをどうするか
この問題でグルグル回るです。それこそ昨日のチラシではありませんが、福島医大でまとめて調査するにも数と地域で無理があります。これも元もと保健所長様の指摘ですが、仮にフォローするならどこで誰が行うかです。結節性甲状腺腫でも病名をつけて診療所クラスでも保険適用でフォローさせるのかです。


別の見方

Pnagashi様からのコメントです。

東日本のホットスポットで勤務してますが、放射能怖いっていって検査しろという受診は今のところ1件もないですねぇ。
どうなんですか実際?と聞かれることはありますが。

あと、春先くらいまでは、1歳半健診、3歳健診で、「外遊びを控えさせている」と言う親が多かったのですが、夏前からほとんどいなくなりました。

ネット上で騒がれるほど、放射能恐怖症の絶対数は多くないんだろうと勝手に思っています。
少数派ほど、声が大きい。

私は神戸に住んでいるので東日本、とくに首都圏の実感的な空気が良く判りません。とりあえず関西は平穏です。なんちゅうても出無精が酷くなってますから、東京どころか京都から東も5年ぐらい行ってません。旅行で行ったところで空気までわかるはずもないのですが、その旅行さえ行っていないです。

ネットではまだまだ反原発過激派の声は大きそうですが、確実に変化しています。もともと感情的な表現が多かったのですが、これが日を追うごとに尖鋭化しているです。自分の主張に支持を集めたい時に、とくに支持者が目減りしている時により刺激の強い表現を使う事は良くあります。それまでの刺激では反応が鈍くなるからです。

この尖鋭化するですが、表現自体の過激化もあるのですが、運動自体の熱気が醒めてくると、熱い時に反応していた表現が相対的に浮いてくるというのもあります。つまり表現自体の過激化と、相対的な浮き彫り現象が二重に起こっている印象です。

もう一つの変化は、反原発過激派の主張への賛同者の特定化に反比例するように穏健派の反論が幅広くなっています。一時とはまったく逆の現象が確実に起こっています。かつては穏健的な意見を主張するだけで袋叩きにされ「御用」のレッテルを貼り付けまくられていたのに、御用戦術が多数派に冷笑されているです。ネットと言っても広大なので一概に言えませんが、私の感覚的に反原発過激派の声は退潮傾向です。

その辺を考えると0.5%試算でも過剰かもしれません。もちろんそれを狙って動く医療機関もあるかもしれませんが、大勢として大きな流れにならないの見方も成立するんじゃないかです。


それはともかく

医師として恥しい質問になるのですが、冒頭の方でも書いたように甲状腺疾患についての知識は貧弱です。日常的に取り扱わない疾患の知識はどうしてもそうなります。一番気になるのは偶発的に発見された甲状腺の「しこり」、とくに小児についての扱いは「どうなんだ」です。現実的には病院に御紹介なんですが、一通りぐらいの説明のための知識ぐらいは必要と言う事です。

発生頻度の大きさからして「ほぼ無問題」であろうぐらいは推測できますが、これではチト甘すぎる感じです。別に放射能の影響でなくとも、そんなものが存在すると言うだけで気色悪い感覚は理解できるからです。そうですねぇ、ホクロと悪性黒色腫の関係ぐらいなのか、もう少し違う感覚のものなのかぐらいでも判れば、とりあえずの説明に必要な知識になりそうと思っています。

教えて君」状態で申し訳ないのですが、宜しくお願いします。