陰謀と陰謀論者について考える

陰謀とは

陰謀とはある目的を達成するために行われる、あまり良からぬ手段を考え実行する事を指すぐらいの理解で宜しいかと存じます。ま、正当な手段を堂々と行使するのなら陰謀など不要です。でもって陰謀が成立したらどうなるかですが、これもおおよそ2つに分けられると考えられ、

  1. 目的達成が陰謀によるものであるのがハッキリする
  2. 陰謀である事すら気が付かない
1.はクーデターなんかが該当すると考えます。2.となると陰謀の存在さえ不明となり、せいぜい目的達成の経過から不自然さを指摘される程度に留まります。2.の場合が「とくに」と思っていますが、手段のあくどさもそうですが、目的の正当性と言うか、達した意味合いが小さいほど陰謀は気にならなくなる程度とも考えています。

さて刑法では2人以上が成立要件になっているようですが、現実にも目指す目的が大きいほど陰謀の関係者と言うか加担者は増えます。大きな目的の陰謀、とくに国家レベルのものとなると加担者は必然的に大きくなります。ただし加担者が多くなるほど陰謀は露見しやすくなります。陰謀とは通常手段では相手を倒せないのが一つの前提ですから、相手に知れると容易に反撃を食らうだけではなく、ものによっては身の破滅に直結します。

この陰謀の露見のしやすさは、加担者の人数だけではなく、陰謀の期間にも関係します。陰謀のための秘密の保持は、加担者が多ければ多いほど、陰謀期間が長ければ長くなるほど困難が強くなるです。

もう少し言えば、国家レベルで長期に陰謀を続けるには、それだけ巨大な組織が必要であり、それだけ巨大な組織であれば、陰にいつまでも潜んでいる必然性が乏しくなるとすれば良いでしょうか。陰謀やっているより表で直接動いた方が本来は目的を達成しやすいからです。つまり陰謀とは、

    短期の目的達成のために用いられる非常手段である
これぐらいにある程度は定義できると思ってます。もっとも陰謀の範囲をどこまで取るかで変わる部分は大であり、取り様によっては、大組織による国家的陰謀が長期に続いていると受け取れる事例もあるとは思いますが、今日のお話はかなり狭く取っているので宜しくお願いします。単に後段につなぐために、これぐらいにしているのもお察し下さい。


別の見方での陰謀の捉え方ですが、陰謀とは多くは失敗に終わったものを指します。成功で終わった陰謀は「陰謀」と呼ばれる事は稀と思っています。それこそクーデターであり、革命であり、維新でありです。そのための作戦が陰謀と呼ばれる事はまずありません。陰謀とは成功の暁には正義の所業になる必要があるです。成功しても邪しまな目的にしかならないものも陰謀としては成立しないとしても良さそうに感じています。

とくに政治的陰謀で著明と思っていますが、陰謀とは失敗すれば破滅のリスクを負う代わりに、成功すれば正義の名に彩られた行為になるメリットがある行動の様な気がしています。


陰謀論者と陰謀を暴く人

陰謀論者とは陰謀を企画する人間ではありません。また陰謀を暴く人にも該当しないとして良いでしょう。陰謀論者とは世の中の事象を陰謀にて説明しようとする論者です。陰謀論者の陰謀論の立て方は、ある事象を陰謀と定義するところから始まります。ある事象が陰謀であると定義されたら、陰謀を成立させている加担者が特定できます。

ここまでは陰謀を暴く人とある意味同じ作業ですが、陰謀を暴く人なら次の作業は本当に陰謀が存在するかどうかの調査になります。本当に陰謀が存在してこそ暴いたになるわけです。状況証拠だけで陰謀であると決め付けるのは誹謗中傷にもなりかねませんし、聞かされる方も与太話の範疇を出ないからです。陰謀が立証できていなければ居酒屋談義の酒の肴ぐらいにはなりますが、真剣な話としては箸にも棒にもかからないです。とくに情報を商売のタネにする人にはそうだと思っています。

ところが陰謀論者は立証を重視しません。立証よりも陰謀論が存在する事が重要になります。立証が出来ない理由もちゃんと用意されていて、

    手強い陰謀組織であり、容易に尻尾を出さない
尻尾すらないのなら陰謀かどうか言えないじゃないかの指摘には、指摘している事象が間違い無く陰謀であると強く強く断言だけはされます。つまりは「オレは知っている」の世界です。殆んどの場合、陰謀論者が既に陰謀と定義しているだけが根拠の事が多いようです。ここらへんをあえてまとめれば、

陰謀を暴く人 陰謀論
対象事象 陰謀の可能性がある 間違い無く陰謀である
陰謀加担者 可能性があれば容疑者である 間違い無く加担者である
その後の行動 証拠を探す 陰謀のPRに努める


こんな感じです。でもって陰謀論者は証拠を集められない釈明のために加担者や陰謀組織を強大な物に仕立てます。政府だとか、官僚組織です。だから証拠の入手は難しいです。ここで「たまたま」船瀬氏の話題を昨日扱ったので例にして見ます。幸いな事に船瀬氏はwikipediaの肩書きに明記されるぐらい立派な「陰謀論者」であられるからです。

船瀬氏は抗がん剤治療(もっと広く薬物療法としても良さそうです)は製薬業界の陰謀とまず定義されています。目的は薬品を多く販売し利潤を得るためです。このための陰謀が繰り広げられているです。壮大な陰謀論です。そうなると陰謀の加担者は、

  • 製薬業界
  • 官僚
  • 医療関係者(とくに医師)
医師だけで18万人ぐらいいるはずですが、非常に大きな規模の陰謀組織になります。これだけの陰謀組織が加担して(ソースは昨日のエントリーで代用させて頂きます)、
    世界一長寿の捏造をした動機は殺人医療や製薬の功績を演出するための根拠です。製薬利権が金を払って厚労省に作らせていただけです。
どうもなんですが上記した3者のうち首謀者は製薬業界としているようです。それに加担しているのが医療界と厚労省と言う構図でしょうか。そうなると製薬業界・医療界・厚労省は共謀しているのですが、この陰謀では加担者が経済的利益の配分に預からないといけません。製薬業界は単純で売上が増えることが利益ですが、医療界はどうでしょうか。

薬価差益なんてものが圧縮され尽くしている保険医療では、どんどん抗がん剤を使ったところで見た目上の売上が増えるだけで、実際の利益にはそれほどつながりません。あえて言えば入院治療を行なう事が利益につながりますが、これもガン患者が発生しない事にはどうしようもありません。ここについて船瀬氏は、

    現代医学を騙るガン治療の正体は虚構の病魔を演出し、獲物を悪化させて資産を根こそぎ収奪するために計画された猛烈な発病作戦です。
なるほど「発病作戦」ですか。ただの「風邪」で受診した患者をガンと診断し、抗がん剤療法を行う事によって本当のガン患者させているぐらいでしょうか。具体的には、
    発ガン物質を医療界は暴利を生み出す荒ましい発ガン性と重篤な後遺症に目を付け、患者を騙して投与し、意図的に発ガン、発病させ、虚構の病魔を演出して甚大な被害を出している事実
ふ〜ん、てなところですが、これに厚労省が加担してどんな利益を得られるかです。ここについての船瀬氏の主張は存じませんが、やはり恒例の「天下り」ぐらいでしょうか。どうにも判り難いところです。


それともし船瀬氏の陰謀論が実在するとすれば製薬業者は大きな利益を手にするかもしれません。ただなんですが、露見すればタダではすみません。大袈裟でもなんでもなく、「露見 = 破滅」としても良いかと存じます。それだけのリスクを延々と背負い続ける陰謀を、行うだけのメリットがあるかと言われれば正直疑問です。加担しているとされる医療界も厚労省も右に同じです。つまり、

    長期に渡る陰謀のリスクに見合うだけのベネフィットがあるか
この問題に帰結します。製薬業界とてそんな危ない橋を渡り続ける理由に乏しそうな気がします。


それと船瀬氏が思うほどこの陰謀に加担する必要がある組織や団体は少なくないと考えられます。たとえば病院の経営は芳しくないのは各種の公式統計で示されています。ここもこれだけの陰謀論であるのなら「裏で儲けている」になる必要性が生じます。さらに病院の経営情報なんて管轄官庁である厚労省が陰謀で「どうにでもする」の主張はあるとは存じます。

厚労省は病院の医療に関しては管轄しているかもしれませんが、医療経営、とくに公立病院の経営情報は総務省にも管轄が及びます。そうなると総務省の加担も必要です。また公立病院を経営しているのは自治体ですから、自治体も加担する必要があります。国立病院なら会計検査院の加担も必要です。さらに「裏で儲けている」となれば国税庁の加担も必要であり、医学教育となれば文部科学省の加担も必要です。

厚労省だけで、総務省自治体、会計検査院国税庁文部科学省を相手に長年に渡って騙し通せるとは私にはとても思えません。カネが絡むとどこもシビアな対応をするからです。これだけの陰謀への加担者が必要であるなら、陰謀によるメリットはそれこそ天文学的な数字でないと割に合わないと素直に思います。露見時のリスクは半端じゃないからです。

それでも天文学的数字のデメリットがあり、ほぼ行政府ぐるみの陰謀が存在すると主張する自由はありますが、よくよく考えずとも、そんなリスキーな陰謀をやり続ける必然性に疑問符がテンコモリ付くと言う事です。この陰謀はエンドレスの陰謀であって、どこかで区切りがつく性質のものではないですからです。



モデル例はこれぐらいにして、陰謀論者にはもう一つ特徴があります。上述した陰謀を暴く人は、その事実を関係者に明かす事が目的になります。判りやすい例で言えば、かつて田中角栄元首相がロッキードにまつわる一種の陰謀を暴かれた時の事でも思い出して頂ければと思います。一方で陰謀論者は自らの陰謀論を支持してくれる人数の拡大が目的になります。

陰謀論者の陰謀論は立証されないのが特徴です。陰謀論としての「面白さ」が生命線で、そのために壮大な陰謀論を打ち出します。これが商売のタネで、本を売ったり、講演会をやったりして稼ぐです。そのための支持者の拡大・確保がビジネスモデルになります。それでも食っていくためのビジネスですから、「とやかく言うな」の意見もあるでしょうが、陰謀論者に陰謀の加担者として定義された業界にとってはかなり迷惑なお話です。