純JBM的な興味

遺憾ですが7/11付タブ紙(Yahoo !版)より。

損賠訴訟:処置を怠った 30代男性が鳥取赤十字病院を提訴 /鳥取

 鳥取赤十字病院鳥取市尚徳町、福島明病院長)で診察を受けた際、担当医が適切な処置を怠ったため、脳梗塞(こうそく)で重い後遺症が残ったとして、鳥取市内の30代男性が同病院を運営する日本赤十字社(東京都港区)と担当医を相手に、慰謝料など約1億1500万円の損害賠償を求める訴訟を鳥取地裁に起こした。提訴は6月26日付。

 訴状によると、男性は2010年4月11日に手のしびれなどを訴え、同病院を受診。CT(コンピューター断層撮影)検査などを受け、担当医は「異常がない」と診断した。翌12日、男性は職場で倒れ、同病院に入院。13日午後にMRI(磁気共鳴画像化装置)撮影を受け、脳梗塞と診断された。男性には失語症などの高次脳機能障害と右片まひの重度の後遺症が残った。

 原告側は、最初からMRIで撮影するなど、適切な処置をしていれば、脳梗塞の発症や後遺症を防げていたと主張している。同病院の原豊事務部長は「裁判の中で(過誤の有無を)客観的に明らかにしたい」と話している。【川瀬慎一朗】

障害が残られた男性の回復を心よりお祈りします。


真面目な考察

患者は30代の男性となっていますが、記事にある経過として、

  1. 4/11(日):「手のしびれなど」を訴え受診。CTで異常なしとされる
  2. 4/12(月):職場で倒れ入院
  3. 4/13(火):MRI脳梗塞の診断を受ける
私は小児科医なので疎漏な点はありますが、まず気になるのは「手のしびれ」以外の「など」の症状はどうであったかです。平たく言えば脳梗塞を疑わせるような他の神経症状があったかどうかです。あったとしてもどの程度であったかです。それと4/11は日曜日ですから当直対応と考えるのが妥当ですが、担当したのはどの診療科の医師であったのだろうです。

次に気になるのは4/12の対応です。入院したのは確認できますが、その日の病院の検査はどうであったのだろうかです。前日にCTを撮影しているのはわかりますが、4/12はどうしていたのだろうです。やはりCTぐらいは撮影した可能性はありますが、その所見ではやはり脳梗塞の診断は出来なかったのでしょうか。それとも前日のCTが異常なしだったので、他の疾患の可能性を考えて治療を行っていたのでしょうか。

4/11、4/12の動きと連動するのですが、記事では4/13のMRIでようやく脳梗塞の診断が出来たとなっています。梗塞部位も気になるところですが、ここはそれ以前のCTでは発見できなかったとして良いのでしょうか。CTも4/11は確実ですが4/12はこの記事では不明です。もちろん4/11から4/12の神経症状がどうなっていたかの情報も欲しいところです。4/12も少なくとも職場には行かれているからです。

もう少し言えば、そういう進行をする脳梗塞を4/11の時点でMRIであっても診断可能なのでしょうか。殆んど「教えて君」状態なのがお恥ずかしい限りなんですが、現時点での分析と言うより感想です。


JBM的な考え方

かなり前になりますが「頭痛にCT」は是か非かの問題を取り上げたことがあります。どこに行ったのか我ながら見つけられないのですが、あの時には昨今の風潮からして「頭痛にCT」にしていかざるを得ないのコメントも少なくなかったと覚えています。これは積極的な意味もありますが、正直なところ防衛医療的な要素も少なくないとしても良いかと存じます。

これも平たく言えば診察時にCTで確認しておけば、その後に脳出血等が見つかったとしても、最低限の釈明は可能みたいな感じです。これについてもCTを撮って見落としがあれば怖いもありますが、撮らずに事が起こるよりはマシみたいな見解です。ここで今回の訴訟の新たなJBM的解釈による問題提起は、

    CTで見つからなくともMRIで見つかるケースはどうなるか
これが一つの焦点になる可能性があります。これも上述したように医学的・医療的には種々の問題点を含むのですが、記事を読む限り原告側はこの問題提起の方向性の争点を持ち出して来るような気配が窺えます。もちろん裁判所の判断はこれからなのですが審理されるのは、鳥取地裁に何か問題があるとしているわけではありません。ただ大阪や東京のように医療集中部があるところと、ないところでは裁判所判断の出方が少々違う傾向があるんじゃないかとも囁かれています。原告側の言い分が認められる可能性(もちろん東京や大阪でもです)も十分ありえるです。


あくまでも仮にですが、そういうJBMが確立すると「頭痛にCT」は時代遅れになります。「手のしびれにMRI」であるなら「頭痛にMRI」は当然でしょう。そうなった時の問題は検査機器としてのCTとMRIの差になるかと存じます。最近の検査機器の進歩には完全について行っていない状態なのですが、それでもCTに較べるとMRIは今でも遥かに時間がかかり、なおかつMRIがある医療機関はより限定されるです。

そうなると脳梗塞なり脳出血を疑わせる患者の受診先は自然に限定されます。24時間365日、いつでも即座にMRIが手軽に撮影できるところです。私も良く存じませんが、そういう医療機関は日本にどれほど存在するのでしょうか。

ここは考えようですが、そういうJBMの拘束が発生すれば多くの二次医療機関の負担はかえって軽くなるかもしれません。MRIが撮れないは受診をお断りする理由に出来るからです。二次医療機関で「いつでもMRI」が可能な医療機関は数少ないと考えられるからです。患者側はお気の毒です。CTでも見つかる可能性があったものの発見は必然的に遅れます。

もっとも逆に作用して「いつでもMRI」体制が築かれる可能性も否定しません。が、今度は医療費の増大を歓迎しない当局サイドがどう反応するかになります。それ以前に「いつでもMRI体制」の構築は医療機関にとっても重い負担になり、救急医療機関のさらなる減少の契機になる可能性も出てきます。訴訟の成り行きはかなり注目されるかと存じます。