海洋エネルギーを活用した大規模発電装置の仕組みの続編です。これは2/28付神戸新聞記事から話題になったもので、前回は様々に考察しましたが、とりあえず神戸新聞の模式図を再掲します。
海の“巨大ダム”で発電 神戸大発案、ネプチューン
海を巨大なダムに見立て、無尽蔵にある海水を利用して水力発電をしようというシステムを神戸大大学院海事科学研究科の西岡俊久教授(現名誉教授)が発案し、世界約130カ国に特許申請した。ローマ神話の海の神にちなみ「ネプチューン」と命名。西岡名誉教授は「莫大な電力をつくれる。二酸化炭素(CO2)も排出せず、究極のクリーンエネルギーだ」としている。
構想では、巨大な船から海底に向けて配管をのばし、海底などに発電機を設置。船で取り込んだ水は重力によって配管の中を落ち、その水流でタービンを回し発電する。
船にある海面の潮流の力を利用する発電機などでポンプを動かし、配管を落ちた水を放出する。
まず注目したいのは、
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世界約130カ国に特許申請した
さてこのシステムの最大の問題点は、海面から海中(共同記事では海底と明記してあります)の高低差を利用して発電するのは良いとして、落ちた水はどうするかです。これを速やかに排水しないと、要の発電システムである、
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船で取り込んだ水は重力によって配管の中を落ち、その水流でタービンを回し発電する。
海水はモーターを使って容器外に排出する
それ以外に手は無いとは言え、モーターを動かす電力はどうするのだです。どんなに効率の良いモーターによる排水メカニズムを作ろうとも、発電量を越える排水量は得られません。ここが第一種永久機関の壁です。この壁について共同記事は、
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船にある海面の潮流の力を利用する発電機などでポンプを動かし、配管を落ちた水を放出する。
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海中発電量 < 排水モーター電力消費量
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超巨大なルーブ・ゴールドバーグ・マシン
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発電量 = 潮流発電量 − 海底システム電力浪費量
・・・・・・前回の時の指摘でもありましたが、これぐらいの事は専門家でなくとも高校物理程度の知識があれば判断できるものです。つまり教授とて「百も承知」のはずです。本気で出来ると考えている可能性は捨てきれない程度に残るとして、やはり知っていてやっているとするのが妥当と考えます。つまりは何らかの意図をもって動いているです。
意図として考えられるのは研究費の獲得です。あからさまには科研費の獲得としても良いかもしれません。研究者が研究を続けるには、いや食っていくためには資金が必要です。そりゃ研究から資金が生まれれば申し分ありませんが、そういう形で循環できる研究分野なら企業が乗り出しています。それ以外の研究で食っていくためには研究費をどこかから持って来なければなりません。
教授が発表している研究テーマは、
- 潮流発電
- 海底発電
ですから何か画期的だと勘違いしてくれる新味を打ち出す必要があります。それが海底発電だと見るのが妥当です。メインの研究は海底発電であり、これに附属して潮流発電の研究もあるスタイルでの資金獲得です。実際に研究が行われれば海底発電の方は言い訳程度に形だけ行なわれ、主力は潮流発電になるぐらいの理解です。
問題はアピール・ポイントである海底発電が、研究資金獲得の前に第一種永久機関に過ぎないと審査側にバレないようにするカモフラージュです。実用化の可能性があると思い込ませる手法とすれば良いでしょうか。だから世界130ヶ国への特許申請が必要だったと見ます。世界には195の国がありますが、特許取得のレベルは間違っても均一ではありません。
言ったら悪いですが、かなり甘いと言うか杜撰な国もあると考えます。そういう国からの特許でも特許に変わりはありません。どれだと具体的に上げませんが、かなり怪しい商品でもセールトークに「世界の○○ヶ国で特許が認められている」てのがあります。教授も海底発電の理論を同様の手法で特許を取ろうとしていると見ます。
つまり本気で実用化可能と考えて特許を取ろうとしているのではなく、研究資金獲得のアピールの箔付け・根拠として取ろうとしているとすれば筋が通ります。
もう一つですが、研究も実用化をある程度本気で考えているものと、研究のための研究があります。妙な言い回しですが、潮流発電が本命であるとしても実用化までには数え切れないぐらいのハードルがあります。海水に対する耐久性、悪天候時の堅牢性の二つだけでも現在の技術でも難関中の難関です。難関をクリアするのも研究ですが、簡単に言うと時間がかかり、その間は延々と研究が続けられるです。
そう考えると潮流発電の電力で海底発電のための排水モーターを動かす計画は巧妙に出来ていまして、潮流発電が完成しないと海底発電は行えない手順になっています。海底発電のための第一段階である潮流発電の完成のために余裕で研究が進めることが出来るです。そして永遠に第一段階の研究を続けるか、第一段階が完成した時点で第二段階の海底発電は「技術的に困難」で断念するという手法が使えます。
もし潮流発電の実用化に成功すれば、それだけで研究成果としては必要にして十分だからです。その頃には海底発電の話なんか忘れ去られています。
あえてネックを言えばネット時代になっているところでしょうか。ネット時代前なら記者と研究資金の審査員を煙に巻けば十分です。現実に神戸新聞記者も共同通信記者も見事に煙に巻かれています。煙に巻かれただけでなくマスコミ記事として「画期的な研究」として報じてくれています。これで審査側にも「マスコミでも話題の画期的研究」のアピールが出来ているわけです。
ところがネットは素直に反応します。賛同の反応もありますが、少し考えれば第一種永久機関である事は簡単に証明されます。これがどう影響するかです。ネット時代前には気にもする必要がなかった反応ですが、ネットの反応は時に巨大な力を発揮します。「時に」が起これば教授の晩年を汚す結果にならないか懸念されます。
たぶんなんですが、研究資金獲得のために、こういう裏と表のある手法は常套手段なのだと思っています。アピールのための「やらない主研究」と本気で取り組む予定の「ついでの研究」のセットです。そうでもしないと研究資金が獲得できない事情があるのだろうです。
研究者の手腕の一つとして、研究成果を上げるのはもちろんですが、研究資金を調達できるのもあるとされます。研究をと言うか研究室を活発化させるには、とにかく資金の流入が必要で、どデカイ研究テーマでの研究資金を流入させるところには人材もまた集まり、結果として研究成果を生み出せるがあります。それを狙っているだけと思うのですが、ネットが反応した影響をどう計算されているかだけが私には気がかりです。
ま、人の噂も75日と踏んでいるんでしょうが・・・。