一般名処方のお勉強

金環食は見れました。たぶん一生の見納めになると思います。今日最大の話題はこれぐらいにして土曜日に引き続いて同じ話題(ネタがないんじゃ!)です。言い訳として、本業にも関ることですから知識だけは確認しておこうという趣旨です。


カルテへの記載

元ライダー様のコメントです。

私はあまり好まないんですが、紙カルテだと約束処方の場合、商品名すら記載しない慣例があります(ありました?)よね。そこから類推すれば、一般名称を紙カルテに書かねばならない決まりは無さそうですが。ロキソニン60mg 1T (ge)とかでも良さそうな。

これは紙カルテ派には重要な問題なのですが、ソースが確認できました。平成24年4月20日付厚生労働省保険局医療課事務連絡「疑義解釈資料の送付について(その2)」から疑義解釈を抜粋します。

処方せん料注6に規定する薬剤の一般的名称を記載する処方せんを交付した場合の加算を算定する場合には、診療録に一般的名称で処方内容を記載する必要があるのか。 必ずしも診療録に一般的名称で処方内容を記載する必要はなく、一般的名称で処方が行われたことの何らかの記録が残ればよい。
カルテには、できるだけ詳しい情報を記載しておくことが望ましいとは思うが、一般名を記載した処方せんを発行した場合に、実際に調剤された薬剤の銘柄等について保険薬局から情報提供があった際に、薬剤の銘柄等を改めてカルテに記載しなければならないのか。 改めてカルテに記載する必要はない。発行した処方せんの内容がカルテに記載されていればよい。
一般名を記載した処方せんを発行した場合に、カルテにはどのような記載が必要か。 医療機関内で一般名又は一般名が把握可能な製品名のいずれかが記載されていればよい。
厚生労働省のホームページでは、一般名処方の記載例として「【般】+一般的名称+剤形+含量」と示されているが、一般名処方に係る処方せんの記載において、この中の【般】という記載は必須であるのか。 「【般】」は必須ではない。


平たく解釈すると元ライダー様の意見で正解です。これは一般名処方の普及のために様式を緩和しているぐらいに受け取って良さそうです。


対象薬品の制限

これはうらぶれ内科様のコメントより、

この一般名処方加算というやつは曲者で、なんでも一般名で書けば加算されるというものではないらしいです。たとえば先発品がなくなってるものは加算対象外。ビオフェルミンR(耐性乳酸菌)は、当院の加算対象外となる可能性のある薬剤リストに載っておりますので、要注意でっす。

これについての基本は先ほどの疑義解釈に、

厚生労働省のホームページに掲載されている一般名処方マスタ以外の品目でも一般名処方加算の対象となるのか。 マスタに掲載されている品目以外の後発医薬品のある先発医薬品について、一般的名称に剤形及び含量を付加した記載による処方せんを交付した場合でも一般名処方加算は算定できる。
その場合には、薬剤の取り違え事故等が起こらないようにするなど、医療安全に十分配慮しなければならない。
一般名処方マスタは、加算対象医薬品のすべてはカバーしていない。今後、順次更新していく予定である。


よく読めば面白い表現で、一般名処方マスタに書かれていない場合は、
    薬剤の取り違え事故等が起こらないようにするなど、医療安全に十分配慮しなければならない
つう事は一般名処方マスタに書かれている場合は薬剤の取り違え事故も起こらず、医療安全にもそれほど注意しなくても大丈夫になります。揚げ足はそれぐらいにして、Online Med4月号からですが、

 後発医薬品の使用促進策の目玉として今回新たに導入された一般名処方加算(2点)に対応して、厚生労働省が公表している「一般名処方マスタ」には、内用薬66成分187規格、外用薬11成分29規格が収載されている。

 厚生労働省は、後発品のある先発品について後発品も含めて売上高で2分の1を超える程度までに入るものを基本とし、その中から、先発品と後発品で適用が異なるもの、徐放剤で1日分が1回のものと2回のものがあるなど、取り違いの起こりやすいものを除外して選定したとしている。

 その方針から、3月5日に公表した一般名処方マスタに記載例として収載していた「フェルビナクテープ70mg(10×14cm)」については、同一成分・同一規格のパップ剤と同じ一般名コードとなるため、4月6日付で記載例から除く措置をとっている。

 一般名処方マスタは、後発品のある先発品のうち医療現場で多く使用されている成分を基本に選定したものとなっている。

 このマスタに収載されていないものでも、医療現場の判断で後発品のあるものについて一般名処方を行い、一般名処方加算2点を算定することは可能だが、厚生労働省はマスタの収載品から取り違いの起こりやすいものを除外する措置をとっていることもあり、マスタ収載品以外のものについて一般名処方をすることは避けてほしいとしている。

 今後、収載対象を拡大する方向だが、一般名処方の実施状況を見ながら対応する方針だ。

これを読む限り一般名処方マスタに掲載されているもののみに一般名処方の薬剤は絞りたい意図があるように感じられます。その方針が窺われる傍証として、

    マスタ収載品以外のものについて一般名処方をすることは避けてほしいとしている。
他にも先発品がない後発品はダメとかの規定もあるようですが、マスタに掲載されているかいないかが査定の基準になっていく、もしくはそうしていく方針があると見て良さそうです。もちろん建前と言うか原則はマスタになくとも「可」とはされていますが、医療関係者なら誰でもわかるようにマスタ掲載品以外は例の如く例の通りグレーゾーンとして取り扱われると考えておく方が無難そうです。


適応症の問題

先発と後発は同じものであると言うのが厚労省の言い分ですが、薬効は今日は置いておくとしても適応症は同じではありません。後発品の方が適応が狭くなっています。薬剤も適応症に応じて処方されるのが原則であり、薬剤に適応した病名がレセプトに記載されていないと「適応外」の査定がドカンと来ます。薬剤の適応症と実際の必要性の乖離については55年通知問題があるのですが、今日は置いておきます。

これまでも先発から後発に薬局の裁量で変更するシステムはありましたが、適応症による査定の問題は起こっています。どんな図式かと言えば、

  1. 医療機関が先発品の適応症に基づいて薬剤を処方
  2. 薬局が後発品に差し替える
  3. 後発品に適応症がなく、医療機関が適応外として査定される
詐欺みたいな話ですが、実際に頻発しています。今回の一般名処方では問題は拡大する事になります。簡単に例を挙げると、
  1. 先発品にはA、B、Cの3つの適応症がある
  2. 後発品にはAしか適応症が無い
  3. 医師はBの適応症で処方したい
  4. 一般名処方では先発も後発も区別が無いので、適応症に適っている薬剤が処方されるかどうかはロシアンルーレット状態
これを予防するには医療機関と薬局で適応症の確認のために膨大な手間ヒマをかける必要が生じます。医師だって後発品の適応症のすべてを覚えきれるものではないからです。薬剤によっては多数の後発品がありますし、後発品によっては少々の治療薬本でも掲載されていないものがあるからです。

この問題については一般名処方が行われるときには後発品に適応がなくとも、先発品に適応があればOKにするみたいな話を聞きました。この情報についての震源地はどうやら1/30付社会保険診療報酬支払基金プレスリリースNo.258のようで、

の項目にあります。そこに明記されている厚生労働省保険局長から支払基金理事長あて(平成24年1月17日・保発0117第1号)の回答内容として、

先発医薬品と効能効果に違いがある後発医薬品について、一律に査定を行うことは、後発医薬品への変更調剤が進まなくなること、また、それに伴い、医療費が増える可能性があること等を保険者に説明し、影響を理解してもらうよう努めていただきたい。

私が4月に耳にした話もここからのもののようです。残念ながら「保発0117第1号」の原文を探せ出せませんでしたが、ソースが社会保険支払い基金のプレスリリースですから信頼性は高そうです。ではではこれがスンナリ進んでいるかと言うとそうでもないようで、内科開業医のお勉強日記様の“適応外の後発品、「個別査定」の対象”risfaxソースとして、

調剤薬局で変更調剤した後発品に先発品の効能が無く、効果として適応外となるケースは保険請求できるか−−−。請求があっても「査定しない」とした社会保険診療報酬支払基金の判断について、日本製薬工業協会が厚生労働省保険局に照会したところ、「従来通り、個別に判断すべき」と『査定すべきモノは行う』との見解を伝えたことが分かった。

ダハハハ、いつもの定番ですが現場としては「???」の状況になるわけです。


当面の感想

適応症の問題は厚労省が後発品推進を行ったときから整理されていないものです。厚労省は後発品を推進しながらも適応症の査定は厳格にやって来ています。これは査定による医療費削減をツールとして保持しているためと見ています。適応症査定をツールとして残しながら、一方でこれも大方針である後発品推進のための一般名処方も今回導入したわけです。

さすがに一般名処方と適応症問題は両立させるのは無理があると考えたのか、1月時点で出てきたのが支払い基金への回答のような気がします。現実問題として、そうしておかないと一般名処方導入は医療機関に査定のロシアン・ルーレットを強いるようなものになるからです。

ところがこれは製薬業界にとっては大きなダメージが出ます。先発品は独占特許が切れると後発品が販売されてしまうのですが、これへの対策として適応症の拡大を行う事があります。後発品に対するアドバンテージの確保みたいなものです。適応症の拡大と言っても申請すればポンと下りるものではなく、多額の予算をかけて治験を行い審査の上でようやく取得したものです。

これが後発品も先発品の適応症に通達一つで拡大されると、馬鹿らしくてやってられないになります。わざわざ後発品メーカーのために予算をつぎ込んで適応症を広げたようなものになるからです。そりゃ反発も出るに決まっています。

ではでは医療機関ロシアンルーレットを押し付けるかですが、そうすると今度は医療機関が一般名処方から逃げ出します。医療機関だってリスクだけ負わされるのは馬鹿らしいです。長期処方をバッサリやられても泣き寝入り以外の選択が実質的にありません(抗議で頑張る方法は残されています)から、そんなリスキーなものに手を出す必然性が乏しくなります。


さてどうなるかですが、厚労省は適応症査定も、一般名処方も推進したいわけです。矛盾している2つの問題の解決法は幾つかありますが、情報を集めた限りでは「どうやら」例外リストで対応するつもりのように見えます。これも上で解説した一般名処方マスタです。ここに書かれているものは後発品であっても適応症拡大を認め、それ以外は従来通り査定するです。これならある程度両立可能です。

もちろんこれはあくまでも私の推測に過ぎません。つう事でもう少し様子を見る事にします。いつもながらですが、もう少しザックリした制度にならないものかと嘆息しています。