また逢おうと龍馬は言った

かなり趣味的なお話なので、知らない方はスルーしてください。この劇団を知ったのは、情けない事に胃腸炎逆流性食道炎がガッチャンしてぶっ倒れ入院中のことです。少し回復してくると時間を持て余してテレビを見ていました。そこの病院はCATVが入っていまして、そのCATVチャンネルに劇場中継が放映されていたです。

たしか演題は「ナツヤスミ語辞典」だったと思います。不思議な芝居だったのですが、妙に面白くて引きこまれたです。もっとも最初に見た時は途中からで、さらに何時から始まっているのかわからず、結局3日ぐらいかけて全編を見たと記憶しています。(連日同じ内容を放映でした)

退院後も「これは面白い」とこのシリーズを断続的に見ていました。個人的に一番面白かったのは「ブリザード・ミュージック」です。この劇団では評判の良い演題を周期的に再演する(どこの劇団もそうでしょうが・・・)のですが、テレビで見たのはおそらく初演版です。少し調べると1991年版が初演のようですが、それを見ていたと思います。

ここは正直なところ自信がなくてひょっとすると1994年の再演版だったかもしれません。初演版か再演版か今となっては確かめようがないのですが、もう1回見ています。これは2001年版です。これはテレビではなくわざわざ新神戸オリエンタルまで行って生で観ています。実に良かったです。



話をタイトルの龍馬に戻しますが、龍馬も何回か再演されています。このうち観たのは初演版(1992年)と再演版(1995年)です。どちらもテレビなのですが、この劇団の最高傑作の一つと言われるだけあって十分堪能できます。これも実は実は何ですが、この劇団への興味は2000年代の前半で失われ(つうかCATVの放映がなくなったと思います)今日に至るなのですが、今回の負傷で行動が制約されて無性に見たくなりました。

最初はブリザードを探したのですが、これがどうやら絶版状態で入手できず、やむなく龍馬を購入しました。それも思い出の初演版と再演版です。そいでもってとりあえず両方を見ました。懐かしかったのですがブリザードが絶版になっている理由がなんとなく理解できました。初演版の画質がかなり悪いです。当時の事ですからテープから起したと思うのですが、マスターテープ自体がかなり傷んでいるのかもしれません。もう20年も前のものですから仕方がないのかもしれません。


感想はそれでも良かったです。改めて見比べると再演版は初演版と脇役の設定が少し変わり、脚本もギャグ部分が膨らましてあります。それぞれを単独で見ると何の違和感も無いのですが、見比べると膨らんだ分だけちょっと重くなっている気がします。それと再演版の方が初演版よりセットに少々カネがかかっている感じです。

全国レベルで有名な役者の出演は少ないのですが、あえて挙げると上川達也が出演しています。上川は初演版も再演版も出演していますが、初演版は3年目の抜擢だったそうで主演格のオカモトを演じています。上川のオカモトはやはり才能を十分に感じ取らせてくれるものです。再演版のオカモトは今井義博でこれが物凄い熱演なんですが、それでも上川オカモトが一枚上の印象があります。

再演時の上川は龍馬なんですが、確かこの時の評価でNHK出演が決まりメジャーになったはずです。上川龍馬は言うまでもなく秀逸なんですが、個人的には初演で龍馬をやった川原和久も甲乙付けがいたいと思っています。上川も川口龍馬を相当意識していたはずで、川口龍馬と違う面が出しいていたと思いますが、味として川口龍馬にひかれます。

上川龍馬と川口龍馬の違いですが、上川龍馬は根がコミカルな人間がシリアスな面も演じている印象ですが、川口龍馬は根がシリアスな人間がコミカルな面を出していると言えば良いでしょうか。芸風と演出の差に過ぎないと思いますし、どちらが良いかは純粋な好みですが、どっちかと言うと川口龍馬が好きです。


主役だけではなく脇役も重要なんですが、ケイコは初演版の大森美紀子に揚げます。再演版の坂口理恵もうまい役者なのですが、なんとも言えない素っ頓狂な愛嬌で大森が勝る感じです。ホンゴウは文句なしで初演版の近江谷太郎です。近江谷も独特の存在感がある役者で、再演版の岡田達也ではチト及ばないです。

土方歳三は再演版の篠田剛です。初演版の西川浩幸はこの劇団の大黒柱の1人ではありますが、土方をやるにはチト線が細すぎるです。どうみても強そうに見えず下っ端の隊士にしか見えないのがネックです。ですから篠田土方に軍配を揚げます。ただ篠田土方も土方歳三と言うより近藤勇に見えてしまいそうなのは書いておきます

西川は再演版ではムナカタをやっており、これは土方よりは良かったですが、それでも劇団の代表作の存在感としてはイマイチの感じです。劇との相性はやはりあるんだと感じています。


演劇なんてさして造詣が深いものではないのですが、龍馬はワン・ステージで一幕で演じてしまいます。ステージは龍馬を意識したのか帆船のデッキを模したものですが、もちろん帆船に乗るシーンなんて一度もなく、せいぜい公園のボートぐらいです。そこを見立てで空港にしたり、会社にしたり、ホンゴウの自宅にしたり、井の頭公園にしたりします。

初演版で井の頭公園のボートに乗るシーンなんて、上川オカモトと大森ケイコが向かい合って座っているだけです。それで十分にボートに乗っているとわかるわけです。シーンの展開も途切れなくで、たとえば空港から会社へのシーン転換も登場人物が入れ替わるだけです。当然重なる役者もいるのですが、その場でシーン転換で演じるわけです。

そういうのを見る方が自然に判ってしまうのは当時感心したものです。ストーリーは伏線があちこちに張り巡らしてあり、それが大団円にもつれこむ筋立てになっているのですが、それでも全然無理なく見る方に判らせてくれます。文字だけでは劇の雰囲気が雲をつかむようなものだと思いますから1995年版のダイジェストを出しておきます。

ダイジェスト版だけ見てもチンプンカンプンかもしれません。それにしても龍馬の初演から既に20年。歳月を感じてしまいます。龍馬はその後も再演が続けられているようですが、どうしても古い方に惹かれます。個人的には少しも色褪せないと思ってはいますが、そう感じてしまう事自体が「昔は良かった」にはまっている証拠かもしれません。それでも、ま、えっか。ノスタルジーに浸れるのはオッサンの特権と言う事で・・・。