どうもこういう事らしい

4/6付東京新聞より、

利用目的なく、買い戻し提案 市医師会に売却、約7億円分損出した土地

 前橋市が、市医師会に売却する際に約七億円分の売却損を出した同市岩神町の土地について、利用目的がないままで買い戻す提案を同会にしていたことが五日、分かった。買い戻しには二億円前後かかるとみられる。市民にとっては、計十億円近い負担をしながら、外郭団体を含めて市が大量に抱える塩漬け地が膨らむ恐れがある。(菅原洋)

 市や関係者によると、その土地は共愛学園跡地約二万三千平方メートルのうち約八千六百平方メートル。同学園の移転に伴い、数年前に市などが跡地全体を約二十五億七千万円で取得した。

 市は昨年、同会に全体を約五億八千万円で売却。地価の下落に伴い、全体で約二十億円の売却損が出た。同会は跡地の一部に看護系の学校を建設し、今春移転した。

 同会と市は当初、問題の土地約八千六百平方メートルに、夜間・休日診療機能などを備えた総合的な医療センターを建設する計画だった。

 しかし、市は、移転を予定する前橋赤十字病院(同市朝日町)の敷地内に、夜間診療所を移す方針へ転換。同会に約八千六百平方メートルの買い戻しを提案し、同会も既に総会で売却を決めた。

 この約八千六百平方メートル部分について、全体の売却損額から試算すると、損失は七億四千万円。同会への全体の売却額から試算すると市の買い戻し額は二億一千万円の見通し。

 これまで市の土地問題をめぐっては、市などで組織する前橋工業団地造成組合の土地の売却が進まず、市が二〇〇八年度からの三年間で総額約三十三億円を財政投入し、一一年度に約十億円の追加投入を決めた経緯がある。今回の買い戻しには市議会の議決が必要で、市民を含めて疑問の声が上がりそうだ。

 同会の中屋光雄会長は「市から買い戻し提案を受けた際、売却損の説明はなかった。市議会で議論してもらうしかない」と語った。

 市は「買い戻し提案にはコメントできないが、土地の利用は未定だ。夜間診療所は、日赤の周辺住民から要望があり、検討していく」と話している。

記事に出ている事実関係がサラッと読んだ印象より煩雑で発端は、

    その土地は共愛学園跡地約二万三千平方メートルのうち約八千六百平方メートル。同学園の移転に伴い、数年前に市などが跡地全体を約二十五億七千万円で取得した。
とりあえず「何で買ったんだろう?」です。これは地元の事情もあるでしょうが、考えられそうなものを挙げておくと、
  1. 変なミニ開発を防ぎ、計画的な都市開発を行うため
  2. 土地売却が進まない共愛学園に泣きつかれて
  3. その他
「数年前」を特定しようと共愛学園沿革も読んでみたのですが、どうも学園の移転は平成10年頃のお話のようです。ただ10年以上前の移転時の購入を「数年前」と表現するのもおかしく、完全移転して土地が市に売却されたのが「数年前」なのか、移転後に残っていた土地を市が購入したのが「数年前」なのかのどちらかじゃないかと推測しています。

とにもかくにも25億7000万円で「数年前」に市が購入したわけです。買ったのは2万3000平米であり平米単価で11.2万円ぐらいに成ります。これを去年医師会に売却した時には

市は昨年、同会に全体を約五億八千万円で売却

全体とは2万3000平米ですから平米単価は2.5万円ぐらいになります。全国的に地価の下落は激しいですし地方ほど著明とは言え、かなりの下落です。医師会は購入した土地に医師会立の准看護学校を作っているのですが、2万3000平米のうち8600平米は、

同会と市は当初、問題の土地約八千六百平方メートルに、夜間・休日診療機能などを備えた総合的な医療センターを建設する計画だった。

これが市側の都合でオジャンになっていると報じられています。オジャンになったところで、不要になった8600平米を市に買い戻してもらう交渉がまとまり、この買戻し額が、

同会への全体の売却額から試算すると市の買い戻し額は二億一千万円の見通し。

これの平米単価は約2.4万円です。試算上の誤差から考えると医師会が買った額で市が買い戻したで良いかと考えられます。これまでの経過をまとめると、

経緯 購入総額 平米単価
数年前 市が2万3000平米を購入 25億7000万円 11.2万円
去年 医師会が購入 5億8000万円 2.5万円
今年 8600平米を市が買い戻し 2億1000万円 2.4万円


市が買い戻した理由は夜間・休日診療所をこの土地に作る計画であったのが、売却後に市側がこの計画を反故にして前橋日赤に設置するとしています。おそらくですが、医師会が購入時に2万3000平米も看護学校には不要としたのを、市も関与する夜間・休日診療所も作るという約束で全体を購入させた経緯がありそうな気がしています。

作るはずであった夜間休日診療所計画が反故になり、約束違反を医師会から突き上げられ、この収拾策として夜間休日診療所予定地の8600平米を買い戻す提案をしたぐらいと私は見ます。ただ金額的には記事情報が正しければ売った金額で買い戻しただけですから、売買に伴う諸費用はともかくイーブンのように思います。


ここでよく判らないのが、

前橋市が、市医師会に売却する際に約七億円分の売却損を出した同市岩神町の土地

この「約七億円分」とはどんな7億円なんでしょうか。記事には、

この約八千六百平方メートル部分について、全体の売却損額から試算すると、損失は七億四千万円

ここをどう解釈するのかしばし悩んだのですが、どうやらこう考えるようです。

平米単価 8600平米の購入額
数年前 11.2万円 9億3620万円
今年 2.4万円 2億1000万円
損失額 7億2620万円


たしかに7億円分の損が出ていますが、これはいくらなんでも医師会が可哀そうな気がします。医師会にしてみれば市側の勝手な計画変更により不要な土地を買わされていただけであり、「市が使わないのなら買い戻せ」は理屈としてはアリです。市の買い戻し価格も売却額もほぼイーブンです。土地を購入した医師会にしてみれば、買った額で買い戻してもらっただけなのに、「数年前」の古証文をたてに7億円の損失を出させた張本人の様に言われるのは心外かと思います。

だいたい売る時は25億7000万円で購入したものを5億8000万円で売却した事自体は、

地価の下落に伴い、全体で約二十億円の売却損が出た

「どうも」なんですがさしての問題になっていないようです。これが2億1000万円で売って、2億1000万円で買い戻した土地については7億円の損失として書きたてるわけです。頑張って記事の主旨を取れば冒頭部にありますが、

    前橋市が、市医師会に売却する際に約七億円分の売却損を出した
7億円の損出を出してようやく売却できた土地を再び買い取る羽目になった事ぐらいかと思います。


記事は「利用目的なく」としていますが、あったはずの利用目的をなくしてしまったのは「だ〜れだ」の問題をスルーしてはいけないでしょう。つうかたった「数年前」に25億7000万円で購入した時にはどんな「利用目的」であったかも非常に興味があります。少なくとも医師会が購入するまでは塩漬けにされていたからです。

それと細かな裏事情は知る由もありませんが、別にこの取引で医師会が儲けたわけではありません。追及するなら「数年前」とは言え、本当に購入時に25億7000万円の価値があったかだと思うのですが、済んだ事は振り返らないと言う事のようです。前橋の事情は存じませんが、「数年前」であったにしてもチト割高の様に私は感じています。

ついでですから「医師会が、医師会が」と何度も繰り返されていますが、医師会は当事者の一人ではあっても本質的に関係が薄い存在に見えて仕方ありません。これは憶測に過ぎませんが、25億7000万円で購入したものの利用のアテもなく塩漬けになっていた土地に、市が医師会立の看護学校を誘致した経緯もあってもおかしくありません。

看護学校にしては広すぎる敷地をすべて買い取ってもらうために、ディスカウントのうえ休日夜間急病診療所を市と共同で建設する話を抱き合わせにして全部買ってもらったみたいな流れです。それが医師会が購入した後に休日夜間診療所のお話を市側の都合でオジャンにすれば、そりゃもめるのは当然じゃないかです。

医師会も7億円の損出の張本人の様に書きたてられるのなら、買い戻してもらわなければ良かったと思っているかもしれません。もっとも2億円は医師会であっても大きいですから、そんな鷹揚な事は言ってられないのでしょうが・・・。