沖縄へのエール

2/29付沖縄タイムスより、

 同院によると、現在の救急対応には少なくとも定数(正職員)5人が必要だが、県職員定数枠との絡みで現状では3人のみで対応している。

この南部医療センターの救急医大量退職事件はssd様うろうろドクターも書かれているので、二番煎じの余地が乏しく、頑張ってアングルを変えて書いてみます。ここの救命救急センターですが、病院HPにある救命救急センター紹介によると、

当センターは、0歳から100歳以上まで年齢に関係なく、ただの風邪から重症多発外傷まで病気の種類や重症度にも関係なくどんな疾患にも対応し、最初の治療と診断を行い、不安定な状態を安定化させ、さらに専門的な検査や治療が必要な場合には、適切な診療科を選定して引き継ぐというシステムを取っています。

このシステムのことを、北米ER型救急と言います。

読めばわかるように「ただの風邪」でもウェルカム体制であるのと同時に、「重症多発外傷」も任せとき式の幅広い受け入れ態勢であるのが確認できます。これが5人で可能だそうです。沖縄であっても労基法は適用されますから、病院が主張する5人で回すとどうなるかをシミュレーションしてみます。

1週間の上限労働時間は40時間であり、これは全国どこであっても、もちろん沖縄でも同じです。また1週間が168時間であるのもまた共通です。5人で働ける上限時間は合計で200時間です。救命救急センターのシフトは、

3交代勤務制

つまりは8時間交代です。8時間と言っても休憩時間45分が含まれますから、実質は7時間15分となります。ただここはシフト前後のの引き継ぎ時間に45分程度は必要と考え、単純に8時間労働とします。

そうなると単純計算で5人をすべてのシフトに1人づつ配置したら32時間残る事になります。32時間を8時間で割ると4になります。でもってどうなるかと言うと、週間のシフト数は21コマですから、

  • 17コマは1人体制
  • 4コマは2人体制
これ以上は無理です。「ただの風邪」なら1人体制でもOKですが、「重症多発外傷」を1人もしくは2人体制で、
    不安定な状態を安定化させ
相当な手練れでないと難しそうなお仕事です。ちなみに9人体制であればどうであったかですが、
  • 18コマは2人体制
  • 3コマは3人体制
もっとも沖縄には豊富な研修医が存在すると耳にしますから、純粋に1人ではなく、シフト毎に10人ぐらいは研修医が常に配置されているかもしれません。それでも「重症多発外傷」は大変そうです。いつまでも外来を止めているわけにもいきません。


ほいじゃ、本当は何人が必要かです。救命救急なんてやった事がないので判らないのですが、とりあえずシフト毎に3人を実現するにはどれほど必要かです。重症処置に2人が入り、1人は外来ぐらいの勘定です。これは計算上は13人いれば可能で、

  • 19コマは3人体制
  • 2コマは4人体制
さらに4人体制を目指すとすればです。これは緊急手術となり、1人は麻酔科役、2人は直接処置(手術)、もう1人は外来の勘定です。これは計算上は17人となり、
  • 18コマは4人体制
  • 3コマは5人体制
これはなかなか充実している様に思います。ちなみに3人ではどうかです。
  • 15コマは1人体制
  • 6コマはド根性体制
ド根性体制は日本中に数限りなく存在しますが、言わぬが花の体制です。さて、もう一つ3/1付琉球新報社説です。

  • 3人の救急医で態勢維持は難しいため、4月以降は救急以外の診療科の応援、他病院からの応援でカバーする。救急の制限はしないというが、心もとない。これでは県民が安心して暮らせる社会とはいえない。
  • 同センターの場合、救急医定数は3人。果たして3人で24時間365日の救急を本当に担えるのか、そもそも疑問だ。
  • 適切な医療を安定的に提供するには、ゆとりある職員数を確保することが不可欠だ。県は医療現場の意見を十分聞き、県立病院の健全経営を念頭に置きながら、定数増を検討すべきだ。

どうやらこの社説子は「3人では足りない」を理解できているようで、社説子にしては信じられないほどの切れ者です。ただし、なんとなく9人いたのが3人になったら「さすがに足りないだろう」ぐらいの感覚に見えないこともありません。だって、

    そもそも疑問だ
沖縄とは言え、店員が3人いれば24時間営業が可能みたいな「そもそもの疑問」は存在しないとは思うのですが、社説子ですから疑問を感じただけで上出来としておきましょう。でもってなんですが、
    適切な医療を安定的に提供するには、ゆとりある職員数を確保することが不可欠だ
さて社説子が考えている「ゆとりある職員数」とは何人をお考えになられているのでしょうか。元の9人体制、それとも13人体制、はたまた17人体制。主張するのは良いですが、増やした後の事も本来は考えるべきでしょう。医師が増えればどうなるかです。別に複雑な話ではなく、その分の人件費が増えます。医師が増えても収入である診療数はさほど増えようがないので、その分の負担が病院にかかります。

沖縄の南部医療センターの経営状態ですが平成21年度病院経営分析比較表(沖縄)によりますと、

項目 金額
総収入 12824730
(1) 医業収益 1136412
(2) 補助金 1460847
(3) その他 2741
総費用 13317678
損益 経常損益 -410148
純損益 -492948
累積欠損金 7563294


表の単位は千円です。

こういう経営状態で、沖縄県の財政事情、さらに国の財政事情も踏まえ、そこに何がなんでも24時間365日救急こそが「カネがなくても、ヒトがいなくても無理矢理にでも推進」みたいな厚労省の医療政策のツケまで考察されれば完璧です。もちろんそんな痴人の夢のような希望は微塵も抱いておりませんから御安心下さい。


今日は高い次元の話を論じる気は実は私もありませんから、残っている救急医の事のみを考えてのエールを贈りたいとおもいます。

    とにかく無理して頑張るな。頑張れば頑張るほど、それで足りているとされ、問題が問題でなくなる。
この世は「沈黙は金」ではありません。声が大きいほど注目され、優先度が上ります。危機的状況に黙って耐えて頑張っても、実はさほどの評価は得られません。耐えれば耐えるほど、「今の状態でOK」の判断になり、問題は果てしなく先送りされます。動いてくれるのは、危機に相応しい機能不全をキチンと起こし、実害がハッキリ出ることが重要です。

事は医療であり、すぐに生死に直結するので言い難い面もありますが、この世の問題は人柱が立つまで動かない事が余りにも多いと言う事です。人柱が立つまでにいくら警告しても、聞き流されるか、先送りが繰り返されます。せいぜい最低限にも足りない弥縫策しか程度しか行われません。

担当時間にベストを尽くすのは当然ですが、穴の空いた分の持ち場をド根性で埋めるのは解決からかえって遠ざけます。ダメなものはダメと目に見える形で示さないと誰も気にしてくれないと言う事です。でも頑張ってしまうんだろうな・・・。