南相馬市立総合病院の奇々怪々

南相馬市立総合病院の30人の大量医師募集については結論として「エエ企画」と見ますで色々野次馬的な部分も含めて推理しました。推理のキモは、なぜに30人もの医師募集が可能になったかで、30人の医師を雇えるだけの財源的な裏付けが出来たのであろうです。ほいでもって予算の出所は新設された復興庁の復興交付金ではなかろうかです。

南相馬市立総合病院の医師数は、南相馬市医師募集のページに、

医師数は震災前の常勤医12人、非常勤医9人から、一時期常勤医4人になりましたが、現在常勤医10人、非常勤医7人となっています。

これもマスコミ情報ですが、30人募集とおそらく別枠で4月から脳外科医と麻酔科医が赴任予定となっています。数の上では震災前の人数に4月時点でほぼ追いつくことになります。震災前の常勤医数については、これは南相馬市の広い意味での予算範囲と考えるのが妥当かと思います。どう考えても南相馬市の財政事情は厳しいので、充実させるとしても数人単位が限界と考えられます。

そこに新たに30人分の常勤医枠が出来るとするなら、そのための財源がどうしても必要になります。これが確保で来たからこそ、30人募集と言う企画が出来たはずだです。充実した医療のために多くの医師が集まる事は望ましい事ですが、申し訳ありませんがタダでは雇えないという事です。



ところが事情はそうでもなさそうな気配が出ています。2/23付上昌広氏のツイートです。

南相馬市立総合病院での勤務を希望し、常勤医となった医師と話し、市の対応に呆れた。全国医学部長会議から派遣される若手医師が一週間で稼ぐ額と、月給が同じ。民間病院の半分以下だ。残業を多めにつけるとか、やりかたは幾らでもあるだろう。例年の三倍も予算があって、ゼネコンに丸投げしているのに

とりあえず

    全国医学部長会議から派遣される若手医師
これについてですが、総合病院外来担当表に、

全国医学部長・病院長会議派遣医師

私はてっきり学部長なり、病院長が御出陣されていると思っていましたが、そうではなくて配下の若手医師の派遣しているようです。これの具体的な報酬についてはさすがに判らなかったのですが、平成23年8月11日付全国医学部長病院長会議・被災地医療支援委員会「被災地への医師派遣について要望書」と言うのがあり、

  1. 大学での正規職員・非常勤職員に関わらず、派遣に際しては大学からの命令とし、身分・給与等を保証する
  2. 上記の場合において、被災地の公共団体・病院の負担により、派遣された医師に対して、被災地への交通費・滞在費などの実費のほかに上乗せ的な手当を支給できるようにする。

この「上乗せ的な手当」が乗っかると、上昌弘氏がツイートしている、

    全国医学部長会議から派遣される若手医師が一週間で稼ぐ額と、月給が同じ
こうなるようです。ちなみに震災前の医師の月給ですが、平成21年度病院経営分析比較表(福島県)に常勤医師11人の平均額として、

1,941,690円

院長も含めた額にしても194万円となっています。はてさて、全国医学部長会議から派遣される若手医師の週給とは一体幾らなんだろうと思ってしまいます。あえて推測すれば上昌弘氏は、

    民間病院の半分以下だ
こうしています。ほいじゃ民間病院の平均月給とはどれぐらいかですが、第18回医療経済実態調査の機能別集計等に参考情報があります。表にして提示しておくと、

区分 平均給料月額
国立 102万9456円
公立 111万3040円
公的 101万2258円
社会保険関係法人 93万8184円
医療法人 127万7986円
個人 87万2710円
一般病院平均 109万2467円


これは本給だけではなく、

給料(本俸又はこれに準ずるもの)には、扶養手当、時間外勤務手当、役付手当、通勤手当等職員に支払ったすべてのものが含まれる。

こうなっています。「民間病院 ≒ 医療法人」と考えると127万円ですから、

    全国医学部長会議の若手医師の週給 ≒ 市立総合病院師月給 ≒ 民間病院医師月給の半額 ≒ 60万円
これぐらいの感じでしょうか。条件の良くないところですから、「全国医学部長会議から派遣される若手医師」が週給60万円(それでもチト高すぎるような)はまだありえるとしても、常勤医の月給は異常に安すぎると感じるのは同意です。ただなんですが、60万円説が正しいと仮定すると、バランスとして今度は常勤医の月給が250万円ぐらいになる必要があります。

「全国医学部長会議から派遣される若手医師」の週給については遠方である場合の交通費がかさんでいるとの見方も可能ですが、上氏のツイートは聞き取りであり、そういう時の給与で交通費コミでは話さないと考えます。他人に給与の額を話す時にたとえ10万円の交通費が含まれていても、それを含んで話すとは思えないからです。

それにしても250万円か・・・僻地相場ではありえる額と聞いた事はありますが、これが30人となると月給だけで7500万円になります。年間で9億円。これに賞与が付くと余裕で10億円を超えます。震災前のデータですが市立総合病院の医療収益が年間32億円、総収益でも34億円。さらに人件費が16億円ぐらいですから、まさに巨額になります。



上氏の情報でよく分からないところは、常勤医のどの範囲が「民間病院の半分以下」であるかどうかです。常勤医全体がそうなのか、それとも、

    南相馬市立総合病院での勤務を希望し、常勤医となった医師
これに対するものなのかです。つまり常勤医枠が2種類に分かれているかどうかです。一時4人に減ったとは言え、震災以来病院を支えてきた医師がいても60万円なのかです。おおよそ月給が半減ですから、そんな待遇でも市立総合病院のために頑張っておられるのだろうかです。たしか震災時の混乱時に南相馬市の病院の給与が7割減になったとの報道があったと思いますが、少しだけ回復して5〜6割程度で待遇されているのでしょうか。

まさに奇々怪々です。



それと上氏が一つだけ勘違いされておられると思われるところがあります。

    例年の三倍も予算があって、ゼネコンに丸投げしているのに
南相馬市の歳入は激減していると考えるのが妥当です。そんな状態で3倍の予算の財源はそれこそ国からの復興予算としか考えられません。こういう国からの予算用途はそれは厳しく制限されており、融通・転用などしようものなら大変な事になります。見た目上は3倍の予算があっても、南相馬市が自由に裁量できる予算は極めて少ないと考えます。予算とはそんなものです。



いずれにしても30人募集の常勤医の待遇はどうなるかは注目されそうな気がします。ちょっと気になったので計算をつけておきます。計算の前提は、

  1. もともとの常勤医月給を120万円とする
  2. 現在の常勤医月給を60万円とする
もともと12人いたのですから、同じ給与で現在なら24人雇えることになります。さらに30人が集まれば「全国医学部長会議から派遣される若手医師」が不要になりますから、これが4人分になり合計28人です。それと30人が来れば非常勤医も不要になるとすれば2人分ぐらいは常勤医の給与になると考えれば、ドンブリですが30人分ぐらいになります。この計算をまとめておくと、
  1. 震災前の常勤医12人分で24人分
  2. 現在の全国医学部長会議派遣医師で4人分
  3. 震災前の非常勤医9人で2人分以上
  4. 合計で30人分はクリア
30人募集で実際に30人来たら最大42人になりますが、この地域は他の病院の医師も深刻に不足しています。そうであればとくに福島県医大からの派遣医師は、余裕の出来た市立総合病院から他の病院に移動してもおかしくありません。また30人募集は規模としても余りに大きく、これが満たされない可能性も多分にあります。その辺の差し引きで結局30人に落ち着いても、南相馬市としてはほぼ震災前の人件費+アルファ(全国医学部長会議派遣医師の分)で医師を雇える皮算用になります。



ここで本当はよく判らないのは上氏のツイートの意図です。基本の疑問を書いておくと、

  1. 30人募集企画で財源を考慮していたのか
  2. 30人募集企画の前に市立総合病院の現在の給与がどうなっているのかも確認していなかったのか
この2つをまったく考慮せずに30人募集企画を発表していたのなら少々驚きです。あの上氏にさすがにそれはないとすれば、
  1. 現在の市立総合病院の常勤医師は2種類ある


    1. 上氏が確認していた満額組
    2. 上氏が今回確認した志願組(半額組)


  2. 上氏も企画に参加している募集組はさらに別枠
こういう構図があればなんとか筋が通ります。筋は通るのですが、もしそうであっても「奇々怪々」と私は感じます。