新広告戦術かな?

ssd様の二番煎じですが、私も書きたくなったので便乗します。1/20付msn産経より、

「医療系英語の世界」出版記念祝賀会

「医師めざす若者は『知の戦士』でなくては」

 医療の荒廃が叫ばれて久しい。現場の医師不足が深刻さを増しているというのに、裕福な家庭の子弟以外、医師になるのが難しい現状はなかなか変わらない。かくして資質に欠ける医師も誕生してしまう…。

 「医師をめざす若者たちに必要なのは単なる受験テクニックではない。人間としての志の高さや視野の広さを持って、生命や死の問題に立ち向かう『知の戦士』でなくてはならない。そんな思いで、この本を書きました。受験生を持つ保護者にも読んでほしい」

 「医療系英語の世界」の著者、月村成右(なるみ)さん(61)は、医学部専門予備校「TMPS医学館」(東京都新宿区)の英語講師。本書は講義録をベースに書かれ、受験英語参考書の体裁を取りながらも取り上げている分野が幅広い。「ギリシャ医学」「医師の条件」など医療系の話はもちろん、「言語論」「自然観」など一般教養にも及ぶ。

 月村さんの大学の後輩で本書の販売を担当する新幹社の高二三(コイサム)社長は、「良い医師になるには単なる英語の勉強だけでなく、志が大切だ。そんな月村さんの生き方に共感して、(出版を)お手伝いさせていただいた」と話す。

 祝賀会には、大学時代の友人や予備校の関係者ら約30人が駆けつけ、杯を傾けた。

 同校の代表取締役で、「医学部受験の闇とカネ」(幻冬舎)で金にまみれた医学部専門予備校の実態を暴いてみせた長沢潔志さん(64)は、「(私自身)30年も教えているが、いい講師はなかなかいない。そんな中で月村先生と出会えたのは素晴らしいことだった。先生の人格にほれ、今回の出版も、二つ返事で賛成しました」とエール。会場から大きな拍手を集めた。(喜多由浩)

とりあえず記事の内容ですが、どうも月村成右氏と言う医学部専門予備校の英語講師の出版記念祝賀会の取材のようです。別に誰を取材されても、それを記事にされても言論の自由なのですが、その「医学系英語の世界」の発売元の新幹社の紹介があるので引用して置きます。

医学部受験の予備校が、最前線の現場より研究を重ね、医学部受験に最もよく出る英語長文読解方法を解き明かす。「古代の医学」「安楽死」「臓器移植」「言語論」などの15の医学テーマを解説しながら、医学の世界を再考する読み物としても面白い。

なるほど、なるほどです。医療の話をモチーフに医学部受験用の英語長文読解の技法を解説する本のようです。英語の長文読解の技法を身につけると同時に医学の面白さとか、奥深さを受験生に学んでもらおうの趣旨の本だぐらいに理解します。悪い企画ではないと思います。予備校講師は受験生に受けてナンボの厳しさがありますから、きっと面白い内容になっていると推測します。

さて月村成右氏はTMPS医学館と言う医学部受験専門校に勤められているわけですが、ここのキャッチコピーを紹介しておくと、

医学部受験の合格を目指すなら、周りの皆と一緒の授業を受けているだけではフォローしきれない部分が出てくるはずです。そこで、医学部専門予備校としての名門 TMPS医学館では、医学部受験「絶対合格」のサポートをすべく、プロの講師による個別指導を行います。少人数制授業を取り入れることで、生徒と先生の距離が近い医学部予備校のTMPS医学館だからこそ、医学部受験対策で重要となる勉強方法のレクチャーや質問しやすい環境づくりが実現します。 池袋6分、高田馬場2分と通いやすく、コース制の医学部予備校と違って個人に合わせて時間割を組むことができたり、一律の金額で私立などの医学部受験に必要な科目を受けたいだけ受けることができる為、納得いくまで勉強できるのが多くのドクターも推薦する医学部予備校・TMPS医学館の強みでもあります。

どうも売りは

  • プロの講師による個別指導
  • 少人数制授業
  • 地の利(池袋6分、高田馬場2分)
  • 個人に合わせて時間割を組む
こういう予備校でこういうシステムを組むと言うのは授業料が高くなる事に説明は不要かと思います。簡単なお話で、1人の講師で100人相手の授業をするのと、5人程度を授業するのでは予備校としての授業料の割りが全然違うと言う事です。ちにみにHPを探して回りましたが、授業料についてはすべて「資料請求」となっていました。私のところにもその手の予備校から入学案内が届きますが、正直なところ結構な授業料が示されているぐらいは存じています。

それと

    一律の金額で私立などの医学部受験
この一文から国公立専門でないのもわかります。私立と言ってもピンキリなんですが、合格への道としての合格者紹介があります。予備校ならどこでもあるのですが、これだけの実績があるという定番の宣伝です。ちょっと紹介しておきます。恣意的な編集をしたら誤解を招くのでホームページに掲載されている全員を紹介しています。おそらく昨年度実績と考えますが、私立医学部の比重が高いと判断しても良さそうです。ここもお断りしておきますが、私立医学部だから悪いとはまったく思っておりません。紹介したかったのはそういう指向の医学部受験専門校であると言う点だけです。もちろん、そういう予備校の存在自体は否定しません。需要あるところに供給ありで、立派にビジネスとして成立しており、さらにHPに「新横浜校開設」となっているので事業も順調であるのは窺えます。


ここまでの解説を加えておいて、記事の冒頭部に注目して見ます。

    医療の荒廃が叫ばれて久しい。現場の医師不足が深刻さを増しているというのに、裕福な家庭の子弟以外、医師になるのが難しい現状はなかなか変わらない。かくして資質に欠ける医師も誕生してしまう…。
これは誰が誰に向かって書いておられるのでしょうか。月村成右氏なのでしょうか。もし月村氏が仰ってられるのなら自らの仕事の否定になってしまいそうな気がします。月村氏は
    「医師をめざす若者たちに必要なのは単なる受験テクニックではない。人間としての志の高さや視野の広さを持って、生命や死の問題に立ち向かう『知の戦士』でなくてはならない。そんな思いで、この本を書きました。受験生を持つ保護者にも読んでほしい」
これは「」付の引用であるため月村氏が実際にお話されたものと推測します。内容自体は至極真っ当で、月村氏はそういう信念で予備校の授業に当たられ、その思いの一端が本になったぐらいで十分に理解できます。しかし月村氏が「裕福な子弟云々」を果たして本当に付け加えていたかはかなり疑問です。取材された祝賀会は出版祝賀会であり、発売元は上記したように新幹社ですが、発行元は

TMPS医学館出版局

つまり自分の勤務先と言う事です。常識的に、祝賀会と言う場であまり口にしない言葉かと思います。そりゃ勤務先の否定につながってしまうからです。祝賀会でわざわざ喧嘩を売る必然性が低いと言う事です。実は売っていた可能性も否定はできませんが、この出版祝賀会には代表取締役も出席されているのが確認できます。

もし産経記事の冒頭部の「裕福な家庭の子弟云々」で出版祝賀会が盛り上がっていたのなら、この医学部専門予備校は

    確信犯として資質に欠ける裕福な家庭の子弟をゼニのために医学部に合格させる仕事をやっている
こういう解釈も出てくるわけです。ここまではssd様の話の完全な二番煎じです。



二番煎じで終っても良いのですが、もう少しだけ捻って考えて見ます。この記事の構成は冒頭部で「裕福な家庭の子弟云々」の強い批判分を掲げています。それでもって以下の出版祝賀会に対しては称賛記事としか読めません。そうなると記事構成は冒頭部の批判を打ち消すと言うか、反語的な内容で出版祝賀会を位置付けているになります。つまりと言うほどではありませんが、記事が主張したいのは、

    裕福な家庭の子弟は医師の資質に欠けるが、この医学部専門予備校は裕福な家庭の子弟であっても医師に相応しい資質に叩き直す素晴らしい予備校である
こうなっていると解釈するのが妥当と考えます。そうでないと記事全体の辻褄が合いません。そう考えると辻褄は合うのですが、そんな記事が安易に書けるのかと思うほどの称賛記事になります。

言論の自由がありますから手放しの称賛記事を書いても構わないのですが、称賛記事には2種類あると思います。真に称賛すべき出来事を書いている記事と、提灯記事です。で、この記事がどちらに属するかと言えば提灯記事の可能性が高そうに感じます。真の称賛記事にしては、定番の「赫々たる実績」の記述が乏しすぎるからです。

提灯記事の傍証としては長くもない記事の中に、医学部専門予備校の学校名まで明記しているのもあり、さらに取締役の著書までわざわざ紹介されています。取締役の著書がどれほどのベストセラーなのか私は残念ながらまったく存じませんが、個人的には「あれを書いた人」で通じるほどのネームバリューは高くないように考えています。

もう一つ、これは言ったら悪いですが医学部専門予備校自体もさして有名とは言えないと考えています。この手の医学部専門予備校はかなりあって、記事に紹介されている学校がとくに著名であるとは残念ながら思えません。



あくまでも憶測ですが産経の新広告戦術ではなかろうかとも見ています。どういう事かと言えば、一定の新聞広告を行ったスポンサーに対し、その見返りとして一般記事で提灯記事を書く特約戦略です。そういう手法はカー雑誌とかでよく見られます。カー雑誌のメインスポンサーは自動車会社になりますから、とくに新車の発売時には競って提灯記事が掲載されます。そりゃそうで、莫大な開発費をかけて売り出している新車を、発売直後からケチョンケチョンに酷評したら広告なんて出してくれるはずもありません。

同様の手法を産経も取っていたとしてもおかしくありません。新聞の広告事業が傾いているのは私も定期的にウォッチングしています。また新聞業界の斜陽の大きな原因の一つに広告事業の不振があります。少なくとも公式データではそうなっています。新聞社が広告スポンサーを喉から手が出るほど欲しいのは容易に推測できます。

提灯記事特約はスポンサーにとって大きなメリットがあります。今のところカー雑誌とかと違って、新聞、とくに五大全国紙クラスが純然たる提灯記事を書くと言う常識は余りありません。ですから読む方は提灯記事と思わず「社会の木鐸が認めた」と言う信頼感が生まれて来る期待を強くもてます。また一般記事にこうやって掲載されると、後々まで「こうやって新聞記事にも紹介されている」の広告を行う事が可能になります。


ま、提灯記事戦術自体は既に雑誌とかの常套戦術であり、これを広告事業のために新聞が採用しても批判するほどのものではないでしょう。また新聞が大スポンサーに対して自主規制や無償の提灯記事を書いているのも今や常識です。ちょっと新味と言えるのは、医学部専門予備校クラスでもこれを用いだした点ぐらいでしょうか。産経の経営も苦しいそうですから、食うためにはこれぐらいは必要かもしれません。