統計データはちゃんと見ませう

12/3付秒刊SUNDAYより、

政府統計『白血病患者』が本当に7%近く増加している!Twitterで話題に

政府の統計データを公開するサイト『政府統計の総合窓口http://www.e-stat.go.jpに公開されているデータで、大変興味深いデータが話題になっている。今年の6月までの死亡原因の表についてだが、性・年齢(5歳階級)を見てみると、白血病患者が前年比で6.6%増加しているという。日本医師会は『白血病患者急増』はデマだといったばかりに、これは物議をかもしそうだ。

問題の表は政府が発表している「政府統計の総合窓口」の中にある『死亡数,性・年齢(5歳階級)・選択死因分類別 』という表。

それによると白血病患者の割合が前年比の6.6%になっていることが記載されている。もしこれが事実であるとすれば、原発の影響で白血病が増えているという噂もまんざら否定できなくなるし、日本医師会が『白血病患者急増』はデマだといった件も翻ってしまう可能性もある。

ただしこのデータは6月までのデータなので何か別の原因でたまたま増加しているだけなのかもしれないし、実を言うと白血病意外にも結核等、増加している死亡原因がチラホラあるのでそちらのほうが不気味ではあると感じる。

いずれにせよ、このデータが日本医師会の発表でないことは変わりがない。政府が正しいのか、それとも日本医師会がこれを認めるのか、時間がただ過ぎていくことにヤキモキせざるを得なくなってきた。

どうでも良いような飛ばし記事ですが、暇つぶしに付き合います。


日医はデータの認定者ではない

とりあえずですが、

日医の話とは、11/29付ネット上の書き込み「白血病患者急増 医学界で高まる不安」についてであるとするのが妥当ですが、日医が否定したのは現時点での白血病「発生率」7倍説の否定であり、さらにデマ記事に書いてあった日医会長のコメントなど行っていないの発表です。今回の原発事故の影響については正確なデータを未だ把握していないとしているだけです。

日医とて原発事故でこの先に白血病患者が増えないとは一言も述べていません。あくまでも現時点で確認できるデータで白血病増加、とくに7倍増説を裏付けるデータがないと言っているだけであり、この先で白血病増加を裏付けるデータが出てくれば当然認めます。現時点の「7倍増説否定」は「この先の白血病患者増加否定」と同じでないのはオリジナルを読めば明らかです。具体的には、

統計の数値につきましても、現段階でそのようなデータについて確認できず、信憑性を疑わざるを得ないものであります。

いつもながら高度の編集創作が加わると

    日医が白血病7倍増説デマ否定 → 日医が白血病増加説完全否定 → 日医は間違っているかもしれない
注釈を加えておくと、日医は疾患の統計データなど取っていません。データは各医療機関も集める事はありますが、公式のもの、とくに全国規模のものは国ないし公的機関によるものです。またデータの解釈は日医だって行いますが、別に日医の解釈が特別の重みを持っているものではありません。日医とて単なるデータ解釈者の1人に過ぎず、逆に日医が認めなくともさしたる影響はありません。

秒刊SUNDAYは日医がデータを認めるかどうかに異常な位置付けを勝手に与えていますが、単なる妄想であると断言しておきます。どうせなら学会が認めるかどうかならまだしも重みがありますが、日医が認めるかどうかなんて医療者の誰もさしたる興味も関心も無いと言えば宜しいかと思います。白血病発生率7倍増デマの作者も日医の存在を勝手に拡大して妄想していましたが、秒刊SUNDAYも同じレベルで妄想を膨らましておられるのは良くわかります。


面倒だがデータ処理

秒刊SUNDAYが唯一無二の根拠としているのが人口動態調査の白血病死亡者数のデータです。

    それによると白血病患者の割合が前年比の6.6%になっていることが記載されている。
秒刊SUNDAYの記事には人口動態統計の白血病死亡者数の部分の画像引用までありますが、そこには「680人」と「6.6%」増の数値が確認できます。個人的に秒刊SUNDAYはこの数値をどういう風に理解したのか極めて疑問です。「680人」が今年のいつのデータであるかを判っているかどうかさえ疑問と言う事です。人口動態調査の今年の速報分は6月分まで発表されていますが、「680人」は6月分のデータを指しています。1〜6月のデータを表にしておくと、

平成23年 平成22年 増減 増減率
1月 680 656 24 3.7%
2月 634 582 52 8.9%
3月 669 662 7 1.1%
4月 655 645 10 1.6%
5月 660 664 -4 △0.6%
6月 680 638 42 6.6%
3978 3850 128 3.3%


たしかに6月分の白血病死亡者数は前年度比で6.6%増えていますが、震災前の2月データではそれを上回る8.9%増です。さらに言えば6月の前の月である5月データでは前年度より死亡者数は減少しています。これだけのデータで何か言えるとは到底思えません。では平成22年と平成21年ではどうかです。

平成22年 平成21年 増減 増減率
1月 656 688 △32 △4.7%
2月 585 555 30 5.4%
3月 662 680 △18 △2.6%
4月 645 615 30 4.9%
5月 664 676 △12 △1.8%
6月 638 623 15 2.4%
7月 702 648 54 8.3%
8月 725 702 23 3.3%
9月 721 685 36 5.3%
10月 707 702 5 0.7%
11月 678 636 42 6.6%
12月 693 680 13 1.9%
8076 7896 180 2.3%


前年同月比のデータはバラツキが大きく、「6.6%」を越える月もありまし、そうでない月もあります。平成22年も1-6月は前年より下回る月が出現していますが、後半では前年を上回る月が増えています。こういう状況で今年の6月が去年の6月より「6.6%」増えたデータに意味を持たせるのはかなり困難です。ほいじゃ面倒ですが、年次推移はどうかです。

死亡数 人口10万人
対死亡率
前年比
単純増減数
前年比
単純増減率
2000 6766 4.9 * *
2001 6940 5.5 174 2.6%
2002 6969 5.5 29 0.4%
2003 7018 5.6 49 0.7%
2004 7048 5.6 30 0.4%
2005 7283 5.8 235 3.3%
2006 7429 5.9 146 2.0%
2007 7607 6.0 178 2.4%
2008 7675 6.1 68 0.9%
2009 7896 6.3 221 2.9%
2010 8078 6.4 182 2.3%


見ればそのままなんですが、白血病による人口10万人対の死亡率は漸増を続けています。2000年から2010年の間に1.6人増えています。死亡者数の単純増加率については変動が大きく、殆んど変わらない年もあれば、3%を越える年もあります。それでも緩やかに増加しているのだけは言えます。今年の1-6月の単純増加率は3.3%です。これとて7−12月の集計が出てこないとどうなるかは不明です。


あえてまとめると、

  1. 今年の6月の前年比の死亡増加率「6.6%」は高い方であるが、震災以前にももっと高い率で増加を示している月もある
  2. 今年の1-6月の死亡増加率は「3.3%」であるが、月毎の変動は大きく年統計が出るまでまだ何もいえない
  3. 最終的に年統計が「3.3%」になっても、同程度の増加率の年はある
白血病の発生率、死亡者数、死亡率が原発事故の影響で増える可能性がある事は否定しません。それこそ増えるか増えないは注目されているところです。ただし数値として現れるまでには時間がかかります。それこそ5年、10年と言う単位の観察が必要です。間違っても6月単月の白血病死亡者数の前年比が「6.6%」であるだけでは何も言えません。

こういうデータを出すと、政府集計だから「そもそも信用出来ない」「そのデータが正しい根拠を示せ」と頑張る人も出てくるようですが、正直なところそこまで付き合いきれないところがあります。人口動態調査に人為的な操作が加わっているかどうかを証明するのは反論者のお仕事です。陰謀論は暴いてこその陰謀論であり、自分の主張に不都合ないかなるデータもすべて陰謀論で否定するのは安易さも度が過ぎると感じます。

ここまで力を入れて統計データを掘り起こすほどの相手ではありませんが、すぐに踊られる人が少なくありませんから御参考までに出させて頂きました。