ポリオワクチン問題の周辺を考える

IPVを海外から輸入されて接種している医療機関は増えているようです。IPV問題は神奈川県が動いた事により新たな展開が予期されますが、私も来年ぐらいには真剣に対応を考えなければならないかもしれません。とりあえず今はインフルエンザ接種に追われて何の余裕もありませんが、具体的に輸入するとなれば、どういう手続きが待っているか、どんな問題点があるのかぐらいは知識として持っていても良いと思います。そういう事で入門編としてのお勉強です。

この問題についてはレギュラーコメンテーターであるSeisan様が実際にIPVを輸入し、これを接種されているようなので、リアルの知り合いならば実体験のお話を聞きたいところなんですが、そういう訳にもいかないのでWORLD FOCUS 感染症等情報 No.80 順天堂大学医学部病理学講座 松本高明「渡航者用未承認ワクチンの輸入」から引用させて頂きます。

かなり具体的に書かれてはおられるのですが、残念な事に日付が確認できません。バックナンバーの前後を見る限りでは一つ前のNo.79に話の枕でSARSにふれている部分があったり、一つ後のNo.81では2005年の文献を引用があったりして微妙なんでが、5〜6年前程度のレポートじゃないかと推測します。時期に拘るのは確かちょうどこの時期に薬事法の改正があり、改正後にどうなったか不明である点です。

ほんなら薬事法を読めと言われそうですが、これがまた複雑で途中で挫折してしまったので、前置きを置いた上で参考資料とさせて頂きます。


実際の手続き

 未承認ワクチンの輸入には厚生労働省経済産業省が関係する。まず輸入割当を受ける必要がある。輸入割当(Import Quota)とは、特定品目の輸入を制限する必要がある場合に、輸入可能な数量や金額を輸入者または需要者等に事前に割り当てる制度のことをいう。これは割り当てられた量や金額以上の輸入はできないため実質的な輸入制限となる。

 対象となるワクチンを輸入しようとする場合、1)厚生労働省医政局経済課に事前(およそ3ヶ月前)に輸入計画書を提出し、輸入品目、数量の承認を得る。2)経済産業省貿易経済協力局に輸入製品毎に規定の輸入割当申請書に必要資料 承認済輸入計画書(写)、医師免許証(写)、インボイスなどを添付し提出する(申請書提出後の処理期間は原則として2週間内)。3)承認後、厚生労働省地方厚生局で薬事監視(薬監)を受け、4)承認を受けた輸入報告書と輸入割当申請書に必要書類を添付し、税関で輸入通関手続きを受ける(図1参照)。

 尚、これまでは輸入割当に関する輸入計画書の提出は上期、下期に別けられていたが、両省とも平成18年度上期から手続きの簡素化から年1回で設定することになった。また、薬監証明申請を担当する厚生労働省地方厚生局は東海北陸厚生局近畿厚生局に移管したため、現在関東信越厚生局近畿厚生局九州厚生局沖縄麻薬取締支所の3箇所となっている(図2参照)。

 このようにワクチンは非常に複雑な手順を踏んで輸入する制度になっている上に、日本では薬監担当地方厚生局が3箇所と少ないため、個人輸入は煩雑で難しい状況にある。

レポートを読む限りでは、

  1. 厚生労働省医政局経済課に事前(およそ3ヶ月前)に輸入計画書を提出し、輸入品目、数量の承認を得る。
  2. 経済産業省貿易経済協力局に輸入製品毎に規定の輸入割当申請書に必要資料 承認済輸入計画書(写)、医師免許証(写)、インボイスなどを添付し提出する(申請書提出後の処理期間は原則として2週間内)。
  3. 承認後、厚生労働省地方厚生局で薬事監視(薬監)を受ける
  4. 承認を受けた輸入報告書と輸入割当申請書に必要書類を添付し、税関で輸入通関手続きを受ける
なにか眩暈がしそうな煩瑣な手続きですが、手続きも煩瑣なようですが期間がもっと凄い感じがします。輸入の3ヶ月前に計画書を厚生労働省医政局経済課に提出とまずなっています。3ヶ月して承認が下りたら、経済産業省貿易経済協力局で割当申請書の承認が2週間以内だそうで、それから厚生労働省地方厚生局で薬事監視を受けるとなっています。

ここまでで3ヶ月と2週間程度は必要そうです。当然ですがここから発注して取り寄せるわけですから、4ヶ月近くかかる事になりそうです。さらに気になるのは、

    尚、これまでは輸入割当に関する輸入計画書の提出は上期、下期に別けられていたが、両省とも平成18年度上期から手続きの簡素化から年1回で設定することになった。
これの解釈がよく分からないのですが、輸入計画書の承認が年2回から年1回に変わったと言う事でしょうか。もしそうであるなら、一度個人輸入すれば次は来年になってしまいます。ただSeisan様のコメントには、

今回不活化ポリオを個人輸入して初めて理解できたんですが、これ〇〇病院に所属するXX医師、に対して輸入許可および薬監が発行されます

ひょっとすると松本氏が経験した

このたらい回し状態や手続きに要する時間が改正解消されたのでしょうか。そうでなければ輸入ワクチンの接種なんて、半端な覚悟では出来ません。Seisan様に限らずですが、実際に輸入接種されている医療機関の方の実体験談をお聞きしたいところです。もう一つ現在でも薬事監視は厚生局から必要なのはSeisan様も書かれている通りなんですが、3ヶ所しか全国に無いこともわかります。これも確認しましたが、現在も変わらず3ヶ所です。代行業者がいるのは私も存じていますが、代行業者がいないと個人診療所ではとても対応できない事だけはわかります。そうなるとIPVをやろうと思えば、まず信頼できる代行業者を探すところから始まると見て良さそうです。


接種実務上の問題点

これまで述べてきた事も含めて以下に問題点を列記した。

1.未承認ワクチンの輸入は厚生労働省への輸入計画書の提出、経済産業省への輸入割当申請などがあり、煩雑で時間がかかる。また、薬監証明の事務取り扱い場所が全国で3箇所と少ないため、書類ミスがあれば書類の往復のため時間浪費の可能性が高い。

2.輸入したワクチンの使用制限が厳しい。ワクチンの輸入方法は、1)「医師の個人輸入」と、2)医師主導治験のもと治療試験(治験)計画書を作成し、「治験」として輸入する方法があるが、1)に関しては製品を輸入した医師のみしか使用できないため、複数の医師による一括輸入は出来ない。2)に関しては、メーカーのバックアップが必要であることと、先ずはオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けるという方法が考えられるが、治験計画書が認められるまでに最低6ヶ月は必要である。

3.ワクチンの確保が難しい。ワクチンはメーカーの予定数量しか生産しないため、感染症の流行やマスコミの宣伝により市場のワクチンが品不足となり、価格高騰する。その対策として、全世界からワクチンを購入できる業者を欧州、北米、オーストラリア等の地域に最低3社は確保しておく必要がある。
4.未承認ワクチンの品質管理は製造国に委ねてられており、事前に品質試験を国内で実施する体制がないため、国としての品質保障が出来ない。

ちょっと読みにくいので編集させて頂きます。

  1. 未承認ワクチンの輸入は厚生労働省への輸入計画書の提出、経済産業省への輸入割当申請などがあり、煩雑で時間がかかる。

  2. 輸入したワクチンの使用制限が厳しい。


    1. 「医師の個人輸入


        製品を輸入した医師のみしか使用できないため、複数の医師による一括輸入は出来ない。


    2. 医師主導治験のもと治療試験(治験)計画書を作成し、「治験」として輸入する方法


        メーカーのバックアップが必要であることと、先ずはオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)指定を受けるという方法が考えられるが、治験計画書が認められるまでに最低6ヶ月は必要である。


  3. ワクチンの確保が難しい。


  4. 未承認ワクチンの品質管理は製造国に委ねてられており、事前に品質試験を国内で実施する体制がないため、国としての品質保障が出来ない。
このうち1.については現在はかなり改善されていると仮定します。3.と4.についてはIPVについては今日は置いておく事にします。問題は2.です。これも解説がありますが、医師の個人輸入については現在も同じであるとSeisan様から情報を頂いています。治験については神奈川県の計画に対して、元ライダー様から、

落しどころは、県立病院医師による医師主導治験(もしくは研究)に用いるための輸入。
これだと体裁は整うような・・・

治験と言っても色んな種類がありますが、ワクチン輸入許可を取るにはそれなりに公式の治験計画が必要かと考えます。公式となると厚労省が絡んできますから、今回のようなミエミエの偽装治験の許可を取る壁は厚いとも言えます。また治験となると詳しくは知りませんが、有料とするのは難しくなりそうな気はします。有料治験なんてあるのかな?

それと治験となれば接種しておしまいとはなりにくいですから、接種後のなんらかの追跡調査をデータとして収集しなければならないはずです。これを接種者である子供に行わなければならないのと、検査費用も発生します。検査費用はさすがに徴収できないでしょうから、かなりの出費が必要になってしまいます。


未承認薬の扱い

これは現在の薬事法から拾ったものですが、

第六十八条

 何人も、第十四条第一項又は第二十三条の二第一項に規定する医薬品又は医療機器であつて、まだ第十四条第一項若しくは第十九条の二第一項の規定による承認又は第二十三条の二第一項の規定による認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

ここも補足説明が必要なんですが、14条1項も23条の2の第1項も読んでみましたが頭痛がしそうな内容で、どうもと言うか当然のようにIPVも未承認医薬品に該当するだろうぐらいしか私には言えません。医薬品であるかどうかの基準はもう一つあるようで、平成14年8月28日付医薬発第0828014号厚生労働省医薬局長「個人輸入代行業の指導・取締り等について」に、

2 医薬品の範囲

 薬事法第2条第1項第2号又は第3号に規定する医薬品に該当するか否かについては、昭和46年6月1日薬発第476号厚生省薬務局長通知「無承認無許可医薬品の監視指導について」の中の「医薬品の範囲に関する基準」として、具体的な判断のための基準が示されているところであること。

昭和46年の通達とはえらく古いのですが、どうもそれらしいものはありました、平成19年4月17日付薬食監麻発第0417001号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長「無承認無許可医薬品監視指導マニュアルの一部改正について」の中に、

医薬品とみなす範囲は次のとおりとする。

(一) 効能効果、形状及び用法用量の如何にかかわらず、判断基準の1.に該当する成分本質(原材料)が配合又は含有されている場合は、原則として医薬品の範囲とする。

(二) 判断基準の1.に該当しない成分本質(原材料)が配合又は含有されている場合であって、以下の1.から3.に示すいずれかに該当するものにあっては、原則として医薬品とみなすものとする。

  1. 医薬品的な効能効果を標ぼうするもの
  2. アンプル形状など専ら医薬品的形状であるもの
  3. 用法用量が医薬品的であるもの

やはりIPVは該当しそうな気がします。そうなると広告は厳禁になるのですが、これもググると「やってます」のHPは散見されます。広告と解説は違うのかもしれませんが、線引きがどうなっているのか気にはなるところです。


この点をもう少し調べておきたいのですが、厚労省医薬品等の個人輸入についてから、

一般の個人が自分で使用するために輸入(いわゆる個人輸入)する場合(海外から持ち帰る場合を含む。)には、原則として、地方厚生局(厚生労働省の地方支分部局)に必要書類を提出して、営業のための輸入でないことの証明を受ける必要があります

これが医師が個人で輸入してIPV接種された場合にどう適応されるかよくわかりません。まさか実費で接種されているのでしょうか。そういうところもあるかもしれませんが、これだけ手間をかけて輸入して接種しているのですから、それなりの手数料は欲しいところです。ここについては、それ以前に医師が個人輸入した時は「どうやら」医師以外の個人が輸入した時と扱いが違っていそうだはあります。

ここも検索していくと厚労省HPにあるチラシに医師・歯科医師の方へ医薬品等の個人輸入についての注意と言うのが見つかりました。そこには、

日本の薬事法に基く承認や認証を受けていない医薬品や医療機器の宣伝広告などを行うことは、違法行為です。

医師が輸入した医薬品でも薬事法68条は適用される事が確認できます。未承認薬投与の責任については、

医師・歯科医師による医薬品等の個人輸入については、輸入者である医師・歯科医師の責任の下で使用されることを前提に輸入が認められています。

未承認薬の責任まで厚労省(国)が負わないのは当然といえば当然なんですが、神奈川県で知事の指示の下で行なわれるされる県立病院でのIPV投与の責任問題は微妙になります。知事は県が賠償責任を負わないとはしているので、賠償責任を負わない業務命令はチト珍妙になります。

そうなると整合性をつけるには、県立病院の医師(小児科医になるだろうなぁ)の中で、IPVを個人輸入し、接種したいと希望する県立病院医師に対し、その医師の責任で接種する許可を与えるになら筋はなんとか通ります。ただなんですが、そういう設定の時に接種代金の扱いはどうなるのでしょうか。

みみっちい話ですが、接種した医師が責任を負うわけですから、その代わりと言っては変かもしれませんが、ワクチン接種に伴う利潤は接種した医師に与えられるわけです。これを代金は病院収入となり、トラブル発生時の賠償責任等は医師個人では余りにも割りの合わない話になります。たぶんこれから検討するんだろうと思いますが、なかなか難しそうなお話です。


もう一つ

 医薬品の輸入については、日本国内に不正に流入することを未然に防止し、また、国民の健康被害防止の観点から、薬事法関税法の規制を受けます。

 医師・歯科医師による医薬品等の個人輸入は、以下の1.〜3.に当てはまる場合に認められます。

  1. 治療上緊急性がある
  2. 国内に代替品が流通していない
  3. 自己の責任の下、自己の患者の診断または治療のために使用する

ここの1.〜3.の条件は文意として”or”ではなく”and”と取るのが妥当です。ワクチン輸入は前例が無いわけでなく、IPV以外にも輸入され接種されているものがあるのは周知の通りです。既成事実としてはワクチン輸入は可なんですが、こういうものの運用は運用者の意思次第で解釈が変わります。おそらくこれまでは広義の解釈で承認されていましたが、神奈川県の様に厚労省に喧嘩を売るような状況なら解釈運用が変わる可能性はありうると懸念されます。

懸念の延長線上ですが、妙に話がこじれると現在のところ輸入が許可され接種されているIPVや他のワクチンに対する扱いも変わってこないかです。未承認の輸入ワクチンは規定を狭義に解釈すれば不可となります。予防医療ですから緊急性があるとは言えず、代替品として国が承認しているOPVがあり、診断にも治療にも用いられないと運用者が判断する事も可能だと言う事です。

ただ厚労省がそこまで角を立てれば、IPV待望世論に油を注ぐ事にもなりますから、今後の展開が注目されます。