ガーゼトラブル

10/8付西日本新聞より、

佐賀大病院が医療ミス 体内にガーゼ置き忘れ

 佐賀大医学部付属病院(宮崎耕治院長、佐賀市)は7日、6年前の心臓手術で当時50代(現在60代)の男性患者の体内にガーゼを置き忘れるミスがあったと発表した。患者が今年9月に体調不良を訴えて発覚。再手術による摘出は当面見送り、投薬治療を行っている。男性は入院中だが快方に向かっており、近く退院予定という。

 同病院によると、男性は2005年4月、心臓の大動脈付け根に人工血管を移植する手術を受けた。その際、医師が心臓裏側に置いた止血用の綿製ガーゼ1枚(20センチ四方)を除去しないまま縫合したという。

 今年9月、男性が発熱や全身の倦怠(けんたい)感を訴え、胸部のコンピューター断層撮影(CT)で検査した結果、ガーゼと直径約7センチの腫瘤(しゅりゅう)が確認された。男性と話し合って抗生剤投与で対処。医療費は全額、病院が負担する。

 同病院では手術の後、看護師がガーゼの枚数をチェックし、胸部エックス線検査を行ったがミスを発見できなかったという。宮崎院長は記者会見で「患者に多大な苦痛を与えたことをおわび申し上げます」と陳謝し、「退院後も男性の経過を観察し、適切な対処をしていく」と説明。再発防止策として、ガーゼの枚数測定器の導入などを検討するとしている。

ガーゼトラブルは2回ほど経験があります。断っておきますが、私は小児科医なので私がやらかしたのではなく、私が間接的な被害者としての経験です。一つ目は、受け持ち患者です。外科で手術をしてもらったのですが、術後に急に呼ばれました(古い話なので翌日だったかもしれません)。まだ手術直後で管理は外科のはずですから「なんだろう」と思いながら駆けつけると、外科の面々がずらっと並んで思いっきり渋い顔をされていました。

患者の容態自体は落ち着いているように見えましたから、術後のトラブルとも思えませんし、呼び出され方もそんな感じではありません。手術に関しては横から見ただけでまったく手も出していないので、「???」の感じです。

記憶している限り、手術自体は「イチカバチか」クラスのものではなく(試験切除だったと思います)、手術自体はスムーズに終わったはずで、治療としては術後回復すれば化学療法に入る予定です。手術担当の外科医がレントゲンを指し示すのですが、そこには一本の鮮やかな線が見えます。まだまだ駈け出しだった私は「これは何ですか?」と無邪気に聞いたら、満面の渋面をさらに渋くして「ガーゼが残っている」です。

駈け出しで無邪気だったものですから、「凄いですねぇ、ガーゼが残っているかどうかレントゲンでわかるんですか!」と言ったら、これ以上は渋く出来ないような表情になり「そうなんだが、十分に確認して・・・云々」とひとくさり説明があり、トドのつまりはこれから家族に説明するので主治医として同行してもらいたいでした。

もう一つは間接とは言え限りなく直接に近いもので、詳細はちょっと話し難いものです。ライン入りのガーゼでなかったため、取り出されるまでものは「何か」に猛烈に心配したとだけ話しておきます。


ガーゼトラブルの予防は現在では三段で行われているはずです。

    一段目・・・目視チェック
    二段目・・・枚数チェック
    三段目・・・レントゲン・チェック
簡単にだけ解説しておくと、中心は二段目になります。手法としては単純で、使ったガーゼの枚数と、取り出したガーゼの枚数を確認することです。使った枚数分だけ取り出していれば残っていないはずと言う事です。これに一段目の目視チェックが加わるのは、数え間違いの予防策です。人間のやることですから、ガーゼの枚数を数え間違っている可能性を排除できないからです。

あくまでも聞いた話ですが、大昔は目視だけでやっていた時代もあったようですし、最近まで目視だけでやっているところも確実に知っています。ステップとしては、「目視チェック → 枚数チェック」として進んだと理解した方が良いかもしれません。

三段目のレントゲンチェックは、私の経験談にあるような方法です。ガーゼだけならレントゲンには写りません。そこでガーゼにレントゲンに写るようなマーカーを入れておきます(そういうガーゼとして販売されています)。もし目視と枚数チェックを潜り抜けても、レントゲンでチェックすればガーゼが残っているかどうかは一目瞭然になります。

私も手術場から離れて長いですから、さらに四段目技術が開発されているかどうかはわかりませんが、たぶんそんなに変わっていないと思います。


今回のガーゼトラブルを起こしたのは佐賀大附属病院です。いつに起こったかというと、

    6年前の心臓手術
う〜んと思わざるを得ません。大学病院ですから三段チェックは絶対行っているでしょうし、心臓の手術ですから、術後もそれなりの回数で胸部X-pを始めとする画像検査は行われているはずです。それでも見つからなかった事になります。まさかと思いますが、レントゲンに写らないタイプのガーゼを使っていたのでしょうか。言うてもたった6年前ですし、大学病院でもあるからです。

もう一つの可能性は、写るガーゼであったが、偶然に偶然が重なって、他の部位に紛れて見えなかったはあるのかもしれません。ただ私の記憶では結構鮮やかに写るはずですから、どんな状態であれば見えないのかが想像し難いところです。記事情報だけ読むと写らないガーゼを使っていたようなフシもあり、

    胸部のコンピューター断層撮影(CT)で検査した結果、ガーゼと直径約7センチの腫瘤(しゅりゅう)が確認された
だいたいどんな画像かは想像できるのですが、多房性のcystみたいなものが見えたのだと思います。つう事は、最後の最後までガーゼのラインは確認できなかった事になりますから、ライン自体がなかった可能性は十分あります。あれは金属製ですが、極度の金属アレルギーでもあって、あえて使わなかった可能性ぐらいは考えられます。それとも製品不良??。

私は小児科医ですし、経験と言っても上記したように数少ないものですから、状態によってはライン入りのガーゼでも検出し難いときがあるのかもしれません。その辺りの経験とか情報をお持ちの方は情報下さい。原因の究明は今後の予防と対策に直結しますから重要なポイントですが、対策は記事になっています。

    再発防止策として、ガーゼの枚数測定器の導入などを検討するとしている
そんなものがあるんだと感心して探してみるとありました。
泉工医科工業株式会社が作っていまして、名前は「メラ ガーゼ付着量測定装置OBM−21(かうん太くん21)」となっています。機能は、

ガーゼを1枚ずつ投入するだけで枚数と出血量がセンサー機能で素早く、正確に表示されます。ガーゼの処理は投入と同時にポリエチレン袋に回収されるので、ほとんど血液に触れることがなくなり、感染防止に役立ちます。

ググって見ると、カウントされたガーゼは50枚ごとに袋詰めされるようで、ガーゼの使用枚数が多い手術では有用だそうです。とくに長時間の手術では、ガーゼカウントを担当する外回りナースが交替したりするので、引継ぎの時にカウントの混乱が起こることもあるそうで、一貫して数えてくれるので助かるの感想はありました。

この機械かどうかは確認できませんが、佐賀大が導入を検討するとしたのは類似の装置と考えられます。ただやはり万能とは言えない様です。大した懸念ではありませんが、人間は間違いを起こす可能性がありますが、機械物はいつ故障するかがわからないです。紹介した装置の精度、信頼性は全然わかりませんが、故障はゼロとは言えませんし、

    ガーゼを1枚ずつ投入するだけ
これがどこかで2枚になる危険性は残ると言う事です。ガーゼの使用量は手術によってはまさに膨大で、100枚単位なる事さえあると聞きます。1枚どこかで間違うと残ってしまう危険性は残ると言う事です。でもまあ、人の手によるよりも間違いは少なくなる可能性はありますから、対策として検討するのは「あり」とは思います。