n = 2 の外れ値の脳科学者

震災直前に書いていて塩漬け状態だったストックネタです。

脳科学全体を貶める気はサラサラありませんし、「n = 2」程度ならどこの業界にもおられます。医療界だって医療システム学の九大前教授の実態が、牟田口症候群の権化だったりもしています。もちろん医療システム学教授以外にも変わった方はたくさんおられます。ですからあくまでも「n = 2」の外れ値の方の紹介のつもりです。

ちなみに「n」のうちのお1人は、男根挿入による膣の形状記憶効果の主張をされた方です。この方の経歴も錚々たるものでしたが、今日の「n」はさらに凄い方です。お手軽にwikipediaから引用しておきますが、まずは経歴です。

半分ぐらいは何が凄いかわからない経歴ですが、とにかく凄そうであるのはわかります。実際にされた業績も凄いもので、

  • LISPのエキスパートとしても知られ、イェール大学大学院では、オブジェクト指向LispのTプログラミング言語により、超並列処理システムなどを構築している。カーネギーメロン大学計算機科学部に移籍後は、Common Lispの生みの親、スコット・ファールマン(Scott Fahlman)教授の下でLispプログラミングの修行をする。カーネギーメロン大学博士論文の指導教授会にもファールマンの名前が見られる。この関係か、帰国後もCommon Lispの普及に尽力し、通産省の予算でCommon Lispで記述されたWeb サーバである、Lispache サーバなどを発表している。また、Common Lispにおける動的オブジェクト指向モデルのCLOSの普及にも尽力している。
  • P2P技術開発をP2P技術の創成期から進めており総務省予算の政府予算開発などを通して、P2P技術の普及を呼び掛けている。P2P訴訟の初期の例として有名ないわゆるファイルローグ事件の裁判では「日本の健全な発展のためにP2Pを禁止すべきではない」と、東京地裁に意見書を提出している。
  • 近年、米国パートナーと独自開発したとする完全独自CODECによるP2P型次世代動画配信システムKeyHoleTVは、2007年の参議院議員選挙で大勝した民主党に利用された。開発元のコグニティブリサーチラボでは政党、思想を問わず技術をライセンスするとしている。また、地上デジタル放送難視聴問題解決技術の実証として、2007年5月24日から7月28日まで行われた在京キー局のアナログ電波区域外再送信の実験にも用いられた。

ここも実は何が凄いか殆んど実感出来ないのですが、たぶん凄いんだろうと思っています。著作活動も活発と言うか驚異的で、

著書数
2000〜2006 3
2007 5
2008 12
2009 12
2010 25
合計 57


2008年、2009年の年間12冊も凄いペースですが、2010年にはなんと25冊です。これは月に2冊のペースで本を書かれ出版されている事になります。私なぞは、死ぬまでに1冊でも本を出版したいと念じていますが、レベルが違う事を痛感させられます。2011年の分はwikipediaにも収載されていないようですが、おそらく変わらないペースで書かれているんじゃないかと思われます。



これらの著書の中に「あなたは常識に洗脳されている」と言うのがあります。2010年に出版されたものであるのは確認できます。残念ながら読んだ事がありませんので、Amazonからプレビューでわかる範囲の情報を引用してみます。とりあえず「はじめに」からですが、

 あなたは奴隷でしかない−

 私がそう言うと、「私は奴隷ではない!」と反論する人も多いのではないでしょうか。
 しかしこれは紛れもない事実です。
 私たちは一部の支配者に都合のいいように洗脳されています。私たちが気づかないように、巧みに「常識」という名を使って洗脳しているのです。

こういう書き出しになっています。この部分から推測するに「常識の嘘」論の本であろうとは考えられます。目次部分から全部で10章に分かれているようなので、章の見出しだけ引用しておきます。

    序章:あなたの脳は「常識」に縛られている
    1章:携帯電話は素晴らしい!→ 誰も言わない携帯電話の影響とは?
    2章:学校教育は子どものために必要だ → 学校教育は、奴隷を作るシステムだ
    3章:新聞やジャーナリズムは大切だ → 独自のスクープを取れないメディアはいらない 4章:環境問題は二酸化炭素の増加だ → 本当に深刻な問題は、酸素不足
    5章:紫外線による命の危険性はない → 紫外線で地球上の生物が滅びる
    6章:運動は健康にいい → 運動すると、寿命が短くなり、飢餓人口も増える
    7章:有機野菜は身体にいい → 有機野菜の「危険」を知る
    8章:日本はデフレが問題だ → 国民はデフレになるほうが嬉しい
    9章:日本は独立国である → 国際法上、日本は独立国でない

な〜るほど、見ただけで「何がかいてあるのだろう」と興味を惹かざるを得ない見出しが並んでいます。ただちょっと「キワモノ」の感じも抱かせるので、この辺は好みと言うか、売れる人は違うというところでしょうか。

内容については読んでいないので、このうちの「4章:環境問題は二酸化炭素の増加だ → 本当に深刻な問題は、酸素不足」からの引用を紹介されている、東方算法力士団ブログ様の苫米地英人、そんな酸素濃度で大丈夫か?からの情報を頼りに垣間見てみます。

東方算法力士団ブログ様の引用個所は3つですが1ヵ所だけで十分かと思われます。

 今、東京都の酸素濃度は、何%くらいだと思いますか?

 小学生のころ、大気の5分の4が窒素で、5分の1が酸素と教わったと思います。

 2010年度の理科年表によると、大気中の窒素濃度は78%、酸素濃度は21%あります。

 しかし、それは遠い昔の話になりつつあります。

 今でもアマゾンなどの熱帯雨林の地域では、酸素濃度が20%くらいのところはあるかもしれませんが、全世界で平均すると20%を切るのではないかといわれています。先進国の都市部だけで言えば、15%くらいでしょう。

 そして、東京都内の酸素濃度は、13%くらいしかない可能性さえあります。

本の中の一部の引用で批判するのはフェアでないかもしれませんが、これを読んで仰け反らない人は少ないんじゃないでしょうか。私も仰天しました。東方算法力士団ブログ様は細かなデータを挙げて反論されていますから、これとの重複を避けて反証を一つだけあげておきます。

人間の肺の中の酸素濃度は約16%であり、呼吸により取り込んだ21%の酸素との濃度差によりガス交換が行われます。つまり呼吸する酸素濃度が16%を切ると、肺の中でのガス交換ができなくなります。出来なくなるどころか、逆に体の中の酸素を呼吸により大気中に排出する事になります。一方で人間の呼吸中枢は、血中の酸素濃度が低下すると呼吸を促進する事になり、瞬く間に悪循環を引き起こす事になります。


ただ反論を書きながら思ったのですが、おそらく東方算法力士団ブログ様の反論も、私の反論も無駄であろうと言う事です。この本だけでもわかるのですが、この脳科学者にとって世の中は「一部の支配者」によって作られた虚構であるというのがスタンスです。虚構を信じさせ「常識」とさせる事で「一部の支配者」がウハウハ言っている世界ですから、酸素濃度の測定値とか、国際機関の報告など一笑に付せられそうです。

つまりは「そんなものは操作されたデータである」と言う理屈です。まあ、そう信じるのも御本人の勝手ですし、そんなストーリーのSF小説も昔読んだような気はします。ただSFはSFとして読みますが、本人が大真面目に主張されるとチト困ります。つうか周囲が困惑するかと思います。

そうそう、もうちょっと好意的に見て、本を書くときにデータの引用を単純に誤った可能性はあります。これについても東方算法力士団ブログ様は検証されています。これは「SAGE GROUP関連 アマゾン第一位作家結集・わらしべの会全国養護施設にメロンパン を送ろう」という講演での模様です。

― (以下動画中1:43-2:45より) ―

 皆さん知らないと思うけど、銀座や私のいる六本木あたりの酸素の空中の濃度は12、13%ぐらいです。

 皆さん中学・高校のときに、大気圏の酸素濃度は25%って学んだでしょう。それは嘘っぱち。アマゾンの奥地でも行かない限りは、今地球の酸素濃度ははるかに減っている。おそらく、ニューヨークや東京みたいなところは十数%台。

 おそらくこのままいくと、酸素不足の方がはるかに大きな問題である。でもなぜかCO2の方の問題ばかりしている。酸素が少なくなると何がなくなるかっていうとまずドーパミンが出なくなるのね。ドーパミンが出なくなるとどうなるかってセロトニンが出なくなるのね。もちろんプロの精神科医の方もさっきいらっしゃったけど、当然の結果としてうつになります。酸素が少ないとうつになるのね。今都会でこれだけうつ病が増えているのは単純に空気中の酸素濃度が低いからかもしれないのね。はるかに大きな問題です。(以下略)

ちょっとだけこの脳科学者先生のロジックに絡んでおきます。仮に待機中の酸素濃度が「一部の支配者」の思惑(どんな思惑か不明)で、下がっている事実が隠蔽されているとします。それでも人間は平気で生き、あまつさえ大都市ではマラソンまでが賑々しく行なわれています。そうなると酸素濃度が下がった状態に人間が完全に適応してしまっている事になります。いくら洗脳されても生理的に息苦しいのを無視する事は不可能だからです。

そうなると低い酸素濃度なりに、他の人間の生理機能も適応している事になります。日本だけでも医療者は何十万と存在し、日々呼吸状態だけではなく、様々な検査値を出しています。これが「一部の支配者」がすべて検査機械を調節しているとしても、調節された検査値でごく普通に暮らしています。一方で低酸素状態に適応しているはずの人間が、酸素濃度21%を基準にしたドパミンセロトニンの反応が出てくるのか摩訶不思議です。

単純な思い込みによるデータの誤解説もありえますが、本になっていますから、編集過程で、別に科学の素人でも「ちょっとおかしい」と感じそうなものです。そんなあまりに公知のデータを全面否定するからには、この脳科学者は本気で人類が生存し得ないはずの低酸素状態が、世界に訪れているのをで信じているとするしかなさそうです。


世の中には、この脳科学者が主張するのが真実であり、我々が見ているものはすべて虚構であると信じ込む人はいるかもしれません。なんと言っても凄い経歴であり、凄い業績を実際に残されていそうだからです。主張は自由とは言え、どんなものだろうと思わないでもありません。

それとこの脳科学者が本当に脳科学者かどうかです。wikipediaには、

計算言語学者、認知心理学者、脳科学(または機能脳科学、脳機能科学)者。

またAmazonの本の表紙には、

脳機能学者

脳科学者と脳機能科学者の違いがよくわからないのですが、もし概念的に違う学問であれば謹んで陳謝させて頂き、脳機能学者の「n = 1」と訂正させて頂きます。もう一度、念を押しておきますが、脳科学全体(もしくは脳機能学全体)を貶める意図はありません。あくまでも「n = 2」(ないしは「n = 1」)のお話です。「n = 2」以外はきっと正当の脳科学を研究されていると固く信じています。どの業界でも「n = 2」は存在し、なおかつ妙に目立つものです。

とりあえず私はこの脳科学者の本を買う気は失せました。