■最近のデータ
幼児とは定義上、1〜4歳の子どもを指します。幼児の事を考える前に、世の中にどれだけの数の不慮の事故による死亡が起こっているから人口動態統計からピックアップして見ます。
年 | 1997 | ・・・ | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
0歳 | 278 | ・・・ | 174 | 149 | 127 | 144 | 124 |
1〜4歳 | 422 | ・・・ | 236 | 207 | 177 | 163 | 148 |
5〜9歳 | 314 | ・・・ | 230 | 169 | 150 | 128 | 138 |
10〜14歳 | 185 | ・・・ | 150 | 106 | 124 | 114 | 92 |
15〜29歳 | 4223 | ・・・ | 2249 | 2011 | 1796 | 1578 | 1532 |
30〜44歳 | 2763 | ・・・ | 2529 | 2322 | 2163 | 2104 | 1997 |
45〜64歳 | 9104 | ・・・ | 7571 | 6940 | 6392 | 6217 | 5952 |
65〜79歳 | 11019 | ・・・ | 12374 | 12033 | 11945 | 11914 | 11475 |
80歳〜 | 10481 | ・・・ | 14280 | 14281 | 15049 | 15750 | 16235 |
不詳 | 97 | ・・・ | 70 | 52 | 43 | 41 | 63 |
総数 | 38886 | ・・・ | 39863 | 38270 | 37966 | 38153 | 37756 |
この表からわかる事は、不慮の事故の全体数が思いの外に多い事と、よく問題視される幼児(1〜4歳)だけではなく5〜9歳の死亡数もあんまり変わらないことです。それと絶対数自体は幼児では漸減傾向にあるようにも見えます。これは人口構成も絡んでくるので、幼児の人口数に対する割合を見てみます。
年 | 1997 | ・・・ | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 |
1〜4歳の不慮の事故 | 422 | ・・・ | 236 | 207 | 177 | 163 | 148 |
幼児人口 | 4714000 | ・・・ | 4496624 | 4378000 | 4297000 | 4259000 | 4255000 |
10万人当たり死亡率 | 9.0 | ・・・ | 5.2 | 4.7 | 4.1 | 3.8 | 3.5 |
これは間違い無く減っています。1997年には幼児人口10万人当たりで9人いたのが、2009年には3.5人になっています。また減少もの割合も確実に年々下がっています。グラフにしておくと、
- 不慮の事故は6割以上改善した
- 不慮の事故以外の原因も4割以上改善した
■温故知新
もう少し古いデータはないかと探してみたら、昭和54年版(1979年)厚生白書が出てきました。ここでは諸外国に対する幼児死亡率(幼児人口10万人対)の成績が良くないとの比較表もあったので、まず参考までに引用しておきます。
国名 | データ年 | 幼児死亡率 |
日本 | 1975 | 84.7 |
アメリカ | 1975 | 70.8 |
デンマーク | 1975 | 55.6 |
フランス | 1974 | 74.9 |
西ドイツ | 1975 | 79.0 |
イタリア | 1974 | 63.9 |
スウェーデン | 1975 | 43.9 |
イギリス | 1975 | 60.2 |
オーストラリア | 1975 | 74.9 |
データが古いのでこんなものですが、不慮の事故の発生数で幼児人口10万人対で28.5となっています。探しているともっと古いデータがあって、昭和41年(1966年)厚生白書には59.5となっています。13年間のうちに不慮の事故は半減したと言っても良いですし、幼児死亡率も161.3から84.7に半減しています。文章にするとわかり難いかと思いますので表にしておきます。
* | 厚労白書 | |
1966 | 1979 | |
幼児死亡率 | 161.3 | 84.7 |
不慮の事故 | 59.5 | 28.5 |
ちょっと面白かったのは不慮の事故以外の死因です。
1965 | 1978 | ||
原因 | 10万人対 | 原因 | 10万人対 |
総数 | 161.3 | 総数 | 84.7 |
不慮の事故 | 59.5 | 不慮の事故 | 28.5 |
肺炎 | 21.8 | 先天異常 | 10.6 |
胃腸炎 | 14.1 | 悪性新生物 | 6.3 |
赤痢 | 5.1 | 肺炎 | 5.1 |
その他 | 60.8 | 他殺 | 2.3 |
1965年データではやたらと「その他」が多いのですが、1967年から1978年の間にあたる昭和49年(1974年)厚生白書には、
1〜4歳の幼児期では,溺死が最も多く,交通事故がこれに次ぎ,この二つで,全数の約80%を占めている。
不慮の事故が約80%とは凄い数字なんですが、ここはそう受け取るのではなく、
幼児死亡の原因をみると,不慮の事故,先天異常,肺炎・気管支炎,悪性新生物などが多く,特に不慮の事故は,全死亡の5割近くを占めている。
全体の5割の不慮の事故のさらに8割が溺水と交通事故と解釈して良さそうです。溺死は日本の風呂の構造に由来するともされていますが、昭和37年(1962年)厚生白書に面白いデータが掲載されていました。
国名 | 溺死率 | |
M | F | |
日本 | 53.1 | 35.6 |
アメリカ | 6.1 | 2.7 |
西ドイツ | 13.1 | 6.2 |
フランス | 9.4 | 5.3 |
イギリス | 5.2 | 1.5 |
確かに日本の溺水での幼児死亡はダントツに高かった事が確認できます。この年の白書を見ると不慮の事故だけで81.0であり、溺死が51.2、自動車事故が18.8、天災が9.3と凄い結果が残されています。
■最近の不慮の事故の内容
私が医学生の頃には、日本では不慮の事故が多く、その中でも溺水が多いと教えられた気がします。厚労省データも中抜けが多いのですべて検証はできませんが、私を教えた教授クラスではかなり濃厚に常識として刻み込まれていたんじゃないかと思います。そりゃ、あんだけ多ければ誰でもそう思い込みます。では、では、最近はどうなっているかです。
2009 | 2008 | 2007 | 2006 | 2005 | |||||
先天奇形,変形及び染色体異常 | 160 (17.7%) |
不慮の事故 | 163 (17.2%) |
不慮の事故 | 177 (18.0%) |
不慮の事故 | 207 (19.2%) |
不慮の事故 | 236 (20.6%) |
不慮の事故 | 148 (16.4%) |
先天奇形,変形及び染色体異常 | 160 (16.9%) |
先天奇形,変形及び染色体異常 | 158 (16.1%) |
先天奇形,変形及び染色体異常 | 163 (15.1%) |
先天奇形,変形及び染色体異常 | 184 (16.1%) |
悪性新生物 | 87 (9.6%) |
悪性新生物 | 95 (10.0%) |
悪性新生物 | 85 (8.7%) |
悪性新生物 | 87 (8.1%) |
悪性新生物 | 100 (8.7%) |
心 疾 患 | 65 (7.2%) |
肺 炎 | 54 (5.7%) |
心 疾 患 | 60 (6.1%) |
心 疾 患 | 74 (6.9%) |
肺 炎 | 70 (6.1%) |
肺 炎 | 43 (4.8%) |
心 疾 患 | 52 (4.2%) |
肺 炎 | 59 (1.4%) |
肺 炎 | 56 (5.2%) |
心 疾 患 | 57 (5.0%) |
敗 血 症 | 27 (0.6%) |
敗 血 症 | 25 (2.6%) |
腸管感染症 | 24 (2.4%) |
他 殺 | 36 (3.3%) |
その他の新生物 | 26 (2.3%) |
腸管感染症 | 24 (2.7%) |
他 殺 | 23 (2.4%) |
敗 血 症 | 23 (2.3%) |
敗 血 症 | 27 (2.5%) |
他殺 | 26 (2.3%) |
インフルエンザ | 21 (2.3%) |
腸管感染症 | 19 (2.0%) |
周産期に発生した病態 | 23 (2.3%) |
インフルエンザ | 21 (2.0%) |
敗 血 症 | 22 (1.9%) |
その他の新生物 | 18 (2.0%) |
その他の新生物 | 18 (1.9%) |
インフルエンザ | 20 (2.0%) |
腸管感染症 | 20 (1.9%) |
インフルエンザ | 22 (1.9%) |
他 殺 | 14 (1.5%) |
乳幼児突然死症候群 | 15 (1.6%) |
他 殺 | 19 (1.9%) |
周産期に発生した病態 | 19 (1.8%) |
乳幼児突然死症候群 | 22 (1.9%) |
総数 | 904 | 総数 | 949 | 総数 | 981 | 総数 | 1076 | 総数 | 1144 |
「なんと!」と言う感じですが、不動の1位と思われていた不慮の事故が2009年にはついに2位になっています。これはある意味記念すべき事ではないかと思います。ここ12年間だけでも急速度に減少しているのは上記した通りですから、ついにこの日が来たのかと思わないでもありません。そうなると不慮の事故が減少した内容に関心が寄せられます。
年 | 1997 | ・・・ | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | |
不慮の事故 総数 | 422 | ・・・ | 236 | 207 | 177 | 163 | 148 | |
交通事故 | 146 | ・・・ | 71 | 70 | 62 | 46 | 45 | |
転倒・転落 | 36 | ・・・ | 21 | 15 | 15 | 16 | 18 | |
・ | スリップ,つまづき及びよろめきによる同一平面上での転倒 | 7 | ・・・ | 2 | 4 | 3 | 2 | 3 |
・ | 階段及びステップからの転落及びその上での転倒 | 4 | ・・・ | - | 2 | 1 | 2 | 1 |
・ | 建物又は建造物からの転落 | 20 | ・・・ | 12 | 7 | 10 | 8 | 11 |
・ | その他の転落 | 2 | ・・・ | 1 | - | - | 2 | - |
生物によらない機械的な力への曝露 | 2 | ・・・ | 1 | 2 | 1 | 3 | 1 | |
・ | 投げられ,投げ出され又は落下する物体による打撲 | - | ・・・ | - | - | - | 2 | - |
生物による機械的な力への曝露 | - | ・・・ | - | - | 1 | - | 1 | |
不慮の溺死及び溺水 | 121 | ・・・ | 56 | 51 | 40 | 40 | 41 | |
・ | 浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水 | 72 | ・・・ | 26 | 24 | 17 | 29 | 25 |
・ | 自然の水域内での及び自然の水域への転落による溺死及び溺水 | 16 | ・・・ | 12 | 11 | 9 | 2 | 5 |
その他の不慮の窒息 | 60 | ・・・ | 39 | 38 | 34 | 37 | 21 | |
・ | 胃内容物の誤えん | 16 | ・・・ | 15 | 7 | 7 | 8 | 3 |
・ | 気道閉塞を生じた食物の誤えん | 15 | ・・・ | 7 | 16 | 12 | 11 | 7 |
・ | 気道閉塞を生じたその他の物体の誤えん | 7 | ・・・ | 3 | 3 | 6 | 2 | 2 |
・ | 詳細不明の窒息 | 9 | ・・・ | 3 | 4 | 6 | 9 | 2 |
電流等への曝露 | 1 | ・・・ | - | - | - | - | - | |
煙、火及び火炎への曝露 | 37 | ・・・ | 37 | 21 | 15 | 8 | 15 | |
・ | 建物又は建造物内の管理されていない火への曝露 | 35 | ・・・ | 36 | 21 | 14 | 8 | 15 |
熱及び高温物質との接触 | 6 | ・・・ | 1 | 1 | 1 | 3 | 3 | |
有毒動植物との接触 | - | ・・・ | - | - | - | - | - | |
自然の力への曝露 | 8 | ・・・ | 3 | 2 | 3 | 1 | 1 | |
・ | 自然の過度の高温への曝露 | 4 | ・・・ | 2 | 2 | 3 | 1 | 1 |
・ | 自然の過度の低温への曝露 | 1 | ・・・ | 1 | - | - | - | - |
地震による受傷者 | - | ・・・ | - | - | - | - | - | |
有害物質による不慮の中毒及び有害物質への曝露 | 1 | ・・・ | 1 | 2 | - | 2 | - | |
無理ながんばり,旅行及び欠乏状態 | - | ・・・ | - | - | - | - | - | |
その他及び詳細不明の要因への不慮の曝露 | 4 | ・・・ | 6 | 5 | 5 | 7 | 2 | |
幼児人口 | 4714000 | ・・・ | 4496624 | 4378000 | 4297000 | 4259000 | 4255000 |
2005年からの減少数も目覚しいのですが、1997年から見ればもっと目覚しい事が確認できます。本当は幼児人口10万人対で示した方(表に入りませんでした)がより正確なのですが、ここまで少ないと実数でも十分に傾向はわかると思います。不慮の事故で多いのは、交通事故、溺水、窒息であり、多さの順番から言えば1997年も2009年も変わりません。しかし数は大幅に削減されています。 交通事故、溺水、窒息は1997年からの12年間のうちにどれも1/3程度に減少しています。この三大要因だけピックアップして表にしてみると、
* | 1997 | 2009 | ||||
実数 | 比率 | 三大要因の 実数、比率 |
実数 | 比率 | 三大要因の 実数、比率 |
|
総数 | 422 | * | 148 | * | ||
交通事故 | 146 | 34.6% | 327 (77.5%) |
45 | 30.4% | 107 (72.3%) |
溺水 | 121 | 28.7% | 41 | 27.7% | ||
窒息 | 60 | 14.2% | 21 | 14.2% |
こうやって並べると余計に痛感するのですが、ここまで減っていたのかとシミジミ思います。保護者及びその他関係者の長年の努力の賜物以外に言い様がないと思います。2009年の合計107人なんて、幼児人口10万人対で2.5人(1997年で6.9人)です。4万人に1人レベルのスケールのお話ですから、正直なところ、これ以上減らす事が出来るのかまで不安になります。 それでも減らせるものは減らしたいところですが、2009年の不慮の事故は全部でも148人です。148人の中で発見時に医療機関に既に搬送不要の者もあったはずです。可哀そうですが、医療機関以前のものです。また搬送されたとしてもDOAレベルのものもあったはずです。子ども生命力は強いと言っても、DOAレベル以上の者はまず救命不可能です。出来たとしても奇跡的に数人レベルがせいぜいだと思います。 救命できるのはせめてCPAレベルないし未満になります。これだって時間との戦いですが、148人のうちで何人ぐらいがCPAレベル未満なんでしょうか。そんなデータがあるはずもないので、まだ残り半分ぐらいは改善の余地はあるのでしょうか。ここについては個人レベルでは何とも言えません。 医療についてはこれぐらいにして、その他の要因ではどうかです。昔から多い事で有名であった溺水ですが、2009年で幼児人口10万当たりで1.0人です。これが多いか少ないかですが、調べてみても古いデータしかなく、あちこちで引用されているのは「どうやら」平成9年度厚生省心身障害研究小児事故とその予防に関する研究から引用されているものが多い様に思われます。データ的には1995年頃のもののようですが、参考までに出しておきます。
国名 | 溺水死亡率 | 溺水死亡率 (1962年厚労白書) |
|
M | F | ||
日本 | 3.7 | 53.1 | 35.6 |
カナダ | 3.0 | * | * |
アメリカ | 3.3 | 6.1 | 2.7 |
オーストリア | 4.8 | * | * |
フランス | 1.4 | 9.4 | 5.3 |
ドイツ | 2.5 | 13.1 | 6.2 |
ギリシャ | 0.7 | * | * |
イタリア | 0.5 | * | * |
オランダ | 2.8 | * | * |
ノルウェー | 1.7 | * | * |
スウェーデン | 1.6 | * | * |
スイス | 3.5 | * | * |
イギリス | 0.8 | 5.2 | 1.5 |
オーストラリア | 4.7 | * | * |
ニュージーランド | 4.8 | * | * |
日本(2009) | 1.0 | * | * |
現在の他国の溺水死亡率が不明のために何とも言えないところがありますが、それでも年間41人です。これ以上の減少は根絶レベルになり、それこそ入浴習慣の変更レベルになりそうな気がします。また入浴習慣を変更しても、41人のうち「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」は25人ですから、半減しても12人ぐらいがやっとじゃないでしょうか。それでもやる価値があるかどうかは、国民的合意になるでしょう。 ついでですから、平成9年度厚生省心身障害研究小児事故とその予防に関する研究の幼児の不慮の事故の死亡率を引用しておきます。これも1995年レベルのものと推測されますが、
国名 | 不慮の事故死亡率 |
スウェーデン | 5.6 |
イギリス | 5.6 |
イタリア | 6.3 |
オランダ | 6.6 |
ノルウェー | 7.4 |
ドイツ | 9.3 |
フランス | 10.2 |
カナダ | 10.3 |
ギリシャ | 11.7 |
日本 | 11.7 |
オーストリア | 12.2 |
スイス | 13.2 |
オーストラリア | 14.6 |
アメリカ | 15.9 |
ニュージーランド | 21.6 |
日本(2009) | 3.5 |
溺水と同じで比較データが古いためにこれだけでは何とも評価できません。他の国々も1995年ごろよりデータは改善していると思うのですが、こういう数値は無限に減らせるものではなく、ゼロに近づくほど減少率が鈍るはずです。たとえば1995年頃のトップのスウェーデンやイギリスが日本並みに不慮の事故を減らせば、1.7ぐらいになりますが、そこまで果たして減らせるものかと言う事です。 またスウェーデンやイギリスが1.7になったとしても日本の3.5がどれほど高いかの評価は変わってくると思います。さらに日本が1.7にするには2009年で70人程度に不慮の事故を減らす必要がありますから、そんな事は果たして可能なんだろうかの素朴な疑問が湧かないこともありません。 もう少し情報が欲しいところですが、今日はこのあたりで終わらせて頂きます。