涅槃医局の情景

情報転載の許可を頂きましたが、特定は可能な限り避ける条件ですので、日本でも屈指の有名大学医学部産婦人科医局のお話とさせて頂きます。また情報源をぼかす為に若干の脚色を加えています。

その医局から派遣されている医局員が教授を訪問されました。どうもですが、さして切羽詰った相談事ではなく、どちらかと言うと、それを口実にした御機嫌伺いみたいな感じであったようです。御機嫌伺いと言っても2年振りぐらいだったそうですから、たまには挨拶もしておこうぐらいだったのかもしれません。とにかく、ここでのポイントは教授訪問の趣旨は平和なものであったと言う事です。

教授訪問の前にたまたまなんでしょうが、最近の医局の雰囲気と言うか、教授の御機嫌についての情報が入手できたそうで、どんな感じかと言うと、

最近、転科・足抜け・ビル開業がらみの医局訪問が多いから、 医局員にアポ取られると教授は胃が痛くなるみたいです

やはり多いのですねぇ。「転科・足抜け・ビル開業」をするような連中は医局でも中堅戦力になると思いますから、この御時世では穴埋めに胃が痛くなるのはわかります。一時のどん底期よりマシの噂もありますが、中堅戦力が抜けた分の補充は容易ではなく、抜けた分をカバーするために残りの医局員の負担がさらに重くなり、それが「転科・足抜け・ビル開業」のさらなる呼び水になる悪循環がこの医局にもあるようです。

そういう教授情報を聞いていたので、ちょっとばかり覚悟して教授訪問をしたら、

ご機嫌よくあってくださいました

近況報告やら、最近大学に送った患者の状況などのやり取りがあった後、

「先生もビル開業すればいいのに!!!
 なんか勤務医なんてアホラシイじゃん」
とのざっくばらんな態度で開業勧められてしまいました。

どうも事前情報はかなり前の情報であったらしく、教授の心境は「胃が痛い」段階を通り越して涅槃状態に到達したようです。おそらくこの教授も就任した頃は、もうちょっと前向きであったはずで、何とか自分の手で医局の勢力を取り戻そうの意気込みがあったんじゃないかと思いますが、櫛の歯を引くように「転科・足抜け・ビル開業」が起こり、怒り → 取引 → 抑鬱と順調に段階を踏んで涅槃に至ったと思われます。


ここの医局ですが、教授が退官後に開業のパターンが続いているようです。続いていると言っても先々代からみたいです。医局華やかなりし頃の教授の退官後といえば、それなりの有力公立病院の院長職が花道として用意されていましたが、医局が衰退すると、そんな話は神話とか伝説に変わりつつあるようです。

教授を院長に迎える病院側のかつてのメリットは、教授が子分を引き連れて院長に就任するというのもありました。子分だけでなく、ここで院長就任を断れば、今度は医局からの派遣医師を引き上げられると言う報復も恐れられたものです。ところが医局勢力の衰退は、どちらの脅しも夢物語になってしまっているところが増え、この医局もまたそうのようです。

ここら辺の実感として、

まぁ、勤務医で一番、

    あほらしい

と思ってるのは自分でいらっしゃるのだろう。
教授職、いまや何の旨みも取り得もないツライ職でしかありません。

どうもこの教授も先代とかの例に倣って、開業を考えておられるようで、話題は開業して成功している医師の話が中心になったようです。たまたま訪問した医局員の親しい知人が開業されていたようで、これの手伝いにも行っていたそうで、「どうなっている」とか「どうしてる」の話題で妙に盛り上がったそうです。



この話のポイントは、

  1. 有名大学医学部産婦人科医局で起こった事
  2. 教授もある時期までは医局の建て直しに努力していた時期があった事
  3. 現在の教授はそれをあきらめている事
  4. 教授退官後の進路は開業が既定路線化
これぐらいは今や当たり前と感じる人もいるでしょうし、うちは違うと感じておられる人もいるでしょうし、もうすぐそうなりそうだと感じている人もおられるとは思います。個人的には信じられる実話として聞くと驚かされました。こういう内部の状況と言うか、本音の部分の認識の変化のニュアンスは外部に伝わり難いのですが、改めて聞かされると、確実に時代は進んでいる様に感じました。