カンニングの話

試験を受ける者、とくに学力に不安を抱える者にとってはカンニングは永遠の誘惑でしょう。かくいう私もやり方だけは悪友と良く話していましたし、実際に実行した悪友もいました。ただし効果はほぼゼロでした。

私の学生時代(高校、中学も含む)は、当然の様に携帯電話なんてSF小説の世界ですし、コンピュターも研究室でも行かないとお目にかかれない代物でした。手法は古典的でカンニング・ペーパー(カンペ)でしたが、カンペ方式は最終的に無理がありました。

カンペは限られた情報しか書き込む事ができません。覗き見る時のリスク云々より、どこが出題されるかを予測する方が遥かに難問で、カンペに書き込めるぐらいの量で出題が予測できるのなら、それぐらいは丸暗記していけば済む話だからです。つまりカンニング以前のヤマ張りで対応できますから、カンニングと言うリスクを冒す必然性が乏しくなります。

上記したカンニングを断行した悪友も、見事にヤマが外れ、用意したカンペを使う必要もなく(カンニングがバレる云々以前に)沈没していました。


もうちょっと大がかりなカンニングは話として聞いた事があります。これもまた古典的な手法ですが、FMトランスミッターを使うものです。服に巧妙にマイクを仕込み、小さな声で問題を読み上げ、外部に待機するものに試験内容を伝達するというものです。外部の待機者は問題を大急ぎで解き、カンニング実行者は頃合を見計らって、便所に行き、そこで解答を聞くという方法です。試験場で聞くのは難しいですからね。

この方式の問題点は協力者を必要とする事と、FMトランスミッターの到達範囲になります。FMトランスミッターの到達範囲はたかが知れています。試験会場が立派だと、協力者はよほど会場に近づかないと音声が聞き取れません。便所作戦も同様です。よほど入念な下見と、かなり大がかりな準備を行なわないと実際は難しく、昔に実行したと言う記事(つまりバレた)は読んだことがありますが、武勇伝として残っているぐらいです。

そうそう、この方式のもう一つの難点は、便所で聞いた解答をどうやって試験場に持ち込むかも難題です。聞いただけで答えられる問題なら良いですが、論述式なら便所からカンペ方式をやるか、聞いただけで記憶してしまわないといけません。試験時間の制限もありますから、試験合格に必要な情報量だけをいかに持ち込むかは容易ではありませんし、協力者の学力も問題です。


他にも古典的な方法として身代わり受験があります。学内の定期試験では無理ですが、入学試験では試験官も本人の素顔や体型を知りません。受験票の小さな顔写真ぐらいが本人確認の手段ですから、写真段階から細工をしての身代わり受験です。これも難題は誰を身代わり受験してもらうです。合格するほどの学力が必要な上に、本人にある程度似ている必要があります。

豪快な身代わり受験になると女装してみたいなものがあったとも聞きますが、実行は言うほど容易ではありません。つうのも入学試験に求められる学力と言うか知識量は、その後の学生生活・社会人生活にはあんまり関係ない事が多いからです。この辺は学部にもよりますが、適任者を探す段階で実行はなかなか容易ではないと思っています。


さてと、現在は通信手段も情報収集手段も発達は目覚しいものがあります。カンニング技術に携帯やネットを使おうと考えるものが出ても不思議は無いと思っています。断っておきますが、カンニングが悪であるのは言うまでもない事ですが、悪い行為であることは百も承知で行うのがカンニングだからです。つまりは確信犯ですから、便利なツールが出現すれば何とか利用方法を考えるのは当然かと思います。

手法はかつてのFMトランスミッター方式の現代版みたいな感じで、試験問題を携帯から送信し、解答が出たらそれを書き込む方式のようです。ここで良くわからないのは、何故に質問サイトを利用したかです。考えてみればリスキーな方式で、試験場で携帯を見るというリスクもそうなんですが、試験時間内に誰も書き込んでくれなかったら空振りになります。

また質問サイトに書き込めばカンニング行為がバレてしまいます。現実にバレて問題視されているのですが、ここから考えられるのは単独犯の可能性です。協力者が存在していれば、公開サイトを連絡場所として使う必要は無く、それこそメイルで送信すれば足がつきません。なんとなく周到な準備で行なわれたというより、切羽詰ってイチかバチかを賭けたような気もしますが、どんなものなのでしょうか。


実行者は当然の様に非難されています。カンニング行為は上記したように確信犯であり、バレたら袋叩きにされるリスクを背負うものです。そんな事はカンニング実行者には百も承知ですが、それでも行われるのがカンニングじゃないかと思っています。いわゆる「浜の真砂は尽きねども・・・」的な世界です。厳罰や精神論で根絶できるのであれば、遠の昔に無くなっているはずです。

言い方は悪いですが、技術が進歩すれば、それに伴う犯罪が必発するのと同様かと思っています。面倒ですが、これを取り締まる側も進歩が求められる訳で、永遠のイタチごっこみたいなものと思っています。御苦労様ですが取り締まる側には是が非でも頑張って欲しいと思います。当たり前ですが、殆んどすべての受験生はカンニング無しで挑んでいるからです。


説教臭くなりますが、受験生の皆様も巧妙なカンニング方法の考案に熱中されるより、やはり地道に学力をつけられる事をお勧めします。様々なカンニング法がこれまでも編み出され、これからも創作されるでしょうが、どこまで行ってもカンニングはリスクの割りに効率の悪いものだと思うからです。カンペ方式の限界は上述しましたが、携帯方式であっても効率の問題がつきまといます。

携帯方式であってもカンニングの基本手法として、

    試験問題の発信 → 協力者が解答を考える → 作成された解答を転記する
この3段階が必要です。このうち最初と最後の段階は試験官の目を盗まなくてはなりません。2回の覗き見リスクは相当高そうな気がします。さらに試験時間の問題もあります。外部に協力者の能力にもよりますが、そうそう瞬時に解答が出てくるとは限りません。外部の協力者が解答を見つけるのに時間がかかれば、今度は転記する時間が厳しくなります。

さらに言えば、外部の協力者が常に正解を出せるかの問題もあります。それだけのリスクを冒すよりも地道に勉強される方が、受験後の人生のために有意義な気が私はします。カンニングをして能力以上の背伸びをして入学しても、それが本当に自分のためになるかは、十分に考慮に値する人生のテーマだと思っています。


それにしてもふと思ったのですが、今時の事ですから試験問題もパソコンで製作され、学内のLAN内に保存されていると思います。LANも大抵はWANにどこかで接続されています。それならそのセキュリティを破って試験問題を盗み出すのは理屈の上では可能なはずです。このハッキング技術も物凄い物だそうで、セキュリティを破った上で痕跡も残さず情報だけ入手するなんて話は聞いた事があります。

セキュリティ技術も上ってますから、お伽噺かもしれませんが、そこまでの攻防戦になるとちょっと怖ろしい気がします。カンニング実行者にはそこまでの能力はなくとも、ハッカーは愉快犯みたいな面がありますから、実際にやりかなないところはある様に感じています。

もっとも凄そうな世界に見えても、これへの対策はアナログ技術で対抗できますけどね。