脳科学者

マジレスするのも如何な物かと思わないでもありませんが、mixiでバリバリの現役産婦人科女性医師の総スカン(「総」と言っても2人なんですが、どちらも著名な論客で、1人で20人前ぐらいの迫力があります)を喰らった脳科学者の意見と言うか説を紹介しておきます。ソース元は、

これが掲載されているサイトはCOBS ONLINEと言うところで、他の記事を読めば「なるほど、この手の記事が掲載される」と理解できないでもありませんが、書いているのが

北海道大学理学部卒。京都大学理学研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員、米国エール大学医学部研究員、京都大学霊長類研究助手、北海道大学医学研究科教授などを経て、人間性脳科学研究所(HNI)に就任。著書に『わがままな脳』(筑摩書房)、『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育』(講談社)など。『ほんまでっか!?TV』(フジテレビ)に出演中。

こういう御立派な肩書きを持つ「有名人」のようですから、信じる人はコロリと騙されるかもしれません。これが騙されても罪のないもの、たとえば血液型性格診断とか、シゾフレ人間・メランコ人間分類説ぐらいなら、笑っておけば良いのですが、バリバリの現役産婦人科女性医師が総スカンを喰らわせた部分は医師として触れておいた方が良いぐらいに私は思います。特定の部分だけ引用するのはアレですから、全文をチェックしておきます。まず冒頭部です。

「男は浮気する生き物」、「女は男よりカンが鋭い」なんてよく言われていますよね。実際のところ、浮気にも男女によって差があるのでしょうか?

今回は、科学的な根拠に基づいた「男女によって違う、浮気の真実」について紹介します。

教えてくださるのは、脳科学者の澤口俊之先生。浮気がバレてしまう男、浮気がバレない女……その理由は、子孫を残そうとする人間の本能にあったのです!

「浮気の真実」を「科学的根拠」によって脳科学者が解説するとなっています。問題部分と関連性は薄いのですが、覚えておいて欲しい部分は、

    その理由は、子孫を残そうとする人間の本能にあったのです!
ここをちょっと頭においておくと、問題部分にたどり着くまでの寄り道過程は楽しめます。


男の浮気は一夫多妻制の名残

「女性は男の浮気を見破るのがうまく、逆に男は気づきにくい」これは本当です。女性の脳は直感力に優れていて、細かいところにまで目が行き届くというのもあるのですが、第一に男は、浮気を隠すことにそれほど必死ではありません。「男は浮気をする生き物」なんてよく言われることがありますが、それには、人間の進化的な部分が大きく影響しているのです。

その昔、初期人類のころは一夫多妻制でした。男性は自分の遺伝子をたくさん残すために、できるだけ多くの女性に子供を産んでもらいたかったからです。一人の夫に対して複数の妻がいたほうが、妊娠確率も増えるわけなので効率も良い。今の日本は一夫一妻制ですが、1960年代の時点で、世界の85%もの民族が一夫多妻制だったということがわかっています。

つまり現代でも、一夫多妻制の要素が強く影響しているということ。そのため、男性の脳は無意識のうちに「浮気しても許されるだろう」と思ってしまうところがあり、それほど必死になって浮気を隠そうとはしないのです。

直感の鋭い女性は、そんな男性の浮気をすぐに見破りますが、これもまた一夫多妻制の名残で「男の浮気は仕方ない」と許してしまうことも多いのです。女性が男性に浮気された場合、男性よりも相手の女性を憎んだりすることがありますが、そういう理由があったのです。

脳科学者の主張する男の浮気、女の浮気の本質の違いは一夫多妻制にあるとしています。一夫多妻制が理由であるならば、これは人間の本能が理由ではなく社会制度の問題になるかと思わないでもありません。また1960年代の時点(えらくデータが古いなぁ)で世界の85%の民族が一夫多妻制であったとしても、日本がその影響を受け続けているかと言えばチト強引な様な気がします。

日本で公式に一夫一婦制になったのは明治31年(1898年)の民法改正によります。一夫多妻制の社会的影響は、明治期から大正、昭和の初期ぐらいはあったとしても、100年以上が経過して、現代に生きる人々に、未だに潜在意識として脈々と受け継がれているのかは素直に疑問です。一夫多妻制の記憶は世代を重ねる毎に薄れるのは当然ですから、理由としてはもうちょっと他のものを出しても良さそうなものです。

たとえば、生物には生存競争のために一夫多妻制を取っているものは数多くあります。人類も生物的にそういうスタイルを取ってきており、それが本能として根底に残っているぐらいの主張です。ただ生物学的説は次の項目の論旨のために少々都合が悪かったようです。


女性の浮気はバレにくい!?

一般的に、浮気をするのは男性で、女性は浮気に走りにくいというイメージがありますが、そうとは言い切れません。と言うのも、既婚女性の10%は夫以外の男性の子供を産んでいるという調査があります。女性にしても、夫よりいい遺伝子があれば、本能的にそちらに引かれる可能性があるということです。

ただし、女性の場合は浮気がバレにくい。男の直感は、仕事や学問に関しては鋭く働きますが、恋愛に関してはそれほど働かないからです。またそれに加えて、女性は浮気に関しては完ぺきに隠そうとする傾向があります。

女性の場合、夫以外の男性との間に子供ができたことがバレれば大変なこと。世間的に……という問題ではなく生物的なことで、男は自分以外の遺伝子を持った子供を養う理由がありません。むしろ、本能的に排除しようとする傾向があります。

つまり、浮気に関して多少寛大な女性に比べて、男性はそうでないということ。そのため、女性は自分と子供の命を守るために、本質的に浮気を隠すのです。

とりあえずですが、

    既婚女性の10%は夫以外の男性の子供を産んでいるという調査があります。
なかなか衝撃的な調査ですが、やはりソースが欲しいところです。私が探した範囲では2005.1.13付JANJAN「ドイツマスコミスキャン〜子どもの遺伝子検査」に、

なにしろ、専門家によれば、全体の10%近くの子どもが、公に父親とされている人物とは別の男性の血を引いていると見られている

ここもソースが無くて「専門家」によるものだそうです。JANJAN記事はドイツの話ですから、ドイツの専門家によるドイツでの調査と考えますが、脳科学者はきっと専門家の論文なりを読まれたとは考えます。まあ、どんな「専門家」であったかは興味がありますが、これ以上は追跡できなかったので、これぐらいにしておきます。


さてここの項目もサラサラと読めば人間の本能により男の浮気、女の浮気が説明できているように一見は感じます。たとえば、

    女性にしても、夫よりいい遺伝子があれば、本能的にそちらに引かれる可能性があるということです。
女性も浮気は本能的に行うという主張です。ここは良いとしても、
    女性は自分と子供の命を守るために、本質的に浮気を隠すのです。
よく注意すればここは「本質的」の表現を使っています。微妙な使い分けですが、ここの項目の暗黙の前提に婚姻制度があります。前段から巧みに振られているので気づき難いかもしれませんが、一夫多妻制にしろ一夫一婦制にしろ社会としての婚姻制度があると言う前提になっています。また女性の行動原理として、
    男は自分以外の遺伝子を持った子供を養う理由がありません。むしろ、本能的に排除しようとする傾向があります。
男が自分の子供でなければ養うのを嫌がるのは本能的で説明可能であっても、そういう姿勢の男の存在が女を浮気の隠蔽に走らせるとなれば、女は自力では子どもを養えないというのが、これもまた暗黙の前提になります。つまり女は婚姻により子どもを養う環境を男に与えられており、その婚姻としての環境を守るために浮気を巧妙に隠す傾向が強まるという理屈です。


女性の社会進出が目覚しい国では、社会と言うか古典的な婚姻による家庭制度は崩壊に向かう傾向が強くなっているとされます。そういう国では当たり前の事ですが、女性であっても子供を十分に養う経済力を持っています。そのため、愛し合って相手をパートナーとして認めれば子供を作りますが、醒めればお互いに新しいパートナーを探して別れてしまうと言う事です。

そういう離合集散が激しくなれば、制度しての婚姻制度は煩わしいものになります。そのため結婚と言う形態を取らず、日本で言えば同棲と言う形態で家庭を営みます。営むと言っても離合集散がありますから、二人が結ばれた時には複数のパートナーからの連れ子が集まっての家族形態になると言う事です。そういう世界になれば、女も婚姻と言う環境を必死になって守る必要はなくなります。

そういう世界が常識となっている世界から見れば、陳腐な話をしていると思われそうな気がします。日本だって、そう遠くない将来にそうなっても驚くような事では無いと思います。そういう世界は一夫多妻制でこそありませんが、一夫一婦制とも言い難い環境であり、なおかつそんなに歴史的に長くない変化です。どちらかと言うと生物学的本能に近いような行動ですが、脳科学者の分析としてはどんなものでしょうか。


女性はうそがうまい!?

実はここまでの説は大した話ではありません。いよいよ問題部分に入るのですが、

さらに、女性はうそも上手です。上手というのは、「偽りの記憶(フォースメモリー)」と言われていて、事実ではないにも関わらず、脳が「真実だ」と思い込んでいるがゆえに、事実のように話すことができること。

たとえば取り調べで、やってもいないことを、容疑者自身がやったと思い込んで自供してしまうことと一緒です。人が経験を話す際、次の3種類のどれかです。「真実を話すか」、「偽りを話すか」、「偽りの記憶(フォースメモリー)を話すか」……。データによると、この偽りの記憶を言えるのは、女性のほうが多い。そのため、まるでうそなどついていないかのように「浮気していない」と言い、男性も信じてしまうのです。

けれど、実は決定的に女性の浮気を見抜く方法があるのです。それは女性器の形。エッチの相手が常にひとりの男性であれば、女性器はその人に合わせて変化していきます。もしも、ほかの男性と関係をもったら、それまでの形は崩れてしまう。それによって男性は違和感を覚え、浮気されたことに気づくのです。

まとめると、男女の浮気については、人間の進化が深く関係しているということ。一夫多妻制のときの名残があるために、男はいくつになっても若い女性に走りやすく、女性は夫から排除されないために浮気を必死で隠す……。一夫一妻制になった今でも、そういった男女の本質は変わらないのです。

面倒だから省略しますが、ここも殆んどの部分は上と同じように大した話ではありません。バリバリの現役産婦人科女性医師が総スカンを喰らわしたのは、

    けれど、実は決定的に女性の浮気を見抜く方法があるのです。それは女性器の形。エッチの相手が常にひとりの男性であれば、女性器はその人に合わせて変化していきます。もしも、ほかの男性と関係をもったら、それまでの形は崩れてしまう。それによって男性は違和感を覚え、浮気されたことに気づくのです。
「そんな訳があるはずがない」です。ちょっと長いですが反論を紹介しておきます。

勘違いも甚だしい、と私は思います。

普通の場合でも、筋腫が成長している場合、感触が変わってくるでしょう。
産婦人科医の触診とある意味かわらないかもしんない!)
そのほかにも、膣壁内筋腫、卵巣腫瘍、筋腫分娩、
ありとあらゆる可能性が考えられます。

あのさ〜。
膣という、とてもやわらかく可塑性がある臓器に関して、
そこまで断言できるなんて信じられない!産婦人科医として。
意味わからない。

子供産んだばかりの妊婦に新生児児頭大のボールが入れられたとしたら、
(まぁ試みるだけで傷害罪で警察に連絡させていただきますが)
入らん。絶対入らん。入るくらいだったら誰も苦労しない。
肩甲難産の子だって引っ込めさせて手術にいける。
(ああ、それは夢の世界だっ!!!!!現実には新生児の鎖骨を折るか
お母さんの恥骨結合をざくざく切るか、帝王切開か、
なんとか引っ張り出すかしないと、赤ちゃんが死んでしまう)

変だと思ったら、相手にちゃんと産婦人科受診を促してください。
くだらない男根至上主義みたいな空想振り回すのはやめてほしいです。

まったく同感で、何を根拠にそこまで断言できるか聞いてみたいものです。細かいチェックですが、一夫多妻制を持ち出した時も、夫以外子どもが10%以上の話を持ち出したときも出典は不明ながらソースを根拠にされていました。これに対して女性器が変形するお話にはソースがありません。そうなると脳科学者の独自の説の可能性があります。

確かに女が浮気をすれば、性行為により感づく可能性はあります。ただそれはパートナー以外の男性のペニスが膣に挿入される事による形態の変化や入れ心地の変化ではありません。女の心がパートナーから浮気相手に移り、パートナーとの性行為が疎ましくなった事が一番の理由とすべきでしょう。

別に難しい理由ではなく、抱いて欲しい相手との性行為と、疎ましく思う相手との性行為では反応が異なります。パートナーは相手が「抱いて欲しい」の時期の性行為を多数行っており、その時の女の反応を熟知しているわけです。それが浮気によりパートナーとの性行為が疎ましくなれば、明らかに差が出るのは当然です。

その違和感は女の膣の状態にも変化があるかもしれませんが、これは膣の形態が浮気相手のペニスにより変わったのではなく、疎ましい相手のペニスの挿入による反応が変わっただけです。性行為中の心理変化はそれぐらいの影響を及ぼすものです。もっともらしい脳科学者が「膣の形」云々説を出せば、どこかの勘違い男が、産婦人科に「妻の膣の形の変化を診てくれ」なんて事をやらかしかねません。そりゃ、総スカンを喰らうと思います。

まあ浮気と言う行為が女の心理に影響及ぼし、パートナーとの性行為中の膣の反応(及び性交時の様々な反応)が変わるというのであればまだしもなんですが、女性器の物理的な形態が変化するとか、さらに変化した形が浮気相手のペニスで崩れるとかと主張されると、バリバリの現役産婦人科女性医師からこれぐらいのレスポンスはあるでしょう。



それにしてもこうやって見ると、脳科学って一体何なんだろうと思ってしまいます。これを書いた脳科学者がどれほどの方かはトンと存じませんが、書いている事の殆んどは脳科学と言うより社会学と言った方が相応しそうな気がします。それもあんまり詳しくなくて、非常に皮相的なものに感じます。まあ、医療界にもポジショントークを極められ、電波芸者としか思えないような方もおられますから、脳科学界にも同様の方がおられるぐらいに理解しておきます。