結論ありきであったはずの記事

1/4付Asahi.com MY TOWN神奈川より、

3分の2の病院、手術前にHIV検査 費用、患者負担も

 手術前の患者に対するエイズウイルス(HIV)検査について、朝日新聞横浜総局は県内の公的病院などを対象にアンケートをした。回答した病院の3分の2が検査を行い、一部の病院では費用を患者の全額負担にしていた。検査に保険が適用されない点を疑問視する意見が多く、費用負担に課題を抱える実情が浮かび上がった。

■保険適用求める意見

 手術前のHIV検査では昨年1月、聖隷横浜病院横浜市)がほぼ全患者に実施し、全額負担させていたことが判明。同10月には聖隷浜松病院浜松市)など系列2病院でも一部患者の全額負担が明らかになり、いずれも患者に検査費を返金することになった。

 アンケートは昨年11月下旬から12月中旬にかけて、県内の公的・大学付属の計46病院を対象に書面と電話による聞き取りで実施。12月22日までに30病院から回答があった。

 手術前にHIV検査を実施しているのは20病院に上った。いずれも病院から患者に検査を勧め、同意を取って検査していた。費用は500円〜5200円と差があった。

 厚生労働省は検査費用について「院内感染防止が目的ならば病院負担が望ましい」としているが、検査をしている全病院が「この見解を知っている」と回答。その上で、17病院は病院負担だったが、3病院が費用を患者の全額負担にしている、とした。

 患者負担にしている病院はいずれも「院内感染防止など病院の都合だけではなく、患者のために検査を実施している」と理由を説明。県南の公立病院は「HIV感染を知らずに手術を受けた場合に体力を消耗して発病を早めてしまう可能性があるなど、患者本位で実施している」とした。

 最近になって検査費用を病院負担に切り替えた病院や、新たに病院負担で検査すると回答した病院もあった。

 県東部の3病院は昨年10月から、検査費用を病院負担に切り替えた。「各種報道を受けて判断した」と説明する。

 北里大学病院は1月中旬から、院内感染防止を目的に、出血を伴う手術を受ける患者に対して病院負担で検査を始めると回答した。

 手術前のHIV検査を実施している20病院のうち、10病院から「保険適用にすべきだ」との意見が出た。いずれも、肝炎や梅毒など他の感染症検査は保険が適用されるのにHIVは適用されない現状への疑問を理由に挙げた。「手術前のHIV検査が感染の確認に大きく寄与している」という意見もあった。

 厚労省によると、2009年の1年間で国内で新たに報告されたHIV感染者数は1021人で、10年前の約2倍。増加傾向にあることを受け、医療現場ではHIVの感染リスクに対する意識が高まっているとみられる。

 運用面でもばらつきがあった。厚労省は手術の同意書とは別にHIV検査の同意書を取ることを求めており、アンケートでは16病院がそれに沿った形で行っていると回答。一方、2病院が個別の同意書ではなく、手術やほかの検査とあわせた同意書を取っていると回答した。また、別の2病院は「口頭のみで説明している」と答えた。

 検査結果も「陰性、陽性にかかわらず通知する」としたのが15病院だったのに対し、「陽性時のみ通知」「ケースバイケース」などが5病院あった。(毛利光輝、河合達郎)

     ◇

 〈手術前のHIV検査〉 一般的に手術前の患者には、医療従事者らへの感染防止を目的に肝炎や梅毒などの感染症検査が行われ、公的医療保険が適用される。一方、同じ目的で行うHIV検査は原則、保険が適用されない。肝炎などと比べ、感染リスクが低いことなどが背景にあるとみられる。厚労省は「検査費用は病院負担」との見解だが、実際には患者負担にしたり、一部で保険が適用されたりする県などもある。

この記事のアンケート問題については、うろうろドクター様がこんなアンケートに正直に答えて大丈夫?で論じられていますから私は回避します。私が問題にしたいのは、朝日がこの記事で何を主張したいかです。記事と言っても色んなジャンル分けが出来ますが、この記事はどういうジャンルに該当するかです。

見出し的には問題告発記事です。

    3分の2の病院、手術前にHIV検査 費用、患者負担も
まあこの見出しを読めば、多くの方が術前のHIV検査で「病院がよからぬ事をやっている」との感想を抱くと推測します。もちろんこの程度のマイルドな表現なら「そうは思わない」も意見としてあるでしょうし、記事と見出しは付ける人が異なるので、評価は記事を読んでの合せ技で考えるべきだの意見もあると思います。

まだ松の内ですから、ここは寛大に受け取って、問題告発記事ではなく、問題提起記事と解釈する事にします。問題提起記事だとすると、ある問題について是か非かを問う、ないしは知られざる問題点の改善を提起する必要になります。朝日が去年にやった医科研のペプチドワクチン記事も本来は問題提起記事であったはずです。

医科研記事はともかくとして、この記事で問題にしているのは何かですが、これは分かりやすくて、

これに関連する問題で、さらに問題は2つに分けられます。
  1. HIV検査は必要か否か
  2. HIV検査の費用負担は誰が行うべきか
医療的には論議以前の問題で、HIV検査は術前検査に必須であり、必須の検査は当然の事として公的保険で負担するです。では朝日が医療側の意見に副っているかと言えば、非常に姿勢は曖昧です。リード部分で、
    検査に保険が適用されない点を疑問視する意見が多く、費用負担に課題を抱える実情が浮かび上がった。
さらに小見出しに、
    保険適用求める意見
こう書くのなら、必要性の方向に論旨を展開する記事かと思いきや、記事を読んでも、こっちへフラフラ、あっちへフラフラです。記事の冒頭部にはいきなり聖隷浜松病院の返金事件があげられています。この件についての論評も控えますが、冒頭にこれがあると言う事は公的保険適用否定が趣旨かとまず思います。

次に展開しているのがアンケートの紹介で神奈川県内の46病院のうち術前のHIV検査を行っているのは20病院「も」あるとしています。さらにこの20病院のうち3病院が患者負担を求めている事を紹介した上で、厚労省の見解が紹介されています。

    院内感染防止が目的ならば病院負担が望ましい
そうなると朝日の主張は見出し部と合わせて、HIV検査をするのなら病院負担で行うべしになりそうなものです。ところが、そこからの展開の歯切れが少々悪くなっています。

医療側からの公的保険で検査を行うべきだの意見の紹介が行われています。ここはバランスを取ったと見ることも出来ますが、バランスを取っても最後に朝日の意見が出てくる必要があります。結局のところ、朝日は術前のHIV検査を行うべきと考えているのか、さらにその検査費用は誰が負担すべきかと考えているのかです。

ところが記事は話をそらします。まとめにあたる部分は、病院側の手続きの不備を攻撃しています。不備を攻撃する事自体は否定はしませんが、なぜか不備を攻撃して記事は終ります。正直なところ尻切れトンボも良いところと感じたのは私だけでしょうか。

どう考えても不思議な構成で、見出しもそうですし、記事の内容も途中まではひたすら術前のHIV検査の必要性の有無と検査費用を誰が負担すべきかについて書かれています。それについては異議は少ないと思います。そこまで書くのであれば、最後の結論部に当たるところは、術前HIV検査と費用負担についての見解でなければならないはずです。

マスコミ記事のテンプレに従うのなら、最後の結論部的なところは「有識者」の意見、もちろん記事の意図に副う有識者の意見が出てくるはずなのですが、これが出てきません。その代わりに関連する話題とは言え、HIV検査の結果の本人への通知を取り上げます。取り上げて悪くはありませんが、なんと記事は終ってしまいます。結局のところの結論は「???」です。



どう解釈するかは幅が出てきますが、こういうアンケートまで行った記事は「結論ありき」です。記事の企画としてあらかじめ結論が決められ、それに必要なパーツを集め記事を創作します。重要な点は、情報を集めてから結論を変える事は滅多に無いと言う事です。今回のような件であるなら、「病院負担が当然」も結論の選択枝であり、結論に医療側が異議があっても変更する必然性が低い次元と見ます。

とりあえず当初の結論は「病院負担が当然」であったと判断しても良さそうです。これに従って、「病院負担が原則」の厚労省見解をあげ、いちおうバランスとして病院側の公費負担にするべきであるが意見として記事になっています。おそらく両論を併記した上で、やはり「病院負担」の結論を出す予定であったと思われます。

ただ最後の結論部分で迷いが出た様に感じます。理由として考えられるのは、

  1. さすがにHIV感染は怖いから、病院負担の結論はチト拙いんじゃないか
  2. 「病院負担が当然である」の有識者意見が集められなかった
考えようによっては、この2つは融合しているかもしれません。記事の企画に従って「病院負担が当然」の意見を集めようとしても、これがサッパリ集まらず、逆に「公費で必ず行うべし」ばかりになった事態です。有識者の意見が無いと、純粋に朝日独自の主張になってしまいます。朝日独自の主張は拙いという判断と、公費負担の意見ばかりであったので「事はHIVだし、この結論じゃ・・・」みたいな展開になった可能性です。

悩んだ末の結論は「お茶を濁そう」でなかったかと推測しています。企画段階の結論は強力ですから、この趣旨は記事の中に「なんとなく織り込んだ」とし、一方で結論は書かないにしても、記事全体で術前HIV検査は病院負担が当然である事実を列挙しておいたので、本来の企画の結論は十分に盛り込めたみたいな感じです。記事の企画を問題提起型から問題発掘型に変えたぐらいの感じでしょうか。

では最後の蛇足は何かになりますが、術前HIV検査を保険でやっても良いかもしないが、現在の病院負担ないし患者負担で行っている術前HIV検査の運用が杜撰であるとの印象誘導に感じます。本当に杜撰かどうかの真相は別にして、記事を読めばそう感じるとしても良いと思います。どうしても病院は悪者の補強情報は記事の企画の最初の意図として欠かせないぐらいの判断かと思われます。



ここまで書いた時点で全然違う事が頭に浮かんでいます。子供がテストで満点を取ったとします。子供は素直に喜びますし、その喜びを親に共有してもらおうとします。ここでの親の反応です。一つのパターンとして、親も素直に喜び、子供の頑張りを褒めると言うのがあります。不思議な行動ではなく、そうする親は多いと思っています。後は子供が慢心しないように、「これからも油断せずに頑張れ」と軽く釘を刺す程度です。

ただ違うパターンになる時があります。今回満点を取った事を重視するのでなく、これまで満点を取れなかったことを重視する対応です。これまで満点を取れなかったのは、子供がサボっていた訳であり、何故に今まで取れるはずの満点が取れなかったで説教するパターンです。このパターンは満点でなく、99点でも同じで、99点を褒めるのではなく、落とした1点の理由を延々と説教するパターンとしても良いかも知れません。

この説教パターンの時には話がしばしば飛躍します。テストは勉強の分野の話のはずですが、生活態度全般まで広がる事がしばしばあります。曰く「ゲームばっかりするから」、曰く「マンガばっかり読むから」、曰く「しょうもないテレビばっかり見るから」・・・このあたりはまだ勉強と連動していますが、曰く「好き嫌いが多いから」、曰く「お手伝いをしないから」、曰く「毎朝、寝坊するから」・・・

関係ないとは言いませんが、子供にすればテストの満点とどういう関連があるんだ見たいな受け取り方になります。もう少し言えば、説教型は満点でもこの調子ですから、悪い成績なら輪をかけては推して知るべしです。そういう環境に置かれると、子供は親に何も言わなくなります。言えば説教パターンが待っているだけですから、アホらしくて言う気も起こらないです。

親子の会話がなくなるのですが、説教している親には完璧に罪悪感はないですから、会話が無くなれば今度は無理やりでも会話を求め、出てきた会話から説教パターンに持ち込んでまた満足する事になります。その親にとっては説教パターンで子供に話をするのが会話になります。


全然、今回の朝日記事と関係ないお話なんですが、なぜか連想して頭に浮かんだのがとっても不思議です。正月の酒がまだ残っているのかなぁ?