統合医療問題

前首相が所信表明演説に入れた影響かどうかは存じませんが、厚労省内ではブスブスと検討会やら何やらが執念深く続けられているようです。それはそれで政治の継続性ですからまあ良いとしても、本気で統合医療を行なうのなら、どういう形態を想定しているのか気になるところです。

医療に限らずですが、一つの仕事を行うに当たってシステムの統一は大事です。統一と言えば表現がきつすぎるのなら、一貫性としても良いかもしれません。概念の対立する複数のシステムを並立させながら仕事を行い、成果を上げるのはかなりの難事だと考えます。私も従事している現代医学でさえありえる事です。診療科と言っても、現代医学と言う大きなシステム(体系)に含まれるものなのですが、治療にあたり複数の診療科が共同で当たると言うだけでも時に混乱は生じます。

診療科の特性として重視している治療ポイントが微妙にずれる事があり、治療方針の対立が起こる事があります。これも前向きと言うか建設的な対立であれば、まだ良いのですが、後ろ向きの消極的な対立となれば、誰も手を出さない状態になったりする事があります。患者にとって非常に不利益な状態なのですが、悲しい事に絶対に起こりえないとは言えません。

もちろんこれまでの学習から、ポピュラーなケースであれば、複数の診療科の協力手順もある程度確立されているので、極端な事態に陥るケースは少ないのですが、今でも根絶されたとは言えないと考えています。現代医学同士なら、それでも大元の体系は同じですから、協力への摸索はそれでも可能なのですが、これが根本的に違う体系との協力になるとどうなるかは心配されるところです。


現代医学も民間療法・伝統療法の治療法を取り入れている歴史はあります。一番判り安いのは漢方で、温度差はあるとは言え、各診療科で広く用いられています。漢方と協力できるのであれば、他の民間療法・伝統療法とも協力可能と言われそうですが、漢方は現代医学が取り入れたのであって、協力しているとは言えないと考えています。

どういう事かと言えば、取り入れた漢方療法と言うのは、現代医学が検証し、効果を確認しただけでなく、現代医学のどのパートに使うかを確立していると言う事です。元は漢方ですが、使うときには既に現代医学の療法に組み込まれた選択枝になっていると言う事です。だから漢方を治療に用いても医療としては混乱を招きません。

現代医学に漢方を用いると言っても、これは既に現代医学の治療になっており、使用判断も、使用効果の判定も現代医学の体系で行われています。別に漢方の体系を直輸入して用いているわけではなく、完全に翻訳して、翻案して現代医学のツールとして用いていると言う事です。ですから取り入れられない漢方治療は現代医学には基本的に用いません。


私も現代医学の徒ですから、民間療法・伝統療法の中で有効なものがあったとして、これを用いる時には現代医学に翻訳され、翻案され、完全にパーツとなったものでないと用いるのが難しいと考えています。そうでない療法を併用すると、一貫した治療が非常に困難になります。もうちょっと平易に表現すると、

    医療の船頭は1人でなければならず、1人は現代医学でなければならない
何を偉そうにと反感を持たれる方もおられるかもしれませんが、立場が逆であっても同じ事が起こると思います。例えは悪いかもしれませんが、去年、嫌々ながら妙に知識が増えたホメパチを例にとって見ます。

ホメパチの基本療法はタダの砂糖粒の投与です。現代医学からすればそれ以上でもそれ以下でもありません。しかしホメパチ側は非常に有効と主張されています。ここで砂糖粒論争を繰り返す気はサラサラありませんし、済んだ論争です。ポイントはホメパチが砂糖粒を有効とし、現代医学が砂糖粒はどこまで行っても砂糖粒に過ぎないと結論している点です。

ここで疾病を治療する時にホメパチと現代医学が対等の立場で協力するとなれば入口で対立します。何を対立するかと言えば、患者の治療に砂糖粒を与えるか、現代医学の薬剤を投与するかです。実はここでも両者の妥協の道は無いこともありません。現代医学の薬剤を投与しながら、ホメパチの砂糖粒を投与するです。

疾患にもよりますが、現代医学の治療において砂糖粒が併用されても、殆んどの場合、治療には無関係です。患者心理としてホメパチの砂糖粒がさらに効果を増していると信じるのなら、これを併用するという妥協は十分に成立するかと思います。そういう患者心理と治療効果の相互作用は現代医学でもあると認めています。

ところがホメパチは砂糖粒が完全に現代医学の薬剤の代わりになりうると主張している面があります。代わりになり得ると主張しているだけでなく、現代医学の薬剤は害悪であるとの主張も明瞭になされています。現代医学サイドからは併用の可能性を見出せても、ホメパチ側からは見出せない関係としても良いと思われます。患者への治療はホメパチか現代医学の二択を迫られる関係しか成立しない事になります。

そういうホメパチと現代医学が対等の船頭で治療を行う事は非常に困難であるとしか言い様がありません。どちらかが船頭となって治療の主導権を握らなければ、治療さえ始められないのは自明の事かと思われます。



統合医療の本質の一つとして、複数の異なる体系の医療を組み合わせるというのがあります。現在の主流である現代医学と他の医療の距離は様々ではありますが、体系としては根本的に異なるとしても大げさではありません。異なる体系が協力して治療にあたるには二つ方法があると考えます。上述した通り、

  1. 現代医学の治療の一部として完全に取り込んだ上での治療
  2. 相互の医療体系が重複することなく行われる治療
1.であれば現代医学が評価できない治療はもちろんの事、現代医学の体系に切り取って移行できない治療も統合医療に適しません。治療法も様々で、ある部分を切り取って治療しても効果が期待できるものと、そうでないものがあります。その療法の体系自体を用いないと効果が発揮できない治療であるなら、現代医学は取り込めず治療に用いられないと言う事です。

あんまりホメパチを例えに出すのは新年早々、嫌なんですが、ホメパチ治療の基本は現代医学から見れば砂糖粒投与による「自然治癒」期待療法です。症状が悪化すれば「好転反応」と説明し、好転せずに死亡したらマヤズムとか何とかのホメパチ理論で患者を納得させる医療体系です。最後の納得させるあたりに魅力を感じないでもありませんが、これは取り込み様も、切り取り様も無い治療法と見ます。

2.の場合は上述したホメパチの砂糖粒と、現代医学の薬剤の併用みたいなケースがあります。ホメパチの場合は、現代医学の薬剤を否定するところに立脚基盤があるようですから、併用は不可能ですが、他の医療であるなら可能なものはあるかもしれません。


ここまで考えると、統合医療が成立するには、現代医学と棲み分けが可能かどうかがポイントの様な気がしています。つまり基本的には2.の路線です。つうのは、ある程度まで現代医学に取り込めそうな治療は既に取り込みが終わっていると考えられるからです。他の治療は取り込んだり、切り取ったりするのには無理が多いと見ることが出来ます。

現代医学の本流治療と基本的に無関係なところで施せる治療で無いと、とても統合医療として行なうのは現実的に無理と言う事です。現代医療の本流治療と摩擦を起すのが必至の治療であるなら、ホメパチのように二択治療になり、統合も何もなくなります。


もう一つ統合医療の見え難い一面があります。見え難いと言っても、あちこちに書いてあるのですが、統合医療を行なうことによって医療費を節減するというのも命題となっています。つまり統合医療を保険化することで、医療費が節減されなければならないも命題です。節減されるためには、統合医療に加えられる治療によって、現代医学が行う治療を置換し、さらに結果として医療費も安くならなければならないと言うことです。

またもやホメパチを例にしますが、砂糖粒を投与する事により、現代医学の薬剤費より安くならなければならないになります。安くなるとは、単に砂糖粒が現代医学の薬剤費より安いだけではなく、同等の治療効果を示した上でである必要も生じます。ホメパチの砂糖粒で悪化し、それをリカバリーするために現代医療の薬剤がさらに多量に投与されたのでは意味が無くなると言う事です。

この医療費削減の命題は非常に重いと考えています。統合医療に取り入れて、取り入れた分だけの医療費が上乗せになるような事態は、日本の財政事情が許しません。増大した分はどこで賄われるかといえば、消費税なり、個人所得税強化なり、国債発行なり、介護保険などの他の社会保障費の削減から出される公算が大になります。

統合医療が行なわれなくとも医療費は自然増加します。統合医療に新たな療法(民間療法・伝統医療)を保険医療として取り入れようとするならば、当然ですが、取り入れたことによる医療費の削減効果のモデルを示す必要に迫られると考えられます。これは容易な作業ではないような気がします。


なんとなくですが、前の厚労大臣ではありませんが「ミスター検討中」のまま、どっかに行ってしまうと予想しているのですが、今年に新たな展開はあるんでしょうか。そういう意味での興味は残っています。