「自然みたいな分娩」分類の再考察と野良妊婦問題

「自然みたいな分娩」分類の再考察

まず土曜日に提案した分類を再掲します。

大分類 小分類 定義 自然みたいな分娩分類
医療拒否分娩 完全派 分娩時のトラブルも自己責任で負う 原始分娩
不完全派 土壇場での医療介入を期待する
助産所分娩 無連携派 いかなる事態でも産科医療機関を頼らない 自然派分娩
消極連携派 土壇場で産科医療機関に投げる
積極連携派 状況に応じて適切に連携する 自然風分娩
産科管理分娩 一部の産科医療機関は消極連携派とする 医療管理分娩


致命的な異論・反論はなかったのですが、傾聴に値する補足意見はあり、積極的に取り入れていこうと思います。主に意見が出たのは、
  1. 助産師分娩の「無連携派」の表現、定義
  2. 産科医療機関での「自然みたいな分娩」指向の色分け
まず「無連携派」は指摘されて見れば適切な表現ではなかったと思います。「自然みたいな分娩」の分類の基本は、結局のところ産科医療、もう少しここは厳密に定義しておいた方が良いと思いますから、標準的な産科医療の介入の度合いによって変わります。「無連携派」と「消極連携派」の一番大きな違いは、土壇場オプションへの姿勢としたいと思います。

消極連携派は最終オプションとして、産科医療機関への丸投げオプションを確実に保持しているものと定義します。一方で無連携派は、丸投げオプションの行使さえ非常に消極的なものと定義します。つまり無連携派であっても産科医療機関への丸投げオプションは消極的ながら存在しますし、実際も丸投げを行います。もうちょっと明瞭に定義しておくと、

    無連携派:丸投げオプションの行使にも消極的
    消極連携派:丸投げオプションの行使は積極的
ここまで考えて思ったのですが、無連携派も消極連携派も分類するほどの大きな差は乏しく、あえて分けるほどの意義は乏しそうとして良さそうです。ですのでこのカテゴリーは無くす事にします。


医療管理分娩の分類ですが、某映画の題材の某産科医院も外形上は医療管理分娩です。実際にどんな医療管理を行われているかは詳しくないのですが、私が辛うじて耳にしているのは、帝王切開分娩を行わないのと、エコーによる分娩管理を行わない「らしい」ぐらいです。某映画の題材の某産科医院ほど極端でなくとも、「自然みたいな分娩」指向の産科医療機関はどうやらそれなりに存在するらしいと聞きます。

これを他の医療管理分娩を行う医療機関とどう区別するかになります。これが小児科医には厄介なところなんですが、上述した標準医療と言う考え方を使う事にします。この標準医療の定義も小児科医には少々難しいのですが、具体的な定義は出来れば産科医の方にお任せしたいと思います。定義が曖昧なのは遺憾ですが、標準医療からの距離が医療管理分娩の色分けになるとして考えてみます。

さてなんですが、標準医療から離れた分娩管理を行っている産科医療機関と、積極的連携を行う助産所分娩に差があるかどうかです。分類上で煩雑になるのですが、某映画の題材の某産科医院は分類として、積極連携派の助産所分娩のカテゴリーより、消極連携派のカテゴリーがより相応しいと考えます。では他の標準医療から離れた分娩管理を行っている産科医療機関も、某映画の題材の某産科医院と同じカテゴリーで良いかと言われると少々違和感を感じないでもありません。

どこまで言っても某映画の題材の某産科医院が分類上の問題になってしまうのですが、分けて考えざるを得ないと判断され、これらのエッセンスを加えた上で表を再構成します。


大分類 小分類 定義
医療拒否分娩 完全派 分娩時のトラブルも自己責任で負う
不完全派 土壇場での医療介入を期待する
助産所分娩 消極連携派 土壇場で産科医療機関を期待する
積極連携派 状況に応じて適切に連携する
産科管理分娩 非標準医療派 標準医療からかなり距離を置いた医療管理を行う
準標準医療派 標準医療から時に距離を置いた医療管理を行なう
標準医療派 標準医療に副った医療管理を行う


ただこうなると「自然みたいな分娩」の色合いで「助産所 > 産科医医療機関」の関係が崩れます。そのため上記した表を参照しながら、「自然みたいな分類」の表を新たに作る必要が出てきます。

「自然みたいな分娩」の分類(2010.11.21)
分類 医学関与 医療関与の定義
大分類 小分類
原始分娩 医療拒否分娩 完全派 分娩時のトラブルも自己責任で負う
不完全派 土壇場での医療介入を期待する
自然派分娩 助産所分娩 消極連携派 土壇場で産科医療機関を期待する
産科管理分娩 非標準医療派 標準医療からかなり距離を置いた医療管理を行う
自然風分娩 助産所分娩 積極連携派 状況に応じて適切に産科医療機関と連携する
産科管理分娩 準標準医療派 標準医療から時に距離を置いた医療管理を行なう
医療管理分娩 産科管理分娩 標準医療派 標準医療に副った医療管理を行う


これでかなり漏れが少なくなったと思います。ここで昨日出た例題2つあります。まず「VBACはどうなる?」です。JBM的に考えて、日本でVBACに対する「18分ルール」満たせる医療機関があり、そこで分娩を行えば医療管理分娩と思います。それ以外の医療機関であれば、子宮破裂への対策は無に等しい事になります。不十分な体制で安請け合いする医療機関は非標準医療派と見なされ、自然派分類になると考えます。

もう一つの例題は「母体が危機の時は?」です。ここは良くわからないのですが、原始分娩完全派の方でも妻の危機には医療機関を頼る気がしています。何故に妻と我が子で差がつくかと言われそうですが、なんとなくそんな気がしています。正直なところ「どうなんでしょう」ですが、それこそ、そういう場面に遭遇してみないとわからないでしょう。もっとも原始分娩であれ、自然派分娩であれ、土壇場では産科医療機関に駆け込むケースが多いと推測され、母体もこれに準じるぐらいと考えています。



野良妊婦問題

土曜日に定義した様に野良妊婦問題は「自然みたいな分娩」と分けて考えています。これは「自然みたいな分娩」と同次元で扱うには無理がかなりある問題だからです。では野良妊婦とはどういう風に具体的に定義されるかになります。「自然みたいな分娩」の原始分娩と同じだと言う意見もあります。外形的にやっている事は同じで、産科医療機関にかかる迷惑度も同じと言えるからです。

そうなるとまずは野良妊婦と原始分娩の違いから考察する必要があります。どこが根本的に違うかといえば、やはり基本的な信念と思います。原始分娩を行う方は「医療介入は自然で無い」と言う確固たる信念で医療管理と言う選択を放棄した方と見ることが出来ます。一方で野良妊婦は、とくに「自然」にこだわる訳ではなく、他の理由で医療管理を受けない、もしくは受けられない方と考えます。

野良妊婦になる理由としてあげられていたのは、

  • 医療機関にかかる経済的余裕が本当に無い
  • 他の経済的出資を優先し、医療機関に支払う余裕が無い
  • 社会的外聞から医療機関への受診が躊躇われる
  • 昨今の産科事情で分娩予約が取れず、そのまま流れていった
  • なんとかなるだろうの妊娠・分娩無関心派
もうちょっと整理すると、
  1. 経済的理由
  2. 社会的理由
  3. 自己理由
経済的理由への対策は国としての社会保障の問題になってきます。経済的事情にも濃淡はあるでしょうが、これに対しての適切な援助があれば、野良妊婦を減少させることは可能になります。経済的理由による野良妊婦の多くは、医療機関受診のための経済的問題がクリアされれば、医療機関への受診を行なうと考えられるからです。


社会的理由は厄介です。この中には望まぬ妊娠と言うのも含まれていると考えられ、誰にも妊娠している事を相談できない実情もあるとは考えます。これへの対策として考えられるのはまず予防は上げられます。予防と言っても今さらカビの生えた純潔教育では役にも立ちませんから、女性が身を守る避妊教育の普及は必要でしょう。

ただ予防だけで防ぎきれない問題であるのも確かです。男女の愛情は、とくにその行為の最中においては熱狂的なものであり、理性のタガが完全に吹き飛ばされる事もしばしばあります。つうか、完全に理性にコントロールされ切ったものでは、男女の愛情が成立・持続していくのは難しい部分があります。そうなると予防から零れた結果への対策もセットとして必要になります。結果への対策も社会保障の一環にはなるでしょうが、ここへの具体的な対策は私の能力の範疇を越えています。


自己理由となると、これも基本的に啓蒙・啓発になりますが、まず産科が足りない件に関しては今すぐにはどうしようもないのが実情です。それ以外の自己理由となると、基本的に啓蒙・啓発では手の及ばない部分があります。これもまた、それ以前の段階での性教育があえて言えば効果がまだ期待できます。ただ教育の効果はあくまでも限定的であり、減少には役立っても根絶は期待できません。



なんと言っても「自然みたいな分娩」に憧れる方を根絶できないとの同じ理由で、野良妊婦を根絶するのも不可能であるのは事実です。目指すべきは根絶ではなく相対的な減少になります。野良妊婦にしろ原始出産にしろ、昨日今日に発生した問題ではなく、昔から存在していたとしても差し支えないと思います。これが社会問題化している背景は、

  1. 野良妊婦数の増加
  2. 産科医療機関側の弱体化
実のところ相対的であれ、実数であれ増えているかどうかの具体的なデータは存じません。どこかにデータがあるかもしれませんが、私の手では探し出せませんでした。データとして確実に判るのは産科医療機関の弱体化です。仮に過去より野良妊婦の実数や比率が減っていたとしても、これを受け止める産科医療機関側の体力がそれ以上に衰えているとは言えそうな気がします。

野良妊婦問題の考察は不十分ですが、現実的に即応可能なのは経済的理由だけですから、とりあえず拡充整備を目指す事が重要かと思われます。最後にSeisan様のコメント紹介しておきます。

野良妊婦という領域も若干問題があって、今の日本では、金銭的理由により医療管理が受けたくても受けれない人や、社会的理由により、同様に受けたくても受けれない人たちが、結構野良化しているという現実を見なければいけないと思います。
これらの問題は、ちゃんとした対応方法を知っていれば防げる、という点にあります。
たとえば、前者であれば、役所にちゃんと申請すれば、費用補助を受けることも可能ですが、そういった方法があることすら知らない人が結構多いです。

まずは、ここからでしょうかねぇ。