ビジネス・モデル

10/15付四国新聞より、

 政府が昨年発足させた行政刷新会議。「規制・制度改革に関する分科会」の作業部会に37歳の医師が起用されることになった。部会には医学界の大御所など、そうそうたる委員が名を連ねる。そこにほぼ無名の若手医師が選ばれた理由は、「コンビニ診療」だった。

 東京都内のJR立川駅改札からわずか30秒の「ナビタスクリニック立川」の院長、久住英二医師。2008年にJR東日本の要望で駅舎内にクリニックを開設、平日の夜10時まで営業しており、通勤帰りのサラリーマンなどがコンビニ感覚で利用できる。

 06年に仲間と新宿駅西口の雑居ビルで実験的に、夜間まで診療を行う小規模な診療所を開設。平日夕方6時から夜間3時間の利用者が1日平均20人にも上ったことから、「コンビニ診療」のニーズを実感したという。

 今年2月、同クリニックを行政刷新担当相就任前の蓮舫氏が視察。日本のワクチン治療が欧米より遅れており、硬直的な医療行政の問題点を指摘する久住医師に蓮舫氏が熱心に耳を傾け、作業部会入りにつながった。

 医師不足が深刻化する一方、市民の生活スタイルの多様化に伴い、医療サービスへのニーズが変容する現代社会。「医療資源の適正配分が不可欠」と訴える久住医師は「夜間でも待ち時間が少なく、嫌な顔ひとつされずに受診できるコンビニ診療」の重要性を力説する。

 ただコスト負担などの問題も絡み、前途は不透明。「消費者中心型社会」実現の試金石として、しばし注目したい。(K)

とりあえず久住英二医師ですが1999年卒業で2006年に

    06年に仲間と新宿駅西口の雑居ビルで実験的に、夜間まで診療を行う小規模な診療所を開設
これは中間管理職様が保存されている2007年1月5日付読売記事

東京のJR新宿駅前に昨年11月、オープンした「コラボクリニック新宿」の診察時間は午後6時から3時間。リピーターも増加しており、学生たちの発想は利用者の心をつかんだようだ。

 クリニックを考案したのは、東京大学東京芸術大学などの学生約20人。東大1年の城口(きぐち)洋平さん(19)が受験生時代、かぜを引いても、昼間は学校があって病院に行きにくかった経験から、“コンビニクリニック”を思い描いていたのがきっかけだった。

 これを聞いた高校の先輩で、東大医科学研究所客員助教授の上(かみ)昌広さん(38)が関心を持ち、上さんの研究室が医療面でのアドバイスや医師の紹介などバックアップを約束。

2007年時点の記事で「昨年11月」と書いてあるから2006年の事で、場所も新宿で同じです。さらに久住医師の経歴

2005年 東京大学医科学研究所 探索医療ヒューマンネットワークシステム部門 客員研究員

こうなっていますから、コラボクリニック新宿の参加者であったと考えて良さそうです。でもってコラボクリニック新宿は中間管理職様がfollowされており、

当院は2007年12月28日をもって診療を終了いたします。

つまり2006年11月に開院し、2007年1月にメディアに取り上げられ、2007年末に閉院(廃業)したと考えられます。原因は、

    平日夕方6時から夜間3時間の利用者が1日平均20人
読売記事情報が正しければコラボクリニック新宿は午後6時から午後9時の3時間しか診察を行っていません。これは勤務医のアルバイトをアテにしたためとも考えられますが、1日20人では1年しかもたなかったと言う事のようです。この教訓を久住医師はどう活用したかになります。とりあえずは夜間の診察時間を
    平日の夜10時まで営業
さらに延長した事は確認できます。それと夜だけでは診療所の経営が困難と考えたようで昼間にも診察時間を広げています。さらに常勤医師を2人にしての体制で2008年に開業しています。どうもコラボクリニック新宿の閉院後に引き続いて開業しているようです。拡張した診察時間が現在どうなっているかですが、久住医師は主に内科、もう1人の常勤医師は小児科みたいなので、このお二人の診察時間を紹介しておきます。まず久住医師です。

診察時間 Mon Tue Wed Thu Fri Sat
午前10時〜午後1時
午前10時〜午後5時
午後3時〜午後9時 非常勤


経営者ですから労基法は関係ありませんが、診察時間だけで月・火・木・金が9時間(午前3時間、午後6時間)、水曜日は3時間ですが土曜日は連続で7時間です。もう1人の小児科医の方は、

診察時間 Mon Tue Wed Thu Fri Sat
午前10時〜午後1時
午前10時〜午後5時
午後2時〜午後3時
午後3時〜午後9時 非常勤


予防接種を常勤の小児科医がされているかどうかはHPからは不明ですが、もしそうならさらに週に2時間のdutyが増えます。ただ記事では午後10時までとなっていますが、診察時間上は受付も含めて午後9時までとなっています。これが常勤医お2人の診察時間のdutyです。小児科医の常勤の先生も共同経営者であれば労基法は関係ありませんし、長時間の診察時間で集患するのも経営戦略ではあります。まだ37歳とお若いですし。

ただ、これに非常勤医が加わります。

診察時間 Mon Tue Wed Thu Fri Sat
午前10時〜午後1時
午前10時〜午後5時
午後3時〜午後9時
2人


村重直子氏が非常勤医に名を連ねているのが面白かったですが、あの村重直子氏かどうかの確証はありません。いちおう医籍検索では該当者は1名でした。

そんな事はともかく、これだけのコマ数を非常勤医が埋めています。足してみると計43時間になります。非常勤医にはバイト料が必要なんですが、東京の相場はどれぐらいなんでしょうか。どう考えても40万円/週は下らない気がします。そうなると1ヶ月に160万円以上、下手すると200万円ぐらいのバイト費が必要になりそうです。うちのようなツブクリから見ると眩暈がしそうなバイト費用です。

クリニックの面積とか開業費用も気になるのですが、クリニックの窓10月号にありました。まず開業費用ですが、

開業資金は施設作りに1億3000万円、運営資金やそのほかに5000万円ほどかかっている。

魂消た1億8000万だそうです。またクリニックの述べ床面積は、

75坪

「ひぇ〜」です。それでも経営は順調なようで、

月間の来院数は開業初月が350人強、4カ月後が2000人、1年5カ月後は4500人と伸び

4500人か・・・結構な外来数で1日平均にすると180人ぐらいになります。180人は1人で診察すると殺人的ですが、このクリニックの外来を何診と解釈するかで変わります。形の上では2.5診ぐらいですが、なんと言っても診察時間が長大です。常勤医のお2人の週間診察時間だけでも46時間あります。46時間といえば普通の開業医の1.5倍程度になります。

非常勤の医師の枠も43時間ですから、予防接種の2時間も含めると135時間になり、時間的には4.5診ぐらいと見ることも可能です。そうなると1診あたり40人程度と見ることも可能です。

もうちょっと見方を変えると、4.5診の診察時間はありますが、4.5軒の診療所の連合かと言えばそうも言い切れません。少なくとも事務部門は一つに出来るので、その点は経費節約になるでしょうし、看護職員等も1ヶ所なので人的な融通は利くとは思います。もっとも融通は利いても、診察時間に比例しての人件費は必要ですし、夜間の人手の確保は安いとは思えません。

実質どれほどになっているのか計算が難しいのですが、それでも3軒程度の費用は必要と考えても良いかもしれません。そうなると1軒あたり60人程度と見れるのかもしれません。

売り上げ的に見ると、4500人の推定が難しいのですが、小児科もあるので内科開業医の1人当たりの平均点数の600点は微妙かもしれません。これは診察内容にも左右されるので何とも言えないところがありますが、仮に600点として2700万円ぐらいになります。

まあどの試算でもたぶん黒字でしょう。

個人的に大変だと思うのは、医師も含めての人の管理です。かなりの多人数になるのだけは間違いありませんから、これを統率管理するのは非凡な手腕が必要です。久住医師はそういう才能に恵まれた方なんだろうとは思います。うちみたいな零細クリニックでも手こずるところですから、羨ましい限りです。



ここまで読まれて、なんとなく批判的に感じられたら、それは私のツブクリの僻みが投影されたものです。基本的には成功したビジネス・モデルなので批判されるものではありません。長大な診察時間にしても、それで本人が納得して経営的に成功しているのなら、開業医としては文句のつけようが無い成功になります。莫大な開業資金の投下も、37歳と言う若さを考えると成功さえすれば回収は容易です。

ただしこれから開業を考える医師の一般的なモデルになるかと言われると難しそうな気だけはします。このビジネスモデルの真似し難い点は、

  1. 莫大な開業費用の調達
  2. 開業好適地の取得
  3. 医師の調達
  4. 職員の調達
  5. 多数の職員の統率
長時間の診察時間も実はあるのですが、それは置いといても、かなりのハイリスク開業であるのだけは間違いありません。これだけの冒険が誰にでも出来るかと言えば、少なくとも私では想像すら出来ません。

それと多数の非常勤医師がおられますが、核となるのは久住医師ともう1人の小児科医です。いわゆるグループ開業ですが、この形態も実際にやれば容易なものではありません。いろんな点で「もめやすい」のです。これも職員の統率の問題に関ってくるのですが、最初は良くとも、年数を重ねると仲違いしやすいのは聞いたことがありますし、見たこともあります。水平の医師関係は本当に難しいと思っています。

今のところは開業して2年で、経営が順調に軌道に乗り、開業資金の返済にも展望が開かれた時点なので問題はないでしょうが、10年単位で考えると大変じゃないかと心配だけはしています。


あくまでも私に置き換えてのお話ですが、開業2年で経営が軌道に乗っているのはわかりますが、今の時点では経営に専念した方が賢明な気がします。これは久住医師と私の、医師としてというか、経営者としてというか、人間としての器がそもそも違うのかもしれませんがまだ2年です。職員は常にトップを見ていますから、先頭に立って働いている姿を見せ続けるのが重要と思うからです。

とくに東京のような場所で妙に名を売れば、「有識者」としての副業が増える可能性を懸念しています。別に有識者をやるなとは言いませんが、せめてもう4〜5年は経営に専念してからの方が良いんじゃないかと思えてなりません。東京の有識者業は華やかだそうですから、それこそ足許が疎かにならないかと余計な心配をしてしまいます。

この辺は自分の物指しで、久住医師の器量を計ってはいけないんでしょうがねぇ。あんまり書くと「やっかみ」と受け取られそうなので今日はこの辺で・・・。