水の記憶へのホメパチ理論

ホメパチ医学協会が日本学術会議会長談話反論されています。言論の自由は保障されていますから、反論されてもなんら差し支えないのですが、反論を論評する自由もまた保障されています。ですからと言いたいのですが、やるには余りにも苦痛に満ちた作業です。正直なところやるだけの意味を見出すのが非常に困難です。

そこで日曜ですし手を抜いて1点だけ取り上げてみたいと思います。ホメパチの根本理論と言うか、生命線理論である「水の記憶」の理論的説明です。これについてはホメパチ側と現代科学側は真っ向から対立しています。「対立している」は極度にホメパチ側に好意的な表現ですが、現代科学側にしてみれば、天動説を強硬に主張されるより1万倍困惑する主張です。

それだけに日本学術会議に公式に否定された後にどんな理論根拠を持ち出すかは逆の意味で興味は出てくるのですが、

日本学術会議は、原材料を希釈振盪した水が「ただの水」であると断定していますが、原材料の分子が1分子もないからといって、その水に原材料の情報が何らかの形で保存されていない証拠にはなりません。記録されたDVDと何も記録されていないDVDのどちらも化学的には同じ成分です。しかし記録されたDVDには情報が保存されています。水が情報を保持すると考える根拠の一つしてノーベル物理学賞を受賞しているブライアン・ジョセフソン博士のコメントを紹介します。

DVDの例えはギャグではないようです。ちょっとだけ突っ込んでおくと、DVDの原理はwikipediaで必要にして十分ですが、

トラックに沿って、ピットと呼ばれる凹みを作ることで記録する。 読み取る際は、レーザー光線を当て、凹み有無による反射の違いを利用する。

物凄く単純に解釈すれば、アナログレコードと大元の原理は同じです。確かに「化学的」には同じ成分かもしれませんが、「物理的形状」は明らかに違います。まあ、化学的な成分が同じと言う理論を持ち出すなら、DVDを出さなくとも磁気テープでも、アナログレコードでもそんなには変わりはありませんし、ハードディスクや、フラッシュメモリでも同じです。

それでもホメパチ側の説明で確認できる事はあります。どうせ突付いたところで無駄かもしれませんが、ホメパチ側の水の記憶理論は

    化学的変化ではなく、物理的変化である
つまりDVDと同じように振ることで水に物理的変化が起こり、それが記憶となって効果が表れると言う事のようです。もちろんどんな物理的変化が水に起こっているのかは、これも切り札の必殺理論である、
    現代科学ではまだ証明できない
ついでに言えば、現代科学では証明できないが、効果は経験談としての結果が世界中に溢れかえっているとの主張に広がります。いつもながら首尾一貫していますが、聞かされる方はゲンナリと言うところです。


さてなんですが、ホメパチは自称「科学」です。科学であっても異端であると開き直ってくれれば、まだ取扱いはラクです。ホメパチ信者学者の「証明」も笑って聞き流せます。異端であっても同好の士で楽しまれる分まで口を出そうと思いません。例えればUFO研究家であるとか、ヒマラヤの雪男の研究家であるとか、日本であればツチノコ研究家みたいなものです。

ところが何故か現代科学のお墨付を躍起になって取ろうとします。今回持ち出したのは、

どこかで耳にした名前と思えば、日本の江崎玲於奈博士とノーベル賞を共同受賞した科学者です。彼の研究業績はジョセフソン効果として残されています。掛け値無しのノーベル物理学賞受賞者ですが、とりあえずwikipediaにはその後の研究の方向性に書かれています。

1973年、ジョゼフソン効果に関する研究で江崎玲於奈らと共にノーベル物理学賞を受賞。

その後、量子力学の難問に取り組みながら、生命及び精神に関する研究を行なうようになる。 エルヴィン・シュレーディンガーニールス・ボーアやヴォルフガング・パウリなどのように、ノーベル物理学賞受賞後に生命や心の研究に向かう研究者が多いが、ジョセフソンもその一人といえるだろう。

現在、キャベンディッシュ研究所、凝縮系物質理論部門において、Mind-Matter Unification Projectを推進している。

ロジャー・ペンローズなどの量子脳理論では、脳内のマイクロチューブルの中で量子状態の崩壊が起こり、意識が生じるとされているが、ジョセフソンは心や生命を説明するためには、従来の量子力学を大幅に拡張するか、もしくは全く新しい理論、新しい物理学が必要であると主張する。現代の還元主義的量子論ではなく全体的な理論が必要であり、また言語・音楽などのように定式化できないものまで含むような理論も必要であるとする。

wikipediaはまだマイルドな表現に留まっていますが、Occult for Dr.黒猫様は、ジョセフソン博士の研究の方向性についてこう評しています。

 ブライアン・ジョセフソンは超伝導でのジョセフソン効果を発見し、33歳でノーベル賞をとった。江崎玲於奈と同時受賞である。彼は教授から演習問題を与えられて、それを解く過程でジョセフソン効果を発見したのである。むろん、ずば抜けた才能があったのだろう。しかし、とてつもなく幸運な科学者でもあった。

 ジョセフソンはその後、精神世界いわゆる「オカルト」に行った。彼は1970年代の超能力ブームの時に真シュー・マニングなどの超能力者たちとあい、また彼自身、テレバシーの体験もした。これらに対する懐疑派の説明に全く納得できなかったという(ジョセフソン他『意識が開く時空の科学』)

 彼の世界観は物理学を極めただけあって、簡単に霊界などとは言わないのである。彼の世界観は、多くの霊能者やオカルティストほどはっきりしない。たぶん、彼自身、超常現象と既存の自然科学をどうすれば合致するか分からなかったのだろう。物理学者らしく、意識と観察の問題に触れる程度である。なぜ、意識の観測の問題が超常現象を引き起こすのか、どういう予測をするのか、巧く説明できていないし、それは彼も分かっているようだ。ジョセフソンの世界観は、一風変わっている。曰く、 

私は、精神が物質を生んだと考えています。私たちが宇宙だと考えているものより以前から、精神が存在していて、時間と空間は、この精神の中から、作り出されたのかも知れないと思います。

 この意味はなんだろうか。要するに、この世界の外側に「真の世界」が在って、そこにいる「偉大な精神」なり「神」なりが、この世を創っただけでなく、時々ちょっかいを出して制御しているということになろう。いわば、われわれは超越した存在の実験室の中のシミュレーションのようなものなのだ。このような考えは、SFを初めとする多くの著作に見られる考えだ。たとえばロボット至上主義の人工知能学者H・モラビックの『電脳生物たち』にも、似たようなことが、より具体的なモデルでもって書いてある。外部の存在の内部への干渉についての思索もより深い。この考えは、この世ではなく、あの世の至上論のSF版ともいえる。

 それでは、外部世界なり、あの世の構造はどうなっていると疑問に思うに違いない。外部世界を仮定すると、どうしてもその「外部世界」の「様々な法則」を知りたくなるのが物理学者というものだろうが、そのような物は分かるはずがないのである。ジョセフソンの世界観は、曖昧なまま、今に至っている。

 臨死体験を研究したキューブラー・ロス博士は、オカルトのすべてを信じてしまってオカルト界の宣伝ウーマンになったが、ジョセフソンはそうではない。ジョセフソンの知性が霊媒などの世界観を無条件に受け入れることを拒否したのだろう。ジョセフソンほどの名声があれば、証拠は少なくても思っていることを適当に、しかし粘り強く言い続けるだけで、オカルトや新興宗教界のスーパースターになれたのだろう。しかし転向してから30年以上経った今にいたっても、超心理学会にもオカルト界にも大きな影響を残していない。ジョセフソンの最大の欠点は、雄弁ではないことだ。文章を書くのも巧くないし、SF等にも詳しくない。

 ジョセフソンも年をとった。もはや、20世紀の科学に反していても超常現象に賛成したノーベル賞受賞者の一人ということで人生を終えそうだ。

超一流の発見・発明を行なった人物はしばしば暴走します。こういう人物は天才と言う言葉で括られますが、一面としては奇人変人であることも少なくないからです。超一流の発見・発明を行なうためには、しばしば常識を飛び越える必要があります。つうか当時の科学常識を飛び越える発想が閃く必要があり、さらにその閃きを具体的な形・理論にする執念深さが必要です。

その代わりにですが、ハズレも当然あるわけです。現在でもそうでしょうが、世界中で天才的な発想の下の研究は幾多も行なわれていると思います。ただそのすべてが成功するわけではありません。むしろ逆で、成功するのはほんの一握りとしても良いと思います。一つの天才の成功の影に、無数の天才的発想の挫折が死屍累々と横たわっているのが現実です。

さらに成功した天才も常に成功するわけではありません。幾多の挫折を乗り越えて最後に栄光を手にするストーリーもありますが、若き日に眩いばかりの成功を収めた後は、後は鳴かず飛ばずのケースも珍しくありません。ジョセフソン博士も33歳にしてノーベル賞を取るという天才振りを発揮はしていますが、その後は研究の隘路に入り込んでしまっていると評するのが妥当でしょう。

科学界でのジョセフソン博士の評価は、ノーベル賞の理由となったジョセフソン効果と関連する一連の研究成果には惜しみない賛辞を贈るでしょうが、その後の研究については黙殺とするのが正しい評価と言えます。

わかりやすい例えで出しておけば、シャーロック・ホームズを産み出したコナン・ドイルも、発明王として現在に名を残すトーマス・エジソンも晩年は心霊研究に傾倒しています。しかし後世の我々がドイルやエジソンを評価するのは、あくまでもホームズ作品であり、電球や蓄音機の発明です。彼らの心霊研究の業績は全く評価しません。もちろん彼らが心霊研究をしたからと言って、心霊学が現代科学として扱われる事もありません。

ノーベル賞受賞者の権威を持ち出せば、これに驚き、ひれ伏すだろうと言う意図は理解できなくもありませんが、そんなジョセフソン博士の現在の研究を根拠に、

ホメオパシーに効果があるというのは疑いようのない事実であり、事実が先にあり、上記はそれを科学的に説明するための一つのモデルであるということです。

正直なところ、現在のジョセフソン博士の研究に寄りかかるのはかえって危険と外野からは思いますが、何を持ち出そうがホメパチ協会の言論の自由ですから、放置しましょう。ホメパチ相手の論争の無駄さは、科学はホメオパシーを否定できないで余りにも明らかだからです。