24時間テレビの暴走を考える

まずは昨日と同じ助産院は安全?様の無介助分娩をテレビで?!から、

日テレで8月恒例、24時間テレビが今年もあるそうですが、8人を自宅出産された方が扱われるそうです。

それも、“毎回助産師を呼ばない”無介助分娩だそうです。

若干放送時間がずれることもあるそうですが、8月29日日曜日の朝8時くらいが予定時間だそうです。

内容は感動を押し売りして、子供から小遣い銭を巻き上げる集める24時間テレビですから「賛美」であるぐらいは推測できますが、うろうろドクター様が自宅分娩出演者のブログ(mixiらしい)を探し出してくれました。(『自宅出産』を賛美し医療不信を煽る、24時間テレビを許すな!

    今年の24時間テレビで我が家の
    8人目8回目の自宅出産
    の映像が放送されます

    もちろん家族のみでの出産です
    (毎回の事ですが助産婦さんなどはいません)

    是非見てください

    8月29日日曜日
    日テレちゃん
    朝8:00あたりに放送されます
    時間は多少前後しますが大幅には変わりません

    森三中と一緒に出演します


    出産シーンがメインではないので
    出産シーンは数分間ですが
    参考になれば幸いです

これから確認できる事は、

  1. 子ども8人の分娩がすべて自宅での無介助分娩である事
  2. 無介助分娩のシーンを放映する事
もうひとつ記事があるようで、

    今年の24時間テレビに出演しまぁ〜す

    8月29日日曜日午前中あたり
    日テレちゃん

    森三中の3人と一緒だよぉ


    今回は初めての生中継もあるのでワクワク


    自宅出産の映像もオンエアされます



    ちょっと世間の出産の常識と比べて不思議な出産シーンかも

    出産中に普通に○○が乱入


    乞うご期待

こちらで確認できる事は、

もう論評するのもウンザリですが、分娩を無介助で行なう事は法に触れる行為ではありません。ですから自己責任で無介助分娩を行なう事を止める強権は誰にもないかと考えます。ここの御家族の意見としては、「8人とも元気で生まれているので問題は無い」であるかと思われます。

医療者としてはたったの8人で問題は無いといわれても、ロシアンルーレットも8回ぐらい当たらない事もあるのと変わらない評価です。医療はあくまでも医療を受けたいと本人が考えない限り手は出しにくい面がありますから、基本的には指をくわえて見ている以外にはありません。あえて例えればエホバの輸血拒否に近いでしょうか。それでも御家族は家族の意志として無介助分娩を選ばれているのですから、これについては、これ以上はあまり言うまいと思います。


問題は何の意図で24時間テレビが出産シーンを含めて、無介助分娩をわざわざ放映するかです。24時間テレビのテーマはとにかく「感動」です。感動の作り方も一つの方向性が示されていまして、

    困難を乗り越えての達成
この手法が継続されています。この手法も33年間もやっていると、必然的にエスカレートします。恒例のイベントに芸能人マラソンがありますが、当初は芸能人がマラソンを走りぬくと言う困難さでしたが、毎年やっていると芸能人がマラソンを走りぬいても、さほどの困難と考えなくなったようです。そこでマラソンを出来そうにない芸能人が走るにエスカレートします。

走れそうにない芸能人路線は、萩本欽一氏が限界だったようで(あれも相当無理がありました)、人物の困難さ(高齢化)に限界を感じたら、今度は距離の延長を行っています。私はこの番組に興味は無いのですが、娘が好きなので起きている間はつき合わされるのですが、去年は100kmに距離が伸びていました。距離を聞いて仰天したものです。

ラソンの42.195kmでも通常人では相当どころでない無理な距離であるのに、100kmなんて死亡しかねません。日曜日の天候がどうなっているかは判りませんが、今年の夏は異様な残暑が続いています。熱中症での救急搬送も増えている事が報じられています。いつかの松村邦洋氏が生死の境をさまよいましたが、いつ起こっても不思議ない状態と言えます。

テレビ局サイドとしては、猛暑と言う悪条件が重なってくれて「タナボタ」と喜んでるかもしれませんが、ここまで来れば、かつてエスカレートの末に放送中止となった数ある我慢大会系の番組とやっている事はさほど変わりません。誰かが死ぬまでエスカレートしていくとしか言い様がありません。


出産系の感動物も、これまでしばしば取り上げられた記憶があります。生命の誕生はそれだけで人を感動させる一面がありますし、それがあるから産科医も何のかんのと言われながら頑張っているのは間違いありません。しかしこれもエスカレートしている事が良くわかります。いかに困難な状況設定で無事出産させるかのエスカレートです。

ラソンは百歩譲って芸能人のお仕事と言えばまだ理解の余地はあります。私には良くわかりませんが、24時間テレビのマラソンを走ると言う芸能界的な価値がきっとあるのだと思っています。あからさまに言えば、断るとポジションを下げたり、失ったりするのかもしれません。芸能人にとって「名を売る」は、時に命を賭ける価値があるかもしれません。

しかし出産を同列に置いて扱ってもらったら困ります。分娩に伴い突然起こるトラブルの恐ろしさは、周産期医療に携わった事のあるものなら、悪夢のような経験です。正常で安全なお産とは、分娩が終了して評価できるもので、分娩前にそうなると断言できる医療関係者はいません。

分娩がいかに危険なものであったかですが、統計の残る一番古い新生児死亡率(生後28日以内の死亡率)は明治32年(1989年)のもので1000人当たり77.9人となっています。この数字は大正期の後半になってようやく漸減傾向を示し始めますが、戦後の昭和22年(1947年)でも1000人当たり31.4人もいます。その後は確実に減少していき、最近のデータでは実に1000人当たり1.6人まで減少しています。

明治期に10人に1人弱の死亡が産科の営々たる努力の結果、1000人で1.6人まで減ったのです。妊娠22週以降の死産数を加えた周産期死亡率は昭和54年(1979年)からデータが残りますが、これも1000人当たり21.6人から現在では5.5人まで減少しています。産科による医療介入が無ければ明治並みとは言いませんが、大正から昭和初期程度の危険性に近づいても不思議とは思えません。。

また減ってもゼロではありません。さらに死亡しなかったケースも産科医も場合によっては小児科医も背中に冷や汗をたっぷりかきながら、綱渡りの様にして救命できたケースも少なくありません。綱渡りを含めて現在の数字があると言う事です。


出産は感動を呼ぶかもしれませんが、言うまでも無く人の生命がかかった行為であり、無闇に危ない橋を渡らす必然性はゼロと言う事です。報道と言う業務に就くものが、危ない橋を渡っている無介助分娩の成功を報道して周知させる必然性はゼロだと言う事です。無介助分娩でも無事出産する可能性の方が高いですが、子どもを死亡させる可能性は確実に高くなると言う事です。

自然、自然と無邪気に賛美される傾向があり、自然と一言呪文を唱えれば、天下無敵の金看板を背負ったような言動が目に付きますが、人類の歴史は自然と戦ってきた歴史でもあります。大雨や台風による水害が今年も起こっていますが、あれも自然です。水害を防ぐために、これも営々と治山治水が行なわれていますが、あれも自然への介入です。

自然災害が起こりやすいと専門家が指摘する場所に住みつく方がおられても、これを阻止する事は容易ではありません。住みつく方は自己責任かもしれませんが、これを取り上げて「スリルいっぱいの自然との夢の共存ライフ」「勇気があれば、こんなに自然が満喫できる」みたいな報道は行なうべきでないと考えますし、通常は行なわないと考えています。



まあそれでも、これは卵の名無し様からですが、

まだ予定だけで未放映ですから、そう目くじら立てなくてもw
現実に放映されてからテレビ局の首根っこをおさえて念入りに叩きのめせばよいでしょう。番組スポンサーの全国不買運動とかでw

これは一理あります。ただ事前にある程度の情報が入手できてしまえば、「忠告」は行なっても差し支えないと思います。つうか声をあげた記録を残しておかないと「誰からの指摘もなかった」としばしば開き直られますから、指摘は行なっておく必要はあるでしょう。事前に忠告があった上で放送内容に問題があれば、それこそ、

    現実に放映されてからテレビ局の首根っこをおさえて念入りに叩きのめせばよいでしょう
事前の忠告を無視した上での強行ですから、念入りに叩きのめすのに腕が鳴ることになります。でもって、現在行なわれている忠告が声として24時間テレビに届いているかですが、これはshy1221様のところに寄せられたコメントです。

某メディアの知り合いから日テレに探りを入れてもらいましたら、「少し直すらしいですが、どこまでご理解いただけるか」と言う反応だった模様。

このコメントを信じれば気になっていると言うか、忠告は届いているようです。さてどんな放送内容になるか、妙に盛り上がってしまいそうで怖いところです。まさか全部ひっくるめて壮大な釣りなんて事もあるんでしょうかねぇ。