一服の清涼剤

猛暑のお蔭で本業の方は夏の閑古鳥外来状態に突入しつつありますが、小児科の年中行事なのでそれは置いておきます。とりあえず暑くて夏バテ状態なので、一服の涼を求めて数字と格闘してみます。本当はtadano-ry様に分析して欲しいのですが、本業がお忙しいでしょうから頑張ってみます。清涼剤のモトネタは新世紀のビッグブラザー様がまとめられた【毎日新聞 平成22年3月期決算(平成21年3月期と比較)】です。

わかる人はこれで十分な清涼剤になられると思います。ただなんですが、私はもう一つどころでないぐらい分かり難い所があります。つまりこれではあんまり涼しくありません。そこでEDINETから私も情報を引っ張ってみて、素人でもわかりやすいところから攻めて見ます。

決算年月 平成18年3月 平成19年3月 平成20年3月 平成21年3月 平成22年3月
売上高 152,540 151,941 148,748 138,085 131,226
経常利益(△は損失) 536 1375 2161 △2695 310
当期純利益(△は損失) 180 282 177 △1761 332
純資産額 22,224 22,645 20,399 16,928 9,172
総資産額 170,363 173,184 167,432 161,195 157,052
従業員数 3,113 3,106 2,999 2,887 2,784
平均臨時雇用者数 409 348 290 305 345


これは本体のみの会計報告で単位は百万円です。素人目ですぐに目に付くのは売上高の減少です。4年前に較べて金額にして213億円、率にして14%の減少です。金額や率の減少も大きいのですが、落ち方がかなり強いのも確認できます。もう一つ目に付くのは純資産額の減少です。純資産とはなんぞやになりますが、wikipediaからですが、

純資産(じゅんしさん、net worth, net income)は、勘定科目の区分の一つ。会社の資産総額から負債総額を差し引いた金額を指す。

ここも会計用語の理解が難しいのですが、関係的にはこうなるそうです。

    総資産 = 純資産 + 負債
総資産といえば何か全部の財産みたいな印象も出ますが、用語的には負債、つまり借金も資産と考えるのが会計用語のようです。その負債額の方は大きな変動はないようですから、4年間で純資産を金額にして130億円、率にして58.7%の減少させています。純資産の減少がどれほどの意味を持つかは正確にはわかりませんが、これだけ減って「良いはずがなかろう」ぐらいは言えるかと思います。

ここで誰でも抱く疑問は売上高が減少しているのに平成21年3月が赤字で、なぜに平成22年3月は黒字になっているかです。

決算年月 平成21年3月 平成22年4月 対前年度減少額
売上高 138,085 131,226 6,859
売上原価 82,007 76,080 5,927
売上総利益 56,077 55,148
販売費及び一般管理費 58,661 54,886 3,775
営業利益又は営業損失 △2,584 259


ごく単純に分析すると売上高は68億5900万円減っているのですが、売上原価販売費及び一般管理費を97億200万円削減させています。前年度の赤字が25億8400万円ですから、これと売上高減少分である68億5900万円を足した分を、いわゆる経費節約でカバーしている事になります。猛烈な努力が行なわれたのはわかりますが、黒字化したからこれで安泰かと言えば素人でも疑問が出てきます。

売上高の長期低落が止まらないと、経費削減も自ずから限界が来るだろうの単純な予測です。減少する売上高で黒字を確保するには、売上高の減少分に等しい、ないしそれ以上の経費削減が求められる事になります。そんなものがいつまで続けられるだろうの懸念です。端的には今年度の決算で昨年度みたいな経費削減が可能かどうかが早くも焦点になると言う事です。なんつうても22年3月は21年3月の赤字分の3倍近い売上高の減少が起こっているからです。

今年度もまた50億円なり60億円なり、それ以上の売上高の減少があった時に、これをカバーできるだけの経費節約が果たしてできるかの疑問です。表にある限りの対前年度売上高減少額は、

決算月日 売上高 対前年度減少額
平成18年3月 152,540
平成19年3月 151,941 599
平成20年3月 148,748 3,193
平成21年3月 138,085 10,663
平成22年3月 131,226 6,859


こんな調子ですから、今年も黒字を出そうと思えば大変な努力が必要そうに思えます。あくまでもちなみになんですが、平成21年3月の落ち込みがとく大きいのですが、平成20年春に、この新聞社がめでたくタブロイド紙に御出世された事件が起こった事を反映していると推察されます。そこを考慮に入れると、平成23年3月には80億円ぐらいの売上高減少も予想は可能になります。

それにしてもこの手の会計報告の分析は難解で、平成21年度3月決算を除いて決算上は一貫して黒字です。にもかかわらず純資産は確実に減っています。負債額は上記したとおりそんなに変わっていませんから、会社の総資産のうち、借金で無い部分(純資産)が、トータルでは黒字であるにも関らずやせ細っている事になります。

企業はなぜか黒字決算でも倒産の危機は囁かれますし、単年度の赤字一発で跡形もなくなる事さえあります。逆に赤字が数年続いてもビクとしない事もあります。どうもなんですが、本当の企業体力は単純な決算での赤字黒字だけではないところにあるぐらいに解釈しておきます。ま、いろいろあるんでしょうね。



ここからの話が専門的になって非常に手強いのですが、ウォッチャーはある指標をあげて経営の厳しさを指摘しています。それは流動比率当座比率です。流動比率当座比率とはそれこそなんじゃらホイになるのですが、わかる範囲で説明してみます。流動比率からまず解説してみますが、とりあえず計算式は、

ここの会計用語の「流動」とは1年以内を意味するようで、
    流動資産・・・1年以内に現金化される資産
    流動負債・・・1年以内に支払期限の到来する返済義務
卑近な例を考えると、1年以内に返さなければならない借金が100万円あり、それに対する手持ちの現金、預金などが幾らあるかの指標です。手持ちの現金が100万円あれば100%と表現され、200万円あれば200%と表現されます。この比率が高い方が単純には経営が安定している事になります。逆に低いと借金の返済に行き詰まり資金ショートを起す危険性が高まる事になります。

当座比率とは流動比率をさらに辛く評価したものと思われます。流動比率は現金化資産と言いながら、棚卸資産や前払費用といった換金性のない資産も含まれており、これを除いた本当にすぐ換金出来る資産だけで計算したものです。具体的に当座資産として勘定されるのは、流動資産のうち「現金・預金」「受取手形」「売掛金」「(一時所有の)有価証券」となっているようです。

どれほどの流動比率当座比率が望ましいかもあり、流動比率なら200%以上、当座比率なら100%以上と言うのはあるそうです。ただ日本の企業の平均では流動比率は130%ぐらいとされ、そこを考えると少なくとも100%は必要としても良さそうな感じです。

ただ流動比率が100%を切ったから即座にアウトと言う事はないようです。決算時点の数値の評価ですから、決算後に入金される金額は考慮に入っていませんし、業種による収入構造によって評価は変わるそうです。それでも流動比率が低いと苦しいのは間違い無く、これも卑近な例で考えると、今年の借金返済が100万円あり、手持ち現金が50万円しかなければ、不足分を現金として収益をあげないとたちまち資金ショートになります。

もう一つ見方として、流動比率が低いと運転資金を借りるのも長期返済にする必要が生じます。短期返済では借りても余計に首が絞まります。ところが流動比率が低いところには金融機関も長期融資を嫌がることになるそうです。これは判りやすくて、短期の返済に苦しむ状態の会社に長期で融資しても返済の可能性が危うくなるからです。

流動比率が低くても健全と言うか、問題は少ないと見られるためには、事業本体の利益が確実に確保されると言うのが必要そうに思えます。本業が確実に収益を上げていれば、その時の決算の流動比率が低くとも返済能力はあると評価可能ですし、翌年度になれば流動比率は改善していくとも見れるからです。いわゆる将来性があるみたいな感じでしょうか。

さてこの新聞社の流動比率当座比率ですが、新世紀のビッグブラザー様への計算によると、

決算年月 平成21年3月 平成22年3月
流動資産 27,465 25,969
流動負債 38,720 47,939
流動比率 70.9% 54.2%
当座比率 44.1% 35.4%


あくまでも一般論として、流動比率当座比率も信じられないぐらい低水準だそうです。単純には今年度には480億円の返済しなければならない借金があり、これに対する手持ち現金は260億円しかない状態です。差し引きの220億円は自前で稼ぎ出すか、どこかから新たな融資を受けないとパンクすると言う事です。たしかに苦しいというより危機的、ないしは自転車操業状態に見えます。


もう一つ考え過ぎかもしれませんが、気になるところはあります。どうにもバランスシートを見るのは苦手なんですが、財務諸表の中に賃借対照表と言うのがあります。そこの流動資産のところを引用してみます。

項目 平成21年3月 平成22年3月
現金及び預金 4.828 5,346
受取手形 6,549 1,482
売掛金 5,702 10,149
商品及び製品 313 248
仕掛金 18 15
原料及び貯蔵品 604 1,589
前払い費用 743 731
繰延税金資産 1,399 1,198
仮払法人税 237 164
関係会社短期貸付金 2,360 1,198
未収入金 3,217 2,173
立替金 1,065 782
その他 1,065 782
貸倒引当金 △2,015 △1,738
流動資産合計 27,465 25,969


あくまでも素人の感想ですが、受取手形が減った代わりに得る売掛金が急増している事、原料及び貯蔵品がえらく増えているのが気になります。売掛金とは俗に言う「ツケで貸している」状態ぐらいでそんなに間違いでないと思っています。新聞社なら販売店への新聞代金ぐらいが思い浮かびますが、ここも素朴な疑問として、売上高が減っているのになぜに売掛金がこんなに増えるのであろうです。

何と言っても57億円が101億円に急増ですから、考えられるのは売掛金の回収が滞っているのか、それとも決算期に当たり強引にでも売り込んで、売掛代金として帳簿上増やしている様に見えなくもありません。どうなんでしょうね、真相は知りませんけど。

また営業成績であれほど経費節減に励んでいるにも関らず、原料及び貯蔵品がなぜに増えているのかも不思議といえば不思議です。この分類にある「原料」とは何か、「貯蔵品」とは何かが明示されていないので不明なんですが、なんと言っても新聞社ですから、急遽買い占めみたいな物品が思い浮かびません。金額にして10億円ほどですが、気になるのは気になります。


清涼剤にしては、本当に涼しくなるのにかなりの努力が必要なんですが、それでも努力に比例してかなり涼しくなれそうです。もうちょっと知識があれば気分爽快レベルまで行けるはずだと思っているのですが、その点は非常に悔しいところです。