ストライサンド効果

こういうものがあるそうです。これを拾ったのは忘却からの帰還様のサイモン・シンを訴えたことで自爆する英国カイロプラクティック協会を読んだ時です。リンク先のお話は、詳しくは知らないのですがサイモン・シン氏と言うサイエンス・ジャーナリストが出版した本(代替医療のトリック)に対し、英国カイロプラクティック協会が名誉毀損訴訟を起した事による一連の騒ぎのようです。

名誉毀損訴訟がキッカケになり、カイロプラスティックに疑問を感じる人たちが大挙として動き出し、

英国のカイロプラクターの4人に1人が、英国広告基準協議会の判例に違反したとしてサイモン・シンの支持者たちから苦情を申し立てられ調査対象となっている。

問題は本当にカイロプラスティックが効果があるかどうかにまで進み、なおかつ効果の殆んどが否定される事態になり、英国のカイロプラスティック自体が壊滅の危機に瀕するみたいな展開になっている事を伝えています。

それはそれで興味深いのですが、肝心のストライサンド効果に関する下りですが、

Privately, a number of chiropractors have expressed unhappiness at the way the BCA, General Chiropractic Council and other professional associations have carried themselves over the past year, and lay the blame for the crisis firmly at their doors. In communications with me they have said the organisations' attempts to "medicalise" a form of alternative medicine have backfired. One remarked: "I am sure when the dust settles the BCA will lose a lot of members [...] Suing Simon was worse than any Streisand effect and chiropractors know it and can do nothing about it."

少なからぬカイロプラクターたちが個人的には英国カイロプラクティック協会やカイロプラクティック評議会やその他のカイロプラクティック業界団体の昨年来のやり方に不満を表明し、危機について批難をしてきた。私とのコミュニケーションで、彼らは代替医療を「医療」の対象にしようとした業界団体の試みが逆効果になったと言う。そのなかの一人は「この騒動が終わったとき、英国カイロプラクティック協会は多くの会員を失うだろう。 ... サイモン・シンを訴えたことは、どんなストライサンド効果より悪く、カイロプラクターたちはそれを知っていて、しかもそれについて何もできない」と述べた。

サイモン・シンの事件では、事態の展開に慌てた英国カイロプラクティック協会の会員へのメイルがストライサンド効果を増幅したとしています。どんなメイルかと言うと、

"If you have a website, take it down NOW.

"REMOVE all the blue MCA [McTimoney Chiropractic Association] patient information leaflets, or any patient information leaflets of your own that state you treat whiplash, colic or other childhood problems in your clinic or at any other site where they might be displayed with your contact details on them. DO NOT USE them until further notice."

ウェブサイトを持っているなら、ただちに閉じるように。

すべてのブルーMCA患者情報リーフレットや、あなたが鞭打ち症・疝痛・子供の病気を治療すると主張するあなた自身の患者情報リーフレットを、あなたのクリニックあるいは、あなたのコンタクト情報が書かれたほかの場所からも撤去すること。次の通達があるまで使わないこと。

これはサイモン・シンの支持者がカイロプラステックのHPを手当たり次第チェックし、英国広告基準協議会の判例に違反しているかどうかを報告している事への対抗処置です。これによって沈静化を図ろうとした事がウェブに広まり、さらに騒ぎに火が付いたのも「ストライサンド効果」としているようです。


このストライサンド効果の「ストライサンド」とは、女優のバーバラ・ストライサンドに因んでいます。ある写真家が風景写真を発表したところ、そこにバーバラ・ストライサンドの自宅が写っており、これで自宅の所在が明らかになるのを怖れたバーバラ・ストライサンドが削除を求めます。削除の要請がウェブに広がるや否や、その風景写真はネズミ算式にコピペされ拡散し、自宅の写真は瞬く間に広く知られる事に由来しています。

これが転じて、

    インターネット上で情報を隠蔽しようとすると、その隠蔽行為が逆に注目を集めてしまい、隠蔽しようとしていた情報がよりインターネット上で拡散してしまうこと。
これぐらいのニュアンスでストライサンド効果と言う言葉は使われるようです。実に面白いと言うか、私が知らなかっただけで既に広く使われているのかもしれませんが、ネットの特色をよく表しています。もちろん日本でも確実にストライザンド効果は発生しており、記憶に残る典型的なものとして変態記事事件があります。

あの事件の経緯を大雑把にまとめると、

  1. ネットで火が付いた変態記事を突然削除
  2. 謝罪と言いながら開き直る
  3. 謝罪社告を出しながら実は杜撰
他にもありますが、何かをするたびにネットに火が付き、沈静させようとする新聞社側の思惑がことごとく外れていったのは鮮明に覚えています。一度植えつけられた不信は新聞社側が何を弁明しても疑惑の目で見られただけでなく、それを検証しようとする人間が雲霞のように集まり、そのウソが暴かれてさらに事態が悪化する悪循環に完全にはまっていました。

医師の中で記憶に強く残っているものに奈良大淀病院事件があります。その中でもカルテ流出疑惑にまつわる騒動はストライサンド効果に該当すると考えられ、衝撃的な第一報の前にカルテを入手していたにも関らず、これを入手していないと言い切った上での工作は、凄まじい反響をネットに起しています。

私が上げた日本の例はストライサンド効果に厳密にあてはまらないかもしれませんが、個人的にストライザンド効果はもう少し広義に取っても良いと思っています。単なる言い換えに近いとも言われそうですが、

    インターネット上のみならず、姑息な情報操作を行なおうとしている事がネットに広がると、その行為に注目が集まり、裏の裏まで情報を穿り返そうとする人間が雲霞の如く集まり、情報が速やかに拡散する。
一旦そういう状態に陥ると既製マスコミであってもコントロール不能になり、次か次へと隠されていた情報が露見し、さらにその事が新たな燃料になり燃え盛る事になります。日本のネット用語なら「祭り」に極めて近い状態と思われます。



・・・・・・そっか、そっか、日本の「祭り」とストライサンド効果は近いんじゃなくて同じなんだ。違いはネーミングだけであって、洋の東西を問わず、インターネットと言う情報装置に対する人間の普遍反応と言い切ってもよさそうです。これは多分ですが、ネットが普及した国ではどこでも同じような現象が起こり、その語圏で何らかのネーミングが行なわれているとして良さそうです。

それでもストライサンド効果は使い道がありそうな言葉だと思います。日本の「祭り」も短切に状態を表現していて個人的には大好きなんですが、これもまた世界共通現象としても良い既成マスコミのネット敵視の影響が及んでいます。ネット用語を貶め、「祭り」も起こる事が誹謗中傷の巣みたいなプロパガンダが為されています。

もちろん祭りも正の面だけではなく、負の面をふんだんに含む社会現象です。しかし負の面だけを切り取って強調されるがために、正の面に対する評価は殆んどなされません。ネット情報は常に玉石混交で、その中から玉を拾い上げるのが本質のはずですが、瓦礫が多い事のみを攻撃されるのは、これもまた既成マスコミの常套手段です。

そのため「祭り」と言う用語もマイナスイメージが強く植えつけられている面があります。なんとなくストライサンド効果も向こうではそう扱われているような気がしないでもありませんが、日本でも「祭り」を少しかしこまった文章で使うのは、状況によっては気を使う時はあります。そういう時にストライサンド効果を持ち出しておけば、なんとなくもっともらしくて使い勝手が良さそうな気がします。

外来用語は現在ですら「なんとなく」「もっともらしい」と思われるところがあり、「祭り」とすればネット用語として鼻白む人も、ストライザンド効果、もしくはストライサンド・エフェクト(Streisand Effect)と表現すれば、何か学術用語の様に受け取って尊重するアホらしい面は間違い無くあります。「○○とハサミは使いよう」の諺はここでも生きていると言うところでしょうか。

案外なんですが、向こうでもストライサンド効果と言えば、同じようにネット用語として鼻白まれ、かしこまった場では「MATSURI」として表現しているみたいなブラックジョークが成立しているかもしれません。そういうところも普遍性はありそうですからね。

とりあえず私も覚えておいて、時と場合に応じてひょいと出す事にしておきます。単なる衒学趣味ですが、衒学趣味は時に大きな効果を呼ぶ事がありますから、皆様も覚えておいて損は無いと思います。さらに都合のよい事に、現在のところ日本語wikipediaにストライサンド効果は無いようで、語源のwiki英語版のみです。そういうところも衒学趣味的にはポイントが高そうなところです