参議院選挙余話

政治ネタはそこそこにしたいのですが、もう1回ぐらい軽いのは良いでしょう。統計ネタの分析が間に合っていないと言う実情もご斟酌下さい。とにもかくにも1年前より与党に宜しくない状態でねじれ国会が再現したのが選挙の結果です。次の総選挙もにらんでの合従連衡がどれだけ展開されるかは見てのお楽しみと言うところでしょうか。その辺については色んな見解や実際の思惑が永田町に渦巻いているでしょうが、今日はほんの余話としておきます。

今回の選挙の大物落選の筆頭に上げられるのが千葉法務大臣。現職閣僚の落選を調べてもなかなか適当なのが見つからなかったのですが、7/12付時事通信に短いのがありました。

もっとあったようにも思いましたが、最近20年間で千葉法相を含めて6人、最近10年では千葉法相ただ1人と言う事のようです。そうなると私の記憶に頼らないといけませんが、覚えている限り落選された大臣はすべて辞職されていたはずです。言ったら悪いですが、政治家ならもちろんの事、政治屋であってもそれが最低限の矜持と思っています。

もちろん議員でなくとも大臣就任は可能です。法制上はこれまでの議員閣僚から民間人閣僚に身分を変えればOKで、辞職しなければ「ならない」はありませんが、非常に違和感を感じてしまうところです。つうのは議員が選挙の審判を受けると言うのは非常に重い意味合いがあります。大野伴睦が残した名言があります。

    猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ
それぐらい当選するか落選するかで天と地ほど違うのが代議士です。政治家であれ、政治屋であれ落選は非常に深刻なダメージを受けます。落選後の選択はそのまま政界を引退するか、それとも捲土重来を期するかの二択になると言い切っても良いかと思います。

さて千葉法相の敗戦の弁も奮っています。7/12付神奈川新聞からですが、

死刑廃止や選択的夫婦別姓制度など千葉さんの取り組みが一部の他陣営によりネガティブキャンペーンに使われたことなども一因

他にも菅総理の消費税発言やみんなの党の躍進もあげていますが、それは相対的な選挙分析ですが、千葉法相自体の敗因は「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」に対しての

こうであると仰っておられます。これは言葉の使い方がおかしいんではないでしょうか。これはフレッシュペディアからですが、

相手の政策上の欠点や人格上の問題点を批判して信頼を失わせる選挙戦術のこと。また、広告(マスコミ)により人物や組織などに対してあら探しをして攻撃される行為もネガティブ・キャンペーンと呼ばれる。

今回の場合にあてはめると、攻撃を受けたのは千葉法相ですから、千葉法相の「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」が「政策上の欠点」として批判された事になります。とりあえず「人格上の問題」ではないと想像しています。実際のネガキャンがどんなものであったか知る由もないからです。ここが面白いのは「ネガキャンされた」と表現しているのは千葉法相自身である事です。つまり千葉法相が、

こう認めている事になります。これはかなり珍妙と言っても良いと思います。そんなに深く考えなくても「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」の導入は賛否が分かれる問題です。それぞれの政策の是非については語りませんが、推進派もいれば反対派も多数おられます。

千葉法相が推進派であるのは非常に有名ですが、これに反対の立場の対立候補が批判するのをネガキャンと言うのでしょうか。これはネガキャンではなく、選挙中の争点に関する論戦と言うほうが相応しいと思います。「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」も全国的には争点ではありませんが、千葉法相が出馬された選挙区では推進派の中心人物の千葉法相がおり、さらに有力候補ですから対立候補が選挙区の争点として取り上げても別に問題とは思いません。

また、たとえネガキャンであっても「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」に賛成する方々には無影響のはずです。もう少し言えば、「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」推進派が選挙民の多数派であれば、対立候補の戦術は裏目に出る可能性さえあります。

千葉法相にすれば争点にされたくなかったとの思いはあるのかもしれませんが、対立候補が何を争点に持ち出してもこれは自由です。ましてや千葉法相の「死刑廃止」「選択的夫婦別姓制度」は長年の政治信念であったはずですから、選挙区の争点として持ち出されても、推進派の親玉として喜んで受けて立ち、論破するぐらいであるべきかと思います。

それとも千葉法相の政治信念は選挙中は触れてはならない禁句であり、当選後に持ち出してくる程度のものなのでしょうか。自らの政治信念が争点となり、なおかつ落選したと言うのは、選挙民、この場合は国政選挙ですから、国民に否定されたことになります。政治家ならそう感じるべきでしょうが、そうとは感じていないと発言されているようで非常に興味深いところです。


もうひとつ、これも各所で既に批判されていますが、議員閣僚から民間人閣僚に変わると言うのは名目だけではありません。給与も変わります。あくまでも参考ですが、

    国務大臣:約440万円
    国会議員:約179万円

議員が大臣になった場合はこの二つを受け取るわけでなく、国会議員歳費との差額を受け取る事になり、おおよそ260万円ぐらいになります。ところが千葉法相が民間人閣僚になればどうなるかですが、

千葉法相続投 千葉法相辞任
大臣俸給 約440万円 議員大臣俸給 約261万円
当選した議員歳費 約179万円 議員歳費 約179万円
合計 約619万円 合計 約440万円
月々の差額約179万円 × 3ヶ月(9月まで)= 約537万円


後は在任日数により変動があるでしょうが、9月まで千葉法相が続投される事で約500万円の出費が必要となります。もちろん千葉法相の代わりに民間人閣僚を登用すれば同じですが、9月の民主党代表選の後に菅総理は内閣大改造を公言されてますし、菅総理に代わって新たな首相が就任しても新内閣が樹立されます。もう少し言えば国会自体は院の構成を決める臨時国会が短期間開催された後、民主党代表選後までは休会のスケジュールとなっています。

こんな時期に民間人閣僚をわざわざ任命する必然性に乏しいというのが一般的な見方です。民主党参議院選挙で敗れたとは言え、衆参合わせて400人以上の議員がいます。その中に誰一人として落選した千葉法相の後任に相応しい人材はいないと言うのでしょうか。こういうのこそ、まさに無駄な出費そのものであり、菅総理がほんの少し動けば「節約」できるものです。

また「節約」する事で誰も迷惑を受けません。迷惑するのは大臣俸給をもらい損ねる千葉法相だけですが、議員が選挙で落ちるという状態ですから、これは誰が見ても当然の処置です。


一説には参議院選挙の敗北により、菅総理の求心力は急速に低下中と囁かれています。総理の求心力が落ちれば、次期総理の椅子を狙って魑魅魍魎の世界が展開されるのが与党政治ですし、格好の材料として代表選があります。代表選での再選を当然狙う菅総理は、火種なりやすい人事に極力手をつけたくない意向であるとされています。大臣人事はこういう時には微妙至極と言う事のようです。

ただ手をつけない選択は党内政治的には良いかもしれませんが、世論的には逆風の種になる可能性があります。

    総理は自分の地位を守るためだけに500万円の国費を無駄遣いした
こんなものはサッサと交代させておけば誰も奇異に思わないので波風が立ちませんし、人事で波紋を起したくないのなら兼任と言う選択もあったはずです。わざわざ落選大臣を続投させるという角を立てるデメリットについて、どう考えているのか難解なところです。


ふと思ったのですが、菅総理は就任してトットと国会を閉会にしています。次の臨時国会も院の構成だけ決めて短期間で終わらせる予定のようです。秋の国会も代表選の後に行うつもりのようです。代表選で再選されれば良いのですが、スッタモンダの末に新総理が誕生したら、非常に珍妙な状態になりそうなのが笑えます。どういう状態かと言えば、国会論戦でボロを出さない様に逃げまくった挙句、本格的な国会論戦を行なわない前に辞職した総理大臣と言う有り難いレッテルです。

今が7月ですが、9月まで2ヶ月あります。そこまでの間に支持率回復の妙手でもあるのでしょうか。な〜んにもしなければ、支持率は自然低下していきます。就任から今日までで半分ぐらいに低下しているようですから、9月にはどうなっているか他人事ですがチョット心配しておきます。支持率なんてただのマスコミ調査と冷笑する向きもあるでしょうが、政治には大きな影響を未だに及ぼすのは間違いありません。

誤解無い様に付け加えておきますが、菅総理が就任してから行なったのはまだ参議院選挙だけです。他は何もやっていないとしても良いかと思います。他は選挙にからんで消費税発言があったぐらいで、他にもあるかもしれませんが、残念ながら私の記憶の中には残っていません。まさかこれだけで、後はダンマリ戦術で気がつけば9月には四面楚歌で沈没なんて事は無い様に願っています。

政治家として総理の椅子に座ると言うのは究極の目標ですから、座ったからには自分の政治信念をアピールし、実現に向けた政策を推進しなければなりません。9月を越えても総理の座に留まりたいのなら、その存在感を示す必要があります。9月までの2ヶ月を長いと受け取るか、それとも短いと感じるかは菅総理の感性ですが、どうにも短くて長い2ヶ月になりそうな気がしています。