やっぱりリッチだなぁ

まずは2/21付Asahi.comを再掲します。

 医師増員を掲げる民主党は看護コースと病院を持つ大学の医学部新設を後押しするとしており、政権交代で機運が高まったかたちだ。医師養成学部・学科については、自民党政権時代の82年や97年の医学部定員削減の閣議決定を受け、新設の審査は行わない規定になっているが、今後撤廃されるとみられる。設置基準の緩和も進めば、他大学にも動きが広がる可能性がある。

 設置を検討しているのは、国際医療福祉大(本校・栃木県大田原市)、北海道医療大(北海道当別町)、聖隷(せいれい)クリストファー大(浜松市)の3大学。いずれも看護や福祉系学部を持ち、大学病院や関連病院もある。

この時の感想がリッチだなぁだったのですが、6/19付共同通信(47NEWS版)より、

 医師不足が深刻さを増す中、文部科学省は18日、養成する医師の数を増やすため、80年以降認めていない医学部新設の容認に向け、本格的に検討する方針を決めた。現行の文科省告示は、医学部の新設を審査しないとしており、約30年ぶりの方針転換。

どうも本決まりのようです。2月時点で候補に上がっていたのは国際医療福祉大、北海道医療大、聖隷クリストファー大の3つだったのですが、6/19付ちば日報には、

千葉、埼玉、茨城の3県は全国でも医師不足が著しいエリア。成田空港を抱え、財政状況に余裕がある成田市は、小泉一成市長も公約に大学誘致を掲げる。

6/19付北海道新聞には、

道内では看護福祉学部などを持つ道医療大(石狩管内当別町)が、道内私大初の医学部設置を目指し、検討を進めている。函館市も、公立はこだて未来大に医学部を設置しようと、本年度予算に関連費用を盛り込み、近く有識者の懇話会も立ち上げる方針だ。

とりあえず全部で5つあるようです。ここで前にやった時に頂いたテキサン様のコメントを紹介しておきたいのですが、

    そもそも、医科大学にとって附属病院を持つことが必須条件なのでしょうか?
    アメリカの多くの医科大学は附属病院を持たず、契約病院しかありません(ハーバードの有名なMGHのように)。
    ヨーロッパでも国によるのでしょうが、カロリンスカ、ボローニャなど歴史ある医科大学は研究病棟しか持たず、学生は市中病院をローテート、卒業したらすぐに大学を離れて自分でinterviewして就職すると聞いたことがあります。
    本来、大学って研究と教育をするところです。卒後研修教育や自らの臨床従事は「余力があれば」やってもいいでしょう。臨床が忙しくてロクに研究が出来ない、というのは本末転倒です。

これも一つの正論ですし、附属病院を持たない医学部を作るというのも試みとしておもしろいと思いますが、たぶんそんな形態では申請は即却下でしょう。理由は簡単で、附属病院を作りますと宣言しているライバルに昨今の情勢では絶対に勝てないだろうからです。おそらくと言うか、はっきり言って、誘致に立候補を検討している地域は、医学部に付いて来る附属病院も欲しいのは確実と考えても良いからです。

医学部を新設して、医師の数を増やす事がどうかの是非についてはぐり研ブログ様の医学部新設にゴーサインや、中間管理職様の愚行を繰り返す 「30年ぶり医学部新設の容認検討 文科省、医師不足に対応」を参考にして頂ければと思いますが、私は「リッチだなぁ」をテーマに少し視点を変えて考えてみようと思います。


現在のところ立候補予定は5つのようですが、最終的にはもう少し増える可能性はあると考えます。10ヶ所以上になってもさして驚きません。まずの問題は幾つ申請が認められるかです。現時点では何ヶ所作るかは明示されていませんし、政府も具体的な設定を持っていないと考えられます。ただ条件を満たせばすべて承認されるの方向にはならないと考えます。

明示されなくともやがては「何ヶ所」みたいな方向性が打ち出されて、その枠に入るかどうかの競争が行なわれるとするのが妥当でしょう。これって誰かさんには非常に美味しい状況設定と思いませんか。明示されていない合格条件に競わせる状況は、様々な利権を生み出すのは周知の事です。競争には運動が必要ですし、誰に頼んでもらうかは大きなポイントになります。

誰に頼むかとなれば、やはり政治家が一番でしょうね。政治家も地元に医学部を誘致できたとなれば、巨大なアピールポイントになりますから当然動くでしょうが、タダで動くかと言われれば話は別です。キチンと表の政治献金があった方がやる気もでるでしょうし、裏は・・・「さぁ?」ぐらいにしておきます。もし同じ都道府県内に競合するライバルでもいれば・・・美味しいですねぇ。

政治家も美味しいですが、官僚も美味しいところです。これもたぶんなんですが、「医学部設置選定委員会」みたいな代物が出来る可能性もありますが、そこで実質の決定権を持つのは官僚です。官僚には直接の「政治献金」みたいなものは裏も表も政治家に較べると「ほとんど」無いとは考えていますが、設置条件については要望を申請者に希望する事は出来ます。いわゆる天下り先の開拓確保です。

誘致に奔走する地元自治体もローカルな利権が渦巻きます。建設場所の選定問題、建設に関する事業費、その他諸々の調達に関して、地元選出議員も絡んで色んな事が起こるのもまた日常茶飯事です。なんつうても附属病院から建設すれば、何百億円のお金が動きますから、魑魅魍魎の世界が出現するのは間違いありません。

別にこんな事は日本だけの特殊事情ではなく、世界中どこででも起こりうる普遍現象なのですが、毎度の事ながら「なんだかなぁ」てなところです。関係者の皆様に置かれましては、会計処理でボロを出さない様にくれぐれも御注意下さい。


申請から認可、さらには建設にかかる恒例行事はさておくとして、基本的な疑問があります。医学部って基本的にペイする学部かどうかです。確か赤字のところが多かったと聞いた記憶があります。ググっても適当なものがなかったのですが、参考として医療行政ウォッチング様の8割が赤字、国立大学病院への対策が急務 -国立大学附属病院長会議常置委員会委員長・河野陽一氏に聞くにm3から引用された記事が保存されています。

 国立大学附属病院長会議は8月4日、文部科学省厚生労働省に、「国立大学病院関係予算の確保・充実について」と題する要望書を提出した。国立大学病院は2004年度の法人化以降、運営費交付金は全体で約3分の1まで減額、一方で医療費抑制策が進められ、苦しい病院経営を強いられている。病院キャッシュフローで見た場合、今年度は42大学中、33大学が赤字になる見込みだ。研究面でも臨床研究論文数が減少。教育面でも医学部定員増が進められているが、教員の増員はままならず、厳しい運営を強いられている。

これは2009年8月の記事ですが、こんな感じです。大学病院部長が日本を斬る・・・・・・の?様の大学病院は、国立も私立も死んでいる!には、嘉山孝正氏の話が引用されており、

 運営費交付金は、国立大学附属病院全体で2004年度は584億円だったが、2009年度は207億円にまで減少。法人化当初、大学病院の診療報酬収入を2%上げ、その代わりに交付金を減らす計画が立てられたが、実際には減額が増益をはるかに上回っており、国立大学法人は2009年度予算全体で197億円の赤字。私立医科大学についても、2008年度決算で80億円の赤字となっている。

ちなみに私立医学部は29大学、国立は42大学、公立が8大学、その他として防衛医大があります。上に挙げた2つの情報は医学部ではなく、附属病院の経営状態ですが、これに医学部の経営をプラスして黒字になっているかどうかは・・・とくに私立医大の経営はかなり厳しいと聞いた記憶があるのですが、それでも飛びつきたいのでしょうか。

私が調べた情報ぐらいは立候補を準備している大学は百も承知のはずですが、それでも立候補したいと言うからには医学部もあわせれば十分ペイするのでしょうか。ここから先の経営状態は私ではわかりません。詳しい事を御存知の方は情報下さい。


もう一つ、どうもなんですが、新設するのは私立のようです。私立の医学部を一概に貶める気はサラサラないのですが、医学部に限らず新設学部は苦戦します。受験者の指向が既設のネームバリューを優先するからです。さらに今回はたぶんなんですが、認可され設置されるのはいわゆる地方になる可能性が高いと考えられます。東京や大阪に医学部が新設される可能性は低いと考えられます。

東京や大阪でなくとも、立候補している成田の様に東京近郊であればまだしもですが、本当の意味での地方となれば、地理的条件が医学部とは言え影響します。そこから実績を重ねて這い上がるというのも新設学部なんですが、結構リスキーに思えないこともありません。今のところは新設のデメリットをカバーできるようなビッグネームはまだ候補に上がっていません。

新設でもそこそこのポジショニングが可能な大学となれば、国立で作るとか、私立でも自治医大方式もありかと思うのですが、あんまり検討された形跡はないような感じです。国の財政が苦しいのがあるとしても、本当に優秀な医師を養成したいと思えば、検討しても良いと思いますし、学費の点でも恩恵がある学生が増えて良いとは思うのですが、どうしてなんでしょうか。


もう一つ、かつて医師を増やすとして一県一医大が推進され、同時に多数の新設医大が作られましたが、医師過剰論が唱えられるとどうなったかを思い出しておく必要もあると思います。医学部定員は国公立だけでなく、私立も削られています。国公立は親方がいるのでさておくとしても、私立にとって定員減は経営に直接響きます。

今は医師不足で動いていますが、これがいつ一転して医師過剰論に傾くかは誰にも予想できません。10年ぐらいは医師不足論が続くとは思っていますが、その先がどうなるかは誰に予想はできません。ここも結構リスキーな点かと個人的には思うのですが、それでも立候補大学は目白押しになりそうな形勢です。つくづく思うのは、やっぱりリッチだなぁ・・・。