新聞協会の調査

6/8付時事通信(Yahoo !)より、

91%が「新聞読む」=朝刊24分、ネットと併用も―新聞協会調査

 新聞を読んでいる人は91.3%、平日に朝刊を読む時間は平均24.8分―。日本新聞協会は7日、「全国メディア接触・評価調査」結果を発表した。新聞読者の割合は2年前の前回調査より1ポイント減ったが、9割台を維持しており、同協会は「新聞が日常生活に欠かせない基幹メディアであることが改めて確認された」としている。

 調査は5回目で、2009年10〜11月に全国の15〜69歳の男女6000人を対象に実施。3683人から回答を得た。

 1週間に朝刊を読むのは平均5.2日。「地域や地元の事がよく分かる」「情報源として欠かせない」などの項目で、テレビ、ラジオ、雑誌、インターネットの他メディアを抑えてトップとなった。約9割が自宅で新聞を読み、約7割が10年以上同じ新聞を購読。91.9%が戸別配達制度を支持すると答えた。

 「社会にとって不可欠と考えているメディア」として、新聞を挙げた人は社会や環境に関心が高い傾向が見られ、50代以上と若年層ではインターネットと併用する読者が多い。「テレビ」と回答した人は30〜40代と女性、「インターネット」と答えた人は40代以下で目立った。

新聞に関しては新聞データの備忘録新聞は詰んでいるかで基礎データの調査はやったので、それについてはなるべく避ける事にしておきます。この調査のモトネタは2009年全国メディア接触・評価調査ですから、そこから考えてみたいと思います。とりあえず調査方法ですが、

    2009 年全国メディア接触・評価調査
    調査地域 :全国
    調査対象 :15歳以上69歳以下の男女個人
    標本抽出 :住民基本台帳からの層化2段無作為抽出
    調査方法 :訪問留め置き法
    標本サイズ :6,000
    有効回収数(率) :3,683(61.4%)

ふむふむです。とりあえず回答率は約6割で、約4割はアンケートに応じていない事になります。「層化2段無作為抽出」ですから新聞を読んでいない、購読していない人にも調査が行われている事になるのですが、回答に応じた人間は新聞を購読している人間も、していない人間も同じかが問題になると考えられます。ごく常識的に考えて回答に応じた人間は、

    新聞購読者 > 新聞非購読者
こうなる可能性は多分にあると考えられます。つまりは調査に答えた人間は新聞を普段から読んでいる人間が多くなっている可能性です。ではそれを裏付けるデータがあるかどうかです。「層化2段無作為抽出」ですからサンプル自体は偏りがないとします。偏りが無ければ、基本的に他の全国調査とほぼ連動するはずで、偏りがあれば連動性が薄くなると考えます。

まず注目されるのは世帯構成です。平成18年度調査までしか見つかりませんでしたが、これから比較してみます。

* 一世代家族 二世代家族 三世代以上 単身 その他 無回答
新聞協会調査 16.3 53.9 23.0 5.3 1.4 0.2
厚労省データ 21.5 37.5 9.1 25.3 6.6 *


解説するまでもありませんが、新聞協会のデータは単身所帯の比率が非常に低くなり、その代わりに三世代以上の比率が異常に高くなっています。また一世代も新聞協会では低くなり、二世代が高くなっています。新聞協会のサンプル分布では明らかに新聞を購読している層が多くなるのは誰でも判ります。とくに三世代以上となると高齢者が必ず含まれる事になり、高齢者の新聞購読率の高さは周知の通りです。

ちなみにこれは河北新報からですが、山形の三世代同居率を報じるニュースです。

背景にあるのは、やはり日本一を誇る3世代同居率。05年国勢調査は全国平均(8.6%)の3倍近い24.9%に及んだ。2位は福井県で20.2%、最下位は東京都の3.1%だった。

驚くべき事に新聞協会調査の三世代同居率は1位の山形には及びませんでしたが、2位の福井でさえ上回るものである事がわかります。次に同居親族数です。

同居親族 1人 2人 3人 4人 5人 6人 7人 8人以上 無回答
新聞協会調査 5.3 21.0 24.9 24.7 13.1 6.8 2.7 1.3 0.1


あくまでも概算ですが新聞協会の同居親族数は3.5人を越えます。これも河北新報からですが、

全国的に見ると山形県は大所帯を保ってきた。2005年の国勢調査によると、山形県の世帯人員は3.09人で日本一。2位の福井県の3.00人とともに3人台を保った。全国平均は2.55人で、最少の東京都は2.13人にとどまる。

なんと新聞協会のサンプルでは全国一の山形より同居親族が多くなっています。二世代、三世代家族の構成が多くなっている事と矛盾はしませんが、全国統計と明らかに反した構成になっているのが確認できます。

次に回答者の「現在の住まい」です。新聞協会調査では持ち家者の分類を細かく分けていますが、これも厚労省データに2005年度のデータがあり較べてみます。

新聞協会調査 厚労省データ
持ち家一戸建て 76.3 80.7 62.1
持ち家ワンルーム 0.2
持ち家マンション 3.4
その他の持ち家 0.8


異常なほど持ち家比率が高いのが明らかです。ちなみに80.7%は全国一の富山の79.1%さえ上回ります。国の全国統計と新聞協会調査でどちらが信用できるかは言うまでもありません。国の全国統計に反する分は調査に回答したものが、
    新聞購読者 >> 新聞非購読者
これによって生み出されたバイアスと考えるのが妥当かと存じます。新聞協会の調査は、
  1. 多世代同居の比率が高い
  2. 同居親族が多い
  3. 持ち家率の比率が高い
こういう母集団からの調査分析が行われている事がわかります。それも少々高いレベルではなく、非常にというか異常に高い構成になっているのは明らかだと考えられます。実に見事な統計デザインで、新聞を良く読む層を芸術的に抽出し、これを母集団として統計分析の結果を導きだしています。統計分析は集められた母集団からの分析に限定されますから、結果は読むまでもありません。

惜しむらくはそういう母集団が日本には存在しないことでしょうか。いや巧みにチェリーピッキングすれば可能なのは新聞協会調査が示していますが、少なくとも全国データの母集団としては使い物にならないのは余りにも明瞭です。それでも新聞協会はこう自負されています。

    個人情報保護の観点から住民基本台帳の閲覧は厳しく制限されていますが、本調査の公益性が認められた結果であり、今回も正確な調査となりました。
「正確な調査」が意味するものが、調査が事前の狙い通りの結果を「正確に表した」と言うのなら正しい表現です。ただ個人的に、いつもの通り新聞の調査分析はアテにならない事を満天下に示しただけの様に思っています。きっと毎度の事過ぎて、そう言う事に極度の不感症になっていると考えられます。