口蹄疫問題・番外編2

今日はあくまでも番外編です。口蹄疫に対する対策は、5/21付赤松農林水産大臣記者会見概要にある赤松大臣発言にあるように、

もう早く殺処分をして、早く埋却をして、消毒を徹底させると、これしか、実はないわけで

この事は最初から判っていたことで、平成16年12月1日付「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に、

本病が発生した場合にはその被害を最小限にくい止めることが基本となる。このため、国内で発生した際には、国際的な本病清浄国の防疫原則に則り、殺処分により本病の撲滅を図り、常在化を防止する対策を実施することが重要である。

この殺処分なんですが防疫指針には埋却がセットになっています。殺処分を行なえば直ちに埋却するのが口蹄疫対策の基本の「き」と言う表現をしても差し支えないかと思われます。殺処分を誰が行なえるかの問題についてomizo様からコメントを頂いておますが、正直なところ本当は「どうだ」について自信をもった解釈が出来ないので、この問題は保留とさせて頂きます。

今日考えたいのは埋却地の問題です。埋めるところが無いと殺処分もできない関係があると理解しても良さそうだからです。欧米では原則として自分の農場に埋めるそうです。日本でも牛を飼っているぐらいですから、それぐらいの農場はあるだろうと思われそうですが、日本の農場は欧米よりかなり狭いのが一般的だそうです。

これは欧米の農場が牛に牧草を食べさせて肥育するのが原則であるのに較べて、日本は配合飼料で肥育するからだと言われています。牧草で肥育するのであれば、牛1頭当たりに必要な牧草地の確保が必要ですが、配合飼料を用いれば、かなり狭い面積で飼育できるからだと言われています。

それでも牛はまだ埋却できる農場がある程度は確保できるかもしれませんが、養豚場になれば条件は遥かに厳しくなります。豚はそんなに広々したところで飼うものでは無いからです。この埋却地について防疫指針では、

 患畜等の死体及び汚染物品は発生地(患畜等の所在する場所を含む。以下同じ。)において焼却、埋却又は消毒をすることを原則とするが、その数量、現地の地形等によって発生地で実施困難な場合は、適切な消毒の実施等病原体の拡散防止に万全を期しつつ、他の場所(化製場を含む。)に輸送し、焼却、埋却又は化製(疑似患畜に限る。)をする。

 このため、都道府県は、家畜の所有者が患畜等の死体及び汚染物品の処理が速やかに実施できるよう、あらかじめ市町村等と協議を行い、その処理方法を検討するとともに、焼却、埋却等の場所の確保に努めるよう指導及び助言を行うものとする。また、都道府県及び市町村は、関係機関及び関係団体と連携して、本病の集団発生等により多数の患畜等の死体及び汚染物品が生じる場合を想定し、焼却、埋却及び化製処理が可能な施設のリストアップ、発生時の相談窓口の確認及び事前説明並びに関係団体等が行う患畜等の死体等の運搬及び処理体制の整備についての指導・推進に努める。

原則は殺処分対象の牛や豚の保有者の土地としていますが、やむを得ない場合は他の場所に埋却しても良いとなっています。また埋却地の選定については、都道府県がリーダーシップを取るとしています。殺処分対象の牛や豚を移動させることは感染の拡大の危険性も増しますから、これについても都道府県がリーダーシップを取って防疫対策に万全を期してくれぐらいに解釈できます。

ここで問題になるのは、殺処分・埋却が所有者の土地内で行なえればまだしもなんですが、他の土地に移動埋却するとなれば、これはどこでもと言うわけにはいきません。当たり前ですが、すべての土地には所有者がおり、所有者の了解がないと埋却どころか進入さえできません。防疫指針には、

焼却又は埋却をする場所の選定に当たっては、所有者及び関係者と事前に十分協議する。埋却の場合は、地質、地下水の高低、水源との関係、臭気対策等を関係機関と協議する。焼却の場合は、火災予防に留意し、消防署等と協議する。

いかに非常時と言えども、土地所有者としては本音では、殺処分された牛や豚を自分の土地に埋められるのは余り歓迎できないかと思われます。埋却地として提供するにしても、当たり前ですが補償の問題は出てきます。それと、そもそも土地がそんなにあるわけではありません。趣味で里山によく登りますが、いつも感心するのは平地は見事に利用し尽くされている事です。

住宅なり、田畑に余すところなく利用されています。そうなると埋却地を探すと言っても限定されます。さらに防疫指針にもありますが、地下水の問題もあります。空いている土地ならどこでも埋設地に出来るわけではなく、少し掘れば水が湧く様なところは不適だそうです。この少し掘れば水が湧くような土地は他の用途にも不適な事が多いので、埋却地として使えそうと考えても、実際はなかなか使えないことも多いと考えられます。


では殺処分(含む埋却)が実際にはどうなっていたかのデータが、農林水産省宮崎県における口蹄疫の発生事例の防疫措置の状況にあります。ここから赤松大臣が外遊から帰国されるまでの殺処分対象数と殺処分済の数をグラフにして見ます。

殺処分対象数を見れば5/4から急増しているのが判ると思います。赤松大臣は衆議院農林水産委員会
    特に6日7日からは、ま、増えだしたと、いう事実はございます。
この「増えだした」の主語は擬似症例数の事かもしれませんが、防疫の要である殺処分対象数は5/4から急激に増えているのがわかります。数が増えれば殺処分作業が急増するので、現地宮崎の負担は大きくなるのは当然の事です。では宮崎の殺処分が順調に進んでいたかと言うと、赤松大臣が帰国した5/8時点で殺処分対象数が6万頭を超えているにも関らず、1万頭弱に留まっています。

さらに言えば赤松大臣が「増えだした」として5/6以降は殺処分が進んでいません。これは現地宮崎がGWで休んでいたとは考えられるはずもなく、殺処分を行ないたくても行なえない状態を呈していたと考えるのが妥当です。他にも原因はあるとは思いますが、一番大きな問題は上述した埋却地問題があると考えています。

では赤松大臣が外遊に出発した4/30まではどうであったかです。

殺処分は口蹄疫感染が判明してから原則は72時間以内とされます。そのため殺処分対象数と殺処分済の数は若干ずれるのですが、たとえば4/27時点の殺処分対象数は1108頭で、2日後の4/29時点の殺処分済の数は871頭です。気持ち遅れ気味ですが、なんとか殺処分を進行させています。ところが4/28には殺処分対象数が2888頭に急増し、2日後の赤松大臣外遊時の処分済み数は前日と変わらず871頭であり、翌日の5/1になっても1196頭に留まっています。

さらにですが赤松大臣が外遊に出発した4/30には殺処分対象数は4397頭にまた増えています。赤松大臣は4/28時点の殺処分対象数の処分が、順調に進んでいない情報を当然受け取っていたはずです。順調に進んでいない上に外遊に出発する4/30時点にはさらに殺処分対象数が急増している情報もまた受け取っていたはずです。

埋却地問題は4/28付宮崎日日新聞にも取り上げられています。

 県は27日までに、都農、川南町での口蹄(こうてい)疫感染・感染疑い1〜6例目の牛や豚の殺処分と埋却を終えた。しかし、終息の兆しが見えない中、今後拡大した場合の埋却場所の確保に頭を悩ませる。一方、埋却地近くの住民からは、環境への影響について不安の声も上がっている。

 計186頭を殺処分した2〜3例目の埋却地は当初予定していた場所を掘削した際、地下水が漏れたことで用地を再選定した。幅と深さが3〜4メートル、長さ60メートルの穴を3カ所掘り、消毒用の消石灰とともに処分。家畜伝染病予防法に基づいて、1メートル以上の盛り土でふたをした。

 7例目農場は飼育頭数が725頭と大規模。10年前の口蹄疫で同程度の705頭を処分した北海道のケースでは、本人の土地に長さ50メートルの穴を数本掘削。作業は4日間で延べ700人近くを動員した。「周辺住民の理解や人員の確保で苦労があったが、宮崎は周囲に人家や牛舎が多いようなので、土地の選定が大変だろう」と道畜産振興課。

4/28時点でも埋却地の選定に相当苦慮していた様子が窺えます。埋却地の選定の困難さは、

  1. そもそも適当な空き地が少ない
  2. 空き地であっても掘れば水が出るところは埋却に適さない
  3. 殺処分対象動物を長距離移動させたくない
  4. 個人所有の土地なら補償問題、県有地であっても周辺住民の同意(根回し)が必要
引用では省略しましたが、自衛隊基地への埋却要請もこの時点で検討と伝えています。ここで寄り道ですが、埋却地問題はともかく自衛隊への出動要請は5/1に行なわれ、即座に行動に移り、5/2から本格的に活動が開始されています。自衛隊の活動がどうなっているかの情報も乱れ飛んでいましたが、これは防衛省HPで確認できます。

それとこの記事から埋却地に必要な土地の広さを推測できます。北海道のケースが紹介されていますが、牛725頭(及びその他の汚染物質)を埋却するのに、

    長さ50メートルの穴を数本掘削
幅は宮崎のケースを参考にすると「3〜4メートル」のようですから、穴の間隔も考慮し、さらの穴の周囲にも空き地(掘削した土砂を置くスペース、搬入路、作業スペース)が必要ですから、ざっと100メートル四方は最低限必要じゃないかと考えられます。現実にはもっと広くて、牛700〜1000頭分あたりで小学校の運動場ぐらいの広さは必要そうに思われます。

豚は牛よりかなり小さいですから、これより効率よく埋却できるとしても、豚の数は多いですから埋却地に行き詰っても不思議は無さそうです。牛だけでも4/30時点で2069頭ですから、埋却地を探すのに現地宮崎が困窮していても不思議ありません。これが赤松大臣が衆議院農林水産委員会

    一定の範囲の中で、え〜、何とか封じ込めることが、いま、できていると
こう表現した4/30から5/5までの状況をグラフに示してみます。
急増する殺処分対象数の増加に、処分がまったく追いついていない事がはっきりわかります。この情報も当然ですが赤松大臣は十二分に知る立場であったのは間違いありません。こういう事態は口蹄疫対策の基本中の基本であり、赤松大臣自らが仰られる、
    もう早く殺処分をして、早く埋却をして、消毒を徹底させると、これしか、実はないわけで
これが出来ていない状況を明確に示すデータになります。出来ていないどころか、殺処分に現地宮崎が完全に行き詰っている状態を示していると考えられます。今日は埋却地に出来るだけ絞ろうと思っていますが、こういう事情が背景にあると考えれば、天漢日乗様のところにある2ch情報が信憑性を帯びてきます。

    たくさん、要望はあるけど一番は国有地の使用許可です!
    金額をいくらとかそれより・・・
    埋葬場所を使っていいかどうかの許可さえ「検討」では全く話し合った意味がないでしょう。
    殺処分の人手が揃っても埋葬場所がないんです!
    埋葬場所が決まらないことで全ての作業が滞り、人的、経済的に無駄なエネルギーが消費されています。
    それは、大臣が一番わかっていることなのに「検討」って・・・・
    検討なら宮崎現地入りまでに情報は伝わっているのだから十分できたはず。
    それを現地にきてまで、そんな事を言うのは・・・・使わせないつもり。
    そういう風にしか考えられません。

これは5/10に赤松大臣が宮崎入りした時の反応のひとつです。国有地使用問題も良く見えない問題なのですが、あくまでも「どうやら」レベルですが、5/10以前にも宮崎県から国に打診はあったようです。そこで宮崎県が希望した土地と国が提示した土地にギャップがあったらしいとされます。簡単に言うと宮崎県が希望した埋却候補地に国が難色を示し、代わりに国が提示した土地に宮崎県が難色を示した関係です。

上述した通り、埋却候補地はそもそも限られており、その中でも利用価値の高そうな国有地は、出来れば埋却地にしたくない思惑があったと勘ぐられそうな経緯です。もちろん現時点では真相は不明です。そういう事情があったにせよ、逼迫した埋却地問題に対し、有効な処方箋を赤松大臣が提示しなかった可能性は高いと推測されます。

簡単に言うと赤松大臣は現地宮崎の実情にかなり疎かった可能性を示唆します。しかし赤松大臣は衆議院農林水産委員会でこうも述べられています。

    こういう場合にはこういう形で行こう、と、え〜、あるいは山田副大臣には、現地でその前に、私は、まあ、いるときですけれども、行って貰おう、あるいは、あ〜、対策本部がこうなったときにはこういう形でやってほしい、え〜、あるいは、え〜、昨日出た、これは黒だった、これは白だったということは随時連絡取りながらやっておりまして
外遊中にも連絡はキチンと取って、実情は日本に居る時と同様に把握していたとしています。その上で、
    まあ、そのことについて、え〜、私が一人いなかったからと言って、え〜、いささかも支障があった、そういう風には理解をしておりません。
データは赤松大臣外遊時には殺処分の遂行に明らかに支障を来たしています。確かに殺処分は防疫指針によると都道府県知事が主導するとなっていますが、都道府県知事とて万能ではありません。殺処分対象数が余りに増えすぎて、赤松大臣外遊時には既に対策は宮崎県では対応しきれなくなっていたと考えるのが妥当かと思われます。

そうなると次の問題は宮崎県が国に事態が逼迫している事をどれだけ伝えていたかになります。これがなかなか確たるソースが無いのですが、4/30付宮崎日日新聞にこうあります。

 山田正彦農林水産副大臣は29日、県庁を訪れ、口蹄疫問題の対策について東国原知事と意見を交わした。知事は「感染経路の解明は国にしかできないので、しっかりお願いしたい」などと求めた。

記事の中には埋却地問題は出ていませんが、経緯からするとこの時に埋却地問題についても副大臣に伝えたと考えるのが妥当と思われます。もちろん具体的にどう伝え、どう山田副大臣が答えたかは不明です。あくまでもちなみにですが、前回の2000年の時の殺処分の進行が厚労省資料にあります。

宮崎の殺処分対象数は35頭ですべて翌日に処分が完了しています。北海道は705頭ですが、これは頭数も多いせいか処分完了まで5日かかっています。2000年を教訓にして殺処分の速度を上げたとしても、4/30時点で残っている殺処分対象数が牛で2069頭、豚で1427頭は緊急事態と判断できなかったのでしょうか。4/30外遊出発時点から、赤松大臣が「何とか封じ込めることが、いま、できていると」した5/5までの推移を示します。
月日 合計
残処分数
処分対象数 処分済数 残処分数 処分対象数 処分済数 残処分数
4月30日 2452 383 2069 1915 488 1427 3496
5月1日 2452 708 1744 5743 488 5255 6999
5月2日 2876 708 2168 6042 488 6042 8210
5月3日 2913 708 2205 6042 488 6042 8247
5月4日 2913 712 2201 24799 1917 22882 25083
5月5日 2913 712 2201 31012 6119 24893 27094
5/5時点で牛の残処分数だけでも2000年の3倍以上に達し、牛より埋設地に困るであろうと推測される豚は2万5000頭近くに達しています。2000年の牛700頭だけでも処分にやや手間取ったというのに、オーダーが牛で千頭単位になり、さらに豚が万頭単位のオーダーで増えているのは、この時点で十分に非常事態と考えられます。

5/5まで待たなくとも4/30時点で緊急事態であると判断するのに十分なデータが出ているとも言えます。後出しジャンケンではないかの意見もあるかもしれませんが、4/30時点でも終息傾向を示しているとは判断しがたく、また現地宮崎の処理能力が限界に来ているとの判断は、データから判断するのは難しくないと考えます。防疫指針を超えた事態の発生です。

口蹄疫ガイドラインと言うべき防疫指針は作られています。しかしガイドラインが常に有効とは限りません。我々医療者も新型インフルエンザの時にガイドラインで痛い目にあいました。事態は時にガイドラインを越える事があるのが緊急事態の一つの側面です。ガイドラインを超える新たな事態が展開した時にどう対応するかが政治が真価を発揮する時です。

私が今日提示したデータ程度は赤松大臣はリアルタイムで報告されていたはずです。また今日行なった程度のデータ処理は優秀な官僚がいますから、赤松大臣に提示されていたはずです。データの解釈に疑問があれば、その解釈の説明も容易に入手できたはずです。それでも国の出番は赤松大臣外遊後で十分と判断していたかの批判は自然に起こります。


これは赤松大臣に必ずしも口蹄疫の専門家である事を要求するものではありません。農水大臣であっても、農水分野のすべての事柄の専門家であることを要求されないからです。肝心なのは事態に対する把握力と判断力の問題です。口蹄疫に対する基本的な知識を得る事は容易のはずです。またデータの読み方について専門家の意見を聞くのは容易な立場でもあります。

意見を聞いて判断し決断するのが大臣の立場です。それも責任を持って判断するのが大臣の立場です。また決断したからには、その結果責任を問われるのも政治家である大臣になります。結果責任を問われるからこそ、最悪の事態まで計算に入れて判断するのが政治家であり、大臣でもあります。どこまで外遊前に熟慮し、外遊中も判断したかは嫌でも問われます。


もう一つ、これは政治の部分になりますが、赤松大臣が事態を重視して外遊を中止し、GW中も陣頭指揮を行なっていたら、もっと小規模に口蹄疫が終息していたかどうかは誰にもわかりません。これは赤松大臣の能力の問題がどうかもありますが、今回の口蹄疫ウイルスの感染力が10年前とは桁違いらしいというのがあるからです。

ただ結果は同じであっても全力を尽くして防ぎきれなかったのと、不十分な努力で感染が蔓延したのでは結果責任に対する見方が変わります。不十分な努力としか感じられなかったら、永遠に「ちゃんとやれば違ったはずだ」の印象が残ります。

それでも農水大臣は赤松氏です。初動時の判断の甘さは幾らでも掘り起こせますし、結果として現在状態の深刻さは説明も不要です。それでも事態は現在でも進行中であり、被害は拡大傾向を示しています。どう弁明したところで結果責任は逃れようがありませんから、せめて今からでも挽回に尽くされる事を願ってやみません。

それが宮崎県民だけではなく、日本国民の願いである事を知って欲しいところです。