推理遊戯

まずは天漢日乗様のところに寄せられたaqua2000様のコメントです。

この文書の存在をRisFaxにリークしたのは誰か?

水曜日に製薬連からFaxを頂いた後、製薬連にお礼の電話をし、またアスラス製薬にも電話したのですが、アステラス広報はフレンドリーで、文書が私にFaxされたことに驚いた様子でも無かったです。私はアステラスが文書の送付を了解していなければ、こういう雰囲気にはならなかったと思っています。文章ではなかなかお伝えしにくいですが・・・・、毎日の文書配布に会長の名前を出されたことはアステラスにとっては迷惑以外の何物でもなかったと思っています。

火曜日の朝、アステラスに電話した際には、「毎日“変態”新聞」と言われていることはご存知でしたので、自分達の大事な会長が、『楼蘭』の顧客名簿に載った方と共同した形を取り“変態”の片棒担ぎをさせられたことに、「何とか回避しないと大変だ、医師に総スカンをくらう」と考えたと思います。

アステラスではない大手製薬会社の広報の責任者(Q氏)に聞きましたが、大部分の会社はRisFaxの記事も、この文書の存在も知らないそうです。製薬会社にとっては落ち目の変態新聞など々でも良い存在でしかない、ただnetで変な噂がばらまかれ、理由もなしに(MRからすれば)処方がなくなることは避けたいことでしょう。

Q氏と話していて、製薬会社にとって変態新聞なんか、どうでも良いことだと判ったので、製薬会社から外に情報をわざわざ知らせることはまずあり得ないという印象を持ちました。すると可能性として残るのは毎日新聞が自らリークしたと考えるしかありません。文書の日付は3/17、配布先は製薬会社の経営者(数人レベル?せいぜい10人台)、それが3/19のRisFaxに毎日新聞関係者の談話も交えて載るというのは、自らリークしたとしか、考えられません。巻き込まれた製薬会社側としたら、「私達は関係有りません」という態度をとる以外、手段はなかった訳です。

aqua2000様は

  1. 日薬連、アステラスにコンタクトを取った時の感触
  2. 某大手製薬会社の広報責任者の感触
  3. Risfax記事の妙な詳細さ
この3点を柱にタブロイド紙リーク説と言うか自作自演説を取られています。状況証拠から非常に説得力のある仮説です。具体的な証拠に乏しいので推測の上での推理を重ねざるを得ないのですが、私もチョット手を出してみます。

まずは時間関係ですが、

  1. 3/17:タブロイド紙の申し入れ文書を配布
  2. 3/19:文書配布の事実をRisfaxが詳細に報道
確認できるのはこれだけです。配布に至る経緯はRisfax記事にありますが、

文書配布は日薬連の木村政之理事長に毎日新聞社の役員らが要請、木村理事長が竹中登一会長に相談したうえ、認められた。

この日薬連理事長及び会長の承認手続きにどれぐらいかかったかになります。お手軽には3/17にタブロイド紙役員が理事長に相談に行き、そこで理事長から会長にすぐに連絡が取られ即日承認・配布の可能性もあります。ただそんなにお手軽に行くかは当然疑問としてあります。役員とは言え、いや役員だからこそ理事長との面会にはアポを確実に取っていたと考えます。

さらに言えば、役員が日薬連理事長に要請し、社長名での文書を出しているのですから、役員が理事長に面会する前に事前折衝があったと考える方が妥当でしょう。文書が配布されたのは3/17ですが、それより以前に日薬連理事長の了解を取り、さらに会長の了解も取っていたと考えられます。もう少し推理を広げると、

  1. どこかの会合なりでタブロイド紙の役員が日薬連理事長に「要請」をした
  2. 理事長は一存では決められないので会長にも相談するとした
  3. 理事長と会長が相談の上で文書の配布を認めた
こういう経過ぐらいが一番ありえそうと思います。さて問題はRisfax記事に名前まで挙げられた理事長と会長の思惑です。この名前が明記されているというのがミソでもあるのですが、それは後回しにして、快諾したのか渋ったのかです。これは当人にでも聞いてみないとわからないのですが、厄介な話を持ち込まれたと感じたんじゃないでしょうか。

aqua2000様の情報でもタブロイド紙の評判はどうやら熟知されているようです。それ以前に広告打ち切りの時に決裁もしているでしょうから、あんまり触れたくない事柄であったとしても良いと思います。ただ無碍に断るのも角が立ちますし、余計な波風をタブロイド紙との間に立てるのを好ましくないとの判断もあっても不思議はありません。

それに財界も広いようで狭いので、タブロイド紙側の「役員」に対し個人的に断りにくい関係があった可能性も十分あります。そういう人物を交渉に使うのは、交渉術の基本でもあるからです。利害関係は様々に推測されますが、配布の申し入れを理事長と会長の判断で受けたのだけは事実です。


この文書の配布ですが、具体的にはどんなものであったかになります。配布した対象は、

日本製薬団体連合会評議員に配布した

日薬連については先日少しだけ調べましたが、個々の業者が直接加盟する団体ではなく、業者の団体の連合体です。具体的には業態別14団体、地域別19団体の団体です。おそらくですが、評議員であれ、理事であれ、この団体の長が務められていると考えられます。ですから配布されたとすれば、日薬連から評議員にFaxなりメイルで配布されたと考えるのが妥当です。

Risfax記事は妙に詳細なんですが、もし評議会なりが開催されていて、その席上で配られていたのなら、もう少し違うニュアンスで書かれていたと考えます。もう少し言えば、理事長なり、会長には相談されていますが、どうも理事会とか評議会で検討された形跡はないとも考えられます。

ここで仮定をFaxとかメイルを想定していますが、日薬連からの加盟団体への定期刊行物に含ませての可能性もあります。しかし配布文書のリークが非常に素早かった事を考えるとチト微妙なところです。ここも考えどころで、aqua2000様のコメントが気になります。

    アステラスではない大手製薬会社の広報の責任者(Q氏)に聞きましたが、大部分の会社はRisFaxの記事も、この文書の存在も知らないそうです。
知らないのか知らないふりなのかで解釈は変わりますが、本当に知らない可能性はあります。3/17時点で文書を確実に保持しているのは、日薬連、理事長、会長です。これ以外の評議員は日薬連から配布されて初めて知るのですから、郵送中でまだ届いていなかった可能性もあると言う事です。

それとなんですが、個々の業者が広くこの文書の存在を知るには、評議員(加盟団体の長)からの二次配信が必要と考えます。評議員の推定は先日行ないましたが、場合によっては評議員段階で二次配布を差し止められた可能性も無いとは言えないとも考えます。この辺は日薬連からの文書が下部加盟団体にどういう手続きで配布されるかの実態を知る由も無いので、これ以上は推測不能です。


さて推測の上に推測を重ねてしまいますが、Risfaxへのリークをタブロイド紙自身が行なったとしたら、どういう動機が考えられるかです。これも推測になりますが、文書配布の承諾を得たものの日薬連の反応が鈍いと感じ取った可能性を考えます。このままでは社長名を出しての文書であるのに、「配られただけ」になる危険性を憂慮したんじゃないかと考えます。

もうちょっと言えば理事長なり会長が

    文書は評議員に配布するが、これを評議員が加盟各社に配布するかどうかまで関知しない
こういうニュアンスの返答を行なった可能性まであると思います。そうなれば配布文書の存在をもう少し明らかにする必要があると考えたのかもしれません。存在が明らかになれば内容が読みたくなるのは人情ですし、内容を読んでくれなくともそういう内容の「要請」をした事を知ってもらえば、文書配布と同様の効果を期待出来るの計算です。

ここで何ゆえRisfaxだったのかは不明です。ただ自社記事でやるのは躊躇するでしょうし、他の有力紙に横並びでやられるのも拙いとの考えはあったとは思います。あえて推測すれば、Risfax社なり、Risfax社の記者と有力なコネクションがあったぐらいです。これもよくは知らないのですが、Risfax社記事は製薬メーカーに広く読まれているらしいというのもあります。

Risfax社の記事を読み直せば明らかですが、情報はすべてタブロイド紙側からの情報に基くものです。日薬連関係者からの取材は皆無です。タブロイド紙側の情報提供は念が入っており、

「広告出稿の障害をできるだけ取り除きたいという思いがある」(毎日新聞関係者)

こういう「」付の担当者の引用まで入っています。かなり入念な取材であった事がわかります。さらに3/17に文書配布を行い、3/19に記事配信ですから、取材が行なわれたのは3/17か3/18であると考えて良く、文書配布が認められた直後に取材が行なわれた事になります。


日薬連リーク説もありますが、日薬連のリークであるなら、少しは日薬連からの情報が入りそうなものです。また日薬連リークによりRisfaxがタブロイド紙に取材に赴いても、ここまで取材が可能であったかはかなり疑問です。もう一つ、Risfaxが独自に取材した可能性ですが、経緯から考えて文書の存在を知る人間は3/17、3/18の時点で、

  1. タブロイド紙
  2. 日薬連理事長及び会長
  3. 可能性として評議員
これだけに限られますから、非常に難しいと考えます。Risfax取材への非常に前向きの取材協力姿勢、その内容からタブロイド紙リーク説は有力と私も考えます。もう一つ傍証なんですが、上記で後で触れるとした文書配布の経緯の説明です。もう一度引用しますが、
    文書配布は日薬連の木村政之理事長に毎日新聞社の役員らが要請、木村理事長が竹中登一会長に相談したうえ、認められた。
ここの経緯をここまで詳しく書く必要性があるかどうかです。あって悪いわけではないですが、これはタブロイド紙側がわざわざ提供した情報である点が重要な様な気がします。見ようですが是非書いてもらわなければならないポイントであったとも考えられます。この文書の配布は理事長、会長の承認だけではなく、理事長及び会長が所属している製薬会社も賛成しているとイメージ作りの狙いじゃないかと考えます。

理事長と会長の所属会社がどこかはここではもう書きませんが、文書の配布対象である製薬会社に理事長や会長の所属会社も、この文書の趣旨に賛同していると思わせるための挿入と私は考えます。この効果は実際高かったようで、タブロイド紙の狙いとは別でしょうが、Risfax記事が表に出ると真っ先に槍玉に上ったのは、理事長及び会長の所属会社です。こういう反応は表沙汰にならなければ、逆の効果が製薬会社に期待できたとも考えられます。



さてなんですが、推理ですから日薬連とタブロイド紙のグル説も考えておく必要はあります。グルと言っても一蓮托生的なグルではなく、日薬連が様子を見た可能性です。タブロイド紙の要請文書がどれほどの反響があるのかを見て、日薬連及び配下の広い意味の各メーカーが動向を決定した可能性です。

Risfaxへのリークは日薬連も了解済みで、了解済みの上でタブロイド紙も全面協力で取材に応じたストーリーはありえます。そういうストーリーの日薬連側のメリットは、

  1. 懸念される顧客層の反応を確かめられる
  2. 確かめた上で有利な態度を取れる
反応がやや強くて、記事に名前の挙がった理事長や会長の所属会社が槍玉に挙がりそうになったのは想定外としても、日薬連側としては有利な条件です。ではタブロイド紙側のメリットは何かになります。これが見当がつかないのですが、強いて言えば配布文書の内容に非常に自信を持っていたぐらいしか思いつきません。とくに医師側になると「そんな事がありうるか!」と即断されそうな事ですが、それぐらいは平気でやりそうなところが無いとは言えません。

ここは綾も考えられ、日薬連に文書を提示した時に、

    この内容で世間(顧客)の理解を得られるか
これぐらいの念押しはされたと考えても良いでしょうし、社長名の文書ですからタブロイド紙役員も胸を張って「当然です」と答えたと考えられます。そういう流れになれば、公開もOKどころか、報道もOKになります。ストーリーとしては成立可能です。



何をやっているかわからないタブロイド紙側の動きですが、一つだけ理解できそうなカギがあります。これは天漢日乗様も指摘されていますが、

    ところで、この文書が
     3/17付
    ということは  毎日新聞は2種類の文書を用意
    していたのではないか、と疑われる。

今回の文書配布はある程度の準備期間をおいて計画されたのものであるのは間違いないでしょう。タイミングを見計らう上での重要ポイントは大淀裁判であったと考えるのも妥当です。これは配布文書中にも

こうした中で2006年8月、奈良県で意識不明になった妊婦を転送する病院が見つからず、大阪府の病院で死亡するという事故が起きました。

非常に気にしている事が確認できます。本来の計画は大淀裁判勝利の前提の下に作られていたんじゃないかと考えています。勝利とはたとえ「ぶぶ漬け」であっても構わないので、訴訟の勝利を正当性の根拠として文書を配布する計画ではなかったかと推測します。つまりは自分たちの報道が正しかったので、ネットの批判は誹謗中傷に過ぎないの主張です。

計算の中には訴訟の勝利により世論の流れも変わるというのも組み込まれていたと考えています。その変わったところに文書を送りつけて広告復活を要請する戦略です。ですからもし原告が「ぶぶ漬け」でも勝っていたら、もっと早い段階に文書の配布を要請した可能性は十分にあります。ところが訴訟は原告完敗です。

ここで戦略の修正が必要になったと考えられますが、次に思い描いたストーリーは原告側が「判決は不当」として控訴するタイミングを待っていたとも考えます。ここで強力なプロパガンダをかけて、その流れの上での文書配布の要請です。ところがこれも御存知の通り、原告側は控訴を断念しています。少し日程をまとめますが、

Date 事柄
3/1 大淀事件判決
3/15 大淀事件判決確定
3/17 文書配布
3/19 Risfax記事


なかなか微妙な日程と思いませんか。これも推測になりますが、ギリギリまでタブロイド紙控訴はあるとの見方で待機していたんじゃないかと考えられます。ところがついに控訴はなかったので、再び戦略の修正を余儀なくされたと考えます。ここで考えられる戦略は、
  1. 文書配布を断念する
  2. それでも文書を配布する
結果は文書配布になった事は事実ですが、タブロイド紙の経営事情から中止の選択はなかったのかもしれません。あくまでも新聞協会のデータですし、新聞協会のデータをどれだけ信用できるかはありますし、また全体の統計ですからタブロイド紙にどれほど当てはまるかわかりませんが、
ここ10年ばかりの広告収入の推移は、2000年の9012億円をピークとして、2008年度は5655億円に減少しています。2009年度がどうなっているかですが、電通によると、

「新聞広告費」(前年比81.4%)が大きく減少

電通の広告費の集計と新聞協会の集計はちょっと異なるようですが、仮にこれを単純にあてはめると、2009年度の新聞広告は4600億円程度になります。前年度からさらに1000億円以上の落ち込みになります。あくまでも仮にですが、2009年度の4600億円もグラフに付け加えると、

そうなれば、状況の変化に対応して中止にしても、次のタイミングはないのですから、強行突破の判断に傾いたと推測します。この辺はそれまでの日薬連への根回しが中止できない時点まで進んでいたとも考えられますし、経営判断としても「なんとか広告を」の社内の逼迫した要請もあったとは考えられます。

そういう目で見ると、文書の内容は興味深いものになります。おそらく、

  • 原案1・・・大淀勝利の想定
  • 原案2・・・大淀控訴の想定
こういう2つの原案を踏まえて配布された文書は作られたと判断して良いでしょう。ですから配布された文書に「大淀勝利」「大淀控訴」のエッセンスを加味して考えると、なかなか面白い内容になります。ただ素直な感想として、広告収入の深刻な低下があるのなら、もうちょっと書きようもあると思わないでもありませんが、やはりプライドが邪魔するんでしょうか。

最後に強行突破にどれだけの成算があったかですが、言わぬが花でしょう。結果が如実に示していくと考えます。



追伸ですが、天漢日乗様の推理と違う方向に持っていけるんじゃないかと書く前は構想していましたが、結局のところ同じ結論になってしまいました。同じ材料から推理を積み上げたら同じ結論になってもおかしくはないのですが、お釈迦様の掌で飛びまわったみたいでチョット悔しいところです。それぐらいミエミエなのか、私の頭が固くなったのかはどっちとも言えないぐらいにしておきます。