新聞業界の弊害是正の清々しさ

平成20年6月19日付公正取引委員会「新聞の流通・取引慣行の現状」がちょっと面白かったので御紹介します。前半部の部数とか収入の話は既に当ブログで取り扱ったので省略しますが、一つだけネタとして紹介しておきます。毎月の購読料の分布がP.2に表として示されているのですが、そこのコメントに、

※ 最低料金は1,500円(南信州新聞),最高料金は5,000円(電波新聞

これだけの事ですが、一瞬だけ微笑んでしまいました。もちろん電波新聞はHPで見る限り真面目そうな新聞社ですから、誤解無いようにお願いします。わかるのは業界最高の購読料は電波新聞であると言うだけのお話です。本線はP.8からの「新聞の流通・取引慣行の問題及び是正の取組」のところです。

問題として4つ挙げられているのですが、表にしてみます。














問題 是正の取組
新聞の価格に関する問題
  • 発行部数上位3 社(読売新聞,朝日新聞及び毎日新聞)における朝夕刊セット紙の価格は3,925
    円であり,差がない。
  • 発行本社における長期購読割引及び口座割引は行われていない。

  • 大量購入割引を実施している発行本社が8 社ある。(産経新聞(大阪),長崎新聞宮崎日日新聞,デーリー東北,信濃毎日新聞四国新聞愛媛新聞南日本新聞
  • 学校教育教材用の割引定価を設定している発行本社が42 社ある。
  • 朝夕刊セット販売地域において,朝刊又は夕刊単独の購読を希望する購読者向けにいずれか単独での価格を設定している発行本社が8
    社ある。
  • 広告主に対し広告掲載紙の価格を朝刊80 円(定価110 円),夕刊30 円(同50
    円)で販売している。(岩手日報
  • ヘラルド朝日(英字新聞)は学生向けや一括前払いの場合に割引定価を設定している。(朝日新聞
  • 一部の新聞発行本社において,月刊誌とのセット割引が設定・実施されている。(産経新聞
業界自主ルールを超える景品提供
  • 増紙活動(販売促進)において,業界自主ルールを超える景品提供が行われている問題があると言われている。新聞業の景品制限告示(景表法告示)及び業界の自主基準である新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約で規定される上限である6
    ヶ月分の購読料金の8%を超える景品提供が行われている場合がある

  • 新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約(業界自主ルール)の目的を達成するために設置されている新聞公正取引協議会において,同規約の違反者に対する違反行為の停止又は撤回,違約金の支払等の措置を実施。(新聞公正取引協議会)
  • 朝日新聞,読売新聞及び毎日新聞が行っていた首都圏における金券提供について,朝日新聞及び読売新聞は廃止。(朝日新聞及び読売新聞)
強引な勧誘
  • 増紙活動(販売促進)において,強引な勧誘がなされている場合があると言われている。新聞は,訪問販売に関する消費者相談件数の多い品目として上位2
    番目に位置付けられており〔「産業構造審議会消費経済部会特定商取引小委員会報告書」(経済産業省
    2007 年)〕,相談の特徴等として,家庭訪販による強引な勧誘などの販売方法に関するトラブルが多いとされている

  • 全国に展開する新聞セールスインフォメーションセンター(旧,新聞セールス近代化センター)において,新聞セールススタッフの登録により新聞発行本社が違法行為の目立つセールススタッフを雇用できない仕組みにする取組,及び読者苦情の受付・処理を行う取組。(新聞セールスインフォメーションセンター)
残紙の存在
  • 新聞販売店に供給されながら顧客には提供されない新聞紙(いわゆる残紙)が少なからず存在していると言われている。新聞販売店における非販売部数(残紙)の割合の平均(平均非販売率)は,8.7%に上る。日本ABC協会は,異常に非販売率の高い発行本社には減紙を要請している。
空欄


問題点に対する是正内容についてはあえてツッコミません。「残紙の存在」についてはP.10で確認してもらえれば楽しめるのですが、「是正の取組」は綺麗に空欄となっています。実に清々しいほどです。もう一つP.11も楽しいのですが、まずなんですが、

現在の上記問題に対する是正の取組及びこれまでなされてきた取組を,平成10年1月に公表された再販問題検討のための政府規制等と競争政策に関する研究会の報告によって指摘されている弊害の是正を図る観点から,平成10年3月31日に公正取引委員会が示した,いわゆる弊害是正6項目に対応させると以下のとおりになる。

平成10年3月31日と言えば今から約12年前、この報告の10年前になります。この時に公正取引委員会

    弊害是正6項目
こういうものを示したようです。私にはもう一つ実感がないところですが、公正取引員会から「弊害是正」の何らかの指示を受ければ、普通はその是正に励むかと考えます。この10年前の指示と言うか勧告みたいな物を新聞業界がどう扱ったかもまとめられています。上記の表と重複する部分もありますが、これも示しておきます。










弊害是正6項目 是正の取組
時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化 空欄
各種の割引制度の導入等価格設定の多様化
  • 大量購入割引を実施している発行本社が8 社ある。(産経新聞(大阪),長崎新聞宮崎日日新聞,デーリー東北,信濃毎日新聞四国新聞愛媛新聞南日本新聞
  • 学校教育教材用の割引定価を設定している発行本社が42 社ある。
  • 朝夕刊セット販売地域において,朝刊又は夕刊単独の購読を希望する購読者向けにいずれか単独での価格を設定している発行本社が8
    社ある。
  • 広告主に対し広告掲載紙の価格を朝刊80 円(定価110 円),夕刊30 円(同50
    円)で販売している。(岩手日報
  • ヘラルド朝日(英字新聞)は学生向けや一括前払いの場合に割引定価を設定している。(朝日新聞
  • 一部の新聞発行本社において,月刊誌とのセット割引が設定・実施されている。(産経新聞
再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保 空欄
サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保
  • 平成19 年12 月からポイントサービス会社と提携したポイント制を導入した。この制度は購読料金をクレジットカード決済し,同時にポイントサービス会社に会員登録している読者に対し毎月ポイントを付与する。ポイントをためるとサービス会社が提供する景品やサービスと交換することができる。(毎日新聞
信販売,直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化 空欄
円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その他取引慣行上の弊害の是正
  • 新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約(業界自主ルール)の目的を達成するために設置されている新聞公正取引協議会において,同規約の違反者に対する違反行為の停止又は撤回,違約金の支払等の措置を実施。(新聞公正取引協議会)
  • 朝日新聞,読売新聞及び毎日新聞が行っていた首都圏における金券提供について,朝日新聞及び読売新聞は廃止。(朝日新聞及び読売新聞)
  • 全国に展開する新聞セールスインフォメーションセンター(旧,新聞セールス近代化センター)において,新聞セールススタッフの登録により新聞発行本社が違法行為の目立つセールススタッフを雇用できない仕組みにする取組,及び読者苦情の受付・処理を行う取組。(新聞セールスインフォメーションセンター)


10年前に公正取引委員会から弊害であるから是正せよとされた6項目のうち、実にその半分の3項目の是正項目が空欄です。10年間無視し続けたとしか解釈できません。そんな清々しい3項目は、
  • 時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化
  • 再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
  • 信販売,直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化

少しでも新聞業界の事を御存知の方なら「なるほど、なるほど」の弊害項目ですが、公正取引委員会の勧告を10年間ガン無視しているところに清々しさを感じてしまいます。この報告書は平成10年ですから、現在では12年間の清々しいガン無視項目はおそらく、
  • 時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化
  • 再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
  • 信販売,直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化
  • 残紙の存在

こうなっていると考えられます。ただ、ただ、ただなんですが、「残紙の存在」以外の3弊害は空欄対策であるにも関らず平成20年報告では「新聞の流通・取引慣行の問題及び是正の取組」の中の問題には挙げられていません。これについての説明は報告には書かれていないのですが、10年間のうちに弊害では無くなったのでしょうか、それとも公正取引委員会と新聞業界の間でなんか手打ちでも行なわれたのでしょうか。よくわからないところです。

公正取引委員会ってもうちょっと怖いところと思っていましたが、清々しさがこれほど通用するところと初めて知りました。