日本脳炎ワクチン情報

これも本業に関るので定期的に書いている話題です。今日はいつもにも増して長いのですが、私としては重要な情報なので御容赦頂きたいと思います。ここまでの経緯をいつもの様に簡略に紹介しておくと、

  1. 2005.5.30にADEMによる健康被害を受け積極的勧奨を中止(事実上の中止勧告)
  2. 中止勧告を出した背景には改良型ワクチンの開発が進んでおり翌2006年から再開可能の腹積もりであった
  3. ところが最終治験段階で予想外のトラブルが多発
  4. ようやく昨夏より接種再開(積極的勧奨中止のまま)となった
  5. ここで旧ワクチンを接種した者は、新ワクチンを接種できないとなった
  6. 旧ワクチンは3/9に在庫分も含めて消滅する
こういう状態での課題として、
  1. 事実上中止されていた期間の子どもへの経過措置をどうするか?
  2. 旧ワクチンが消滅した後の、旧ワクチン既接種者への追加接種(2期を含む)をどうするか?
こういう問題が誰でも思いつくわけです。日本脳炎の接種推奨時期は5〜7月で変わっていなければ、目前の問題とも言えます。日本脳炎ワクチンに関する厚労省審議会もちゃんとあり、その名も名前は凄いのですが、この小委員会が始まったのは今年の1/15からで現在第2回まで終わっているようです。議事録はまだなんですが、第2回の配布資料第1回日本脳炎の予防接種に関する小委員会における議論の概要があり状況を推測する事が出来ます。

まず「予防接種における積極的な勧奨の取り扱いについて」として、

  • 平成21年における乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンの供給実績出荷量および副反応報告の状況等を勘案すると、1期の予防接種について、積極的に勧奨する段階に至ったものと考えられるのではないか。
  • 第2期の予防接種については、「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンに係る2期の予防接種として用いた場合の有効性・安全性等についての知見の集積」の結果を受けて、今後、検討することとしてはどうか。

簡単に言えば、1期は積極的勧奨を再開、2期は治験待ちと考えたらよいのでしょうか。ただ2期の治験はメーカー筋の話では提出できる状態とも聞きましたから、どうなっているのかと言うところです。

2期も問題なのですが、とりあえず1期、それも5年間の中止期間中の未接種者に対する対応は注目されます。これは「平成17年の積極的な勧奨の差し控えにより接種機会を逃した者に対する対応について」としてまとめられています。少々長いですが重要なので引用します。

  1. 積極的な勧奨を差し控えたことにより1期の接種機会を逃した者のうち、対応をとることとする者の範囲について


    • 平成17年の積極的な勧奨の差し控えが行われた当時に予防接種法施行令で定められている接種年齢であった児のうち、初回接種(3回)を終了していない者に対して接種機会を提供することが必要ではないか。


  2. 積極的な勧奨を差し控えたことにより1期の接種機会を逃した者のうち、1期不完全接種者に対する接種機会について

    (参考)1期不完全接種者

      ア) 初回接種を全く受けていない児
      イ) 初回接種を1回受けた児(不完全な基礎免疫者)
      ウ) 初回接種を2回受けたが追加接種を受けていない児(不完全な基礎免疫者)


    • 日本脳炎ウイルスに対する基礎的な免疫を付与するためには、初回接種(3回接種)が必要と考えられている。初回接種(3回接種)の接種間隔に関する根拠は、限られているものの、これまでに受けた接種回数を勘案し、不足している回数の追加接種の機会を設けることが妥当ではないか。


  3. 積極的な勧奨を差し控えたことにより1期の接種機会を逃した者に対する乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンの供給予定量等を踏まえた対応について


    • 年齢を区切ることなく、小学生に該当する年齢の者に対して、幅広く接種機会を設けることが妥当ではないか。
    • 供給量を勘案すると、特定の年齢の者に対して、予防接種の積極的な勧奨を行うことが妥当ではないか。
    • 上記の意見を踏まえ、複数の案について供給量を勘案したシミュレーションを作成した上で、さらに検討することとしてはどうか。

実はと言うほどではありませんが、2005年当時に耳にした伝聞情報では、厚労省が某保健所からの問い合わせに対し、

    積極的勧奨は中止にしたが、日本脳炎の接種自体は中止にしている訳ではなく、同意書さえ書いてもらえば接種は可能である。従って、接種を行わなかったのは当人の責任であり、経過措置などまったく考えていない。
こういう趣旨の返答をされたの情報もあったので、その点については経過救済措置を行う方針が出されたのはホッとしました。基本方針は経過救済措置を行うは良いとして、具体的にどうするかについては、
    上記の意見を踏まえ、複数の案について供給量を勘案したシミュレーションを作成した上で、さらに検討することとしてはどうか
つまりは第2回に結論は持ち越された事になります。第2回は1/27に行なわれているのですが、5年間の実質的な中断により接種を受けられなかった者に対する経過措置(救済措置)は行なう方向性は第1回で確認されています。問題は5年も中断したので経過措置対象者が非常に多く500万人以上に上る事です。つまり現在のワクチン生産量では一気に救済は物理的に困難であると言う事です。

これは正直なところワクチン供給数だけの問題だけではなく、これを接種する医療機関も、一気に5年分も来られたら対応しきれないというのもあります。ただ医療機関が対応できるかどうかについては、小委員会はあんまり心配してくれていないようですけどね。


第2回の厚労省の配布資料を読めばワクチンが足りない事をひたすら強調しているのがわかります。まあ、これはウソでは無いから良いとして、足りない状況での経過措置の案の提案を行なっています。平成17年に積極的な勧奨を差し控えたことにより接種機会を逃した者への対応に必要となる日本脳炎ワクチン量の検討についてからなんですが、HTMLで示す関係で一部編集して示します。

  • 案1) 乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが2期に使用できることとなった場合、供給量が増加しないかぎり、接種機会を逃した者への対応は困難であり、2期のワクチンの使用の可否等が明確になった時点で議論を行う。

  • 案2) 2期の接種の機会の確保よりも1期(3回)接種を完了していない者への接種の機会を優先する。


    1. 特定の年齢に勧奨を行うこととする


      • 特定の年齢に勧奨を行うこととする

        → その対象年齢をどのような基準や考え方で決めるか。


    2. 特定の年齢に勧奨を行なわず、広く接種の機会を提供する


      • 対象者を4〜12歳とする。 (予防接種法政令及び省令改正が必要)
      • 対象者を4〜7歳とする。 (現行の体制)

2期に新ワクチンを使用するのは非常に慎重な姿勢で終始しています。これはワクチン行政全般にそうですから仕方ないにしろ、治験結果が出たらそれ以上なにを審議するのか理解が難しいところです。2期に使える旧ワクチンは3/9で日本から消滅しますから、承認しないと言う選択は現在の2期該当者に永久に接種しない事になります。

もうちょっと言えば、海外赴任などを行なう方が日本脳炎の接種を行なおうとしても、旧ワクチン接種者には新ワクチン接種を禁じるとなれば、予防接種なしで赴任しなければなりません。日本脳炎ワクチンの有効期間は4年ほどの説もありますから、ある意味切羽詰った状況にも思えるのですが、とりあえず2期接種には非常に慎重である事が窺えます。

海外赴任者の事は今日は置いておくとして、厚労省案は2期に新ワクチンを使うか使わないかで2つの大きく分けられています。使うほうの案では、ワクチン数が足りないのでアッサリ、

    供給量が増加しないかぎり、接種機会を逃した者への対応は困難
案としては一応出すけど「無理だ」と読んで良いかと思います。そこで2期接種への新ワクチン使用を行なわない前提の案2を提示しています。案2が厚労省の推進したい案と受け取って良いかと思います。案2も二つに分かれているのですが、一つ目の案は現在のMR接種の方式に近いものだと見ます。5年計画ぐらいでワクチンの空白者を順次埋めていこうとの考え方です。

もう一つはそういう年齢による順次埋めていく方式ではなく、空白者が好きな時に接種しようとする案と見ます。この方式ではワクチン供給数に上限があるため、希望者が増えればワクチン不足騒動を誘発します。そういう意味ではあまり現実的でないのですが、あえて出したのは年齢による順次方式では、接種が遅くなったものが日本脳炎に罹患した時の問題を考慮してではないかと思われます。つまり案として出すが、委員会で否定して欲しいの提案です。

ただこの一斉案で笑ったのは、対象者の年齢設定です。

  • 対象者を4〜12歳とする。 (予防接種法政令及び省令改正が必要)
  • 対象者を4〜7歳とする。 (現行の体制)

一瞬正気かと思ってしまいました。とりあえず神戸のローカル事情を話しておけば、理由は不明なんですが、従来神戸では1期を幼稚園・保育園の年長児に行い、1期追加を小学1年で行っていました。つまり5歳児未満は原則として接種しないのです。そうなると2005年当時に5歳児であり、接種できていない子供は10歳になり経過措置から外れてしまいます。

神戸以外では3歳児に1期の接種を行うところが多いと思っていますが、2005年当時に3歳でも今は8歳児です。だいたい4歳〜7歳なんて、経過措置と威張らなくても、ごく普通に公費で接種できる年齢です。何を提案しているのか理解に苦しむものと私は思います。もっともわざわざ出したところに後日の布石があるのだけは間違いないでしょう。



さてなんですが、こういう資料を使って検討された委員会の第2回の流れを第3回の配布資料から推測する事にします。とりあえず日本脳炎に関する小委員会中間報告(素案)が注目されるのですが、まずですが、

 平成21年における乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンの供給実績および副反応報告の状況等を勘案すると、第1期の定期予防接種について積極的に勧奨を行う段階に至ったものと考えられる。

 その際に積極的な勧奨を行う対象者は、予防接種実施要領(平成17年1月27日付健康局長通知「定期の予防接種の実施について」)において示されている標準的な接種期間に該当する者とすることが妥当と考えられる。

とりあえず来年度は1期については勧奨接種を再開するとしています。ただし条件付です。条件とは、

    標準的な接種期間に該当する者
具体的には、

第1期の予防接種は、初回接種については3歳に達した時から4歳に達するまでの期間を標準的な接種期間として、6日から28日までの間隔を置いて2回行う。追加接種については、4歳に達した時から5歳に達するまでの期間を標準的な接種期間として1回行うこと。

昨夏の日本脳炎接種も珍妙なものでした、積極的な勧奨を行なわない前提下で、なおかつ3歳児にできるだけ限定して接種せよの通知が入っていたと記憶しています。日本語は難しいと痛感したのですが、この3歳児に限定通知では思ったより接種者が増えなかったようなので、確か10月に入ってからだったと思いますが、突然「制限を無くすから接種せよ」の通知が舞い込みました。堪忍してくれの世界で、既にインフルエンザ接種で手一杯の状態でしたから、だからどうした状態になったのを覚えています。

今度も3歳児に1期接種、4歳児に1期追加に限定して接種させる計画のようです。会議室はいつもの事ながら平和です。昨夏の接種者は従来より大幅に少なくなっています。4歳児でも1期を接種していない者は数多くいます。3歳児に1期接種するのは良いとして、同時に未接種の姉妹兄弟の4歳児以上の者が希望したらどう対応するかの視点が余りにも乏しい様に感じます。

それと勧奨されなくとも希望すれば接種は出来ます。またぞろ鉄の優先順位が出てくるのでしょうか。今からなんかイヤ〜な感じです。2期についてはひたすら先送りのようです。

第2期の予防接種については、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンを第2期に用いた場合の有効性・安全性等についての知見の集積を受けて、今後検討することが必要である。

これについてはもう良いでしょう。



さて「平成17年の積極的な勧奨の差し控えにより接種機会を逃した者に対する対応について」についても書かれています。これま建前として、

 平成17年の積極的な勧奨の差し控えが行われた当時に予防接種法施行令で定められている接種対象年齢であった児のうち、第1期の接種(3回)を終了していない者に対して、接種機会を提供することが必要と考えられる。

 これらの者に対し、日本脳炎ウイルスに対する基礎的な免疫を付不するためには、接種間隔に関する根拠は限られているものの、3回接種が必要と考えられることから、丌足している回数についての接種機会を設けることが妥当であると考えられる。

これは第1回で決められた基本方針です。

 上記の者に対して、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンの供給予定量等を踏まえ、どのような対応を進めるべきか検討した結果(資料4,5)、平成22年度のワクチン供給量から勘案すると、平成17年の積極的な勧奨の差し控えにより接種機会を逃した者のうち、特定の1学齢に対して積極的な勧奨を行うための十分なワクチン量が確保されているとはいえない状況にあると考えられる。また、乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが第2期の接種に使用できることとなった場合、供給量が増加しないかぎり、接種機会を逃した者への対応は、より困難になると考えられる。

「特定の1学齢に対して積極的な勧奨」は第2回で厚労省が提示したMR方式です。ただこれもワクチンが足りないから「無理」としているのが読み取れます。

 そのため、現時点では、第1期の標準接種年齢対象者に対する接種が確実に行われるようにすべきであり、平成17年の積極的な勧奨の差し控えにより接種機会を逃した者への対応については、平成22年度接種シーズンにおける接種状況やワクチンの供給状況等を勘案しつつ、第2期におけるワクチンの使用の可否が明確になった時点で、第2期の接種の機会の確保と第1期(3回)接種機会の確保のどちらを優先するべきか、ということも含めて、改めて、議論を行うことが必要である。

要するに接種してみて余ったら空白者への接種を考えようの結論のようです。現実的とは言えなくもありませんが、どれだけ余るかの推定が出て、「誰に接種するか」がの方針が出るのは当然の様に秋です。秋はインフルエンザ接種シーズンに突入していますから、またまた医療機関の対応が難しくなります。


来年度もギクシャクがタンマリありそうな日本脳炎ワクチンですが、ギクシャクのもとはワクチンが足りない事です。この問題を解決するにはワクチン供給数が増えない事にはどうしようまりません。いくら会議室で議論を重ねても大した結論など出ようがありません。その解決の目途になりそうな情報が、第2回委員会を取材した1/27付ロハス・メディカル「日本脳炎ワクチン 経過措置決定は先送り」にあります。

なお、もう少し時間が経過すると、

  1. 新製法ワクチンの2期接種使用への可否
  2. 勧奨再開後の1期接種の接種率がどの程度か
  3. 別の国内メーカーが23年度から供給を見込んで承認申請中のワクチンのメド、
などが明らかになるという。

ここに日本脳炎ワクチンの経過措置について誰でもわかる方向性が明記されています。

    別の国内メーカーが23年度から供給を見込んで承認申請中のワクチンのメド
つまり平成23年度になってワクチン生産が1社体制から2社体制になり、生産量が増えるまではどうしようもないと考えた方が良さそうです。つまり来年度は無理、うまくいって再来年度から経過措置なり、2期接種を本格的に考えると言う事です。それだけの事を検証するために、3回も会議をしていたみたいに思えなくもありません。


なるべく簡略にまとめようと努力したのですが、自分で読み直しても煩雑になっています。そこで思いっきり簡潔に小委員会の流れをまとめてみます。

  • 第1回


      5年間の空白期間への経過措置を行なうことを決定


  • 第2回


      経過措置を行なうにはワクチン供給量が足りない事を確認


  • 第3回(予定)


      ワクチンが不足している事を前提に、限定的に経過措置を行なう方針とする中間報告を決定(具体策は秋に決定)
付け加えておけば2期接種は「経過措置 > 2期接種」の関係で構想されているようです。



最後に横道にそれますが、日本脳炎ワクチンと関係なく非常に気になった一節が第2回資料にありました。

 平成22年度の予定出荷量510万本のうち、接種シーズン前まで(7月末まで)の供給予定量が約204万本、前年度の在庫量は、約190万本※2)であることから、平成22年度接種シーズンにあたり、約400万本が使用可能であると仮定する。

 平成22年度接種シーズン以降については、平成22年度の接種率の状況にも左右されるものの、約306万本であると仮定する。

 但し、新型インフルエンザワクチン製造状況に伴う生産への影響を考慮することが必要。

これは1/27に厚労省が提示した資料ですから、そこに注意しておいて欲しいのですが、

    但し、新型インフルエンザワクチン製造状況に伴う生産への影響を考慮することが必要
ここは取りようなんですが、一つは3月まで続く予定の新型インフルエンザの国産ワクチンの生産の影響です。ただし1/27時点の資料ですから、新型ワクチンの生産計画が日本脳炎ワクチン生産に及ぼす影響が未知数とは思えません。もう一つは、まさかまさかと思うのですが、ここに書いてある「新型ワクチンの製造状況」とは、来シーズンの話の可能性を恐れます。

つまり来シーズンも新型と季節性を2本立てで接種する可能性です。もしそうであれば・・・祟りじゃ。