週末の大恐縮

先週末のお話で、内容的には純個人日記です。ある意味有名になっている柏原を訪れる機会に恵まれ、そこでの体験と感謝の込めて贈らせて頂きます。

私の性格の欠点として「人見知りが強い → 人付き合いが苦手」と言うのがあります。子供の時からの課題で、今に至るまで克服の努力を続けているのですが、最近は旗色が悪くなっています。ほいじゃ本業はどうなるんだと言われそうですが、そこはモードが入るようにセルフで洗脳していますが、本業以外になると地の性格が濃厚に滲み出てしまいます。

見知らぬ人と初対面でお話するのが苦手になるとどうなるかですが、そういう機会を回避する行動が強くなります。つまりは「出ない」です。若い時は社会人として回避が出来ませんし、その場に合わせる努力を尽くしましたが、歳を取ると逃げるのが可能になってしまいます。極力回避して参加しない、どうしてもとなれば顔だけ出して一言もしゃべらないなんて事が珍しくも無くなっています。

そんな事をするものだから、今度は余計に出席するのが嫌になって出不精がさらに悪化するという悪循環の中でもがいているのが最近です。それでも年に1回ぐらい「参加したい」と思う出来心が生じます。先週末もそうで、旧知の知人が講演会をされると聞いて「よっしゃ!、聞きに行くぞ♪」と参加を弾みで表明してしまったのです。

ところがなんですが、実際に参加しようとすれば、出不精人間には思いの他の難行苦行が待っていました。講演会は土曜日だったのですが、参加を表明した頃には講演開始時刻も知らずで、勝手に「夕方か早くても3時頃からだろう」と決め付けていました。ところが時刻を聞くとなんと1時30分からと聞いてビックリ仰天です。

県内とは言え少々遠いところで、遠いだけではなく電車の便がかなり良くないところです。そんな日に限って長引きかける外来を懸命の努力で終わらせて電車に飛び乗りましたが、なんとか到着した時には2時30分をかなり回っている有様です。本当に申し訳ないと思いながら、残り時間で拝聴させて頂きました。

今回の出来心は講演会を聞きに行くだけではなく、その後の懇親会も参加すると言うだいそれたものです。もちろん演者となった知人のための懇親会なのですが、知人の知り合いと言うだけで参加させて欲しいと出しゃばってしまったのです。ところが、ところが主催をされた方が異様に気を使っていただいて、なんと扱いはゲスト待遇なんです。

これには本当に参りました。懇親会は当地の有力医師はもちろんの事、市会議員や議長まで参加される本格的なもので、あまりの格式の高さに身の置き所に困る始末です。何が困ったかですが、ゲスト待遇なので紹介されるのです。私のリアルの肩書きは「タダの開業医」です。主催の方は私のブログの読者でしたから、えらく持ち上げて紹介してくれるのですが、当然のように知らない人も多いですから、恥しいというか照れくさいというか、ひたすら恐縮するしかないというのが実感です。

そのうえ、泊まりにしたのですが、翌朝まで主催の方が市内のご案内をして頂き、いろんな方に紹介してもらったのも恐縮しかしようがありませんでした。とくに懇親会に参加していただいた方々には「あいつ誰だ?」の思いが今でもあるかと思いますが、改めて感謝の言葉を捧げさせて頂きたいと思います。


実際に柏原の方々にお会いした感想として、予想通りと言うか、予想以上に熱い方々でした。「医療をなんとかしないといけない」の危機感を十分に共有され、事情や情報に非常に通じておられるのは感心ばかりさせられました。柏原の医療事情がよろしくないのは今さらですが、単なるクレクレではなく、自分たちで出来る範囲、出来ない範囲を把握しながら、現実的な打開策を真摯に論じられているのはある種の感動を覚えざるを得なかったところです。

そこまでたどり着くために、どれほどの情報収集と努力を重ねられたかに思いを馳せざるを得ませんし、医師だけではなく住民も広く巻き込んでの運動にするのに、どれだけの苦労があったかを思わざるを得ません。関係者が本当に危機感を共有するとはこういう事かと痛感しました。

ただそこまでしても、事態の打開は容易でないのが厳しさと思っています。有名になった小児科は危機レベルを何とか脱したようにも思いますが、油断するとすぐに逆戻りする危険性を常に孕んでいます。また小児科以外となると、これも残念ながら衰退に歯止めをかけるのに四苦八苦状態と言わざるを得ない状態です。

今回は産婦人科にある程度スポットをあてたお話で、それに関連する話題が多くありましたが、聞けば聞くほど厳しい情勢です。柏原の産科の基本は二人体制です。御二人とも非常に精力的と言うか、まさに鉄人医師ではあるのですが、少々御高齢です。簡単に言えば、定年までのカウントダウンが遠からず来ると言う事です。

正直なところ、どちらかが欠けられたら補充が非常に厳しいとしか思えません。補充は後任産科医が補充されるかと言うレベルから厳しすぎるお話なのですが、後任に恵まれても現在の医師の方のように働けるかとなると、天を仰ぐ心情になります。年に150日とか、200日なんてレベルで当直を重ねても耐えぬける人材は容易に得られないからです。

根本はそんな体制である事が大問題であり、それが大問題である意識は共有されても、殴っても蹴っても改善できない現状があまりにきついと考えています。鉄人に求められるレベルは、疲労の蓄積からafを起し、カウンターショックでの蘇生が行なわれても、復活して元の激務に戦線復帰しなければならないものです。

取り組まなければ課題として、産科医を増やす事と、産科医が永続して働ける勤務体制の構築であるのは誰の目にも明らかなのですが、どちらも即効的な解決策があるわけではありません。集約化も一つの方策ですが、ここまで分娩施設が減ると、集約化が必ずしも善とは言い難い状態でもあります。多すぎるのを集約するのは効果的ですが、少なすぎるをさらに集約してどうなるかです。

もちろんどうなるかはわかりませんが、柏原も2人の鉄人のどちらかがいなくなれば、集約問題は確実に噴出しそうに思いました。のぢぎく県の産科事情も猛烈に苦しいですから、一人抜けた分の穴埋めは、どこかから引き抜く事になり、1人動くとそれだけで最後のバランスが破綻しかねない状態だからです。ですから集約化と言うより、衰退消滅による減少になる危険性が非常に高いということです。


申し訳ないと思いながら、私はこの件に何もコメントが出来ませんでした。思いつきや小手先の案ではどうしようもないからです。そこを思うと帰路の心が重かったのは、二日酔いのせいだけではなかったと思っています。

たった一晩の事ですから、私が見て、聞いたのは浅い、浅いところでしかないと思います。そんな表面をかすっただけの知見でも異様なぐらい深刻ですから、実際となると目が眩むようです。ただ柏原の方々が本当に真剣に取り組まれている事だけは、せめてお伝えさせて頂いきたいと思います。