査問委員会

なかなか痛烈なやり取りが合ったようで、ロハス・メディカルに傍聴録が掲載されています。

これについての評論は、なかなか鋭い論評なので出来れば御一読下さい。私も評論したいのですが、舞台は9/24に行なわれた中央社会保険医療協議会中医協)DPC評価分科会になります。何をするところかと言えば、これはロハス・メディカル様が非常に上手な表現でまとめられています。

 このヒアリングは毎年秋に行われ、別名「査問委員会」とか「懲罰委員会」などと呼ばれている。DPCによる診療報酬の請求方法が全体の平均と比べて大きく異なる病院をピックアップして厚労省に呼び付け、公開の場で聴聞する。

 この分科会の委員は厚労省の意向に従う御用"とも言うべき医療者ばかり。招集された病院の院長らを厚労省に代わって厳しく追及し、質問攻めにする。この"儀式"を済ませてから、DPCルールを変更するというのがこれまでのパターン。

読んだだけで嫌そうな委員会です。査問する側は決定権も報復権もしっかり握り締めており、さらに厚労省の強力な庇護の下にあり、自らは鼻唄の安全圏におられるわけです。一方で査問される側に許されてているのは「意見を述べる」だけで、どんな正論を並べようとも査問委員のご不興を買えば、デメリットだけを楽しめるシステムです。警察と容疑者みたいな関係でもありますが、容疑者であればまだしも裁判が後にありますが、査問委員会ではそれすらない所と思えばよいようです。

どんな委員がおられるかですが、わかる範囲で調べてみると、6/19の平成21年度第5回診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会に委員名簿があり、

氏名 役職 所属
西岡清 分科会長 横浜市立みなと赤十字病院院長
原正道 分科会長代理 横浜市病院事業管理者病院経営局長
相川直樹 委員 財団法人国際医学情報センター理事長
池上直己 委員 慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教授
伊藤澄信 委員 独立行政法人 国立病院機構本部医療部研究課長
木下勝之 委員 医療法人社団九折会 成城木下病院理事長
熊本一朗 委員 鹿児島大学医学部医療情報管理学教授
小山信彌 委員 東邦大学医療センター大森病院心臓血管外科部長
齊藤壽一 委員 社会保険中央総合病院長
酒巻哲夫 委員 群馬大学医学部医療情報部教授
佐藤博 委員 新潟大学教授・医歯学総合病院薬剤部長
辻村信正 委員 国立保健医療科学院次長
松田晋哉 委員 産業医科大学医学部公衆衛生学教授
山口俊晴 委員 癌研究会有明病院消化器外科部長
吉田英機 委員 昭和大学医学部名誉教授
嶋森好子 委員 慶應義塾大学看護医療学部教授
山口直人 委員 東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学第二講座主任教程
難波貞夫 委員 富士重工業健康保険組合総合太田病院病院長
逸見公雄 オブザーバー 赤穂市民病院長


この名簿のメンバーも正しいかと言われれば、その後に変更はあったようで、名簿では原正道氏が分科会長代理としていますが、ロハス・メディカルの記事では小山分科会長代理となっています。それと余談ですが名簿を調べている時に平成18年5月時点の名簿があり、委員の中に、

信友浩一 九州大学大学院医療システム学教授

こういうお名前がありました。いつDPC評価分科会に名を連ねられ、いつお去りになられたかまでは確認していませんが、推察するにあの程度の御用学者では勤まらない職とも考えられます。それと殆んどの委員の方々は正直よく存じ上げない方ばかりなんですが、私でも存じ上げているお名前として木下勝之氏がおられます。木下氏の所属の肩書きがちょっとおもしろくて、

医療法人社団九折会 成城木下病院理事長

日医常任理事でないのに、少し興味を魅かれました。それと委員を去られた信友氏もそうですが、

    相川直樹:財団法人国際医学情報センター理事長
    池上直己:慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教授
    熊本一朗:鹿児島大学医学部医療情報管理学教授
    酒巻哲夫:群馬大学医学部医療情報部教授
そういう専門の方々が頑張られる分科会らしいというのも確認できます。


ロハス・メディカル様の記事で査問の矢面に立たされたのは山形大学のようです。査問の焦点になったのはジェネリック薬品(ゾロ薬品)に関してです。査問側の追及は「ゾロをもっと使え」であり、山形大学側は「ゾロは信用ならない」と根拠を挙げて反論しています。おもしろいのは山形大側の根拠のある反論に対し、査問側がまともに応接できていないところです。

山形大側の反論点はゾロに対する医療者が持つごく素直な疑問です。山形大側の反論です。

 私は個人的にそのような経験を持っておりまして......、私は放射線科ですから造影剤をよく使うが、造影剤の本質は(先発品も後発品も)みな同じ。ジェネリックも同じはずだが、添加物はもともとのメーカーは全く公表していないので、ジェネリックは違うもの(添加物)を入れたらしい。

 その結果、副作用が一時的にすごく増えた例が実際にありました。ありましたので、ジェネリックの添加物を評価しないで、それを承認してしまうということは、私はちょっとおかしいんじゃないかと。

 それから、ジェネリックを使った後に、きちんとフォローして、副作用のデータをきちんと出すということをジェネリック(メーカー)はやっていないんじゃないか。実際、そのMRの担当者に聞いても全く分からない。自分が売っている薬を。わずか100症例とか、そういうことがあるので、私はどうしても......。

 ま、厚生労働省が認可しているのは分かっているのですが、それを信じられない......(会場、大爆笑)、正直申し上げて。ですので、長年使っていて、治験から携わってきた造影剤をずっと使っている。これが真実でございます。

ゾロ品は主成分が同じと言うだけで他の添加成分が異なる事が多々あります。薬剤による副作用は主成分に対するものもありますが、添加成分に対してもあります。それらの評価をまったくせずに「同じものだ」と使用を強制するのは如何なものかと反論しています。さらにゾロ品の副作用の追跡調査が無茶苦茶杜撰である事も周知の事です。

これに対して査問委員側は調査票に記入してあった

統一的に安全性が確立されていないため

ここにネチネチ絡んでお茶を濁した後、

 あの、1つお伺いしたいんですが、実際に私、病院の院長をやっているのですが、造影剤、ほとんどジェネリックに変えました。先生がおっしゃるようなことは今のところ起きておりません。ですから、初期のころにそういうのはあった。

 私、前にいた大学で導入した時に、やはり不都合なものがあって、「これは信用できないな」というのがあったが、それ以後は改善されて、かなり変わってきているので、先生の今のご発言のような形で信じておられると、これからの日本の医療自身が問題になってくるのかなと......。

要は自分のところは問題ないように思うから「使え」と話を展開させています。これもよく読めばおかしな話で、査問委員が自ら「初期のころにそういうのはあった」としています。ゾロ品推進の理由は「まったく同じもので安いから使え」です。同じものであるはずなのに、副作用は増え、改善しないと正規品と同等にならないことを査問委員が発言しているのです。

ゾロ品臨床試験を省略していますし、副作用データの収集もお座なりです。どういう事かといえば、実際の臨床の中で患者の副作用の不評を聞きながら手探りで改良している薬品と言うわけです。正規品でも認可販売後に改良される事はもちろんありますが、こんなエエ加減な対応で行なわれるわけではありません。

そういうゾロ品に対し、山形大側は患者のリスクを冒してまで無理して使う理由が不明であるの反論を浴びせる事になります。困った査問側は厚労省担当者に話を振ります。

 先生もご存じのように、医療費の内訳を見ますと、半分ぐらいは人件費でございまして、実際に高齢化社会の中では医療費がある程度増えざるを得ないのは仕方ないと思っているが、やはり国民にこれだけのご負担をお願いしている立場から考えますと、やはり節約できるものは節約をしていくということもしていかないと。

ここも「安いから使え」以上の事は出てきません。山形大側の「患者の安全のために」に対する有効な反論はできず、ひたすら「節約、節約」でしか反論できていない事になります。山形大側はこの「節約」についても反論します。

 はい、それはよく理解しています。理解していますが、例えば、造影剤の話をさせていただくと、外国に比べて倍以上しております、値段がですね。もともとのジェネリックではないやつがですよ。
 それから、診療器具、私が使っているカテーテル、心臓カテーテルで使う道具ですね、3倍、10倍というのがあります。(強い口調で)これを下げるのがずっと大事じゃないでしょうか? と私は思う。ジェネリックなんかよりもずっとずっと大事だと私は思いますが、いかがでしょうか? (会場から笑い声。委員や医療課は不機嫌そう)

細かい基礎データは私も把握しきれませんが、正規品とゾロ品の薬価差は縮まってきています。「節約」のためにゾロ品使用を推進するならば、他の医療機器の正規品の内外薬価差を是正するのも筋ではないかの反論です。これに対しては分科会長がこういう会議の方便で、

ちょっと......、これは議論が外れますので......。(会場、爆笑)

「ここはそういう事を論議する場ではない」で逃げを打たれています。旗色の悪い査問委員側ですがオブザーバーの逸見氏が立ちます。

 (平成)18年度改定から20年度改定で、日本医師会は苦渋の決断をしたと思う。今までジェネリックにはあまり賛成ではなかったが、(後発品の使用を促進するよう処方せんの様式を変更する)20年度改定をした。

 それはなぜかというと、限られた医療費の中で、やはり技術料とかチーム医療とか、いろいろなシステムとか救急とか、もっと大事なものがあるだろうと、薬より。そういうことで苦渋の決断をされたと思う。(日本医師会常任理事の木下勝之委員、笑みを浮かべる)

 我々も、同じようなことを自治体病院、薬事委員会などでやっていますと、やはりドクターでなかなか賛成しない人が一杯いる。その中でも、私も礒部管理官に申し上げたが、医学、薬学教育の中でジェネリックというのは1行も1コマもない。その辺を直してほしいと申し上げたが、それが別の(文部科学)省ですね、という話になってしまう。いわゆる縦割りということで。

 ここはですね、最後はですね、「院長がジェネリックやないか」などと言われたので私も辛いものがありました。だから、世間一般がジェネリックを認めていない、薬剤師も。事務は薬価差が少ないとか、いろいろなことを言って進まないわけだが、やはり、諸外国と比べると数量も金額も低い。

 だから、一番の問題は、(中医協)薬価専門部会でも(意見が)出ましたが、DPCに一番初めに入った大学病院、特定機能病院が進んでいないんですね。やはり、どこの病院(の医師)も、しばらく大学にいてから来る人が多いわけですから、そこがちゃんとやらないと、これはジェネリックが進まないんですねぇ。

 そうしますと、国策に反している国立大学ということになりますので......(会場、爆笑)、ぜひ、その辺のところはお考えいただきたいと思います。

これもまた内容が無い反論で、とにかく決まった事だからゾロ品を使え以上の事はなに一つ話していません。国策として決めた事だから、「それに反抗するとどんな報復があるか考えろ」と言っているだけです。査問委員会の本音が爆発しているところと言えますし、ここまで正面から反論された経験のない査問委員が強引に話の決着をつけようとしている姿勢が良く見えます。

この後、これも嫌らしいぐらいにネチネチと山形大側の発言者に対し、発言者個人のゾロ品使用状況を絡み倒して、一本取ったような形に持ち込んだ挙句、

 よろしいですか、確かに、言葉の端々にかなり矛盾している点がありますので、これ、大学のほうにお持ち帰りいただきまして、後発医薬品を病院全体としてどういうふうにするのか、やはり絶対に使わないという形にされるのか、日本の国策上、(後発品を)導入しようと、しかもそれによって、先ほど邉見委員がおっしゃってくださったような形で医療費の再配分をしようということもございますので、ぜひともお持ち帰りいただいてご議論をお願いできればと思います。

こういう形で査問を終わらせています。江戸時代ならここまで反論して不興を買えば「お上を畏れぬ不届き者」となるような展開ですが、幸い今は平成の世ですから、山形大の代表者も閉門とか謹慎にならずに山形には帰れたかと思います。もっとも今後にどんな陰湿なデメリットが山形大にもたらされるかは、この平成の世であっても心配せずにいられないと言うところです。


ところでですが、

    よろしいですか、確かに、言葉の端々にかなり矛盾している点がありますので
ここは終盤部分の重箱問答に対してのもので良いかと思います。それはそれとして「矛盾」は査問委員会にもあるように感じます。厚労省担当官が「医療費の節約のためにゾロを使え」としたのに対し、山形大側はカテなどの医療機器の内外価格差を指摘しています。この指摘に対し査問委員会側は「これは議論が外れますので」として交わしています。

この「これは議論が外れますので」ですが、取りようは二つあって

  1. この日の査問はゾロ品のみである
  2. 内外価格差の問題は担当が違う
どちらにも取れますが、査問委員側の国策発言を読む限り、担当の問題であると私は感じます。仮に担当問題であるとすれば、査問委員会でゾロ品の信頼性問題を論議する事自体が担当外になります。逸見オブザーバーの発言にも、
    18年度改定から20年度改定で、日本医師会は苦渋の決断をしたと思う
ゾロ品推進は査問委員会が決定したものではなく、他の部署が決定したものです。査問委員会はその決定を国策として押し付けるのが仕事で、信頼性問題はゾロ品推進を決定した部署で論議するのが筋になります。もう少し言えば、山形大側の信頼性への主張を査問委員会が受け入れても何の決定にもならないと言う事です。つまり国策への議論をする権限は査問委員会には無いと考えるのが妥当です。

にもかかわらず、査問委員会は信頼性論議を山形大側に行なっています。この事は「言葉の端々にかなり矛盾している点」があると私は感じます。正しい査問委員会のお仕事としては逸見オブザーバーの発言の様に、

    国策に従わないなら、報復は覚悟しておけ
これ一本でゴリ押しするのがもっとも適切と言う事になります。ゾロ品の信頼性論議などは国策決定の時点で終了していますし、再燃させるには国策決定の場である必要があると言う事です。つまり決定事項に論議は不要であり、そんな事を論議する資格も権限も査問委員会に存在しないと言うわけです。もっとも「泣く子と地頭には勝てない」の強圧的な委員会ですから、どんなに矛盾した主張を行なおうとも査問委員側は無責であるのは言うまでもありません。