新聞協会賞受賞への祝辞

もちろん私がもらったわけはなく、タブロイド紙です。記事を読むと忘れられないお名前も見受けられ、「また」と思われる方も多いと思いますが、埋め草としてお読み下さい。


とりあえずかなり古いですが、2005.2.17付MyNewsJapanタブロイド紙押し紙関連の記事があります。この記事のソースになった資料が、どれほどの信憑性が置けるのかは皆様の御判断次第ですが、グラフにしてみます。

ここでなんですが、「発証」とは領収書付きで新聞販売店で販売された実部数の事を指し、「店扱い部数」とは新聞社が販売店に売った部数の事を指します。数字も示しておくと、

1997年10月 2002年10月 減少数
発証 277万2502部 250万9139部 26万3363部
店取扱い部数 393万9805部 393万3644部 6161部


店取扱い部数はほとんど変動なしとしてよいと考えられますが、発証は26万3363部、9.5%減少しています。ちなみになんですが、2007年7月号FACTAにどうやらABC協会に基づく都道府県毎の販売数が掲載されており、そこを足し算するとタブロイド紙の販売部数は2007年5月集計で、
    397万5422部
あれまあ、2002年10月より微増しております。MyNewsJapanの情報が正しいとすれば、これは「店取扱い部数」となります。では今はどうなっているかですが、MACSに公式データがあり、「2009.1〜6平均 ABCレポート」として、
    380万4373部
調査月が違いますから単純比較できませんが、2年で17万1049部、4.3%減です。2007年購読者の25人に1人がタブロイド紙の購読をやめた事になります。これは押し紙を含む「店取扱い部数」の可能性がありますから、「発証」つまり実販売部数は果たして幾らになっているか興味の湧くところです。仮に2002年度のデータを参考に推測してみると約243万部になります。

これもまたちなみになんですが、公式の押し紙比率と考えられるデータがあります。平成20年6月19日付の公正取引委員会「新聞の流通・取引慣行の現状」で、ここには「押し紙」を「残紙」と言う表現にしていますが、

(4)残紙の存在

新聞販売店に供給されながら顧客には提供されない新聞紙(いわゆる残紙)が少なからず存在していると言われている。新聞販売店における非販売部数(残紙)の割合の平均(平均非販売率)は,8.7%に上る。日本ABC協会は,異常に非販売率の高い発行本社には減紙を要請している。〔「JABC」(社団法人日本ABC協会2007)〕

公正取引委員会押し紙が8.7%あると認定しています。



前に取り上げた、日本新聞協会の新聞業界全体の売り上げの公称データを再掲します。

項目 1997年 2007年度 増減率
新聞業計 25293 22182 -12.3%
販売収入 12903 12434 -3.6%
広告収入 9127 6557 -28.0%
その他収入 3264 3080 -5.6%


新聞の販売収入は業界全体で3.6%の減少となっています。タブロイド紙は1997年から2007年の間に公称販売部数を13万4712部、3.4%減少させていますが、見事にシンクロしています。「見事だな〜」ぐらいの感想にしておいて、新聞業界にとって公式データ上、もっとも深刻なのは広告収入の落ち込みです。これが広告業界全体からするとどういう感じなのかを電通資料を基にしたグラフでご覧下さい。
2005年から分類基準が変わっているそうですし、2008年で8276億円、新聞協会と集計法が違うようですが、1985年の売り上げ以下に落ち込んでいるのが分かります。ほいじゃそれ以前はどうかなんですが、紙への道様が電通資料から1955年からのデータを作ってくれています。データは新聞広告費が広告全体に占める構成比です。

1955 1960 1970 1980 1990 1995 2000 2005
構成比
(%)
55.5 39.5 35.1 31.1 24.4 21.5 20.4 17.4


1955年に55.3%の構成比を誇っていた新聞広告が5年後の1960年には39.5%、さらに1970年には35.1%まで落ち込んだのはテレビの台頭のためとされています。テレビ業界の動きは、
テレビ局名
1953 NHK日本テレビ開局
1955 TBS開局
1959 テレビ朝日・フジテレビ開局
どれぐらいテレビ広告費が伸びたかですが、

1955年当時のテレビ広告費の構成比は1.5%でしたが、1960年の構成比22.3%に

5年で約15倍の伸びです。雑誌やラジオなどの他の広告媒体はテレビ台頭後、やはりシュアを食われていますが、それなりの棲み分けは出来たようにも見えますが、新聞はひたすらテレビに押されて長期低落を続けたともデータは読めます。

さてとここでネットですが、近年猛烈な勢いで存在感を増しています。広告費も当然の様に急増中です。金額ベースで言うと2008年で新聞が8276億円、ネットが6983億円ですから2009年度にも逆転しても何の不思議もありません。ネットは他の媒体の広告をドンドン侵食していますが、グラフで見る限り新聞への影響も非常に強そうです。

広告費の推移を見る限り、新聞はかつてテレビに大きなダメージを受けたのは確認できます。それでもなんとか持ちこたえていましたが、今度はネットに再び侵食されています。新聞業界における広告費の経営上での比重は、公正取引委員会の報告では、

販売収入と広告収入の比率は64:36である

販売収入と広告収入は数字上でも新聞社の経営の両輪ですが、別個のものではなく密接に関係したものであるのはもはや常識としてよいでしょう。新聞購読料は特殊指定により競争はありませんが、広告費に特殊指定はありませんから、販売部数により料金が変わります。10万部発行の新聞と100万部発行の新聞の広告費が同じという事はありえないからです。

押し紙による販売部数の水増しは、新聞社から販売店への補填を行なっても販売収入として幾らか利益が上がります。ただし押し紙は特殊指定で禁じられている行為であり、違法行為を行なってまで部数を水増しするのは広告費の維持のためとされています。つまり押し紙により新聞社は、

  1. 販売収入の増加
  2. 広告費の増加
この二つの利益を享受している事になります。ここで押し紙は新聞社は絶対的に否定しています。もちろん特殊指定に反するからです。MyNewsJapanが発掘した証拠ぐらいではビクともしません。実際に新聞販売店主が押し紙の重圧に耐えかねて訴訟に至ったケースも散見されますが、あくまでも個別事情以上の譲歩はしません。経営の生命線であり、新聞業界全体の共通利害になりますから、それぐらいはするでしょう。

それでも危機の臨界線は近づいていると見るのが現実的です。新聞の販売部数は公称部数でも漸減しています。これも新聞協会のデータですが、

    1998年:5366万9886部
    2008年:5149万1409部
押し紙でもっとも被害を蒙るのは新聞販売店で、実のところタコが自分の足を食うような行為です。折込広告と新聞社からの補助金のバーターで話が済んでいた時代もあったそうですが、現在では経営を大きく圧迫していると聞きます。押し紙をやっても公称部数が維持できないぐらい実部数の減少が止められなくなっているのが現実だと考えるのが妥当で、今後もこの傾向が変わるとは思えません。たとえ政府から500億円の補助金をせしめても難しいと考えます。

ここで実部数と公称部数の乖離に大きな関心を寄せている有力者がついに登場しそうな情勢になっています。新聞社にとって最も怖い広告スポンサーです。スポンサーサイドも新聞の広告効果への疑問と、経営悪化による経費節減は至上課題になっています。新聞に広告を出すにしても広告費の削減を考えないわけが無いという事です。

広告効果を考える上で重要なのは公称部数ではなく実部数です。広告費も公称部数から算出されるのではなく、実部数から算出する方が合理的ですし、広告費の削減に寄与します。公称部数と実部数の乖離が噂通りであれば、広告費が単純計算で3割以上は削減できます。現在の広告効果での新聞の地位はかなり低下しており、実部数による算出法への変更圧力はスポンサー優位になっていると考えてもさほど不自然ではありません。

新聞社の経営水準がかなり危うい線まで至っているのは各種の情報が示しています。ここでスポンサーサイドの要求を受け入れたら、

  1. 押し紙部数減少による販売収入の低下
  2. 実部数での広告費算出による広告収入の低下
この二つがさらに経営を直撃する事になります。受け入れなかったら、スポンサーサイドはさらに新聞広告の比重を削減させるのも目に見ています。ドカ貧かジリ貧の選択を迫られると言う事です。



以上をもちまして甚だ簡単ではありますが、新聞協会賞受賞の祝辞に代えさせて頂きます。