現実的対応なのか現状糊塗なのか

私自身も混乱していたので、現在の新型インフルエンザ対策をおさらいします。基本は厚労省新型インフルエンザ対策関連情報に明示されている、

    第二段階(国内発生早期)
第二段階の対策はガイドラインに従ったものになり、

第二段階:当該都道府県内に新型インフルエンザ患者が発生し、入院勧告措置に基づいて感染症指定医療機関等で医療が行なわれる段階

こうなっています。もう少し具体的には、

 感染症病床等の数は、先述のとおり都道府県等の試算により決定される。「第二段階」は、疫学調査により患者の感染経路が追跡できなくなり、入院勧告による感染拡大防止及び抑制する効果が得られなくなるまで、又は都道府県の感染症病床等が満床になるまでの段階とみなされるので、当該時期は各都道府県により異なる。

もっと現実的に言えば、発熱患者は発熱相談センターにまず問合せ、新型の疑いがあれば発熱外来を受診し、新型の診断が付けば症状の重症度に関らず措置入院が行なわれているはずです。日本全国が公式にはこの状態です。実際の運用が「今」どうなっているか把握していませんが、建前上はこうなっています。

ところが神戸や大阪で「感染症病床等が満床になるまでの段階」が出現しました。これも御存知の通りです。そのために現場の現状を追認する形で神戸では、

    まん延期直前宣言
これが行なわれています。大阪も実態的に似たような状態になり、基本は第二段階のままで実質第三段階みたいな運用が、便法として行なわれました。現状先行でそうなった後に厚労省ガイドラインとの整合性を保ちつつ、現状に合わせるために新指針が打ち出されています。この新指針の内容の理解に私は混乱があったのですが、新指針では日本を
  • 患者や濃厚接触者が活動した地域
  • そうでない地域
この2つにまず分けています。「患者や濃厚接触者が活動した地域等」は現状が先行した神戸や大阪を念頭に置いているかと考えられます。ここで注意しておいて欲しいのは、「そうでない地域」も第二段階の地域です。そこを注意しておいてもらって、「患者や濃厚接触者が活動した地域等」をさらに2つに分けています。
  • 感染拡大防止地域(主に感染拡大防止に取り組んでいる地域)
  • 重症化防止重点地域(主に重症化の防止に重点を置いて取り組んでいる地域)
この2つの地域の新型患者への対応の違いは、
    感染拡大防止地域:新型患者は発見次第、症状に関らず措置入院
    重症化防止重点地域:新型であっても軽症なら一般医療機関で季節性に準じて治療
私は当初、感染拡大防止地域と重症化防止重点地域の2種類に日本を地域分けしていると理解していましたが、6/5付け厚労省事務連絡 新型インフルエンザ対策本部基本的対処方針(平成21年5月22日)等における「患者や濃厚接触者が活動した地域等」について(更新)には、

平成21年6月4日付け事務連絡において1(1)感染拡大防止地域として掲載されていた大阪府堺市については、患者が治癒して7日経過し、かつ、新たな患者発生が7日間ないことから、「患者や濃厚接触者が活動した地域等」に該当しなくなりました。

こうなっており、なおかつ感染防止拡大地域の指定は大阪府堺市のみ(6/4時点で福岡県福岡市(板付中学校区に限る。)のみになっています)であったので、こう解釈しています。私の解釈に誤解があるようなら訂正ください。

つまりと言うほどではありませんが、現在の新型インフルエンザ対策は、

  • 新型インフルエンザ患者及び濃厚接触者がいない地域


      第二段階の普通の地域


  • 新型インフルエンザ患者が発見さている地域


    1. 発見患者が少数で濃厚接触者の追跡も可能な地域


        感染拡大防止地域


    2. 患者が多数で濃厚接触者の追跡が困難な地域


        重症化防止重点地域
どうもこうなっている「らしい」としておきます。私の理解する限り、患者が存在しない普通の第二段階地域と、感染拡大防止地域の医療体制上の差は無いように思うのですが、新指針ではこういう風に区分していると見られます。


そして神戸なんですが、6/5付け神戸新聞より、

感染地域、分類決めず 新型インフルで県と神戸市

 兵庫県と保健所設置市の神戸、尼崎、西宮市は、政府が新型インフルエンザ対策で示した「感染拡大防止地域」と「重症化防止重点地域」の2分類のうち、どちらにも該当しないと判断した。県などは「既に発症は散発的。地域の枠組みに当てはめれば風評被害も懸念される」と指摘。厚生労働省は4日、県と3市について「その他」の地域と発表した。(石崎勝伸)

 政府が5月22日に決めた2分類は、患者や濃厚接触者が活動した地域のうち(1)発生が少数の感染拡大防止地域(2)患者数が急速に増加している重症化防止重点地域-に区分。(1)は全患者の入院措置を続け、(2)では軽症者の自宅療養を容認するなどとした。

 厚労省は「どちらかを選んでほしい」とし、大阪府などは(2)に該当すると判断。一方、兵庫県は「『回復期』『小康期』などの分類がない中で選ぶのは無理があり、メリットもない」とし、神戸市も「一部で(1)と(2)の両方の対策を並行させている」として選ばなかった。

 尼崎、西宮市も県の方針に同調。姫路市は感染者2人が既に完治し、患者や濃厚接触者が活動した地域からも外れた。

神戸は厚労省の新指針での地域分類に異を唱え「その他」が認められています。あっさりと新しい定義が提唱され認められたことになります。神戸ではこれもおそらくですが、新たな新型患者の発見が無くなり、感染症病床が使える状態になっています。そのため、もし新型患者が発見され、入院が必要なら運用として措置入院という事になっているんじゃないかと考えています。

一方で発熱患者はごく普通に一般医療機関を受診するようになっており、一般医療機関でもマスクを外して診療するところが急速に増えています。もともとマスクで診療しているところはマスク診療ですが、していなかったところはもうしない状態、つまり日常の診療風景に実質戻ってきているという事です。

そういう状況が出現したのは、

  1. 神戸が実質第三段階に近いまん延期直前宣言を行なったため
  2. 新型の発見が関係者の努力もあって終息傾向にあるため
  3. 新型がどうやら弱毒性である事が周知されたため
大阪は厚労省の方針に基づき、重症化防止重点地域になっていますが、神戸は大阪より観光の面を重視したのか、神戸も大阪も実質として行なっている事は変わらないかと思われるのですが、神戸は地域の指定名称を忌避したとすれば良いのでしょうか。重症化防止重点地域が嫌なら感染拡大防止地域もありそうなものですが、これでも名称による風評被害を言い出せば該当しそうですし、感染拡大防止地域にすれば医療体制が持たないの判断もあったかと推測されます。

感染拡大防止地域になれば医療体制は実質第二段階ですから、発熱患者はすべて発熱相談センター経由となり、疑われるものは発熱外来受診ですが、感染地である神戸では疫学関連情報によるスクリーニングが出来ないことになり、再びシステムがパンクする懸念が生じます。一般医療機関に移行してしまったシステムをバックさせるのは現実に不可能であり、名称が風評被害でピリピリするならば、「その他」と言う政治的妥協に至ったと見るのが宜しいようです。


考えれば発熱相談センター・発熱外来システムは、その地域に感染ルートが不明の患者がある程度出現した時点に瞬間に破綻するものと考えられそうです。5月と言う季節の発熱患者数でもそうですから、これが冬季の季節性インフルエンザ時期となれば、なおさらなのは誰でも理解できるかと思います。

本来はそういう状態になれば、ガイドラインでは第三段階に進んでの対策を取るようになっています。ところが今回は色んな政治的思惑もあったのでしょうが、第三段階に進まずに第二段階の拡大解釈と言うか、弾力的運用で対応しています。これはおそらくですが、国内段階は全国統一で行なうはずのものが、拡大解釈と弾力的運用により市町村単位(どころか学区単位でも)のモザイク分類で対応しています。

すべては第二段階を守るためであり、第二段階を守るために現状追認を繰り返していると考えています。しかし新型の流行は現在南半球に広がっていますので、冬季まで待たなくとも日本に再上陸するのは間違いありません。また国内に既に潜入している新型の再燃も当然予想されます。

そういう状況下で新型対策をどうするのかを、もう一度立て直す必要があるのではないでしょうか。幸い季節はインフルエンザの流行に適しない季節なっており、対策を練り直す時間が与えられています。ガイドラインに対する新指針は打ち出されましたが、新指針であっても、感染力の強力なことが確認されている新型の蔓延が冬季に起これば、季節性と重なって各地で混乱を巻き起こしそうな懸念を抱いています。


今でも新型対策は大きな矛盾を抱えています。例えば、東京の人間が神戸に来て新型を発見されれば、入院が不要なら神戸ではタダのインフルエンザとして治療されます。しかし神戸の人間が東京で新型を発見されれば措置入院になるのが建前です。さらに言えば、東京の人間が神戸で新型を発見され、インフルエンザ治療薬で治療し、1〜2日で解熱して軽快傾向になっても、その状態で東京に帰れば公式には措置入院となります。

感染地域分けは福岡の例でわかるように、中学校の校区単位でも可能になっており、状況によっては自分の校区では措置入院だが、隣の校区は普通に家で治療なんて事も起こるわけです。すべては第二段階を守るために次々に打ち出した現実的対応が整合されずに矛盾を来たした結果とも考えられます。こんな状態で冬を迎えることが好ましいかどうかを考える必要があると感じています。


新たな状況に対する現状追認が現実として必要なこともわかりますが、現在行なわれているのは現実的対応と言うより現状糊塗に見えてしかたありません。問題のなのは時間はあるとしましたが、時間が果たして有効に使えるかになります。新型インフルエンザへの関心は終息と言うより急速に風化し形骸化しています。そして7月から8月にかけて、政治的には何があるかは皆様御存知の通りです。

政権の行方を左右する大きなイベントではありますが、新型対策も今夏中に練り直しておかないと、秋から冬になれば、現在の体制のままでは禍根を残しそうな気がしてなりません。もっとも日本中が神戸のように「その他」にしてしのいでしまうか、公式に第三段階にして、第三段階内でまた新たな現実的対応を繰り返す選択も無いとは言えませんから、動く気があるかどうかはなんとも言えません。

もっともですが、今からどう動くとしても、また動かないにしても、異論は医学的にも政治的にも必至ですから、難しいのは間違いありません。やっぱり奥義「先送り」でしょうか。考えてみれば今冬に、誰が厚労相なのか、誰が首相なのか、どこが与党なのかも予想がつかない状態ですからね・・・。