産経記事をもう一度検証する

題材は昨日も扱った2009.5.6 01:29付け産経ニュース(魚拓)です。

新型インフル】都が「疑い例」を届け出ず すでに数人

 新型インフルエンザへの対応で東京都が、検疫後に感染の「疑い」症状がある人を把握しているにもかかわらず、感染症法で定められた国への届け出をしていないことが5日、分かった。一般への情報公開もしていない。

 都では「実害が出ない体制を整えている」としている。「疑い」段階で積極的な情報公開をしている厚生労働省の対応と異なる対応で、届け出や情報公開のあり在り方をめぐって波紋を呼びそうだ。

 厚労省はメキシコ、米国、カナダから帰国・来日した人が、検疫や入国後の簡易検査で「陽性」となった場合、届け出を義務づけるとともに、「疑い例」などとして発表している。

 同じ飛行機の搭乗者に注意を促すとともに、社会への注意喚起の目的がある。5日未明までに5人の情報公表があり、いずれも後に「陰性」が確認された。

 しかし、都では▽人口が多く「疑い例」段階で公表すると対象が多すぎて無用な混乱を招く▽都の施設で6時間程度で感染の有無が確認でき、国への届け出は感染が確認されてからでも時間に大差はない▽該当者と行動をともにした人に注意を促すなどの初期行動は進めており実害はない−といった理由から、国への届け出と情報公開を見送っている。すでに「数人」が対象になったという。

 厚労省新型インフル対策推進本部では「早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない」と話している。

まずなんですが、

     厚労省新型インフル対策推進本部では「早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない」と話している。
この部分なんですが、5/6付けで厚生労働省新型インフルエンザ対策本部は本日付産経新聞の記事について(魚拓)として、

 5月6日付産経新聞新型インフルエンザに関する報道において「厚労省新型インフルエンザ対策推進本部では『早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない』と話している。」という記事が掲載されましたが、本事務局においてはこのようなコメントはしておりません。

ここは取り様があるらしく、事務局は言っていないとしていますが、対策本部の誰かが産経取材にこういうコメントをした可能性は残るそうです。ただ対策本部の公式のコメントとして産経記事は否定されています。

この記事には東京都も反応しています。5/6付で新型インフルエンザに関する東京都の対応等について(第13報)としてあるのですが、この報告の冒頭に、

 5月6日付一部報道で、「東京都が検疫後に「感染の疑い」症状がある人を把握しているにもかかわらず、感染症法で定められた国への届け出をしていない」との報道がありましたが、事実関係は下記のとおりです。

「一部報道」は産経記事を指していると考えてよいでしょう。産経以外も追随したマスコミがあったかもしれませんが、産経も含まれていると考えてまず間違いありません。それでもって産経記事の、

     新型インフルエンザへの対応で東京都が、検疫後に感染の「疑い」症状がある人を把握しているにもかかわらず、感染症法で定められた国への届け出をしていないことが5日、分かった。
この部分に対しての事実関係として、

国は、平成21年4月29日付「新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)に係る症例定義及び届出様式について」で都道府県等に対して新型インフルエンザの疑似症例について、届出を義務付けています(別紙参照)。しかし、当該通知以後、5月5日までに、東京都においてはこの基準に該当する例はなく、指摘されるような法令違反はありません。

東京都の主張はシンプルで届け出るも出ないも「疑い例」が存在していないのであるから、報道内容は正しくないとしています。

    すでに「数人」が対象になったという
これにあえて該当するケースとして、

東京都では、新型インフルエンザの感染拡大を防止するために、早期発見対策として、国の疑似症よりも幅広く都独自に検査を実施する「東京都感染症アラート(ウィルス検査)」の対象として、保健所や感染症指定医療機関および発熱外来を設置している医療機関の要請に応じた検査を実施しています。こうした、念のために実施する検査について、4月25日から5月5日までの検査数は9件です。

東京都は国の基準より広く「疑い例」を調査しており、その件数なら9件あるとしています。国の「疑い例」と表現が混同しそうになるので、東京都が独自に行なった検査は「疑い例」未満の「念のため例」であると表現するのが良さそうです。

    一般への情報公開もしていない
この部分に対しても、

こうした検査については、無用な混乱を起こさないよう、実施状況については非公表としていますのでご理解くださいますようお願いいたします。

国の基準以上の東京都独自のより範囲の広い「念のための検査」であるので、無用の混乱を起こさないように非公開にしていると主張しています。



どうもなんですが、産経の取材対象は東京都独自の

これであったと考えるのが妥当なようです。そう考えると話に筋が通ります。「東京都感染症アラート」は新型インフルエンザも対象にしており、さらに国の「疑い例」より広範囲の「念のため例」も検査しているようです。その上で「東京都感染症アラート」の方針として、
  1. 「疑い例」ではなく、それ未満の「念のため例」であるため届出の対象にはならない
  2. 確定診断後は当然届け出る
  3. 感染防止対策は「疑い例」と同様に厳重に行なっている
別に変な話ではありません。東京都が東京都感染症アラートの活動について聞かれたらそう答えると考えます。また厚労省の担当者も東京都感染症アラートについて聞かれても、

「早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない」

国が対象とするもの以外の、自治体の独自判断によるより広範囲検査ですからこれを「無理矢理に届けろとはいえない」としてもおかしくはありません。厚労省新型インフル対策推進本部として東京都感染アラートの位置付けを聞かれたらこういう程度の返答をしても矛盾はしていません。つまり東京都の担当者も厚労省の誰かのコメントも「東京都感染症アラート」について真面目に答えただけと考えられます。


しかしです、記事はそういう風に読み取るのが非常に困難な内容です。

感染症法で定められた国への届け出をしていないことが5日、分かった。

ここを読んで、これは国が対象とする患者以外の事柄と理解するのは難しいところです。ごく普通に読めば、東京都が感染症法の規定を破って独自の判断で活動しているようにしか読めません。東京都が感染症法の横紙破りの違法行為を行なっているとの印象です。さらに、

「疑い」段階で積極的な情報公開をしている厚生労働省の対応と異なる対応で、届け出や情報公開の在り方をめぐって波紋を呼びそうだ。

「波紋を呼ぶ」とはこの場合、どう考えても好意的な受け取り方が難しい表現と感じます。実態は東京都が国の基準以上に感染防止体制を強いているだけの事で、住民を守る自治体の姿勢として非難されるものではないと考えられます。むしろ東京都として国以上に頑張っていると称賛しても良い事かとも思われます。しかし記事では東京都が胡散臭い違法行為を行なっているような印象を植え付けるように受け取ります。


この記事は産経記者の理解不足でしょうか、それとも何らかの意図を持ったミスリードでしょうか。確かに東京都が国の新型インフルエンザ対策以上の検査体制を行なっているのは、理解が難しいかもしれませんが、そういうところを良く調べて記事にするのがマスコミの使命のはずです。ともすればパニックの火種になりかねないのが新型インフルエンザ騒動ですから、マスコミは記事内容に普段以上に慎重さが求められると考えます。

そういう意味では余りにも不消化であり、不勉強であり、タチの悪いクズみたいな記事であるとの評価をされても致しかたないような気がします。どう読んでも「無用な混乱」を招きかねない記事と言うより、現実に厚労省や東京都を巻き込んでの「無用な混乱」そのものを引き起こしただけの記事と考えます。今後の産経記事について

    産経の取材姿勢、記事の信憑性について、ますます大きな波紋を呼びそうだ
こうさせて頂きます。