【新型インフル】都が「疑い例」を届け出ず すでに数人
新型インフルエンザへの対応で東京都が、検疫後に感染の疑い」症状がある人を把握しているにもかかわらず、感染症法で定められた国への届け出をしていないことが5日、分かった。一般への情報公開もしていない。
都では「実害が出ない体制を整えている」としている。「疑い」段階で積極的な情報公開をしている厚生労働省の対応と異なる対応で、届け出や情報公開のあり在り方をめぐって波紋を呼びそうだ。
厚労省はメキシコ、米国、カナダから帰国・来日した人が、検疫や入国後の簡易検査で「陽性」となった場合、届け出を義務づけるとともに、「疑い例」などとして発表している。
同じ飛行機の搭乗者に注意を促すとともに、社会への注意喚起の目的がある。5日未明までに5人の情報公表があり、いずれも後に「陰性」が確認された。
しかし、都では▽人口が多く「疑い例」段階で公表すると対象が多すぎて無用な混乱を招く▽都の施設で6時間程度で感染の有無が確認でき、国への届け出は感染が確認されてからでも時間に大差はない▽該当者と行動をともにした人に注意を促すなどの初期行動は進めており実害はない−といった理由から、国への届け出と情報公開を見送っている。すでに「数人」が対象になったという。
厚労省新型インフル対策推進本部では「早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない」と話している。
感染症法に基づけば新型インフルエンザの「疑い例」を見つければ、
- 「疑い例」として届ける
- 「疑い例」の確定診断の結果を届ける
そのため「疑い例」は届けずに、「確定診断」のみ届ける運用を行なっているとあります。6時間の間に「疑い例」と「確定診断」の2回の届出は効率が悪いとの判断と言えばよいでしょうか。感染症法で日数がかかるはずだった「疑い例」と「確定診断」の間が非常に短くなったための現場の対応かとも考えます。
法の定めとと実際の運用に差異が生じる事は医療に限らず良くあることです。基本は法が優先しますが、法と現場の差が余りに大きいと状況によっては現場が先行して現実にあわせ、法が後から追認するケースは決して珍しくありません。法運用は時に誰かが先例を切り開かないと杓子定規でニッチもサッチも行かない時があるからです。
ただ監督官庁の常として法の基本の遵守を求めます。これも現場が現実に合わないと悲鳴を上げても守らせる事は多々あります。ですから先例を切り開くものと監督官庁は水面下で押し問答を繰り広げるなんて事も珍しい事ではありません。押し問答の上で、先例としての運用実績と現実を勘案して、新たな解釈による法運用が行なわれるみたいな展開です。
東京都が行なった運用が疫学的にどうかの議論はここでは控えます。とにかく東京都は現実に合わせて法の基本から少し外れた運用を行なっていたと言うのが記事のまず趣旨です。通常ならここから厚労省と東京都の押し問答が水面下で行なわれるはずなんですが、産経はこれを記事にして報道してしまったと考えます。
今でもマスコミの影響力は強大ですから、記事にされると厚労省はこの問題のシロクロをつけなければなりません。産経記事の基本構成は、
- 東京都の運用実態のレポート
- 東京都の言い分
- 厚労省の見解
さらに考えれば東京都の運用方針は既に厚労省もある程度把握しており、産経に取材された職員も現場の運用として黙認していた事実もあったかもしれません。ただ記事になってしまったので、厚労省の逆鱗に触れる事になります。新型インフルエンザ対策は厚労省も血眼になって力を入れている事ですから、記事になって厚労省の対策本部のコメント付きで許容する事は許されないの判断になったと考えます。
5/6付けで厚生労働省新型インフルエンザ対策本部は本日付産経新聞の記事について(魚拓)として、
5月6日付産経新聞の新型インフルエンザに関する報道において「厚労省新型インフルエンザ対策推進本部では『早く届けてほしいというのが国の立場だ。ただ、自治体側が責任を持って独自判断をするなら、無理矢理に届けろとはいえない』と話している。」という記事が掲載されましたが、本事務局においてはこのようなコメントはしておりません。
感染症法12条等に規定する都道府県の国に対する届出は、いずれも、直ちにもれなく行わなければならないものです。自治体の独自判断により届け出ないことは法律に違反するものです。
新型インフルエンザの蔓延防止するために、平成21年4月29日付「新型インフルエンザ(豚インフルエンザH1N1)に係る症例定義及び届出様式について」で届け出るべき症例をお示ししているところであり、国による発生状況の把握は、新型インフルエンザ対策の前提として不可欠なものでありますので、くれぐれもよろしくお願いします。
産経記事が報じた厚労省新型インフルエンザ対策推進本部のコメントを否定し、届出はあくまでも法の原則に基づく「疑い例」「確定診断」の二段階方式を堅守すると公式に発表しています。東京都の運用方式を頭から否定してしまったことになります。表沙汰と言うか新聞沙汰にされればそう対応するしかないとの見方も可能です。
この厚労省の抗議は産経にも直接行なわれたと考えるのが妥当で、これを受けて産経も記事を訂正します。2009.5.6 01:29付け産経ニュース(魚拓)は、
【新型インフル】都が「疑い例」を届け出ず すでに数人
新型インフルエンザへの対応で東京都が、検疫後に感染の疑い」症状がある人を把握しているにもかかわらず、感染症法で定められた国への届け出をしていないことが5日、分かった。一般への情報公開もしていない。
都では「実害が出ない体制を整えている」としている。「疑い」段階で積極的な情報公開をしている厚生労働省の対応と異なる対応で、届け出や情報公開のあり在り方をめぐって波紋を呼びそうだ。
厚労省はメキシコ、米国、カナダから帰国・来日した人が、検疫や入国後の簡易検査で「陽性」となった場合、届け出を義務づけるとともに、「疑い例」などとして発表している。
同じ飛行機の搭乗者に注意を促すとともに、社会への注意喚起の目的がある。5日未明までに5人の情報公表があり、いずれも後に「陰性」が確認された。
しかし、都では▽人口が多く「疑い例」段階で公表すると対象が多すぎて無用な混乱を招く▽都の施設で6時間程度で感染の有無が確認でき、国への届け出は感染が確認されてからでも時間に大差はない▽該当者と行動をともにした人に注意を促すなどの初期行動は進めており実害はない−といった理由から、国への届け出と情報公開を見送っている。すでに「数人」が対象になったという。
読めばわかるように、厚生労働省新型インフルエンザ対策本部のコメントが綺麗になくなっています。無くなった結果、記事の構成は、
- 東京都の運用実態のレポート
- 東京都の言い分
- 産経が気分を害してスルーした
- 厚労省の本音は、東京都の運用を黙認する意向がある
個人的には今の時点で記事にする必要があったかどうかが疑問とされる記事です。会議室で決めた運用と、実際の現場はしばしば乖離します。その乖離を実際に運用しながら修正していくのも対策本部の役割です。その擦り合わせ中に中途半端に新聞沙汰にされると、微妙な現実的運用にヒビが入るというか、無用の角を立ててしまう結果を招きかねません。
あくまでも推測ですが厚労省が東京都の運用を黙認する意向があるにしても、まだ実績が十分でなく、もう少し運用実績を積んでから黙認の方向にしたかったんじゃないかと考えています。東京都の運用方式が成功するか、失敗するかを見極めてから厚労省が動く段取りです。そうすれば先例の責任は東京都になり、厚労省は結果だけを利用できるからです。
それが新聞沙汰になってしまったので、話がややこしくなったと考えています。もう少し後なら「地域の実情による運営云々」として展開が変わったかもしれませんが、現時点で東京都の方式を黙認すると運用による責任は厚労省になるとの計算です。些細な事ですが、報道して表沙汰にしてしまうことの功罪を少し考えさせられる記事でした。