公立病院再生のためのファンド

ファンドとは辞書では、

  1. 資本。基金
  2. 投資信託」に同じ。
  3. 投資ファンド」に同じ。

日本語の意味はやや多様ですが、単純に金貸しの元手みたいなものと理解します。ここでステトスコープ・チェロ・電鍵様の医療を食い物にする官僚に引用されている記事を引用します。

公立病院の再生へ「基金」を設立 舛添厚労相、追加経済対策で

    09/04/06
    記事:Japan Medicine
    提供:じほう
 舛添要一厚生労働相は2日の参院厚生労働委員会で、政府・与党が検討している追加経済対策に地域医療の再生に向けた考えを示した。石井準一氏(自民)の質問に答えた。

 石井氏は「公立病院の崩壊や民間譲渡をめぐり、全国各地で市長と住民の間で政治問題に発展する例が相次いでいる」と報告。このような事態が生じる背景として「医師不足による患者減、収入減に陥った病院に、自治体がリストラの矛先を向けざるを得ない状況がある」と説明した。

  これに対し舛添厚労相は「(追加経済対策で)大きなファンドを組むための折衝をやりたい」と述べた上で、公立病院の存続に向けて「総務省とも連携を取らなければいけない」とした。

  自民党日本経済再生戦略会議(会長=町村信孝官房長官)は3月30日、追加経済対策の基礎となる「日本経済再生への戦略プログラム」(中間報告)をまとめ、地域医療の再生に向けた「基金」の設置を盛り込んだ。基金の活用によって施設整備や医師派遣システムを強化するなど、医師不足対策を支援する方針を示している。

  公明党も「新・経済対策案」の中間報告で、救急医療体制の整備などを推進する「地域医療再生基金」(仮称)の設置を提言している。

  また舛添厚労相は、南野知恵子氏(自民)の質問に対し「すでにわが省の担当部局に具体的な施策の取りまとめを指示している」と述べ、2009年度補正予算案の編成に向け省内で具体案を練っているとした。

  厚労関係予算について舛添厚労相は「国民の生活、命を守りそれを基礎にして日本経済を復活させる大変、大事な政策。とにかく皆さんがよくそこまで(財務省から)取ってきたと言ってくださるよう努力する」と述べた。

与党議員からの質問なので基本的に出来レースなのが前提です。まず質問です。

石井氏は「公立病院の崩壊や民間譲渡をめぐり、全国各地で市長と住民の間で政治問題に発展する例が相次いでいる」と報告。このような事態が生じる背景として「医師不足による患者減、収入減に陥った病院に、自治体がリストラの矛先を向けざるを得ない状況がある」と説明した。

地方公立病院の存廃問題を質問したと考えます。具体的にはリコール騒動でもめている銚子市民病院でも念頭においているとしてよいかと思います。地方公立病院の存廃問題は、地方政治の重要課題になりやすい性質があり、市町村レベルなら首長リコールまで発展する可燃性の高い政治テーマになります。県立病院でも知事が議会で土下座しているところもありました。

与党としては、住民すなわち有権者とくに投票率の高い高齢者の不満が地方自治体の首長レベルに向かっている内は無問題なんでしょうが、これが医療の元締めである国に向うのを一番怖れていると考えます。地方公立病院を危機に陥らせたのは国の政策であり、それを推進しているのは与党だという流れです。総選挙は確実に年内にありますからね。そういう地方公立病院の存廃問題に対し厚労省はどう対応しているかの質問と考えれば良いかと思います。

もちろん出来レースの質問ですから、厚労相も具体的な返答を行ないます。

舛添厚労相は「(追加経済対策で)大きなファンドを組むための折衝をやりたい」と述べた上で、公立病院の存続に向けて「総務省とも連携を取らなければいけない」とした。

ポイントは2つで、

  1. ファンドを作る
  2. 総務省の公立病院なんたらガイドラインとの整合性を折衝する
総務省とは「折衝」としていますので、これから相談する、ないしは相談中、もうちょっと言えば与党質問への答弁ですから「難しい」かもしれません。その辺は世論の医療問題への関心を見極めてから考えるぐらいのニュアンスで良いかと思います。ただファンドのほうは、

「すでにわが省の担当部局に具体的な施策の取りまとめを指示している」と述べ、2009年度補正予算案の編成に向け省内で具体案を練っているとした。

これは折衝中より段階の進んだ構想と考えて良いかと思います。そのファンドの中身なんですが、どうも国会答弁とは別に、

自民党日本経済再生戦略会議(会長=町村信孝官房長官)は3月30日、追加経済対策の基礎となる「日本経済再生への戦略プログラム」(中間報告)をまとめ、地域医療の再生に向けた「基金」の設置を盛り込んだ。基金の活用によって施設整備や医師派遣システムを強化するなど、医師不足対策を支援する方針を示している。

日本経済再生戦略会議なんてものがまた増えているんですね。どんなものか調べるのは面倒なので今日は軽く流して、ファンドの目的が語られています。

  1. 施設整備
  2. 医師派遣システムを強化
この2つのためにファンドが活用されるとしています。この日本経済再生戦略会議がまとめた案と言うのは3/30に出されたようです。どんな内容かをもう少し知りたいのですが、自民党のHPにあるので引用すると。

■ 今後3年の経済再生シナリオ示す中間報告 日本経済再生戦略会議

 日本経済の進路と成長戦略を検討してきた日本経済再生戦略会議は30日、中間報告にあたる「日本経済再生への戦略プログラム」をまとめた。金融・経済危機に直面した現状にあっては短期の景気対策に止まらない、思い切った中期的な戦略プログラムが必要不可欠との認識でまとめられた同報告は、新たな成長ステージに立つ将来の日本の姿として、(1)太陽光発電などの新産業群を形成した「グリーン経済社会システム」(2)「21世紀型のインフラやシステム」の整備による誰もがどこでも成長のチャンスを掴むことができる社会(3)健康長寿と子育てを支える「質の高い生活コミュニティー」の3つを示し、そのうえでこれら将来像を実現するための施策10項目と達成目標を具体化。これらの対策によって、「2010年中には主要な経済指標をマイナスからプラスに転じ、今後3年で概ね200万人の雇用を確保・創出する。同時に、内需を中心としたプラス成長、中長期的に3%程度の成長を目指した経済基盤を構築する」とした。一方、同報告は厳しい経済状況をとらえた緊急対策として、とくに雇用対策と中小企業・金融対策、そして21年度予算の過去最大級の前倒し執行の3つをとりあげ、雇用では職業訓練中の生活支援や地方の緊急雇用創出事業の拡大、中小企業の資金繰りでは信用保証枠の拡大などの必要を指摘した。

どうもここには

(3)健康長寿と子育てを支える「質の高い生活コミュニティー」

これぐらいしか医療に関係しそうなものはないのですが、「将来像を実現するための施策10項目と達成目標を具体化」の中に医療ファンドの話が含まれているのかもしれません。もう一つ日本経済再生戦略会議に出席した高鳥修一衆議院議員のブログも引用してみます。

 本日午後4時から党本部901にて我が派の町村会長が会長を務める「日本経済再生戦略会議」が開かれ中間取りまとめが発表された。これに基づいて参加議員から意見交換が行われた。
 もちろん私も出席し、発言してきましたが正直ちょっと「う〜ん」と言う印象。というのは・・・

  • 各省庁から出てきたものを一冊にまとめた感じで総花的。
  • 景気対策なのだからあまり中長期の話では(もちろん将来に対する投資や研究開発、教育の問題など大切だが)焦点がぼやけてしまう。今一番やらなければならない地方の中小企業に対する対策に特化すべき。
  • 総額がOO兆円となっており額が入っていない。もちろん各事業の数字も全く入っていない。ここが一番大事では?

どうもなんですが、日本経済再生戦略会議で決まったのはプログラムの総額だけで、これから各省庁の分捕り合戦が行なわれると考えたほうが良さそうです。そういう競争の余地を残す事が政治といえば政治ですからね。たぶんその辺のニュアンスがじほう社の記事にある、

厚労関係予算について舛添厚労相は「国民の生活、命を守りそれを基礎にして日本経済を復活させる大変、大事な政策。とにかく皆さんがよくそこまで(財務省から)取ってきたと言ってくださるよう努力する」と述べた。

こういうコメントにつながっていると考えます。まだ厚労省のファンドにどれほど予算がつくかは不明と考えて良さそうです。そうなると自民党のHPにある日本経済再生戦略会議の重点を置く施策が気になります。

同報告は厳しい経済状況をとらえた緊急対策として、とくに雇用対策と中小企業・金融対策

当然とまでは言いたくないですが、国家の緊急課題としては景気対策が重視されるとは思います。さらに雇用で重視される点の一つに、

地方の緊急雇用創出事業の拡大

もちろん悪いという気はありません。ただ町村発言の医療へのファンドの目的は「施設整備」と「医師派遣システムを強化」です。この2点で「地方の緊急雇用創出事業の拡大」につながる方が重視されるのは自然な流れかと思います。「医師派遣システムを強化」では雇用拡大には効果が乏しいですし、重要な景気対策につながりません。簡単に言えば「施設整備」の方が予算を分捕りやすいとしても良いかと思います。

ここまで考えると厚労省総務省の公立病院なんたらガイドラインの「折衝」が気になってきます。あれの再編・ネットワーク構想のモデル図を再掲します。

なんか新たな公共事業のタネになりそうな気がしませんか。とくにパターン1なんてでっかい新病院が新たに建設されますから、「地方の緊急雇用創出事業」にピッタリのような気がしてきます。小さくなるところも老朽病院を新たに建て直すみたいな話が十分湧いてきそうです。どこの地方自治体も政治的な意味もありますが、そもそも新たな病院を建設する予算にさえ事欠いていますから、ここにファンドを作って新たに地方自治体の借金の原資を作れば景気対策になります。

あくまでも推測ですが、総務省の折衝の中に、新病院建設のための借金は総務省の進める地方自治体の財政健全化とは別の借金にしてくれが含まれている様な気がします。気のせいでしょうか。こういうのも経済対策にはなるのでしょうが、ファンドからの資金は借金ですし、借金はやはり返却する必要があります。返すのはやはり公立病院でしょうから、結果として残るのは

    公立病院の(ハコモノの)再生(ファンドからの負債付き)
こう思えてしまいます。

もう一つの「医師派遣システムを強化」はセットにしておかないと、さすがに「医師が集まるのか」の疑問が生じますから打ち出されるでしょうから、ある程度の予算が投じられると考えます。そうですね、現在も数十億円の予算が投じられて会議を時々やっておられる「地域支援中央会議」の機構の充実に投じられると予想します。東京に本部ビルと都道府県に支部ビルを作れば、公共工事の効果と、そこに勤める職員の「緊急雇用創出事業」に連動するからです。そのうちこの機構は「医師強制配置局」にも転用できますから有用な投資かもしれません。


公立病院と限らなくとも病院の再生のために必要なのは、経営基盤の確立です。経営基盤の確立のためには黒字経営が必要です。黒字になってこそ設備投資もされますし、勤務医の待遇改善もなされます。現在の赤字の原因は医療単価の安さが大きな原因となっており、医療単価は国の政策で決定されます。国策で赤字なるような医療費を設定されて、赤字にさせられて設備投資も医師の募集もままならなくなった時の対策として「お金を貸してやろう」とは涙が出るほど嬉しい対策です。

世界不況で経営が苦しくなったから運転資金を借りれるのとは意味が違います。医療は政策的に赤字にさせられて、作られた赤字に対して「お金を貸す」が再生のための政策とは素晴らしい発想です。なにか昔話に聞く因業金貸しの手法と似ていると私は感じます。返すあてもない借金がまた雪ダルマ式に増えると思うのは私だけでしょうか。

もっとも公立病院が政策によって赤字になっても「3年で黒字にせよ」とガイドラインを作り、机上の改善策を出させる政府ですから、そもそも期待するのが間違っているのかもしれません。発想の根本は「お金が無いのなら貸してやろう」言う「善意」ですから、

    どんなに悪い事例とされていることでも、それがはじめられたそもそもの動機は、善意によったものであった。 (ユリウス・カエサル
こう解釈するべきなんでしょう。